第8話 性転換後の初登校

 変態的採寸から、翌日。

 いつも通りに起きたボクは、リビングに向かう。


「おはよう」

「おはよう、依桜。制服、届いてるわよ」

「うん、ありがとう」


 母さんが言った通り、リビングにはボクの新しい制服が置いてあった。

 うちの学校の制服は可愛いと評判なので、意外と女子生徒が多かったりする。

 制服のデザインは同じだけど、カラーリングが三種類あり、生徒は自由に制服を選ぶことができる。。

 ボクの新しい制服が入った段ボールにの中にも、当たり前のように三種類入っていた。


 一つは、赤と黒を基調としたタイプ。

 二つ目は、青と白を基調としたタイプ。

 三つ目は、黄色と緑を基調としたタイプ。

 この三種類。

 ボクは……青と白かな。


「じゃあ、着替えてくるね」

「ええ、時間に余裕はあるから、ゆっくりでいいわよ」

「うん」


 女の子の服がなかなかに複雑だということを知りつつ、なんとか着ることができた。

 制服に着替え終えたボクは、再びリビングに向かう。


「あら、とっても似合ってるわねぇ……。お母さん、嬉しいわぁ」

「そ、そう、かな?」


 少しだけボクも見たけど、銀色と青って、結構合うと思うんだ。

 だから、この色にしたり。


 ……あれ、ボクオシャレのこととか考えたっけ?

 ……う、うん。き、きっと考えてた、よね……?


「さ、朝ごはんを食べなさい。もうできてるから」

「うん」



「それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね。今のあなたはとっても可愛いから、よからぬことを考えそうな人が出てきそうだから」

「だ、大丈夫だよ」


 ……もしそうなったら、バレないように打ちのめすだけだし。

 なるべく、法に接触しない範囲でね。

 ちょっとした不安はあるけど……大丈夫、だよね?



 いつもの通学路を歩きながら、ふと気になることが。

 それはもちろん、周囲からの視線。

 男女ともに視線は来るけど、特に、男子からのが多い気がする。


「……あぅ、やっぱりこの体は不便だなぁ」


 女の子になってからと言うもの、不便なことが多い。

 聞くところによると、人によっては生理はかなりキツイらしい。

 なんでも、動けなくなるくらいにお腹が痛くなったりするんだとか。

 ……はぁ。それを考えただけで鬱だよ。


 痛みに関しては、向こうで慣れていたけど、慣れと痛くないのは全くの別物だからね。ボクは、あまり酷くないといいなぁ。


 ん……そういえば、周囲がちょっと騒がしい気がする。

 何やら話している人もいるみたいだけど……なんとなく聞きたくないかな。

 ボクは周囲の音を気にしながらも、なるべく耳に入らないように学校へ向かった。



 そして、ようやく学園に到着。

 ボクが校門を抜けた瞬間、周囲がざわつき始めた気がする。


『な、なあ、うちにあんな可愛い子いたっけか?』

『いや、あんな目立つ奴はいなかった気がするぞ? いたら、とっくに気付いてるっつの』

『じゃあ、転校生とか?』

『じゃね?』

『……俺、声かけてみよっかな』

『やめとけ。絶対相手にされないぞ』

『ねえねえ、あの子すごくなーい?』

『うっわ、何あの子。メッチャ可愛いんですけど……』

『おまけにスタイルはいいし……なんか、女として負けた気分』

『でも、可愛いからよくない?』

『……だね』


 う、う~ん。やっぱりすごく目立ってるような……?

 ボク、転校生でも何でもないんだけど……むしろ、入学してからずっといたんだけど……。

 といっても、気づかないよね……まあ、それも当然と言えば当然なんだけど。

 普通、先週まで男だったのが、次の週でいきなり女の子に変わってる、なんてことはないもんね……。


「……態徒と女委が暴走しなきゃいいんだけど……」


 ボクが今回一番の不安要素としているのは、あの二人だ。

 態徒は変態だし、女委も路線の違う変態。

 また、とんでもないモデルにされそうだし……。

 態徒は、まあ……下手をしたら、


『む、胸を揉ませてくれ』


 ぐらいは言ってきそうだし……。


「せめてもの救いは……晶と未果だけ、だよね」


 未果は事情を知っているし、晶は恋愛ごとに対して積極的じゃなかったりするから、安心できるはず。


「覚悟を決めて、いざ教室」



 ボクは今、一年六組の教室の前にいた。

 三年も時間は空いちゃってるけど、先週来たばかりの慣れ親しんだ自分のクラスだというのに、ものすごく緊張する。

 クラスに着いた時間は、なるべくHRギリギリにしておいた。


 早めに来たので、その辺りをちょっとだけ歩いていた。

 覚悟はしたけど、何のかんので揺らいだりしたから。


 ……それもあってか、噂になってそうだけど。

 そして、もうそろそろでHRが始まる時間。

 そのタイミングを見計らって、ドアに手をかける。


「すぅー……はぁー……よし!」


 深呼吸をして心を落ち着かせてから、ドアを開けた。


「お、おはよう……」


 ボクが困惑したような笑顔を浮かべつつ、挨拶しながら入ってきた瞬間、みんな一斉にこっちを見た。

 しかも、誰? みたいな疑問符を浮かべているし……。

 とりあえず、今はそれをなるべく無視して、自分の席へ。

 席について一息。

 周囲を見ると、みんなこっちを不思議そうに見ながら、なにやら話している。


『な、なあ……なんであの子、男女の席に座ってるんだ?』

『彼女、とか……?』

『いやでも、あいつに彼女ができるような雰囲気はなかったし……』


 そんな雰囲気で悪かったね。

 あと、かなり失礼だよ、それ。


『でも……すげえ可愛いよな』

『ああ。あんなこと付き合えたら、幸せなんだろうな……』

『あの子……どっかで見たことない?』

『えー? 気のせいでしょ』

『転校生の話とか聞いた?』

『全然。そんな話聞いてないよ?』

『……じゃあ、クラスを間違えた、とか?』

『にしては、慣れた感じで入ってきてたよね……?』


 みんながひそひそとないかを話しているみたい。

 十中八九、ボクが何者かということだろうけど。

 ほとんどの人が、友達と話すだけで、直接聞きにこようとはしない。

 そんな中、恥ずかしい思いをするかもしれないと思いつつも、好奇心に負けたのか、何人かが席を立ってボクのところに来ようとした。

 だけど、


「おーっし、HR始めるぞー」


 担任の先生が入ってきて、それは叶わなかった。

 ふぅ。よかった。

 先生、ありがとうございます。

 今、ボクについて言及されるのはね……。

 どのみち、すぐばれることになると思うけど……。


「欠席者は……いねーな。関心関心」


 先生の一言に、クラス全員(未果は除く)が『え?』と思ったに違いない。

 だから、


『せ、先生……男女が来てないんすけど……』


 こうして、聞くのは当たり前だと思う。

 いつものボクがいなくて、代わりに別人のようなボクがいるんだから、それは当然の質問だと思う。


「何言ってんだ? 男女ならいるじゃねーか」

『え、でも……男女はたしかに、ちょっと女っぽい見た目っすけど……あんな可愛い子じゃないっすよ? しかも、誰かもわからねーし』

「いやだから、あいつが、その男女だっつってんだろ」

『……は?』


 先生の荒唐無稽な言葉に、クラス全員(未果は除く)がポカーンとした。

 そんなクラスの様子を見てか、先生が呆れながらこう言ってきた。


「はぁ……なんだ男女。お前、自分から言わなかったのか?」


 ここで初めて、ボクは話を振られた。

 そうすると、みんながバッ! と一斉にこっちを見てきた。

 ほらね? バレたでしょ?


「いえ、だって……言っても信じてくれないんじゃないかなぁ、なんて……あはは……」

「何言ってんだよ。んなこと言ってっから、あたしに面倒が降りかかってくるんだろーが」

「す、すいません……」

「……まあいい。つーわけで、まあ……なんつーか、男女が正真正銘の女になったんで、みんなそこんとこよろしくな」

『…………うえええええええええええええっっっ!?』


「い、依桜、お前……女になったのか?」

「ま、まあ……ちょっと、色々あって……」

「色々って……マジかよ……」

「ほえー、まさか、依桜君が女の子になっちゃうなんて……こりゃまたびっくりだね」

「あ、あはは……ボクも色々あってね……」


 そんなこんなで、ボクの周りにはいつものメンバーを中心に、クラスメイト全員が集まっていた。

 所謂、質問攻めである。


『な、なあなあ男女。ほんっとーに、女になっちまったのか?』

「う、うん……何度も確認したし……」


 手で確認したり、お風呂などでもね……。

 もうね、この二日でいやというほど確認した気がするよ……はぁ。


『か、確認っ……。ごくり』


 生つばを飲み込むのは本当にやめてほしい。

 なんだか、背中に粟立つものを感じるから。

 ゾワゾワッ! ときたもん、今。


『じゃ、じゃあ、そのおっぱいも本物……?』

『ちょっと男子、何聞いてんの?』

『う、うるせえ! 別にいいだろ!? そ、それで……どうなんだ?』

「あぅ……その、ほ、本物、だよ……」


 さすがにド直球に言われると……ちょっと恥ずかしい。


「あ、あのあの……で、できれば、その……そう言う質問はやめてほしいなー、なんて……」

『……男女なのに、メッチャ可愛いんですけど……』

『うわぁ、女として負けた気分……』

『大丈夫よ。あんた、依桜君に何一つ勝ててないから』

『……言わないで、悲しくなるから』

『それにしても……依桜君……じゃなくて、ちゃんか。依桜ちゃんの胸、おっきいね。何カップ?』


 ……ボク、そう言う質問は控えて、みたいなこと言ったつもりだったんだけど……。

 スルーかな? スルーなのかな? ボクのクラスメートは、ドSなのかな?


「あ、それわたし気になるー」

「お、オレも」

「あ、それ私も」

「未果も!? え、ええっと、あの……その……じ、G、です……」


 あぅぅ……恥ずかしぃ……。

 なんで、ボクがこんな目に……!


『でか!?』

『うっわあ、いいなぁ……そんなに大きくて羨ましい……』

『しかも、肌も真っ白で超綺麗だし、髪も艶々でさらさらだし……』

『……そういえば、男の子だったときから、依桜君って女子よりもそのあたり綺麗だったよね……』

『あー……その時から負けてたのかぁ』

「あ、あはははは…………」


 どうしよう。収拾がつかなくなったような……?

 しかも、みんなすごい興奮している気がする。

 ……まあ、無理もないことかも。


 突然、性別の変わった生徒がいたら、普通にこうなるよね……。

 きっと一時的な物だろうし、その内収まるとは思うけど。

 そうして、色々な質問をされ、ボクが解放されたのは一時間目が始まるころだった。


 どういう風に伝わったのかはわからないけど、気が付けば、ボクは学園中の噂になっていた。

 授業が終われば、一目見ようと他クラスや、他学年の人が見に来る。

 その都度、奇異の視線を向けられるんだから、たまったものじゃない。


 早くほとぼりが冷めてほしい。

 色々とありつつも、昼休み。

 当然、いつものメンバーでの昼食。


「しっかし、びっくりだよなぁ……依桜が女になっちまうなんてよー」

「うん。わたしもびっくりしたよ。まさか、書いていた同人誌のネタが、現実になるなんて……」

「でも、未果は知っていたんだろ? なんで俺たちに教えてくれなかったんだ?」

「だって、言わないでいた方が面白いでしょ?」

「……未果、楽しんでた?」

「当たり前じゃない。これを楽しまずして、何と言うの?」


 うん。清々しいまでの笑顔だし、発言だね。

 その笑顔がなんかちょっとイラッと来る。

 ……一度、お仕置きしたほうがいいんじゃないかな。


「にしても……羨ましい限りだぜ、依桜」

「え、どうして?」


 唐突に、態徒が羨ましいと言ってきた。

 こんなことになって羨ましいと思える? 普通……。


「だってよ、男から女に変わったってことは、自分の体を好き放題触って、女を知れるってことだろ? 世の男の夢だぜ?」

「……あのね、この体って結構不便なんだよ?」


 何の気なしに言ってきた態徒に、反論を入れる。


「まず、髪の毛が伸びたりしたから洗うのも大変だし……うつぶせに寝ると、胸が潰れてちょっと息苦しくなったりするし、激しい運動をすれば、胸が揺れて付け根が痛いんだよ? だから、男の体が一番動きやすいんだよ……って、ちゃんと聞いてる?」

「も、もちろん聞いてるぞ!?」


 ちゃんと聞いてなさそうだった態徒に目を向けると、慌てたようにそう言ってきた。

 すると、今度は晶が、


「あー、依桜? その話は、あまりしない方がいいかもしれないぞ?」

「え、どうして?」

「なんというか……周りが、な。特に男子が聞き耳立ててるし、人によっては、彼女に張り倒されてるぞ」

「え? ……あ、ほんとだ」


 見ると、彼女と一緒にお昼を食べていた最中だったのか、彼氏の方の人が顔に紅葉をつけていた。

 い、痛そう……。


「しかも、男子たちは、依桜の胸を思いっきり凝視してるわよ?」

「……やっぱり?」


 どうにもさっきから落ち着かないなぁと思ってたら、やっぱりボクの胸に視線が集中していたからか……。

 女の子は視線に敏感って言うのを聞いたことがあるけど、本当にそうなんだね……。

 うう、なんか気持ち悪い。


「気を付けた方がいいわよ? 依桜。今は女の子だから、襲われる危険もあるし」

「……たしかに。今の依桜は、男の時に比べてさらに華奢になってるし、夜道は危険かもな」

「ああ、不審者の気持ちがよくわかるぜ」

「……わからないでよ。というか、ボクとしては態徒が一番心配なんだけど……」

「え、なぜに!?」

「だって……」


 実際に襲われそうだし……。

 でもここは、友人の信用の為に言わないでおこうかな。


「まあ、ボクとしては、一般人相手だったら、何人来ようと撃退はできるけど」


 一般人どころか、格闘技の世界チャンピオンにも余裕だとは思うけど。

 敢えてそれは言わない。


「え、マジで言ってるの?」

「うん。マジだよ?」

「……その見た目で、殺人とかしないよな?」


 態徒のその一言に、心臓が跳ねたけど、なんとか悟られないようにポーカーフェイスを貫く。

 ……まあ、向こうでは殺したことあるけど……あれは、本当にやむを得ない事情だった。

 だから、その……うん。

 でも、そっか。そう考えたら、ボクって、みんなとは違う世界の人間に思えてきちゃった……。

 ……最悪、距離を取ったほうがいいかもしれない。


「してないよ。こう見えてボク、結構強いんだよ?」


 でも、表に出しちゃだめだよね。

 気を遣わせちゃうから。

 というより、拒絶されるかもね……。

 一応、覚悟はしておこう。


「……いや、そうは見えねえんだけど」

「右に同じく」

「俺もちょっとな……」

「むぅ……ほんとだよ? それとも、誰かが試してみる?」


 みんな、『え、こいつが?』みたいな表情で、なかなか信じてもらえなかったので、一つ提案してみた。

 唯一、未果だけは何も言わなかったけど。


「じゃあオレやる!」


 すると、態徒がものすごい勢いで食いついてきた。

 当然と言えば当然かな?


「はぁ……態徒? あなた、下心が丸見えよ?」


 そんな態徒に対し、未果は呆れていた。蔑んだような視線もセットで。


「そ、そんなことねえしっ? オレはただ、実験台になってやろうかなってさ?」


 態徒、目が泳いでるよ。ぎょろぎょろと、忙しなく泳いでるよ?

 嘘を吐くなら、視線は定めないと。

 じゃないと、嘘だってすぐにばれちゃうよ。


「……それで、態徒の本音は?」

「合法的におっぱいが揉みたいです!」

「態徒、お前……」

「最っ低ね」

「態徒君。それはちょっとないかなぁ」

「……そんなに言わんでもいいじゃないかっ……!」


 みんなに冷たい目で見られて、ちょっと泣きだしそうになっていた。

 正直、女委は言えた義理じゃないと思うけど。

 ……とはいえ、さすがに、ボクとしてもそれは許容できないけど……。


「……まあ、相手が態徒でもいいよ?」

「え、マジ?」

「ちょっと、依桜本気?」

「さすがに、こいつは何して来るかわからないぞ……?」

「まさか、態徒君が攻めで、依桜君が受けの展開……! ハッ! インスピレーションがふつふつと湧いてきたぞ! いける、これはイケるうぅぅぅぅぅぅ!!」

「うん。女委はちょっと黙っててね」


 晶と未果だけは、心配してきた。

 だけど、女委だけはちょっとアウトなことを言っていた。同時に、人様に見せられないような顔をしていた。

 ……書かないでよ?


「ほ、本気でオレでいいのか?」

「うん。本気で来ていいよ?」

「いやでも、さすがに男だったとはいえ、女子を本気で攻撃するというのは……」


 あれ、意外と紳士なんだね、態徒って。

 けど、ボクとしては今後の為に、是非とも犠牲者になってほしいところなのだ。

 ……この学園にも、あの輩みたいな人がいそうだからね。


 それに、窓からこっちを覗いている生徒たちもいることだし、ここはひとつ。

 舐めてかかると危険だよ、ということを教えねば。

 それに、ボクからしたら、態徒を本気にさせる事なんて、容易いしね。


「じゃあ、こうしよう。ボクに勝てたら……一つだけ、なんでも言うことを聞いてあげるよ」

「なっ……!」

「い、依桜!?」

「お前、本気か!?」

「うん。本気」

「おー、大胆だねー、依桜君」


 だって、こうでもしないと、本気出しそうにないし。

 それに、態徒を選んだのにも理由があるしね。

 態徒、変態の割に喧嘩とか強かったりするんだもん。

 たしか、何かの武術をやっていて、それの有段者だっていうのを聞いたことがあるし。

 しかもそれは、周囲も知っていること。

 だから選んだんだ。


「じゃ、じゃあ何か? え、エロいことを命令しても、い、いいのか?」

「まあ……構わないけど……」


 ボクの発言に、周囲がざわつきだした。


「ひゃっほう! 依桜、絶対に勝つからな!」


 よし、本気を出させることに成功。

 ただまあ……態徒の周囲の評価――特に女子――がだだ下がりだけど。


「マジか……依桜のやつ、確実に勝てるってくらいに自信があるのか」

「じゃあ、ルールね。特にこれと言ってないけど、武器の使用はあり。この部屋にある物だったら、何でも使っていいよ。敗北条件は、地面に背中を付けること。理解した?」

「おうとも! しっかし……武器の使用はありなのな」

「まあ、態徒の為に言ったんだけど……いらなかった?」

「え? オレはてっきり、依桜が必要なのかとばっかり……」


 どうやら、武器の使用をありにしたのは、ボクが使うためだと思っていたみたいだ。

 ……でも、普通の人の思考だったら、そうだよね。

 ボクだって、客観的に見たら、とてもじゃないけど、強そうには見えないし。


 でも、だからこそ意味がある。

 見た目弱そうな人が勝つというのは、かなりインパクトがあるから、抑止力になりやすいしね。


「えっと、一応危険だから、クラスのみんなも外に出てほしいんだけど……ダメかな?」

『問題ないです!』


 うん。上目遣いって初めてやったけど……まさか、女子にも効くとは。

 でもなんていうのかな……複雑なんだけど。

 ボク、精神まで性転換が進んでない……?

 と、とにかく、今は態徒を倒さないとね。


「晶、悪いんだけど、審判をお願いしてもいい?」

「あ、ああ、構わないが……大丈夫なのか?」

「えっと、なにが?」

「態徒、エロが関わってくると、普段以上の力を出すんだぞ? それに、あいつは武術の有段者。依桜が勝てるとは思えないんだが……」


 心配そうに、晶が色々と忠告してる来るけど、別に大した問題はないと思っている。

 だから、


「見てて」


 微笑みながら言って、ボクは態徒に向かい合った。

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