第397話 恐ろしい女委
カレー作りを終えると、自由時間。
自由時間と言っても、友達の部屋を訪れてカードゲーム等をしたり、旅館周辺を散歩したり、ちょっと遊んだりする、というくらいしかやることはないんだけどね。
それはボクたちも例外じゃなくて、普段の疲れを癒すかのように、のんびりとした時間を過ごした。
自然豊かな場所って、ベンチに座って、仲のいい人と話しているだけでいいリフレッシュになると思ってます。
ボクはそうです。
エナちゃんは、普段からアイドルとしての活動があるため、こういったのんびりする時間はあまりなくて、今回はすごく嬉しいとか。
一応、この日のために休みを入れたそうです。
エナちゃんの本気度がすごい。
まあ、普段からライブをしたり、テレビに出演したりと、大変そうだもんね。
なのに、ちゃんと授業に追いつけているんだから、エナちゃんってすごい気がする。
学生とアイドルみたいに、何らかの職業と学業を両立させるのって、普通は難しいと思うもん。
だからこそ、エナちゃんとしては今回の林間・臨海学校は、すごく楽しみだったそう。
そんなことを自由時間中に聞きました。
今は毎日が楽しいって。
座って話すだけでも、いい思い出になったとも言ってました。
エナちゃん、すごくいい人だよぉ……。
そう言えば、途中で師匠がどこかに一人で行っていたみたいなんだけど、何してたんだろう?
そんなこんなで自由時間も終わり、夜ご飯を食べて部屋へ。
「ここの料理は美味しいから、つい食べすぎちゃうわ」
「そうだね。こう言う場所の料理を食べていると、もっともっと美味しいものを作れるようになりたいって思っちゃうよ」
「え、依桜君、今以上に料理上手になりたいの?」
「うん。メルたちがいるからね。ボクが料理を作ってあげられる間は、美味しいものを食べてもらいたいから。そのために、もっと上手くなりたいもん」
「おー、ハングリー精神だね、依桜ちゃん!」
「なんだ微妙に違うような……?」
((依桜(君)の場合、ただのシスコンなだけのような……))
あれ? なんだか、未果と女委の二人が微妙に呆れた顔をしているような?
何か変なこと言ったかな? ボク。
「そう言えば、明日は臨海学校だよね! 何をするのかな?」
「さあ。今現在わかっていることは少ないのよね。……女委何か知らない?」
「未果ちゃんや。何故、わたしが何か情報を知っていると思っているんだい? 普通に考えて欲しいんだけど、わたし、普通の学園生だよ?」
「「「え、女委(ちゃん)って普通なの? ないない」」」
「あれあれ!? 未果ちゃんはともかく、依桜君にだけは言われたくないよ!?」
「それはそれで酷くない!?」
ボクは普通だよ!
す、少なくとも、異世界に行っていたことを含めなければ、普通だよ。多分。
「まあ、そこは女委の正論だとして……」
「え、未果も?」
「でも女委。あなたって、なぜかいろんな情報に詳しいじゃない。去年の学園祭なんて、なぜか他のクラスの売上状況とか、店の経営状況も知ってたし」
「あ、そういえば、そんなこともしてたね」
あの時は何で知ってるの? とか思ったもん。
しかも、PCで何か調べている素振りを見せていたから、十中八九、ハッキング……じゃなくて、クラッキングだと思うし。
ある意味、違法だと思うんだけど……。
「へぇ~、女委ちゃん、やっぱりPCに強いんだね!」
「ん? エナ、それってどういうこと?」
「あ、エナっち、その話は――」
「依桜、女委の口を塞いで」
「あ、うん。わかったよ」
ボクは未果に指示されて、女委の背後に回ると、口を元を塞いだ。
「むぐっ!」
(おぅふ!? い、依桜君の素晴らしすぎる、神おっぱいが……おっぱいがわたしの背中にぃ! やっべ! これだけで何度かデキるぜ! ……うん、後でパンツ変えよう)
……なんだろう。今、女委が何か不穏なことを考えていたような……。
「それで、エナ。何を言いかけたのかしら?」
「うん、えっとね。実はうち、売れ始めて、軌道に乗り始めた頃にね、その、何と言いますか、うちを中学時代いじめていた娘がね、僻みや嫉妬でうちの捏造写真をネット上に上げたの」
「え、ちょっと待って? それ、もしかして重くなる?」
「うーん、どうなんだろう? うちはもう気にしてないけど、ちょっぴり重いかも?」
「そ、そう。まあいいわ。続けて」
「あ、うん。それでね、うちが炎上しちゃって、誹謗中傷で困っていた時に、女委ちゃんを頼ったの。そしたら、『OK! 愚か者たちを地獄に堕としてしんぜよう!』って言って」
「「言って?」」
「うちを陥れようとした娘と、誹謗中傷を書いた人たちを一斉に社会から抹殺してた」
「「怖いよ(わ)!」」
え、何してるの女委!?
エナちゃんが売れ始めた頃って言えば去年だよね!?
ということは、ボクたちが高校生活を始めた頃にしていたってこと!?
「依桜、ちょっと手をどけて。話を聞きましょ」
「あ、うん」
「ぷはー。いやー、依桜君の手は甘くていい匂いがするねぇ。正直、このてに塞がれるのなら、窒息してもいいと思っちゃったぜ」
「……女委って、ただじゃ転ばないよね?」
「そりゃ、同人作家ですからね! 使えるシチュを経験できた時はそれに対し喜ぶのです! 貴重だからね!」
本当に、ただで転ばない。
うーん、このポジティブな考え方、ボクも見習った方がいいのかなぁ。
……いや、女委の場合ちょっと違うと思うから、やめておこう。
「で? それで?」
「いやー、はっはっは! だってさー、大切な友達が陥れられたらねぇ? 他の人が許しても、わたしはゆるしちゃぁくれやぁせんよ」
「そこでふざけないでいいから。それで、何をしたのよ」
「んー、まあ、相手が捏造写真で陥れたのならば、こちらも情報を手に入れようとして、わたしの情報網を総動員したんだよねぇ。で、案外あっさり見つかっちゃったわけだよ。素晴らしい情報が」
「……情報も気になるけど……そもそもの話、一体エナはどんな写真を捏造されたの?」
「んーっとね、男の人と一緒にホテルに入る写真」
「え? それのどこが炎上する要素なの?」
聞いた限りだと、そこまで炎上しないような……。
「「あ」」
なんだろう、未果と女委の「あ」は。
「依桜ちゃん、炎上した理由はね――」
「「わーーー!」」
「わぷっ」
あ、あれ? エナちゃんが何かを言おうとした瞬間、未果と女委の二人がエナちゃんを連れ去ったんだけど。
一体どうしたんだろう?
「いい、エナ。依桜はものすっご~~~~~~く! ピュアなの」
「ピュア?」
「うん。依桜君はね、キスで子供ができると思っているくらい、ピュアなの」
「え、それはピュアすぎない?」
「でしょ? できることなら、自分で知るまでは、依桜本人にはそのままでいてほしいのよ」
「今時、ここまでのピュアっピュアな美少女もいないからね!」
「たしかに。うん、おっけーおっけーだよ! うちも隠すことにするね」
「お願い」
あ、戻って来た。
一体何を話してたんだろう?
「えっと、三人ともどうしたの?」
「あ、き、気にしないで。ちょっと話すことがあっただけ」
「そうなんだ。もう大丈夫なの?」
「「「OK!」」」
おー、息ぴったり。
「それで、えっと、なんで炎上したの?」
「あーうー、えーっとね。アイドルだから、見知らぬ男の人と一緒にお泊りした写真を見られたら、熱愛報道!? みたいな感じに、炎上しちゃうんだよ。だから、うちが炎上したわけで……」
「なるほど。芸能人――特にアイドルはそう言うのに厳しそうだもんね」
「そうなんだよー。うちの事務所は別段、恋愛禁止、なんてことはしていないから、まだマシだったけど、それでもそういった写真が出回るのは大打撃だもん」
たしかに。
売れ始めた頃にそういったことをされたら、今後のアイドル活動が成り立たなくなっちゃいそうだもんね。
でも、エナちゃんの所属している事務所って、恋愛禁止じゃないんだ。
「そこで出たのがわたしっていうわけです」
「なるほどね。概ね理解できたけど、ほんっと、何をしたのよ?」
「訊きたい?」
「まあ、訊きたいわね」
「ボクも気になる、かな」
ちょっと怖いけど、それでも気になるのものは気になる。
「そっかーそっかー。まあいっか! 二人だもんね。じゃあ言うんだけど、まずエナっちを陥れようとした、クサレ女にはスキャンダルな写真を入手してそれをネット上に流しました。しかも、5〇h」
「「うわぁ……」」
「で、それがニュースや週刊誌でも取り上げられてね。色々と問題が起こっている時に、誹謗中傷していた人たちも攻撃され始めてねぇ。最後の一押しとして、誹謗中傷した人のアカウントを全部見つけて、それ全部、住所割って、また5〇hに流しました」
「「うわぁぁぁ……」」
て、手口が陰湿すぎる……。
女委の攻撃の方がオーバーキルすぎるよ。
「それで、えっと、その人たちってどうなったの?」
「んー、クサレ女は事務所を強制退所。それからはまあ、うん。ボロクソに言われるよね、ネット上で。元は自分が原因だから訴えても意味ないし、仮に訴えても余計に炎上するだけだしねぇ。今は、どこかでひっそり暮らしてるんじゃないかなー。あと、誹謗中傷していた人たちは、軒並み訴えられたよ。事務所に」
「あ、そう……」
末路が酷いというか……うん。本当に酷い。というより、それしか感想が思い浮かばないほどに、酷い。
「ちなみに、訴えはしたものの、エナっち本人が許したので、そこからさらにファンが増えたね。炎上する前の倍以上」
「マッチポンプよねそれ!?」
うーん、未果の言う通り、マッチポンプだよね、それ。
だって、事務所が訴えた後に、誹謗中傷されている人本人が許しちゃったらね。
それはファンも増えるよ。
「いやぁ、エナっちがボロボロにされるとか、わたしにとって悪夢だし、そもそも大切なファンがいなくなるのも可哀そうだし? ならば、こっちから打って出るべきかなと。まあ、うん。本気出した結果だよね!」
「あれ? でも、さっき社会的に抹殺したって言ってなかった?」
「うん、言ったね」
「許されたのなら、抹殺されてないんじゃ……?」
「チッチッチ。許したのはあくまでエナっちとその事務所。エナっちのファンの人たちは許すわけないよね!」
「あー……うん。そっか」
やっぱり、人って怖い。
正直、人間よりも魔族の人たちの方が、全然いい人が多いよね……。
心の底から、そう思った。
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