第108話 借り物・借り人競争(女委の場合)
「ただいま……」
「お、一位おめでとう、未果……って、どうしたよ、浮かない顔して?」
「何かあったの?」
一位を獲ったはずなのに、未果ちゃんはどういうわけか浮かない顔をしていた。
何があったんだろう?
「いや、お題が、ね……酷かったのよ」
「酷いって……どんなお題が出たんだよ」
「……ブラのサイズがGの人」
「「あー……納得」」
そう言えば依桜君、Gって言ってたもんね。
でも、たしかにそのお題だったら、未果ちゃんが浮かない顔をするのもわかるなぁ。
だって、依桜君そう言うの恥ずかしがるし。
まあ、それがいいんだけどね! 可愛くてOK!
「正直、申し訳なくてね。……さすがに、なかなかいないでしょ、Gカップの人なんて」
「だねぇ。いたとしても、パッドじゃないかな。日本人女性の平均て、B~Cらしいし」
「マジで? でもよ、剣によって違うって話だぜ? 例えば、京都とか岐阜がEらしいぞ?」
「女委はともかく、態徒がどうして知っているのかはさておき……。依桜の発育がいいのって、遺伝じゃないの?」
遺伝とな。でもたしか……
「依桜君って、依桜君のお母さんよりも大きくなかった?」
「ええ。でも、依桜昔から言ってたじゃない。隔世遺伝だって」
あー、そう言えば言ってたっけ。
「たしか、依桜君が銀髪碧眼なのは、依桜君の先祖の人に北欧系の人がいたから、だったよね?」
「そ。アメリカと北欧諸国が大きいみたいね。日本でいうところのFが基準らしいわよ。だから多分……依桜の胸が大きいのは、そこから来てるんじゃないかしら」
「なるほど。なんか納得したよ」
「でもよ、依桜の先祖に北欧の人がいるってのも、なかなかすごい話だよなぁ」
「そうね。今でこそ、依桜の両親は純日本人だけど、どちらかの先祖にいる北欧の人が、劣等遺伝子を二つ持っていたんじゃないかしら」
リアルで、先祖返りっているんだね。
そう考えると、依桜君って結構稀な生まれ方なんじゃないかな。
あそこまではっきりとした発現の仕方してるし。
「ちなみにだけど、北欧諸国の人に、巨乳が多いのは、寒いかららしいわよ」
「そうなのか?」
「ええ。寒さに対抗するために、脂肪がつきやすくなった、って話ね」
「へぇ~、未果ちゃんよく知ってるねぇ」
「……ま、色々あるのよ」
ふっ、と遠い目をしながら、微笑む未果ちゃん。
う~む……あ、なるほど。
「未果ちゃん」
「何よ?」
ポンと、未果ちゃんの肩に両手を置いて、笑顔で一言。
「日本人男性が恋人に求める理想のバストサイズって、Dらしいよ」
「余計なお世話よ!」
顔を真っ赤にして怒鳴られちゃった。
でも、実際にそうなんだけどなぁ。
ちなみに、日本人女性の理想は、半数近くの人がCで、次点にDが来るそうだよ。
なんでも、大きすぎず、小さすぎないサイズがちょうどいいのだとか。
あとは、大きすぎると、可愛い下着とか、Tシャツを着た時とかに視線を感じるのが嫌だ、って言う人も多いみたいだね。
わたし、Fなんだけど。
でもまあ、田中さんがいるしね! 不便するようなことにはなってないし、大丈夫!
あ、それから、男の人って、巨乳が好き! って言う人は、意外と少数派みたいだね。大体の人は、C、Dが多くて、次にBらしい。
あれだね。結構偏見なんだね。
でもまあ……依桜君ほどの立派なものを見たんじゃあ、巨乳好きにもなるよね、あれ。
形良し、大きさ良し、柔らかさ、張りも共に良しだもん。ある意味、理想的な巨乳だよ。
あれれ。わたしは一体、何を考えているんだろう。
「まったく……別に、私は気にしてないわよ。ちょうどいいもの」
「羨ましい限りだよ」
「まあ、女委も依桜に負けず劣らず大きいものね。運動するとき、大変じゃないの?」
「そうだねぇ。揺れるから、結構痛いよ」
「やっぱりね。……痛いはずなのに、普通に激しい動きができる依桜って、やっぱりおかしいのかしら?」
「そうじゃないかな? ミオ先生だって、見た感じ、Eくらいあった気がするもん。なのに、全然平気そうに動くもんね。あの二人に関しては、比較しちゃだめだよ」
「そうね。……ところで、態徒はどうしたの?」
「いや、さすがに、この会話に混ざったら、ぶん殴られるんじゃないかと思ってな」
「よくわかってるじゃない。もちろん」
当たり前でしょ、と笑顔を向ける未果ちゃん。
それに対し、態徒君は何とも言えない表情をしていた。
それからしばらく、三人で話していると、
「では、5レース目に走る選手は、準備をしてください」
わたしの番となった。
「じゃ、行ってくるね」
「ええ、頑張ってね。もちろん、一位を目指すのよ」
「もち!」
「いいのを引けよ!」
「おうともさ!」
ふふー、こういう時のわたしの引きは、強いのだ!
きっと大丈夫!
「それでは、位置についてー。よーい……」
パァン!
もう何回聞いたかもわからない音と共に、一斉に走り出した。
あいにくと、わたしは運動が得意な方ではないので、少し遅れてしまった。
現在のわたしの順位は、5位。後ろから数えた方が早い順位だ。
でも、この競技で一番重要なのは、いいお題を引けるかどうかにかかっているのだ!
ここでわたしが、叶えやすいお題を引くことができれば、問題ないんです!
ようやくわたしも、箱の前に到着。
わたしよりも前を走っていた人たちは、すでにお題を達成しようと会場内を走り回っている。
よーっし、ここでいいのを……
「これだ!」
直感で決め、取り出した紙には、
『天然系エロ娘』
……Oh。
いや、これは予想外。
てっきり、『ハンカチ』、とか、『教師』とか、『腐女子』みたいな感じで来ると思っていたら、まさかのセクハラ系。
……え? 前回も見たって? ちょっと何言ってるのか分からないです。
いや待って。
たしかに、わたしは自他共に認める変態さ。でもね、まさかここまでド直球なセクハラ的お題が来るなんて、想像もしてなかったんだよ。
未果ちゃんが、そのセクハラ的お題にぶち当たっていたけど、さすがに二連続で引くことはないだろうなぁ、って高を括っていましたよ、わたし。
それが、この様よ。
再び、セクハラお題だよ。
う~む。天然系エロ娘ねぇ……。
一体、誰が考えだしてるんだろうね、このお題。
そもそも、今までの競技だって、なかなかに面白――んんっ! 酷いものばかりだったしねぇ……。
パン食い競争とか、障害物競争とか。
瓦割りだって、とても、高校生がやるような競技には思えないよね。
……さてさて、どうしたものかなぁ。
天然系エロ娘かぁ……。まあ、うん。
当然、だよね。
わたしは、頭の中に思い浮かんだ人物の下へ走った。
「というわけで、依桜君。一緒に来て」
「あ、あれ? またボク?」
当然、天然系エロ娘と言えば、依桜君だよね!
「うん。残念ながら、依桜君なんだよ」
「二回連続で来るとは珍しいな」
「でしょでしょ! お題を引いたら、依桜君しかいないよね! っていう物をひいちゃってね。さあ依桜君! 行こうじゃないか!」
「う、うん、わかった」
「やったね! じゃあ、早速ゴールまでGO!」
「わわっ! 急に引っ張らないでよぉ!」
「お願いします!」
ゴール地点には、誰もいなかった。
あれれ? てっきり、もういるものとばかり思ってたんだけど……誰もいないや。
そう言えば、未果ちゃんの時もこんな感じだったけ。
「確認しますね。えーっと……あー、本当に、男女さんが?」
「そですそです!」
「でも……普段の姿からは想像できないと言うか……」
判定の先生は、いまいちピンと来ないらしく、ちょっと疑ったような目を向けてくる。
それすなわち、『まあ、適当に知り合いを仕立て上げればいいだろ』って感じかね?
ふむ……ならば。
「依桜君。ちょっと耳貸して?」
「え? うん」
「えっとね。――――って、言ってもらっていいかな?」
「えっと、それを言えばいいの?」
「そうそう。あ、できれば大人っぽく言ってもらえるとありがたいです」
「よくわからないけど……わかったよ。じゃ、じゃあ……こほん」
軽く咳ばらいをして、依桜君が、
「――ふふっ、私、あなたのこ・と・が……ぜーんぶ、だぁいすき、ですよ? その体も、心も、全部……ぜーんぶ……❤」
自分でやらせておいてあれなんだけど……依桜君が、すっごくエロい。
あれ、結構無茶振りだったような気がするんだけど、すごい様になってるのはなんで? 依桜君って、ものすっごくピュアなのに、ここまでできるものなの? あれが嘘だった、って言われても信じちゃうくらい、エロかったと思うんだけど。
……あ。あとで下着替えないと……。
「……はっ! あ、あまりにも衝撃が強すぎて、一瞬変な気分に……え、えーっと、ご、合格です! ゴールしちゃっていいですよ!」
「やった! ありがとうございます!」
許可をいただけたので、わたしは依桜君と一緒にゴールテープを切った。
『ゴール! 5レース目、最初にゴールしたのは、一年六組腐島女委さんです! またしても、一年六組の選手が一位を獲りました! しかも、腐島女委さんも、午前の部にて、パン食い競争で一位を獲っております!』
ふふふー。わたしにかかれば、このくらい、造作もないのですよ!
……まあ、ぶっちゃけると、運が良かっただけだけどね!
「男女さんって、あんなにエッチだったんだ……なんか目覚めそう」
ここにまた一人、依桜の魅力にノックアウトされた人が現れた。
最早、なんでもありだ。
「それで、女委。お題は何だったの? それと、さっきのセリフの意味って……?」
ゴールした直後、依桜君にいきなりお題の内容について尋ねられた。
おうふ。これは困った。
「可愛い人、かな」
「……本当に? じゃあ、さっきのセリフって……?」
「あれは、可愛いかどうかを判断するためのセリフだよ!」
「そう、なの? でも、大人っぽくって言われた気がするんだけど……可愛いに関係あるの?」
「あ、あるよあるある! 大人っぽくないと発揮されない可愛さもあるんだよ!」
「なるほど? ……うーん、なんか腑に落ちないけど……そう、なのかな」
ほっ……よかった。
なんとか誤魔化せそうだよ。
依桜君、かなり鋭いからねぇ……。
未果ちゃんも、話によれば、誤魔化そうと必死だったみたいだけど、嘘を吐く時の癖や、目の動き、声の上ずり、冷や汗で見破られちゃったらしいからね。
依桜君、本当にすごい。
それに、普段の生活でも、やたら鋭い時も多かったし。
例えば、わたしがエッチなことを考えている時とかね! ジト目を向けてくるもん、依桜君。
「それじゃあ、ボクは戻るね」
「うん。ありがとね、依桜君」
「いいよいいよ。それじゃあ、態徒に頑張ってって伝えといて」
「わかった! じゃね!」
誤魔化すことに成功し、依桜君と別れた。
ちなみに……
「ふふふー。依桜君のさっきのボイスは、わたしの超小型カメラで撮影済みなのですよ!」
むふふー、あとで、こっそり楽しむとしよう!
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