第7話 学園長は変態

 次の日。

 ボクは学園長室にいた。

 その理由は当然、女の子になったことを言うためだ。


 最初は、電話での連絡も考えたけど、こういうのはやっぱり、学園運営をしている学園長先生に直接話したほうがいいかなという理由。

 正直、学園長先生と直接的な面識はないけど、とりあえず、自分のクラスと名前、生年月日などを答えて、事情説明。


 なぜか、学園長先生はボクのことを知っていたけど。学園長として普通、とか言っていたけど、

『食べよ――コホンッ。なんとなく知っていただけよ』

 なんて聞こえたのは気のせいだと思いたい。


「なるほど。女の子になっちゃったと……」

「はい……信じられないかもしれませんが……」


 未果は何というか、幼馴染だし、ある程度理解があったからこそ、信用してもらえたけど、大人の人となると、なかなか信用してもらえないかも。

 と思っていたら、


「そうねぇ……ま、面白いからいいと思うわよ?」


 あっさりと信じてくれた。

 

「え?」


 あまりにも、あっさりな返答に、間抜けな声が出てしまった。

 いいの? それで。


「だってぇ、男の子が女の子に! なーんて面白い展開、そうそうないじゃなーい?」

「いやまあ、そうですけど……」


 そうそうないと言うか、まずありえないと思うんだけど。

 そんなことが、しょっちゅう起こっていたら、世も末だよ。軽く地獄だよ。


「それに、近々学園祭もあるし、そう言った意味ではちょうどいいのよねぇ……」


 ……何がちょうどいいのだろうか?

 文化祭だと、普通に出し物をやって、ミスコンとかをやったりするくらいだったよね?

 もしかして、それのことかな?


「それに、先日のあなたの体育の件は聞いているわよ? なんでも、大活躍だったらしいじゃない?」

「いえ、あれは大活躍と言うか……やりすぎたと思うほどで……」


 大怪我とかが無かったからよかったものの……確認を怠ったボクのミスだよね……。

 というより、相談しに来たことと、あまり関係ない気がするんだけど……。


 それ以前に、あの話やっぱり出回っちゃったのか。

 情報の発生源は、あの時の体育の先生――熱伊あつい先生だろうなぁ。


「あら、別に謙遜しなくてもいいのよ? とりあえず、その件に関しては今は、置いておくとして。まあ、間違いなく、あなたは男女依桜さんでしょうから、大した問題はないわ。性別が男から女に、なんていうのは、些末なことだもの」


 いや、些末ではないような……? むしろ、一大事件な気がするんだけど。

 どこに、自分の学園の生徒がわけもわからず性転換したことを受け入れる人がいるんだ。

 いや、ここにいるけども。


「とりあえず、あなたの学生としてのあれは、改変しておくわ。学校中にあるあなたのデータの性別の欄は、男から女に変えておくわね。あと、制服は、すぐに送っておくから。一応、採寸はさせてもらうけどね」

「は、はい」

「うん、ありがとう。じゃあ、早速始めてしまいましょうか♪」

「……え?」


 あ、あれ? な、なんか、学園長先生の雰囲気が変わったような?

 それに、今始めるって……?


「いやあ、一度でいいからやってみたかったのよねぇ、あなたの採寸……。今までは男の子だったけど、今は女の子。何の問題もないわ」

「え、あの、学園長先生……?」


 今のは問題では……?

 というか、女の子でも、それはまずいような?


「さあ、安心して? 痛くしないわ……むしろ、ちょっと気持ちいいかもね❤」

「が、学園長? 手、手が、手つきが妙にいやらしいんですけど……あの、き、聞いてます?」

「ふふ、ふふふ……ふふふふふふ!」


 ま、まずい、学園長先生が暴走している! 目が完全にイッてるよぉ!

 に、逃げなきゃ!

 嫌な予感がして、すぐに後ろを振り向き、その勢いのままトップスピードで部屋から出ようとした。


「おっと、逃がさないわよ?」

「ええ!?」


 しかし依桜は回り込まれてしまった!

 え、い、今、どんな動きしたの……?

 まったく気配が読めなかった上に、動きも見えなかったよ……?


 あと、気が付いたらドアの前にいた気がするんだけど!

 あ、あれ? ボク、人の気配とか、動きの先読みとかに関しては、一家言あったんだけど……ど、どうなってるの!?


「つーかまーえた❤」

「あ、しまった!」


 突然の出来事に思考が停止してしまい、その隙を突かれたボクは学園長先生に捕まってしまった。

 さっきの動きには驚いたけど、あまり強い力は感じない。

 こ、これくらいの力なら……!


「おっと、逃がさないわよ? ふぅー……」

「ひぁあ!?」


 突然息を吹きかけられ、変な声を出してしまった。


「あら、可愛らしい声。あなた、耳が弱いみたいねぇ……」

「あ、あうぅ……力が抜けるよぉ……」


 その上、耳に息を吹きかけられたことで、体の力が抜けてしまった。

 そのせいで、足に力が入らなくなり、学園長先生にしなだれかかってしまった。


「か、可愛い……! なんて可愛いのかしら! もう、食べちゃいたいくらい……!」

「ひぅっ……!」


 こ、怖い! この人怖いよ!

 なんか、ボクの貞操が狙われちゃってるよ!

 あ、ちょっ、後ろから抱きしめないでください!


「でーも、今は採寸が先よねぇ」

「いえ、食べないで下さいよっ!」

「うふふ。ほんの冗談よ、冗談」

「……」


 冗談に聞こえないよ……。

 もしこれが冗談であるのならば……


「す、スカートの中に手を入れないで下さいっ!」

「あら、だって、ねえ?」

「あ、ちょ……んぁ! ひぅ……! だ、だめっ、ですっ……! やぁっ……!」


 あろうことか、学園長先生はボクのスカートの中に手を入れ、愛撫をするように色々なところを触ってきた。

 ボクも感じたことのない感覚に、体がビクビクとしてしまう。

 しかも、悩ましい声もセットで。


「いいわぁ……あなたの反応、最高よ……」

「う、うぅ……や、やめてくださいよぉ……」

「――っ! な、なんて可愛いの……!」


 もうやだぁ、この学園長……。


「あぅっ……んっ! だ、だめっ、ですっ、よぉ……!」

「よいではないかよいではないか! ん? ここがええんとちゃう?」

「な、なんで関西弁っ……あ、ふゃ……! ほ、ほん、とに、変な気分に……んっ……! なっちゃい、ますっ……からぁ……!」


 な、なんだか頭がぼーっとしてきた……。

 ど、どうしよう……このままじゃ……


「……っと。さ、いじるのはここまでにして、採寸ね」


 と、急に学園長先生が手を止めて、布メジャーを取りに一旦ボクから離れた。


「はぁ……はぁ……!」


 ようやく解放されて安心したのか、ボクは床にへたり込んでしまった。

 が、学園長先生のテンションの落差って……。

 今しがた、ボクの体を触ってきたりしていたよね? しかも、ものすごくいやらしい手つきで。普通、自分の学園の生徒にあんなことする?

 ……なんでこの人、学園運営なんてできるんだろう?


「えっと、とりあえず胸囲と腰回り、あとお尻の大きさを計らせてもらえるかしら?」

「……もう、いたずらしません?」


 多分、今までで一番のジト目をしてると思う。


「大丈夫よ。十分堪能したから」


 ボクのジト目を意に介さず、いい笑顔で言うことがそれですか。

 というか、それはそれで問題では?

 あと、心なしかつやつやしているのは、気のせいだと思いたい……。


「……わかりました」

「じゃあ、とりあえず下着姿になって?」


 言われるまま、ボクは服を脱いで、下着姿に。


「あら。こうしてみると、スタイルいいのねえ」

「……そうですか?」

「ええ、ええ! あなたみたいな子は、すべての女の子が羨むようなスタイルよ」

 

 どうやらボクは、女の子から見て、かなりスタイルが良いようだ。

 女性から見てそうなんだから、多分そうなんだと思う。

 なんでボクなんかが、と思わないでもないけどね。


「ええっと、とりあえず胸からね。一応、ブラのカップと、わかれば大きさを教えてもらえる?」

「えっと、87のGです」

「なるほど。となると……アンダーは大体62ってところね。じゃあ次、ウエストね。ちょっとメジャーをまくわよ。じっとしててね」

「はい」


 されるがままに、ウエストが計られた。

 ただなんか、少しむずむずする……。


「えっと……55ね。あなた、その胸の割には随分細いわねえ。いいくびれをしてるわ」

「そ、そうですか?」


 言われてみれば確かに、今のボクにははっきりとわかるほどのくびれがある。

 女の子からしたら、こういうのは羨ましいらしいけど、男だったボクには分からない。


「じゃあ、ヒップね。えっと……うん。82、っと。へえ、やっぱり、グラビアアイドルみたいに、スタイルいいわねえ……いっそ、目指してみれば? 絶対なれるわよ」

「さ、さすがにそれはちょっと……」


 アイドルになるっていうのは……その、恥ずかしい。

 うぅ……なんだか、以前にも増して羞恥心が強くなった気が……。

 それに、ちょっと体が敏感になってるような気もするし……。


「あとは身長ね。とりあえず、これもメジャーで問題ないわね」

「え、大丈夫なんですか?」


 メジャーで身長を計るなんて聞いたことないんだけど……。


「大丈夫よ」


 そう言うや否や、学園長先生が身長を計り始めた。


「ふむふむ、149センチってとこね。身長は低め、と。このスタイルで、この身長だと……ロリ巨乳ってやつね」

「……そうですか。身長、8センチも縮んだんですね……」


 とうとう、150切っちゃったのか……。

 ものすごく、悲しい。

 伸びてほしいと思っていたのに、この仕打ち。

 ……魔王、今度もし会うことがあったら、絶対に仕返ししよ。


「男の子だったらまだしも、今だったらちょうどいいんじゃないかしら? それに、あなたは身体能力が高いみたいだし、問題ないとは思うわよ」

「……それもそうですけど」


 たしかに、今のボクは垂直跳びをしたら、十メートルは余裕だと思うけど。

 それはそれ。やっぱり、身長が縮んだのはちょっとショック。

 というか、一昨日より縮んでない?


 ……もうこれ以上、縮まないよね?

 女の子って、身長低いと可愛いというイメージになるし、高いと美人っていうイメージだものね。ボクの場合、顔立ちと身長のせいで、可愛いの部類になるのかも。


「はい、採寸終わり。じゃあ、これに見合ったサイズの制服を送っておくから、今日はもう帰って大丈夫よ」

「ありがとうございました」

「よろしい。じゃあ、色々とやっておくわね」

「はい。では」

「あ、あと」


 学園長室を出ようとしたところで、学園長先生に呼び止められた。


「なんですか?」

「次は、もっと深いことまでやらせていただけると――」

「し、ししし失礼しますっ!」


 ボクは逃げるようにして、学園長室から出ていった。


「あらあら……ふふ。ほんとに、可愛い子ね」


 今日分かったこと。

 学園長先生はド変態。

 ……そういえば、うちの学園長先生って若くて美人ってことで有名だったっけ。

 でも、そんな学園長先生に恋人がいないうえに、そう言った浮ついた話がないから、みんな疑問だったんだけど……ボクは理解した。

 学園長先生に恋人などがいない理由。

 それは単純に変態だったからなんだろうな。


「……極力、関わらないようにしないと……」


 そう心に決め、ボクは家に帰った。

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