第280話 五月五日:異世界旅行4
道中、盗賊……になりかけた人たちを助け、しばらく歩くと、ようやく目的地である、フーレラ村に到着。
ここは、王都ジェンパールに一番近い村で、農作物が豊富に採れる場所。
『おやおや、お客さんかな? ようこそ、フーレラ村へ』
村に入ると、一人のおじいさんがボクに歓迎の言葉を言ってきた。
『お若いお嬢さんだ。して、この村に何用かな?』
「あ、今歩いて旅行をしていまして……王都から来たんですよ」
『ジェンパールからかい。なるほどのぅ……どこか気品があるようだし、もしや、貴族様かい?』
き、気品って……。
ボクにそんなものは無いと思うんだけど。
まあ、貴族と言えば貴族……になるのかな? 一応、王族だし……。
と言っても、ここでは、男女依桜じゃなくて、雪白桜だからね。別人です。
「い、いえ。普通の一般人、ですよ。ちょっとだけ強い」
『そうですか。いやぁ、こんな美しいお嬢さんが村に来てくれるとは、ありがたい限りです。どうぞ、ゆっくりしていってください。困ったことがあれば、村長であるわしに言って頂ければ』
「ありがとうございます」
村長さんだった。
……あ、言われてみれば、たしかに。
戦時中の時は、なんというか……ちょっと痩せちゃって、顔色が悪かったけど、今はそんなことはなくて、健康そう。
こう言うのを見ていると、平和になったんだなーって。
でも、なんだかちょっと違和感が。
何かを隠しているような、そんな感じがする。
別に、邪な感情や、何か悪だくみしているような雰囲気などはないので、多分……何かを隠そうとしてる、とか?
まあ、向こうから言わない限りは、こっちから手を出すと色々とこじれかねないから、手を出さないけどね。
とりあえず、村の宿屋の位置を教えてもらって、そこに宿泊。
設備的には、王都には劣るけど、なんだか実家のような安心感、っていうのかな? そう言うのがあって、すごく落ち着く。
特に、お城の生活を知っている身からすると、余計に。
……まあ、元が一般人というか、普通の男子高校生だったわけだから、こういう感じの部屋の方が落ち着くんだよね。なんと言うか……庶民だもん、ボク。
最近、全然庶民じゃなくって来てるんだけどね……。
まず一つ、こっちでは女王。
もう一つ、元の世界では、貯金が一億近くあること。
……うん。ぜんっぜん平民でも庶民でもないね。どうしようかな、これ。
いや、ボクの場合すべてが今更なので、考えても仕方ないし、そうなってしまったものは仕方がないしね……。
向こうのボクも、同じように思ってそう。
『いやぁ、なかなかのどかな村でいいですねぇ』
「そうだね」
『でも、あの村長さん、な~んか隠してそうでしたよねぇ』
「あ、アイちゃんもそう思った?」
『はい。なんと言うか、こっちは絶対に巻き込まないぞ! という、妙な決意があったような気がします』
「巻き込まない、か……」
『何か心当たりがあるんですか?』
「うーん、そう言えばこの辺りって、とある貴族が治める村でもあったんだけど、あんまりいい噂を聞かなかったなぁって」
『ほほう、異世界名物、悪徳領主ってやつですね! なぜか、みんな馬鹿って言う……』
「あ、あはは……たしかに、そうだけど」
でも、嫌な名物だよね、それ。
……まあ、さすがに、ボクが関わるような事態はないよね! うん。
『おや? なんだか今、フラグが立ったような気がしたんですが……イオ様。もしや、『ボクが関わるような事態はないよね!』とか思いませんでした?』
「ドキッ!」
『……したんですね? イオ様、こういう時に限って、そうやって言うのは、確実にフラグですよ? 特に、巻き込まれ系主人公がよくやるミスですね! 自分は関わらない、関係ない、とか思っていると、それが現実化してしまうのです』
「そ、そうなんだね」
『おや、イオ様はあまりラノベとかマンガを読まない?』
「い、一応読んだりはするよ? 嫌いじゃないし……」
大抵、女委や態徒が勧めてきて、それを借りる、というパターンだけど。
たまに、未果からも借りたりするね。
『ふむふむ。ならばイオ様は、異世界系の……それも、巻き込まれ系主人公の作品を読んだ方がいいですよ。やってはいけないルールみたいなのが書かれてますぜ』
「う、うん。そうだね。女委辺りに借りてみようかな……」
……なぜか、妙に説得力があったし。
帰ったら、女委に借りてみよう。
と、そんな風に思った直後のことでした。
『す、すみません! こ、これ以上は……これ以上は村の者たちが死んでしまいます!』
『うるさい! 我々に逆らう気か!』
『め、滅相もございません! で、ですが、私たちにも生活というものが……』
『知るか! 自分たちでどうにかしろ!』
『ぐはぁっ……!』
……すごく、嫌な会話が聴こえてきてしまった。
その声を聴いた直後、ボクは宿屋から飛び出していました。
その時、
『フラグ回収ですね』
という、アイちゃんの声が聞こえてきたけど、無視しました。
外に出てくると、村長さんが地面に倒れていて、それを支えるようにしている村人の人たちの姿が。
「どうしたんですか!?」
ボクは慌てて村長さんの所に近寄る。
『は、はは……お恥ずかしい、姿をお見せしました……』
「ちょっと待ってください。……『ヒール』」
話を聞くよりも、怪我の治療が先だと思い、村長さんに『ヒール』をかける。
怪我は、打撲と擦り傷、それから、腕にひびが入っていた。
ボクの場合は、『ヒール』だけで事足りるのが幸いだった。
『お、おぉ……回復魔法が使えるとは……ありがとう、お嬢さん』
「いえ。それより、一体何が……?」
『この件に、部外者であるお嬢さんを巻き込むわけには……』
「聞かせてください。もしかしたら、力になれるかもしれませんし……」
『だが……』
「大丈夫です。こう見えてボク、結構強いんですよ?」
と、冗談めかして言うと、村長さんは一瞬目を伏せ、意を決したように話し始めた。
簡単に要約するこう。
戦時中までは、人が好い領主さんだったみたいなんだけど、戦争が終結間際に、どうやらその領主さんが死んでしまったみたいです。
そのあと、新しく別の人が領主になったそうなんだけど、その人は戦争で活躍して、貴族になった人のようで、その人が傍若無人に振舞うのだとか。
その上、徴税と称して、お金や食料をほとんど奪って行ってしまって、村は若干困窮状態にあり、暮らしが大変だそう。
村長さんに会った時、血色がよかったのは、こっそり隠していた食料を切り詰め、ある程度健康的にはいられる量があったのと、化粧などで誤魔化しているから、なのだとか。
この隠していた食料は、村の人たちにも分け与えていたらしいです。
子供は宝、そういう精神で分け与えていたとか。
……旅行を始めた日に、いきなりこういう事態に巻き込まれるなんて……自分の体質が恨めしい……。
でも、それとこれとは別。
何とかしてあげたいところ。
「えっと、その貴族って、爵位はどれくらいですか?」
『伯爵です……』
「伯爵ですか……」
うーん、地味に高いのがなんとも……。
公爵を抜いた場合、二番目に高いんだよね、あれ。
……まあ、ボクのコネというコネを使えばどうとでもなるけど……そういうのって、どうも好きじゃないんだよなぁ……。
いや、一つの手段に対して好きも嫌いもないんだけど。
王様に言っても、少し時間がかかりそうだし、ボクが直接乗り込んで、証拠を集めた方が、速いし確実なんだよね……。
うーん……。
「えっと、その伯爵さんの名前は?」
『バリガン伯爵です』
「ありがとうございます。それで、そのバリガン伯爵が住んでいる場所って、どっちに行けば?」
『えっと、ここから南西に真っ直ぐです……』
「わかりました」
『お嬢さん、一体どうするつもりですか?』
「いえ、ちょっとお仕置きが必要かなと」
『な、何を言っているのですか!? 相手は貴族! 伯爵ですよ!? ちょっと強いからと言っても、権力には……』
「大丈夫です。権力には、権力で返しますし、それに……ボクがお仕置きするのではなく、王様――国王がしてくれるはずですから」
『お、お嬢さん、一体何を言って……』
「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」
『あ、ちょっと!』
村長さんの制止を聞かずに、ボクはそのままバリガン伯爵の住んでいる場所に向かって走り出した。
『村長、あの少女、どこかで見たような気がするのですが……』
『ああ、君もか。実はわしもでな……。なんというか、以前助けられたあの少年に似ている気がしてな……』
『ああ、勇者イオ様ですね。言われてみれば顔はそっくりでしたね。ですが、あの方は黒髪黒目ではなく、銀髪碧眼という唯一無二の姿でしたよ?』
『うむ……。しかし、あの時の少年は暗殺者が職業だと言っていた。たしか、『変装』や『変色』と言った能力とスキルがあれば、変えることは可能だが……』
『では、村長は、あの者がイオ様だと?』
『……しかし、まあ、性別が違うはずだ。きっと、気のせいだろう』
『まったく、イオ様はお人好しですね』
村長さんからある程度の情報を得た後、ボクはすぐさまバリガン伯爵の住む場所へ向かって、草原を疾駆していた。
その途中、アイちゃんが呆れたようにそう言ってきた。
「あ、あはは……なんというか、知ってしまった以上、見過ごせなくてね……」
『ふっ、こういう人って、結局損をするんですよねぇ。特に報酬ももらわず、得られるのは感謝だけでいいという』
「だ、だって、そこまですごいことはしていないのに、何かをもらうっていうのは……」
『あー、そこからダメでしたか……まあ、イオ様らしくて、いいと思いますけどね、私は』
うーん、微妙にアイちゃんの言っていることがわからない。
まあ、いいけどね。
そんなわけで、しばらく草原を走っていると、一つの街が見えた。
どうやら、あそこがそうみたいだね。
場所がわかると、ボクは一度近くの森に隠れて、着替えを行った。
『おっほぉ! 美少女の生着替えシーン! これは、是非とも写真に収め、未果さんたちにお送りせねば!』
「やめてください!」
……本当、何をしているんだろうね、このAIは。
着替えを終え、準備万端。
現在のボクの服装は、暗殺者時代に使用していた、まあ、ボクの中での最強装備というやつです。
詳細については……まあ、以前話したし省略で。
それに、能力自体もほとんど変わらないしね。
違う点があるとすれば、《ハイディング》のスキルは、触られたりしない限りは、基本的にバレない。
割とチートに近いスキル。
まあ、師匠が用意したものだし、不思議じゃないけどね……。
それに、このスキルは、使用者の適正もあるから、その人に適性がないとそこまで強い効果にはならない。
暗殺者が一番適性が高い上に、ボクはその辺りの適性がかなり高かったから、かなりの性能になっているだけで合って、ヴェルガさんとかが身に着けても、大した性能にはならなくて、すぐに見破られるのがオチだからね。
生成魔法を補助してくれる、グローブは本当にありがたいし、走りやすくしてくれるブーツも嬉しい存在。
お仕事する上で、一番しっくりくる衣装だよ。
もう着ることはないと思ってたんだけど、割と早く使うことになるとは思わなかったけどね。
着替え終えたボクはと言えば、すぐさま街へ移動。
高さ十メートル近い壁があったけど、『壁面走行』のスキルで壁を駆け上る。
壁の上に立ち、街を見渡すと……
『あらあら、これはまた……ひっどい光景ですねぇ』
「……そうだね」
ボクの目の前にあるのは、何と言うか……本当に酷い光景だった。
まず、あれは……奴隷、なのかな?
それらしき人たちが、いかにもお金を持っています、という様子の人たちに虐げられている。
中には、幼い子供もいるし、それに、女の人、老人だっている。
たしか、奴隷は基本禁止にされていたはず……。許されるのは、犯罪を犯した人たちだけで、それ以外の人たちは、絶対に奴隷にしてはいけないという法律があった。
しかし、どう見ても奴隷にさせられている人たちは、普通の人たち。とてもじゃないけど、犯罪を犯した人たちには見えない。
そんな人たちが、虐げられている姿を見て、ボクの中に怒りが込み上げてきた。
『正直、お人好し、とはイオ様に言いましたが、この件に関しては、お人好しどうこう以前に、見ていて気持ちのいい物じゃないですね。こういうのは、さっさと元締めを倒すに限ります』
「……うん」
『にしても、まさか異世界系ラノベあるあるが目の前に繰り広げられているとは……これ、テンプレ的なあれだったら、きっと領主は馬鹿ですよ。多分ですけど、侵入したイオ様がド正論と証拠を突きつけたら、すぐに『であえ! であえ!』とか言って、兵を呼び出してイオ様を捕まえようとしてくるでしょうね』
「……本当に詳しいね、アイちゃん」
『イオ様が来るまでの五日間は暇だったので』
「そ、そうですか」
『それで、このクソ街にイオ様よりも強い人はいますか?』
「うーんと……いない、かな。結構強い人もいるけど、魔族の四天王の人たちや、先代魔王に比べたら全然……」
『そりゃそうでしょうよ』
で、ですよね。
あの人たちと比べたら、大抵の人は弱いもんね……。
まあ、そんな人たちでも、師匠からすればかなり弱いわけで……本当、あの人ってどうなってるんだろう?
『でもあれですね、自分より強い人がいないって発言、ネットではイキってるって言われかねないセリフですよねー』
「……そういうことを言ってる場合じゃないよ、アイちゃん」
『まあ、それもそうですね。それで、どうやって証拠を? 正直、難しいと思うんですがねぇ。こういう世界って、記録媒体とかほぼないじゃないですか? あったとしても、すっごい高価だったりしますし』
「うん。そうだけど……だからこその、アイちゃんでしょ?」
『ああ、なるほど。つまり、私がスマホを操作して、カメラを起動して、様子を撮る、と。ふむふむ。まあ、異世界人だからこそできるチートですね。ほんと、そう言うのって卑怯ですよねぇ、敵からしたら』
たしかに、この世界に記録媒体はあっても、アイちゃんが言うように、かなり高額だからね。ボクでも手を出しにくい。だけど、ボクには元の世界のものがあるしね。まあ、最悪の場合、『アイテムボックス』を使えばいいだけだもんね。
「そうかもしれないけど、手っ取り早く助けるには、これが一番いいから。それに……こんな光景を見た後だもん。遠回りしたら、その分だけ虐げられることになっちゃうから。さっさと、片付けたいの」
『ふむ。効率重視って感じですね、イオ様』
「師匠が師匠だからね。『手段は選ぶな。自身の持てるすべてを使って、最速で達成しろ』って、いつも言われてたから」
暗殺者としての大事な要素、って師匠には言われてたなぁ。
暗殺者たるもの、迅速に、ってね。
これが別に、虐げられていたり、村が困るような事態になっていなかったら別にある程度ゆっくりでもよかったんだけど、色々と知ってしまったら、そうも言ってられない。
なら、少しでも早く、助けてあげたい。
『まあ、こういう時の領主って言うのは、記録媒体がないと思って、ペラペラ喋ってくれますからねぇ。まあ、期待していいと思いますよ。そもそも、もしあくどいことをするのなら、証拠は残しちゃいけませんよ。この場合、あの村がそれに該当しますかねぇ』
「そうだね。……でも、油断は禁物。いくら相手が格下とわかっていても、何が起こるかわからないし。こういうのは、油断すると足元をすくわれるからね」
『ですね。それじゃあ、そろそろ侵入しましょう!』
「うん、行こう」
そう言って、ボクは『身体強化』を使用して、一気に屋敷まで跳躍した。
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