第174話 ゲーム初日の裏事情(学園長の)

 ログアウトした後のこと。

 ボクは、学園長先生に電話をかけていた。


「あ、もしもし、学園長先生ですか?」

『そうよー。えーっと、こんな夜にどうしたの、依桜君』


 スマホから聞こえてくる学園長先生の声は、どこか疲れているような気がした。


「えっと、ゲームのことで電話をしたんですけど……今って大丈夫ですか?」

『ええ、大丈夫よ。ふぁあぁぁ……あ、失礼』

「えっと、もしかして、かなり疲れてたりします……?」

『まあ、さすがにサービス開始初日だからねぇ。色々と問題も山積みだし、ちょっとしたトラブルもあったしで……色々とね』

「あー、じゃあ、話すのはやめた方がいいですか……?」

『ああ、いいのいいの。依桜君の声を聴いたら、疲れなんて吹っ飛んだから』

「そ、そうですか」


 ボクの声なんかに、ヒーリング作用なんてないと思うんだけど……。


『それで、何か聞きたいことでもあったの?』

「あ、はい。えっと、とりあえず、気になったことを一度に言ってもいいですか?」

『大丈夫よー。私、こう見えても天才だから』


 ……普通だったら、否定するんだろうけど、異世界転移装置を創ったり、フルダイブ型VRゲームを創ったり、ホログラムを発生させる何かを創ったりしている時点で、正直、天才以外の何物でもないので、否定できない。

 変人と天才は紙一重?


「えーっと、ボクのステータスと、所持金、あとは師匠の家が存在……というより、すっごく見たことがある世界だったんですけど……どういうことなんですか?」

『あー、それね。多分、依桜君も察してると思うけど、あのゲームは、依桜君が行った世界をモデルにして作られたゲームよ。モデルデータを得るためには、ある程度の地形情報が必要だったから、あの一週間に取らせてもらったわ』

「や、やっぱり……」


 じゃあ、あの一週間はもともとゲームを作るために必要だったってこと?

 ……なんだか、釈然としない。


『それから、依桜君のステータスにあるスキルは、全部向こう基準よ』

「……と、と言うことは、ボクが知らないスキルがあったら……?」

『当然、向こうのスキルね』

「どうやって、調べてるんですか? 記憶を探るにしても、ボクの記憶にはないですし、かといって、一週間滞在した時には、何もなかったですよ?」

『実は私、異世界観測装置というものを創ってね』

「な、なんですか、その機械は……?」

『簡単に言えば、向こうの世界を観測するための装置ね。それを使って、ゲームの世界のモデルを形成、AIプログラムによって、モンスターのパラメーターを作成し、どのタイミングで、どういう感じに発生させるか、と言うことができるのよ、あのゲームのサーバーエンジンは』

「……な、なんですかそれ!?」


 ただでさえ、とんでもないものを創っていた人が、さらにとんでもないものを創っちゃってたんだけど!?

 なんで、異世界の情報を入手できちゃってるの!?


『まあ、別に0から創ってもよかったんだけど……ほら、うちの会社って、製薬会社だったでしょ? 一応』

「そ、そうですね」

『さすがに、そっち方面のノウハウもないから、雇うのが難しくてね。だから、異世界の研究技術を用いて、独自のエンジンを創ったの。それが、あのゲームに使用されているサーバーエンジンよ』

「ぜ、全力過ぎませんか……?」


 かなりすごい技術を、かなり無駄なことに使用している気がするのは、なんでだろう?

 本来なら、異世界を調べることができる、っていう世紀の大発明なんて言うのも生温い程の発明品を創っておきながら、娯楽にフル使用しているというのは、研究者的に、いかがなものなんだろう?


『当然。人を楽しませるには、全力でやらないとね。持てる力すべてを使って創る。それが、うちの会社よ』

「そ、そうですか」


 ……もともと、製薬会社、なんだよね?

 何をどう間違えたら、製薬会社が世界初のフルダイブ型VRゲームを創るんだろうか?

 そう言うのは、もっとこう……科学技術の方面に強い人が作っていそうなのに、どうして、一番関係のない会社が創ってるんだろうね……?


『まあ、依桜君がオート作成にしてくれたよかったわよー』

「ど、どうしてですか?」

『だって、依桜君には色々と助けられてたからね。そのお礼、ってことであのステータスになったんだから』

「……個人的には、かなり目立ちそうなんですが」

『そもそも、全国的に広まっているのに、いまさら何言ってるのよー』

「うっ」


 それを言われると何も言い返せない……。

 ボク、テレビで何度も報道されちゃってるせいで、微妙に顔が広まっちゃってるんだよね……。

 普通なボクを映して、何がいいのかわからないけど……。


『ああ、ちなみに。称号と、スキルの習得方法、それから装備品の追加効果に関しては、全部AI作成だから』

「……そ、そうなんですね」


 そこは、自分たちで作った方がいいんじゃないの……?


『ああ、言っておくけど、別に手を抜きたかったわけじゃないわよ?』

「そうなんですか?」

『当然。というか、疲れている原因も、ほとんどそれだしね……』

「一体何を?」

『あのゲームは、たしかに異世界をモデルにしているけど、さすがに全部モデルにした、というわけじゃないのよ』


 という学園長先生のセリフには、ちょっとびっくりした。


『さすがに、AIに任せているのは、向こう原産のもののみ。他は全部、私たち持ちなのよ。だから、フィール上に沸くモンスターについても、パラメーターなどに関してはAI任せだけど、デザインやら能力に関しては、こっちで作ってるからね。あくまでも、数字的な部分しか作らせてないの』

「な、なるほど」

『……まあ、AI作成だから、当然問題も出るわけでね。今日なんて、まだ出す予定のなかったフィールドボスモンスターが出てきちゃってね……』

「……え?」


 今、かなりとんでもないセリフが聞こえてきたような……?


『だから今、あれにキルされたプレイヤーに、デスペナルティで失ったものの補填をしてるのよ』

「……学園長先生、そのボスモンスターって……」

『そ。依桜君……じゃなくて、ユキちゃんか。ユキちゃんが倒したのが、あの草原に、定期的に出現するはずのボスモンスターだったのよね』

「ええええぇぇぇ!?」


 ボクが倒したモンスターが、結構強めな存在だったと知り、夜にもかかわらず、素っ頓狂な声を出してしまった。

 き、近所迷惑になってないかな……?


『だから、あのモンスターは不具合で、たまたま出てきちゃった、ってだけだったりするのよ』

「……な、何してるんですか」

『面目ないわ。……でも、依桜君が倒してくれたおかげで、こちらも修正する時間ができたわ。ありがとう』

「……感謝されているのに、なぜか素直に受け取れない自分がいます」


 ということはあれ、運営側のミス、ってことだよね……?

 それを今回、プレイヤーであるはずのボクが、手助けした、という形になるってことだよね?

 ……う、うーん。なんだか微妙な気分……。


『ちなみに、まだ経験値とか設定してなかったんだけど、予定していた分の経験値が、ユキちゃんに入るから』

「……え!?」

『レベルがちょーーーーっと上がってると思うけど、気にしないでね☆』

「いやいやいや! 何してるんですか!? 別にいらないですよぉ!」

『そうは言っても、ちゃんと自分の力でモンスターを倒しちゃったわけだしね……』

「でも、ステータスとかスキル自体は、学園長先生のおかげですよね?」

『いいえ? あれは、AIがオート作成したことで習得させたものだから、問題ないわよ。一応、異世界のステータスを基準にして、ユキちゃんのステータスがああなったわけだしね。だから、自分の力なのよ、依桜君』

「そ、そうは言っても……」


 ちょっと卑怯な気がするんだけど……。

 別に、ボク自身が色々と頑張った結果、あのステータスや能力、スキル、魔法などを習得したから、別にそこが卑怯とは思わない。


 でも、それがまさかゲームにも適用されるなんて思ってもみなかった。

 ……それに、あのステータスだとボク、レベルが最大になる頃には、誰も追いつけないようなステータスになってそうだよ……?


『いいのいいの。頑張ったご褒美だと思えば』

「……その頑張る羽目になった原因は、学園長先生だと思うんですけど」

『はてさて、何のことかなー?』


 ……本当に、この人誰かに殺されそう。


『ああ、それと、ミオの家なんだけど、あれ、ユキちゃんが持ってる【最強の弟子】って言う称号がないと入れないから、荒らされる心配はないからね』

「……そうですか」


 あの称号、レベルアップ時のFPとSPの取得数を増やすだけじゃなくて、そんな効果もあったんだ……。

 そう言えば、師匠の家にはいる時、妙な違和感を感じたけど……それが原因だったのかも。

 でも、それなら、誰かにあの家の物を盗られる心配はないね。


『……はぁ。これから、明日の《ギルドシステム》と《マイホーム》の実装もしなきゃいけないし、AIプログラムの修正もあると思うと……辛いわ』

「が、頑張ってください」

『……じゃあ、依桜君、お願いがあるんだけど、いい?』

「……なんですか?」


 学園長先生のお願いって、絶対碌なものじゃないと思うのは、気のせい?

 ……気のせいじゃないね。

 だって、普段からそう言うことばかりだもん。

 そもそも、なにが『じゃあ』なのかわからない。


『お姉ちゃん、頑張って! 大好き❤ って言ってほしいんだけど……』

「……嫌です」

『どうして!?』

「どうしても何も、恥ずかしいですよぉ!」

『大丈夫よ! 一回言うだけでいいから! ちょっと甘えた感じで言うだけでいいから!』

「い、嫌です! もっと嫌です! 甘えた感じに言うなんて、恥ずかしすぎますっ!」


 ただでさえ、ちょっと前に甘えん坊な姿を見せて、恥ずかしい思いをしたというのに……自発的になんて、できるわけがないよぉ。


『そこをなんとか! 依桜君のそのセリフがあれば、あと168時間は寝ずに動けるから! お願い!』

「……」

『お願いします! ほんっっっとうに大変なの! 今だって、結構意識がギリギリなの! このままだと、明日の実装に間に合わなくなって、ユーザーの人たちに申し訳ないのよ!』

「………」

『だから、お願い!』

「………………い、一回だけ、ですよ?」

『やった! ありがとう!』


 断れませんでした。

 だ、だって、あんなに頼み込まれたら、断るなんてできないよぉ……。


 私利私欲のためじゃなくて、ゲームのユーザーの人たちのため、って言われたら、見捨てることなんて、ボクにはできません……。

 そ、それに、一回だけ、だもんね。うん。大丈夫……多分。


「じゃ、じゃあ、言いますよ……?」

『どうぞ!』

「……お、お姉ちゃん頑張って! 大好き❤」

『……キタキタキタキターーーーー! 力が! み・な・ぎ・っ・て……キターーーー!』

「ひぁ!?」

『依桜君ありがとう! これで私、戦えるわ!』

「そ、そうですか。えと、頑張ってくださいね?」

『当然! 依桜君の声援を受けた私は無敵ィィィ! じゃ、今の録音したボイスを聞きながら、作業してくるわね! おやすみなさい!』

「は、はい。おやすみなさ……って、今なんて!?」


 ボクが言い終わる前に、通話が切れてしまった。


「……結局、碌なことしなかったよ、あの人……」


 やられた、とボクは思いました。

 ……押しに弱いのは、直した方がいいよね……。

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