第289話 五月六日:遊園地へ
次の日。
ちょとだけバタバタしていた帰還後は、意外とすぐに落ち着いた。
で、朝起きると……
「……うん。なんだか癒し」
みんな、ボクにしがみつくようにして眠ってました。
すごいね。人間って、六人はしがみついても問題ないんだ。
両腕にニアとクーナ。足に、リルとミリア。そして、胸元にメルトとスイの二人が。
ちょっとだけ重いけど、なんだかいいね、これ。
……暖かいなぁ……。
「依桜~、そろそろいい時間……あらあらぁ! なんて素晴らしい光景! 幼女がお姉ちゃんに甘えまくってるこの絵図! 写真に収めとこ……!」
「か、母さん、みんな寝てるから……!」
「あら、ごめんなさい」
ふふっ、と笑って謝る母さん。でも、本当に謝罪する気あるのかな? って思ってしまって、なんだかなぁ……。
ふと。ニアとクーナの二人は重くないのかなって思う。
メルとスイはボクの胸の上で寝てるんだけど、ちょっとだけ腕の方にいる二人に乗っちゃってるんだけど。大丈夫かな。
「んゅ~~……ね~しゃま、おはょぉなのじゃぁ……」
ここで、メル起床。
寝ぼけまなこをこすりながら、挨拶してくる。
あぁぁ、可愛いぃ……。
「おはよう、メル。ぐっすり寝れた?」
「うむ。ねーさまと一緒だから、バッチリなのじゃ」
「それはよかったよ。まあ……メルが起きても、ボクは動けないんだけど……」
未だにみんな、気持ちよさそうに眠ってるからね。
可愛いから、全然問題ないんだけど、ボクとしても……ちょ、ちょっと、トイレに行きたい……!
お、女の子になってから、やけに近くなったし、我慢しにくくなっちゃって……。
う、うぅっ……!
「ねーさま、ぷるぷるしてるぞ?」
「ちょ、ちょっとトイレ行きたくてっ……!」
「む、それはまずいのじゃ! みんな起きるのじゃ! ねーさまが一大事じゃ!」
「「「「「え!?」」」」」
メルの慌てた声に、一斉に飛び起きた。
「イオお姉ちゃん、どうしたの!?」
「だいじょ、うぶ……!?」
「イオねぇ、顔が赤い!」
「大丈夫なのですか?」
「……心配」
「いや、あ、あのっ、と、トイレにっ……!」
「「「「「ご、ごめんなさい!」」」」」
ボクがトイレに行きたいと言った直後、みんな慌ててボクから離れてくれた。
それと同時に、ボクは大急ぎでトイレに行きました。
……無事間に合ってよかった……。最悪、みんなの前でみっともない姿を晒すところだったよ……。
姉としての尊厳をなんとか死守し、みんなで朝食。
ただ、人が多くなってしまったので、父さんや母さん、それから師匠の三人はテーブルで。ボクたち姉妹は、床の方のテーブルでということになった。
「えっとね、箸はこうやって持つんだけど……あはは、まだ難しいね」
一応、箸の使い方を教えているんだけど、みんな箸が上手く使えていなくて、苦戦している。
慣れれば楽だけど、慣れるまでが大変だからね、箸って。
メルはすでにマスターしてます。
何気にすごい……。
朝食を終えたら、お出かけの準備。
父さんと母さんは、家の下見へ。
ボクたちは遊園地へ。
着替え自体は……とりあえず、体格が近いメルの服に着替えてもらった。
一応、それなりの数を買って、メルに渡しておいたからね。役に立ってよかった。
ただ、リルとスイの二人は、結構小柄だったので、ボクが一年生くらいの体の時に使っている服を渡しました。
穴はちゃんと塞いでから渡したけどね。ボクのは、尻尾穴があるから……。
みんなちゃんと着替えて、ボクたちは早速出発した。
異世界から来て、二日目にはもうお出かけ。
いきなりだったかなと心配になったけど、みんな楽しそうに話しているところを見ると、安心した。
それにしても、まさか妹が増えるなんて思わなかったなぁ……。
事情が事情だったし、ボクも向こうに預けてさようなら、って言う風にするのも微妙だったからね……。
子供が親なしで生きていくには、難しすぎるから、あの世界は。
初めて会った時は、絶望して、怯えたような様子だったのに、今はメルも含めて、一緒に楽しく話している。
すごくいい光景だと思うよ。
「あ、みんな、周りに広がりすぎないようにね?」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
うん、素直でよろしい。
行く前に、車などについても教えてあるから、多分大丈夫。
それに、向こうの世界出身と言っても、みんなは子供だし、あまりステータス的にはほとんど変わらない。
だから、車に轢かれるようなことがあれば、相当焦るよ、ボク。
死んじゃう可能性すらある以上、ちょっとね……。
メルは……轢かれたら、反対に車の方が壊れそうだよね……。魔王だし……。
とはいえ、みんなが轢かれそうになれば、ボクが何としても助けるから、そこまで心配はいらない。でも、油断してもしもがあったら嫌なので、基本常時展開している『気配感知』の範囲を拡大して使ってます。
これで安心。
何やら、視線がかなり来ているけど、多分……みんなが可愛いからだよね。
しっかりご飯を食べたり、清潔な布団でぐっすり眠れたからか、みんなは健康的になってきている。
いいことです。
ご飯の時が一番嬉しそうだけどね、みんな。
やっぱりあれかな。劣悪な環境にいて、なかなかご飯が食べられなかったから、その分反動が大きいのかな。
なんと言うか、作り甲斐がある娘たちで、ちょっと嬉しい。
料理に一層力が入るというものです。
今回向かう遊園地は、以前態徒と一緒に遊びに行った、『美ノ浜ランド』。
ゴールデンウイークとはいえ、今日は六日で、普通なら平日。
でも、学園生らしき人や子供が多く見受けられる気がする……まあ、叡董学園では、今日明日は休みだからね。
見た感じ、デートの人たちもいるみたいだしね。
恋人かぁ……ボクには無縁だよね。
男の人と付き合うのは、なんだか抵抗あるし、かと言って、女の子と付き合えるかと聞かれれば……まあ、ちょっと考えるけど、多分断っちゃうかな。
それに、ボクなんかと付き合うより、いい人は絶対いるはずだもんね。
「ねーさまねーさま! 早く行くのじゃ!」
「あ、うん、ごめんね。それじゃあ、まずはチケットを買わないとね」
ぼーっとしてた。
さて、今日はみんなを楽しませよう!
チケット……というより、パスを買って、中へ。
前に来たのは……去年の十一月だったかな?
あの時は、冬が近かったから、ちょっとだけ肌寒かったけど、今日はそんなことはなくて、暖かい。
まあ、春だしね。五月だしね。
むしろ、寒かったらちょっと困ってたよ。
「「「「「「わぁ~~~!」」」」」」
初めて見ると遊園地に、みんな目を爛々と輝かせていた。
世界共通なのかな、子供が遊園地を見て嬉しそうにするのって。
「さ、立ち止まるのも迷惑になっちゃうから、歩こっか」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
まずは園内をみんなで歩く。
歩いている間、みんなはいろんなアトラクションに目移りしているのか、きょろきょろと見回していた。
「イオお姉ちゃん! 私、あれが気になります!」
そう言って、ニアが指さしたのは、バイキング。
海賊船型の大きなブランコのこと。
あれって、逆さまになったりするし、結構揺れるから、一人によってはかなり酔うんだよね。
でも、ニアの希望だしいいかもしれないね。
……最初にバイキングというのも、どうかと思うけど。
「それじゃあ、まずはあれに乗ろう」
そう言うことになりました。
軽いアナウンスが入ってから、バイキングが少しずつ動き始める。
最初は、小さいスイングだったけど、徐々に徐々にスイングが大きくなり、ついに逆さまに。
その間のみんなの反応は、
「「「「「「きゃ―――♪」」」」」」
すごく楽しそうな悲鳴を上げていました。
周囲のお客さんたちは、人によっては本気の悲鳴を上げていたり、みんなのように、楽しそうな悲鳴を上げる人がいた。
ほとんどは、怖い時に出る悲鳴だけど。
ボク? ボクは……まあ、逆さまになるのは慣れてるしね……師匠のおかげで。
今思い返すだけでもおそろしい。
バイキングが終わった後は、フリーフォールへ。
これは、リルの希望です。
とりあえず、みんなで乗ってみると……
「ひぅぅっ!」
と、リルが思いっきり怖がってました。
幸い、ボクが隣にいたので、ボクの手をぎゅぅっと握ってきてました。
うん。可愛いです……。
ちなみに、他のみんなは特に怖がる様子はなく、バイキングの時のように、普通に楽しんでいました。強いね。みんな。
……あと、リルはなんで乗ったんだろう、怖いのに。
次は、ミリアの希望で、まさかのビックリハウス。
まあ、結果はと言えば……
「うぅ、き、気持ち悪いぃ……」
ミリアがグロッキー状態になりました。
ビックリハウスって、無重力感や錯覚を引き起こすから、人によっては吐き気が出てくるんだよね……。
ボクは……まあ『立体機動』の能力があるから、問題なしでした。あれ、全てにおいて酔わなくなるものでもあるしね。
じゃないと、複雑な動きなんてできないもん。
「だ、大丈夫?」
「い、イオねぇ、ぼく、もうだめ、かもっ……うぅ」
「ちょ、ちょっと待ってね……『キュア』」
仕方ないので、状態異常回復魔法を使用。
さすがに、この後楽しむにはちょっとあれだからね……。
「わっ! 気持ち悪いのが治った! イオねぇありがとう!」
「どういたしまして。それじゃあ、次行こう」
次は、クーナの希望で、コーヒーカップへ。
これに関しては、クーナが
「すごいです! この乗り物、すごく楽しいのです!」
と、テンションがかなり上がってしまったのか、ものすごく回転させてしまい……
「き、気持ち悪いです……」
クーナが先ほどのミリアのように、グロッキー状態になりました。
う、うーん……さっきも見た光景……。
仕方ないので、再び『キュア』を使用して、治してあげる。
「あ、ありがとうございます、イオお姉さま……」
「いいよいいよ。次に行こ」
次は、スイの希望で、観覧車へ。
なんだか早い気がするんだけど、まあ、いいよね。
みんなで一つのゴンドラに乗り、のんびりと外を眺める。
「すごいです、すごいです!」
「た、高い、です……!」
「すっごーい! 遠くまで見れるよ!」
「景色がいいですね」
「……人がゴミのよう」
「おぉ、こっちの世界の街並みはこうなっているのじゃなぁ」
みんな、観覧車から見える景色に大はしゃぎ。
スイは、なぜか某アニメ映画に出てくる、大佐の人みたいなことを言ってたけど……。
でも、こんな風に、のんびり観覧車に乗るっていいね。
みんながこうしてはしゃいでいるのも、なんだかすごく和むし。
こうやって、のんびりする機会なんて、ボクにはほとんどないからねぇ……できれば、こんな日がずっと続けばいいのにね……。
次は、メルの希望で、ジェットコースター。
幸い、みんなは身長制限に引っ掛からなかったので、問題なく乗れた。
正直、これが一番ボクは楽しい。
ジェットコースターっていいよね。
ただこのジェットコースターは、二人ペアなので、ボクたちは一人余ることになるんだけど、この時、なぜかボクの隣を巡って争いが発生しそうになったので、ボクが一人で乗る事になりました。
と言っても、みんなの後ろだから問題ない……と思います。
ジェットコースターに乗る時、ボクってちょっとした問題があったり……。
なんと言うか……安全バーを下ろすのが一苦労なんだよね……胸がつっかえちゃって。
うぅ、もう少し、小さくならないかなぁ……。
そんな事を思いつつ待っていると、ジェットコースターが動き出した。
乗る前はみんな楽しそうだったんだけど……
「「「「「……(ぷるぷる)」」」」」
メル以外のみんなは、少し震えているみたいだった。
あー、うん。怖いんだね……。
最初の落下はみんなそうでもなかったんだけど、一番高い坂に差し掛かったら、
「「「「「……(ぶるぶる)」」」」」
さらに震えが酷くなった。
今にも泣きだしそうな雰囲気があるんだけど……だ、大丈夫かな?
メルだけは、
「~~♪」
楽しそうに、鼻歌歌ってた。
まあ、ボクもメルと同じような感じだし、わかるけど……みんな、大丈夫かな。なんて、心配した直後、突如として急激な浮遊感が遅い、車両が急降下しだし、
「「「「「きゃあ―――――――っっっ!」」」」」
という、みんなの絶叫と、
「「きゃあ―――――♪」」
ボクとメルの、楽しそうな悲鳴が響きました。
「こ、怖かったですぅ……」
「……こ、こわ、い……」
「……ぼ、ぼくも、怖かった……」
「そ、そうですね……私も、かなり怖かったのです……」
「……恐怖」
ジェットコースターから降りると、みんな涙目で怖いと言っていました。
というより、降りた直後、みんながボクにぴったりくっついて離れようとしないので、ちょっと困ってます。
仕方ないので、芝生エリアに移動して、持ってきていたレジャーシートを敷いてそこに座ると、さらにくっついてきた。
か、可愛いんだけど……周囲からの視線がすごい……。
『なんだ、あの美少女と美幼女の軍団……』
『美幼女が美少女に甘えてる姿がメッチャ尊い!』
『くっ、眩しすぎて直視ができない……!』
『癒しコーナー……いいわぁ……』
うん、本当に視線がすごい……。
ジェットコースターは、みんなには早かった、ということで……。
ちょっと反省かな。
この後は、みんなでボクが作って来たお弁当を食べて、午後は他のアトラクションを回って、遊び倒しました。
みんな遊園地に大はしゃぎで、ずっとエンジン全開だったけど、ボクとしてもすごく楽しかったし、いい思い出になったよ。
……ちょっと、トラウマになった部分が、みんなにはあったけど。
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