第307話 荒廃した世界での出会い

『×$#+!』

「邪魔だ」

『――――ッ!?』

「ったく、何度も何度も襲ってきやがって」


 でかい反応のブライズの元へ行く道中、相変わらずブライズどもがあたしを襲ってくる。もちろん、常時全身に聖属性の魔力を纏っているんで、触れた瞬間に消滅しているんだがな。


 もともとは人間や生物だったことを考えると、ブライズってのは知能が相当低下しているらしい。


 なんと言うか、色々と残念な存在だよな、こいつらって。


 まあ、あの手記を見る限り、自業自得、って普通の奴なら捉えるんだろうが、全員がそう思ったわけじゃないだろう。何も知らないガキどもに、仲良く資源をわけようと動いた奴らは、必ずいる。そう言う奴らはとばっちりにもほどがある。


 それに、地球上で生きていた生物たちもだ。


 人間ってのは、突き詰めれば欲望で動く生物だ。


 誰しも原動力となる欲を持つ。


 あたしだったら、酒だ。酒が好きで好きでたまらない。あれを飲むという欲望のために、日々を頑張っていると言ってもいい。


 欲がないのは、それこそ神々くらいのものだ。


 問題は、その欲がひっどいものだった場合。


 これは、国のトップやら、国の上層部の奴らによくあることだ。


 独占欲、支配欲、まあ、この辺りが一番多いだろう。


 他の国も掌握したい、支配したい、自分たちが世界のトップに立ちたい、ま、そんなところだろうな。


 この世界の戦争も、そうだったんだろう。


 資源が少なくなったから、自分たちの国――いや、自分たちが助かり、自分たちが贅沢に過ごせるように、資源を巡っての戦争を起こしたんだろう。


 馬鹿なものだ。


 それほどまでに、この世界は欲深かったんだな。

 小国も大国も関係ない。個人も、集団も関係ない。


 まあ、欲があるからこそ、発展するわけなんだが……この世界は、欲深すぎた。だから、こんな風に、神どもに見限られ、荒廃するんだ。


 欲を持つのは当たり前だが、ある程度抑えなきゃいけない。まあ、世のため人の為にすることに対する欲なら、全然問題はないだろうが。


 まあ、イオにだって、欲はあるだろう。


 あいつは……あれだな。平穏に過ごしたいって言う欲。


 ……いや、欲っていうのか? これ。


 あいつは、色々と変だしなー。


 そもそも、欲があるのか、とか思っちまったよ、今。


 その辺、意外と薄いのかもな。なんか、友達や家族がいればいい、って平気で言うし。


 まあ、いい所ではあるんだが……もう少し、欲深くなってもいいと思うんだけどな、あいつは。


「こいつらみたいに、とは言わんが」


 またも特攻を仕掛けてくるブライズに、裏拳で消滅させる。


 聖属性ってのは、マジで便利だな。こういう相手には。


 絶対的な優位性を持っている。


 これが無かったら、ちょっとは苦戦したかもな。まあ、関係ないが。



 例のブライズの王の所に向かって歩くが、なかなかたどり着かない。日も沈む、もう夜になってきている。


 仕方ないんで、『アイテムボックス』の中からテントを取り出し、野営の準備をし始めた。


 一日で終わらせたかったんだがな。


 のんびりしすぎたか。


 明日は、思いっきり走るとしよう。


「まあ、それはそれとして……こうも、瘴気が充満していると、食べ物とか大丈夫か? さすがに、腐りそうで怖いんだが」


 そんな心配が、あたしを襲った。


 いやまあ、別にあたしはかなり人間から外れてるんで、最長一ヶ月くらいは飲み食いしなくても問題はないが、明日戦闘することも考えると、ちょっとなぁ。


 それでも、三週間は持つだろうが。


 しかし、美味い物ってのは、なんかこう……頑張るという原動力になるんだよな。


 大丈夫ならいいんだが。


「……お、無事だ」


 試しに、持ってきた食料を取り出したら、腐り落ちたり、毒物になることはなかった。


 一応、鑑定したが問題はないらしい。


 だが、長時間放置ってのはまずいな。


 持ってきたのが、イオの弁当でよかったぞ。


「そんじゃま、いただきます」


 あいつ、ほんとできた弟子だなぁ、まったく。


 弁当まで作ってくれるとは。


 美味い。普通に美味い。


 やっぱり、イオの手料理は美味いな……。


 どんな高級料理よりも、圧倒的だ。安心する何かがある。あいつの料理が、あたしは一番好きだ。


 弁当と言えば、普通は冷凍食品を入れる場合の方が多いらしいんだが、イオはそんなことはせず、全部自分で作るそうだ。というか、あいつの弁当って、一度も冷凍食品が入っていたことがないんだよな。


 手間がかかるはずなんだが、すごいものだ。


 一応、それが気になって、理由を訊いたら、


『え? だって、師匠や父さんたちには、美味しいものを食べてほしいですからね。ボクが作るくらい、手間でも何でもないですよ。楽しいですし』


 だそうだ。


 マジで、いい嫁になる気がするんだが、あいつ。


 例えば、あたしがミスって水をこぼした時、


『あ、大丈夫ですか? ちょっと待ってくださいね、すぐ拭きます』


 って言って、どこからともなくタオルを取り出して、すぐに濡れたところを拭いてきたり、帰り際雨が降った時なんて、


『おかえりなさい。お風呂沸いてますから、体を温めてきてくださいね。着替えも用意してありますから』


 とか言って、準備万端だったし。


 あいつの嫁力すごいんだが。正直、一家に一人欲しいくらいに、あいついいんだが。


 もし、あたしが男だったら即座にプロポーズするくらい、あいつが欲しい。


 いや、前提条件として、あたしが男だったら、何て言うのはおかしいんだがな。あいつ、元男だし。

 元男であれはやばくね?


 毎度毎度毎度思っているが、あいつほど女が似合う男もいなかったぞ。

 むしろなぜ、最初が男で生まれてきたのかがわからん。


 面白いものだ。


「さて、飯も食ったし、さっさと寝るかね」


 美味い弁当も完食したので、あたしはさっさと寝ることにした。



 そして、翌日。


 相変わらず、世界は荒廃している。


 こうも殺風景だと、精神的にくるものがあるな。


 魔の世界にも、荒れ果てた土地もあったにはあったが、ここほどではない。


 というか、あってもほんとに砂漠程度だしな。


 瘴気が満ちていたり、建物や乗り物のような物が散乱していることもなかったし。てか、向こうはそういう砂漠の国だったりするしな。根本的に違う。


 だが、ここは完全に死んでいる世界だ。


 何もない。


 あるのは、建物だった何かに、乗り物だった何か。そして、生物だった何か――ブライズだけだ。


 相変わらず、あいつらは特攻を仕掛けてくる。


 どうやら、仲間を増やそうとしているようだな。

 まあ、その辺りはあの手記に書かれていたんで、わかりきっているがな。


 しかし、なぜ仲間を増やそうとするのかね?


 その辺りの理由がわからん。


 喋ることもできない奴らだ。


 意思疎通を図るにしても、不可能だろうな。


 ……いや、そう言えば、体育祭の時、イオが対峙した奴は、なんか言葉を発したとか言ってたな。


 もしかすると、個体によっては会話が可能、なのか?

 だとすりゃ、そう言う奴を探したいところではあるが……


「難しいな。正直」


 外見はほぼ同じなんだ。その中から、意思疎通が図れる奴らを探すとか、無理だな。絶対に無理。

 広大な砂漠の中から、一粒の米を探すのと同レベルで無理。


「さて、どうしたものか……」


 できれば、本以外からも情報を得たいところ。


 一応、落ちている本を見て、情報を収集できるだけ、色々としてみたんだが、得られる情報はそうなかった。


 この世界が地球であること。


 そして、崩壊するきっかけとなった戦争は、第三次世界大戦と呼ばれていること。これだけだ。


 あとは、普通の情報しかない。


 この世界に関する情報は、やはりあの手記にしか書かれていなかったのだ。


 ……まあ、出版物なんで、重要な情報なんざそうそうないだろうな。あれは、あの手記の持ち主だったからこそ、真実にたどり着いた。


 正直、あの手記の名前を見た時、何とも言えない気持ちになったよ。


 最悪の世界だぞ、まったく。


 それはそうと、情報はないだろうか……。


 一応、エイコへのお土産として、この世界のデータは収集しているんだが、本当にそれだけだ。


 空間歪曲のパターンやら、世界の環境やら色々。


 あたし的には、こっちの世界の魔の世界がどうなっているか知りたいところだ。


 あたしやイオの存在があるのかどうか、だな。


 少なくとも、あたしがいれば、どうにかできたんじゃないか、と思える惨状。


 だが、どうにもならなかったことを考えると、あたしはいないんじゃないか、ということになるんだがな。


 イオはイオで、いるのかどうかあれだし……。


 いや、あの手記を見る限りだと、この世界にイオがいたとして、そいつは魔の世界に行ってないことになるな。


 まあ、召喚によって向こうに呼び出されたのなら、話は別だがな。

 その辺がわかればいいんだが……難しそうだ。


「にしても、ボス遠くね?」


 走っても走っても、なかなか到達しない。


 結構な速度で走っているんだが、一向に到着する気がしない。


 正直ちょっと面倒。


 だが、決して近づいていないわけじゃない。この調子で行けば、今日の夕方くらいには着くんじゃないかね?


 明日の朝までには、向こうの世界に戻りたいんで、最悪の場合は『感覚移動』と『千里眼』そして、『空間転移』のトリプルコンボを使って、移動するしかないな。


 あえてしないのは、これを修行だと思っているからだ。


 いついかなる時も、楽はせず、常に自信を強化するつもりで動く、ってわけだ。


 ……まあ、楽なのが一番なんだけどな。


 だが、最悪の事態は常に想定するのが、一流の暗殺者というものだ。


 てか、師匠であるあたしが楽なんてしてたら、あいつに示しがつかん。


 だから、トリプルコンボは最終手段だ。


「もうちょい、ギアを上げるかね」


 それはそれとして、この調子ではたどり着かないと悟ったあたしは、ギアを上げて走ることにした。



 そうして走ること、二時間程度。異変が起きた。


「ん? またブライズか……ったく、性懲りもなく特攻を――」

『……き、いて、ください』

「……ん?」


 特攻を仕掛けようとしたブライズを浄化しようと、腕を振り上げた時、突如、そのブライズが言葉を発したのだ。


「おい、お前は……言葉が理解できるのか?」

『はい……理解、できます』


 マジか。言葉が話せる奴はいるだろうと思っていたが、まさか本当にいるとは……それに、敵意がない。


「お前は、誰だ?」

『わ、私、は、元人間です』

「ほう、それで? お前自身は一体、誰だったんだ?」

『……わかり、ません。何かの研究を、していたことは、たしか、です』

「……なるほど。じゃあ、名前は?」

『名前は……叡子、だったはずです』

「…………わかった。どうして、あたしに話かけてきたんだ?」

『あなたに、この世界を終わらせてほしいです』


 叡子と名乗るブライズは、あたしにそう頼んできた。

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