第65話 幼女としての生活4
握力の次は、長座体前屈。
まあ、これに関しては、特に問題は起きなかった。
あったとすれば……
「んんっ~~……!」
『お、おおぉ……!』
女委が測定している時に、周囲にいた人たち(男子)がボクたちの周りに集まってきていた。
なんでか、と言うと、まあその……女委って、ボクよりは小さい、って言ってきてはいるけど、それでもかなり大きいんです。
胸が。
そして、長座体前屈と言えば、床に座って台のようなものを押して測るもの。
当然、前屈みになるので……その、胸が、ね。結果的にふにゅっと潰れますし、女委の場合、体操着の隙間からチラッと谷間が見えちゃうわけで……。
それを見ようと、男子たちがのぞき込もうとして、
「死ね」
『ぎゃあああああああああああっっっ!! 目がぁ、目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!』
音速なんじゃないかと思える速度で、未果が男子たちの目を潰しにかかっていた。
あれ、絶対痛いよね?
目潰しを喰らった男子たち、みんな同じ動きで同じように悶絶して、転げまわってるもん。
晶だけは、見ないようにと言う気持ちからか、外を見ていたけど。
さすが晶。
「まったく……。ええっと? 47センチ、と。ま、普通かしらね?」
「そうだね。すごく柔らかい人は、65センチ以上みたいだよ?」
「へぇ、よく知ってるわね、依桜」
「ま、まあね」
……今日のために、事前に調べてたもん。
どこからどこまでが、普通なのか、って。
実際、握力だって本気で力入れなくても壊しちゃうレベルだったしね。
だから、あんな風に壊れたわけで……。
怒られなかったからよかったものの、ボク的には壊してしまったという罪悪感がすごいよ……。
こっちの世界だと、力のコントロールを少しでも間違えれば、簡単に壊せちゃうもん。
ちょっと力を入れないと壊せないようなものは……ダイヤモンド、とか? あと、黒曜石、とか?
……あ、うん。鉱物だけじゃん……。
「ほら、次は依桜よ」
「あ、うん。よいしょ、っと……」
女委と同じように床に座って、台に手をのせて、押す。
意外とすんなり押し出せました。
でも、あれ? こんなに柔らかかったっけ?
……あ、そう言えば女の子の方が体が柔らかいって言う話があったようななかったような気がする。
ん? それはどっちの意味で柔らかいんだろう?
肌とかそう言う意味での柔らかさ? それとも、間接とかの柔軟性の方?
……どっちもか。
「んんっ~~~~!」
あ、ぷるぷるしてきた。
こ、これ以上、は、無理かな……?
(((なにあれ、和む……)))
何だろう? またしても、みんなが同じことを考えていた気がする。
いつも何考えてるんだろう?
「ぷはっ……未果どうだった?」
「あ、ええ、ええっと……ろ、68センチ……」
『柔らかっ!』
しまった。
さっき自分ですごい人の例を挙げたばかりなのに、自分がその記録を出しちゃったよ……。
ま、まあでも、柔軟性を測るだけだから問題ないよね!
別に、ボクの異常な身体能力が記録されるわけじゃないし。
……握力計は破壊しちゃったけど。
「ガラケーみたいだったわ……。ま、まあ次ね、さっさと終わらせるわよー」
未果の時も、男子たちが反応して、未果に目を潰された以外は特に問題がなく終了。
一応、計測結果を。
晶が、47センチ。態徒が、50センチ。未果が、43センチだった。
ボク以外、みんな平均的だった。
いや、まあ、あくまでもインターネットで出た検索結果の一例だったし、別にこれがすごいわけじゃない、よね?
「はい次、立ち幅跳びね」
次は立ち幅跳び。
またしても、調整が難しい種目だよ……。
とりあえず、可もなく不可もなくな記録を狙おう。
「じゃ、まずは俺から行くぞ」
「わかったわ。女委、記録見といて」
「了解だよ~」
「それじゃ行くぞー。せーのっ!」
おー、結構跳んだ。
それなりに身長があるし、足は長いもんなぁ、羨ましい限りです。
「晶君の記録、2メートル32センチ」
「おー、結構跳ぶぁ、晶」
「まあ、一応は鍛えてるからな」
男子の平均は、晶よりちょっと短いくらいだったはず。
けど、どちらかと言えば、普通の部類になるんだろうか?
でも、その辺りは、全国平均とは言っても、地域によっては結構違ってくるしね。
体育系の学校とかは高めの平均になってそうだけど。
うちの学園は色々とお祭り好きな学園だけど、別段運動部に力を入れているわけではないので、普通くらいだと思う。
「次、態徒」
「おうよ! じゃあ行くぞー! よいしょぉ!」
気合の入った掛け声とともに、態徒が前方に跳ぶ。
記録は、
「2メートル43センチ」
すごいことに、晶より跳んでた。
「へへっ、どうよ!」
「普通にすごいわね」
「ああ、やっぱり、こういう種目じゃ敵わないな」
「うんうん、態徒君の癖に生意気だよ~」
「そうか、すごいだ――って、女委の言葉はおかしくね!?」
態徒って、時々ツッコミなのかボケなのかわからなくなる時があるんだけど。
……まあ、ほぼほぼボケだよね。
「まあ、態徒はどうでもいいとして。次、私がやるわ」
「いや、どうでもよくないぞ!?」
「どうでもいいとして。私やるから、誰か測定お願い」
「じゃあ、ボクやるよ」
「ありがと。じゃ、行くわよー」
一声かけて、未果は跳んだ。
態徒や晶ほどの跳躍ではないけど、十六歳の女の子としてはいいほうなんじゃないかな?
着地点の数字は、
「1メートル72センチだよ」
「うーん、やっぱり、2メートルは無理そうね」
「性別の違いもあるからね」
「依桜君の場合、性別の壁を超越してる気がするよ」
「ま、まあ、ボクの場合は死に物狂いの努力の結果だしね……」
別に、欲しくて異常なまでの身体能力を得たわけでもないし、女の子になったわけでもない。
すべては、運の悪さからくるものなわけだしね……。
「じゃ、次女委ね」
「はいはーい」
またしても、ボクは最後だった。
聞いたところで、同じ理由なんだろうなぁ。
「じゃ、行くよー」
と、女委が跳ぶ合図をすると、
『なに!?
『おい行くぞ! 絶対いいものが見れる!』
男子たちが血相を変えて女委の周りに集まりだして、測定どころではなくなってきた。
ちなみに、腐女というのは、女委のあだ名のこと。
腐島女委だから、態徒と同じように、名字の一文字目と、名前の一文字目を取ってくっつけて、腐女というわけです。
意味的には、まあ、腐女子。
本人が腐女子なので、結構ピッタリなあだ名だよね、これ。
「あなたたちは……もう一度、目を潰されたいのかしら?」
『うるせえ委員長! 俺たちはなぁ、あの揺れるおっぱいが見れれば本望なんだよッ!』
『普段は腐女子で、なんかちょっとアレな感じの腐女でもなぁ、見てくれはいいんだよ! おっぱいでかいんだよ!』
『だったら、男たるもの、揺れるおっぱいが見たいってもんだろ!?』
「にゃははー。うちのクラスの男子たちは欲望に忠実だねぇ」
自分のことなのに、なぜか楽しそうな女委。
何で楽しそうなんだろう。
『というか、今の男女ってちっちゃいじゃん! 幼女じゃん! ロリじゃん! いやまあ、たしかにあれも可愛いけどさぁ!』
『クラス一……いや、学園一の巨乳の揺れるおっぱいが見れないんだぞ!? だったら、腐女でもいいから見たいんだよッ!』
『だが、本気で男女のあのご立派なおっぱい様が見れないなんてッ……くそぅ! なぜだ! なぜ神は、男女をボインボディから、ツルペタボディにしてしまったんだッ!』
『先週から楽しみにしてたのによぉ……』
『だからせめて……せめて、腐女のおっぱいが揺れるところだけでもいいから見たいッ!』
「「「うわぁ……」」」
ボク、未果、晶の三人はドン引きしていた。態徒は、うんうんと頷いていた。女委も同様だった。
ボク、そんな風に思われてたの?
あと、授業中なのに、よくもまあ、こんなことが言えるね、みんな……。
それに、先週から楽しみにしてたって……。
体力測定があると連絡を受けた日から、やけに胸を見られているなぁ、と思ったら……そんなことだったの?
「……大きい胸って、そんなにいいものなのかなぁ」
ぽそっと呟いた。
今はないけど、縮む前はそれなり……というか、みんなからはでかいと言われていた。
大きくてもいいことないんだけどなぁ。
肩は凝るし、無駄に重いし、うつぶせに寝れないし、潰れると苦しいしで、あんまりいいことはない。
そう思っての一言だったんだけど、
「いいに決まっているだろう!」
あ、面倒くさいのが絡んできた。
「依桜、おっぱいはなぁ、無限の可能性を秘めているんだよ! たしかに、小さいほうがいいというやつも存在している! だがしかし! やはり、男は無意識に母性を求めるもの! そして、男が母性として真っ先に挙げるのが、おっぱいだ! それも、でかい! おっぱいだ! 小さいのは可愛いが、でかいのは美しいんだ! あの、綺麗な丸い形! 程よい張りに弾力! 素晴らしいじゃないか! 世の中には、尻の方が好きとか言う邪道な奴もいるが! やはり胸だよ! でかい胸だよ! おっぱいだよ! あれこそ、男の本能を呼び覚ましてくれる、聖なるものなんだよ!」
「「「……」」」
ボク、未果、晶の三人は、もはや何も言えなかった。と言うより、言えなかった。
まさか、ここまで力説してくるとは思わなかった。
『『『さすが変態だぜ! 俺たちは一生ついていくぞ!』
この場にいた男子たちは、なぜかみんな態徒をリスペクトするかのような眼差しを向けながら、口々に叫んでいた。
……あの、今授業中。
今って、普通に体力測定の時間だから。まだ女委測ってないんだけど。
あと、ボクも測ってないんだけど。
なんで理解ができないことを力説されてるんだろう?
あと、聖なるものって言っていたけど、明らかに聖なるものではないよね。
どちらかと言えば、悪魔の囁きとかに近いよね? 絶対に聖なるものじゃないよ。
「はぁ……依桜、どうにかできる?」
「まあ、できないことはないけど……今やると、みんな体育の授業をさぼりだと思われちゃうよ」
「依桜。あなたが優しいということは、重々承知しているわ。でもね、あそこの馬鹿どもは違うわ。ただの変態たちの集まり。鉄拳制裁を喰らっても大して問題のない連中よ。というか、あなたってどちらかと言えば、被害者だし」
「そう、なのかな?」
たしかに、ボク自身のことはいろいろ言われているけど……。
「そりゃそうよ。じゃあ聞くけど、あなたは上半身裸で男子たちの前に出れる?」
「むり」
考えるまでもなく、即答した。
男の時でも、その行動はとれないと思います。
だってボク、水泳の授業で水着に着替えている時とか、なぜかみんな頬を赤らめていたんだもん。
「でしょ? そう言うことと一緒よ。だから、やっちゃってもいいってこと」
「で、でも……」
さすがに、授業を放棄させるような状態にはしたくない。
学園祭二日目の後夜祭で、酔っぱらっていたみんなに対して針を刺して気絶させたりしたけど、あれはあくまでも、事態の収拾を図るためだったわけで。
今は別にそう言う状況……だね、うん。
明らかに、暴走してる。
現に今だって、
『ハァッ……ハァッ……』
呼吸を荒くして、醜態をさらすような表情しているし。
晶は、同じ男であることが恥ずかしい、みたいな顔をしている。
女委は普通に楽しそうに。
未果は怒ったような表情。
もちろん、態徒は醜態を晒している側です。
「ね? あれは、どうにかしないといけないでしょ?」
「うん。そうだね。あれはちょっと……ないかな」
「でしょ? と言うわけで、お願いね」
「任せて」
いつも通りにこの場にいる男子全員分の針を生成。
それを一斉に醜態を晒している男子たちめがけて投擲。
それは寸分違わず、狙った位置に刺さり、
『うおぉ!? なんだ!? 前が見えねえ!』
『クソ! なぜだ! なぜ目の前が真っ暗になったんだよ!?』
「い、依桜だな!? 依桜! お前何をした!」
「何って……目の前を見えなくするツボを刺激しただけだけど」
こうして、視界を奪った。
「便利過ぎない!? ツボ! つか、もう何でもありじゃねえか! 普通、都合よく記憶を消せるツボとか、下ネタ的発言をできなくするようなツボとか、今みたいに視界を奪うツボとか、なんで知ってるんだよ!? ご都合主義みたいな設定を持ちやがって!」
メタいなぁ。
ボクのこの技術のことをご都合主義みたいな設定って言うけど、これを教えたの師匠なんだよね。
ツボを刺激しただけで、なんでここまでの変化を出せるのか、みたいなことはボクにもわからない。
細かい理屈とかは、以前師匠に聞いたんだけど、あの人自身もわかってないみたいだったんだよね。
なんとなくわかる、って感じだったし。
……なんとなくわかるだけのものを、平気で使っている師匠はどうかしてるよ。
「ま、これで心置きなく、できるわね」
「そうだねー。じゃあ、ちゃっちゃと済ませるね」
と、今度は誰にも邪魔されるようなことにはならず、しっかりと測定することができた。
女委の記録は、
「ええっと? 1メートル49センチね」
「ん~、そんなもんかぁ~」
ぎりぎり平均に届いてない、って感じかな?
でも、女委が結構なインドア派であることを考えると、いいほう、なのかな?
『くそぉ、終わっちまったっ……あ、視界が見える』
『お、おお、本当だ……だが、今戻っても……』
『ああ……あのおっぱいは見れなかったわけか……』
「おのれ依桜! オレたちの欲望を邪魔しやがって!」
「もぉ、そんなこと言ってるからモテないんだよ?」
『ぐはっ!』
男子たちはなぜか倒れてしまった。
え、あれくらいの言葉で?
……ガラスのハートすぎない? もしかして、かなり薄いガラスだったのかな?
「馬鹿たちは放っておきましょ。さ、次は依桜よ。私が測るわ」
「あ、うん。じゃあ、行くよー」
と、ボクが跳ぼうとした時だった。
「あ、依桜君、お尻にごみがっ――」
ツルッと、女委がボクのお尻当たりについていたゴミを取ろうとしたら、足を滑らせて転び、その手はボクのズボンめがけて振り下ろされ、
「よっ……え?」
ボクが跳ぶと同時に、ズボンが下ろされた。
今のボクはズボンを下ろされた状態……つまり、下はパンツしか履いていない状態と言うわけで……。
そしてその状態のまま着地。
「く、くまさんパンツ、だとっ……?」
態徒から驚愕するような呟きが聞こえてきた。
ボクはわけがわからず、ギギギッと油をさしていない機械のような動きで、自分の体に視線を落とす。
……くまさんパンツが晒されていた。
「い、い……いやあああああああああああああああああああああああっっっ!」
『『『ありがとうございますっ!』』』
ボクは悲鳴を上げながら、その場でうずくまった。
同時に、男子たちはなぜかそろってお礼を言ってきた。
「あんたたち、ガン見してんじゃないわよ! 依桜、早くズボン穿いて! 女委、そのズボンをこっちに投げて!」
「う、うんっ……!」
慌てて、女委がボクのところにズボンを投げる。
それを受け取ると、ボクは急いでズボンを穿いた。
「み、見られた……くまさんパンツ、見られた……」
ボクはその場で膝を抱えて座り込む。
あの恥ずかしいパンツを穿いていることがバレてしまった……。
ボクが、くまさんパンツを穿いていることを……。
『お、おい聞いたか?』
『聞いたぞ。くまさんパンツって言ったぞ』
『く、くそ、俺はロリコンじゃねえのに……なぜだ、なぜここまでドキドキするんだっ』
『幼女のくまさんパンツ……最高の組み合わせ! 素晴らしい! なんて素晴らしい光景だったんだ!』
「う、うぅ……も」
「も?」
「もうおうちかえるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」
ボクは泣きながら叫んだ。
それはまるで、小さい子供が恥ずかしさのあまりに言うような言葉だった。
「ああ、依桜君が幼児退行を! あ、でも今だと普通……?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! そこの馬鹿ども! そこに正座!」
『は、はいぃぃ!』
この後、未果が大層お怒りになりました。
体育館には、ボクの子供のような――見た目子供だけど――泣き声と、未果の怒りの声が響いていました。
もうやだぁ……。
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