第88話 やらかし学園長

 それから、時間は進んで、一週間後。


 体育祭の練習はどこのクラスも順調で、ボクのクラスも例外ではない。

 応援の練習もあったけど……すっごくシュールでした。

 応援の衣装、ね。何考えたんだろ、ボク。

 明らかにあれはおかしい。そもそも、かぼちゃパンツって……。

 学園祭でも何でもない、体育祭の応援衣装だというのに、なぜ、あのおかしなチョイスをしてしまったんだろう。

 その結果、練習中における、晶以外の男子の人たちは……笑われてました。

 なんかもう……本当に申し訳ないと思ってます。


 この一週間だけでも、色々ありました。

 さっきの、応援の件もそうだけど、一番大きかった出来事は、やっぱり……晶と態徒の件かな。


 先週のあれです。

 あの後、どういうわけか腐女子の人が大連鎖的に増えていき、気が付けば、程度の差はあれど、好きか嫌いかで言ったら、好き、と言う女の子が増えた。

 学年すらも関係なく、今だと……学園に通う女の子の八割方が腐女子になっているそうです。


 ちなみに、残りの二割くらいの人は、単純によくわからない、とのことらしいです。

 それと、八割方の人たちの半数近くが、その……同性愛だったんですが。

 この学園の恋愛観ってどうなってるんだろう?

 もしかして、学園長先生が意図的に入学させたりしているんじゃないか、と疑うようにもなりました。

 だって、あの人もそっちの人っぽいですし……。

 女委は……両方だから、何とも言えない。


 ともあれ、同性愛者が増えてしまった。

 ただ、それは元々そうだったのか、BLに嵌ってしまったことで覚醒してしまったのか、それがどっちかはわからないけど。


 ただ、確実にあの一件が原因の一つで間違いないと思う。


 後は……女委かな。

 あの後、女委は、


『よっしゃああああああああ! 妄想が! アイデアが! インスピレーションが沸いてくるぅうううううううううううっっ!』


 って言いながら、授業中にもかかわらず、同人誌を書いていた。

 そして、それが学園中に出回り、増えた、と言うわけです。

 ……大丈夫? この学園。


 そんなこんなで、色々と問題はあるものの、順調……に進んでいます。

 この一週間の間に、体が縮む、なんてことはなくて、ちょっとほっとしています。もしかして、もう小さくならないのかな?

 ……なんて、まあないよね。多分、その内また小さくなると思うし。

 そんな一週間経った今日、いつも通りに練習して、一日の授業全てが終了し、放課後。

 ボクは、なぜか学園長先生から呼び出しを受け、学園長室に来ていた。


「さて、依桜君。君に来てもらったのはほかでもない。ちょっと気になることが最近頻発しているの」

「気になること、ですか?」

「ああ。えーっと、君は最近ニュースを見ているかしら?」

「まあ、一応……」


 と言うより、ほとんどニュースしか見ないんだけどね。


「そこで、何か気になる話題とかなかったかしら?」

「気になる話題、ですか。うーん……」


 今までのニュースの内容を思い返す。


 少なくとも、首相が変わったのも、気になると言えば気になるけど、それじゃないよね。わざわざそれだけを聞くだなんて。

 それに、ボクを呼び出す理由と言えば、大抵は異世界関連だし……。

 それが関係してそうな話題……。


 ……あ、そう言えば、ニュースだけじゃなくて、ネットでも話題になった記事があったっけ。

 よくある掲示板サイトとか、ネットニュースとか、動画サイトとか。

 たしか……話題になっている話って言うのは、


「聞いたことも、見たこともない言語を扱う人が、世界各地で見つかっている、っていうあれですか?」

「そうそう。よく見てるねぇ。あれ、結構小さい話題だったんだけど」


 学園長先生の言う通り、この話題は、そこまで大きいわけじゃなくて、ニュースで言ったら、二、三分くらいのもの。

 インターネットで調べてみても、話題の規模は小さかった。


 世界各地で見つかっている、と言ったけど、実際はそこまで見つかっているわけじゃなくて、確認されているのは、十人にも満たないらしい。


 世界には、まだ未踏破な場所がなくもないわけだし、そこに住んでいる部族の人の言語っていう考えもあるにはあるんだけど、それはすぐに否定されている。

 と言うのも、世界各地で見つかっている、と言う点もそうだけど、一番大きいのは、その服装。

 実際、未踏破な場所と言えば、ジャングルのような場所を思い浮かべるけど、明らかにそこに住んでいるような人が来ている服ではなかった。

 うーん、なんて言えばいいかな。ちょっと時代の差は感じるけど、限りなく現代の衣服に近いデザインだった。


 だから、確認されている人数が少なくても、こんな風にニュースで取り上げられたり、インターネット上でも、少なからず話題に上っていたりするんだけど。


「それで、その話題が何か?」

「そうそう。少なくとも、依桜君が知っているとしても、衣服の話まででしょ?」

「そうですね。誰も知らない言語を使っているのに、衣服は時代の差はあっても、普通って感じの人だって」

「うんうん。しっかり調べてて偉いわよー」


 偉い、のかな?

 でも、下手な番組よりも面白いとは思ってるかも。

 色々とためになることもあるし。


「じゃあ、本題に行きましょう。実を言うと各地で見つかっている人たちって、人種のようなものがバラバラなの」

「バラバラ、ですか」


 それはちょっと不思議。

 同じ言語を話すはずなのに、容姿が違うなんて。


「この件に関して、ちょっと困ったことになっててね」

「えっと、話が通じないから、ですか?」

「そ。そもそも、誰も知らない言語、と言うのが問題なの。言語について研究している人が、私の知り合いにいるの。その人は、どんなにマイナーな言語でも知っていてね。少なくとも、今現在確認されている言語はすべて網羅しているわ」

「す、すごいですね」


 たしか、数千以上あったはずだけど……。

 それに、数えるのはほとんど不可能って話だし……天才なのかな?


「でもね、その人ですら全く聞いたこともない上に、どの言語にも共通点のようなものが皆無だったのよ」

「え、じゃあ……」

「少なくとも、地球上にある言語ではないかもね」

「……学園長先生は、異世界の人、って言う線で考えているんですか?」

「そうね。何せ、知らない言語。一風変わった服装。それに、衣服の方も気になるのよ」

「衣服?」

「あんまり公にできないから、例によって秘密で頼むわ。その人たちが来ていた衣服、明らかに現代で使われている材質とは異なっていたのよ」

「どんな感じなんですか?」

「そうね……触り心地はすごくいいんだけど、絹とかじゃないのよ。不思議な手触りと言うか……」

「絹じゃない、ですか」


 ……なんだろう。ちょっと覚えがあるような……。


「で、一人だけ何とか衣服を交換することに成功して調べたらしいのよ、衣服に使われている素材」


 言語も通じていないはずなのに、すごいなぁ。

 身振り手振りでどうにかしたのかも。


「そしたら、全くもって解らなかったの」

「じゃあつまり……」

「まだ一概には言えないけど、異世界の人である可能性が一番高い」

「ど、どうやってこっちの世界に?」


 まだ分かっていないと思うけど、訊かずにはいられなかった。

 てっきり、まだ分からない、みたいなことを言うのかと思ったら、学園長先生が気まずそうな表情を浮かべて、


「私の研究が原因、かも」

「……え?」


 なんて言ってきた。


「えっと、もしかして……」

「そうよ。異世界に関する研究」

「な、なにしてるんですかぁあああああああああああああっっ!」


 異世界の人とばっちりだよね!? どう考えても、すべての元凶この人だよね!?


「おそらく、つい最近、依桜君が異世界に行ったのが止めになったかも」

「……ということは、ボクが強制異世界転移をした時の時点で、ちょっと危うかったってことですか?」

「そうよ」

「確認とか、しなかったんですか?」

「一応は確認はしてたわよ。でも、かなり変化が微々たるものでね。『あれ? ここの数値ちょっとおかしいな。……まいっか!』みたいな」

「ちゃんと調べてくださいよ!」


 適当過ぎませんか、この人!?

 研究者って、そう言うことはちゃんと調べるものだと思うんだけど、ボクの幻想なの? ボクがおかしいの?


「……それで、結局なんでこんなことに?」

「そうねぇ……。あくまでも仮説なんだけど……この世界には、どこにでも異世界へと通じる扉のようなものがある、って言ったわよね?」

「はい。空間歪曲でしたっけ?」

「そうそう。この空間歪曲自体は、おそらくどの世界にもあると思うの。じゃなきゃ、異世界へ行く、なんて無理だもの。それで、私が作ったあの装置。最初は、ランダムで異世界へ行くものだったでしょ?」

「そうですね。たしか、無理矢理やると死んじゃうからって言う理由で」


 まあ、成功したらしたで、死ぬ可能性があるんだけどね。

 ボクなんて、何度も死に目に遭っていたわけだもん。


「その通り。で、次に完成したのが、誰でも異世界に行ける装置。あれも、ある意味では強制的に行けるようにしているけど、あれは、徐々に徐々に大きくしていって、それで異世界へ行くのよ」

「でも、それだと死んじゃうと思うんですけど……」

「そうでもないわよ。あくまでも自然に、大きくしているだけだから。最初の装置は、無理矢理穴を大きくするからダメだったのよ。言ってしまえば、ゴムね。いきなり伸ばしたら切れるけど、ゆっくり少しずつ伸ばせば、切れることはあっても、ほとんど伸びた状態になるでしょ? そう言うこと」

「な、なるほど」


 例えが微妙な気がするけど、なんとなく理解はできた。

 あとは、毒物でも同じ例えが利くかも。

 致死量を摂取すればすぐに死んでしまうけど、物によっては少しずつ摂取して、どんどん飲む量を増やしていけば、体が慣れて一度に致死量を摂取しても死ななくなるって言う。


「で、異世界へ行くとき、当然そっちも穴が発生するわけ。前回、前々回と穴を作ったことによって、発生しやすくなってしまったのかもしれないのよね」

「でも、穴はすぐに修正されるって……」

「それはあくまでも、この世界では、ね。ほかの世界がこの世界と同じとは限らないもの。もしかすると、向こうも向こうで、異世界へと繋げることができるんじゃないかしら?」


 ……あー、なるほど。

 つまり、こっちの世界から向こうに干渉して、あっちの世界も、こっちに干渉した結果、穴が繋がりやすくなって、今の事態になっている、と。

 ……ボクを向こうの世界に行く原因になった二つだよね。

 ……王様ぁ。

 そう言えばボク、学園長先生に異世界人を召喚する魔法があることを言ってなかったんだっけ。


「学園長先生、ありますよ、繋げる方法」

「あ、ほんと? ……となるとやっぱり、依桜君が言った世界の住人の可能性が高いわね」

「でも、それが本当に、向こうの人かわかりませんよ? だって、ここにはいないわけですし」

「あ、一人いるのよ、実は」

「い、いるんですか!?」

「昨日保護してね。……まあ、ものすごく威圧されたけど」

「威圧って……すごい人が来たんですね」


 あっちの世界の人って、少なくともこの世界の人よりも強かったりするし……生死にかかわる出来事が多かったからね。


「問題なのは、こっちのボディーガード全員が一瞬で倒されたことよ」

「ええ!?」


 絶対その人、一般人じゃないよね。

 学園長先生のボディーガードの人って、結構強かった記憶があるんだけど。

 少なくとも、プロボクサーとかよりも。

 そんな人たちが、五人くらい。

 そんな人を一瞬で倒せるということは、冒険者の人とか、騎士団の人なんだけど……。


「どんな格好でした?」

「そうね。黒いローブのようなものを着ていてね。今もそれを着たままで、顔が見えないのよね」

「ローブ、ですか」


 向こうの世界でローブを着るような職業は、魔法使いとか付与術師とか、暗殺者くらい。

 となると、考えられる職業はその三つ……。


「多分、女性ね」

「どうして女性だと?」

「声よ。何を言っているかは分からなかったからあれだけど、綺麗な女性の声だったわよ。それも、二十代前半くらいかしらね?」

「そんな人が、ボディーガードを。ほかに特徴は?」

「そうね……身長は高めだったわ」

「……」


 なんだろう。

 ちょっと聞き覚えのある特徴しかないんだけど……。


 まず、かなり強い(こっちの世界基準だけど)ボディーガード数人をたった一人で全滅して、黒いローブを着ていて、女性で、二十代前半くらいの声で、身長が高め。

 ……ボクの脳裏には今、あの理不尽な人の顔が思い浮かんでいるんだけど。

 ま、まさか、ね?


「依桜君。一つ聞きたいんだけど、いい?」

「なんですか?」

「異世界へ行ってからの依桜君の英語と古典系の成績が上がっているんだけど、どうして?」


 そう言えば、それも言ってなかった。


「実は、向こうに行く途中で貰ったスキルに『言語理解』って言うのがありまして」

「効果は?」

「すべての言語が理解できるだけの能力ですよ」

「だ、だけって……それ、結構すごい能力じゃないの?」

「……向こうでは、言葉がわかるだけで、それ以外には何の恩恵もなかったんです。まあ、帰ってきてからは、外国人の人に道を尋ねられてもすぐに答えられて楽ですけど」


 向こうだと、言語は二種類くらいしかなかったからね。

 ほかにあったとしても、古代言語とかだし。


「……つまり、依桜君なら、誰もわからない言語を理解できると?」

「そうですね」

「なら依桜君。早速、私が保護した人に会ってもらえないかしら?」

「いいですよ。ボクとしても、ほっとけないですし」

「ありがとう! じゃあ早速行こう! 実は、会社の方に今は住んでもらってるのよ!」

「あ、そうなんですね」


 あまり人目に付かない場所のほうがいいと判断したからかな。

 あそこなら、結構セキュリティは厳重だし、寝れる場所はあるからね。


「そうと決まれば、行くよ!」

「い、いきなり手を引っ張らないでくださいよぉ!」


 と言うわけで、急遽学園長先生の会社に行くことになった。



 数十分ほどで到着し、以前来たあの場所へ。

 学園長先生が言うには、仮眠室にいてもらっているとのこと。


「さあ、依桜君。入るよ」

「は、はい」


 扉の前に着き、ボクは少しドキドキしてきた。

 ……ボクの予想が会っていれば、この扉の向こうにいるのは……十中八九あの人。

 覚悟を決めよう。


「すぅー……はぁー……い、いいですよ」

「了解。それじゃあ……失礼しまーす」


 すごく軽いノリで学園長先生が中に入り、それに続くようにボクも仮眠室に入った。

 そして、そこのベッドにいたのは、


『ん? おー! イオじゃないか! いやあ、ようやく言葉が通じるやつに会えたぞ!』


 ……予想通り、ボクの師匠、ミオ・ヴェリルその人でした。

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