第173話 方針決め
街へ入るための門の前は、プレイヤーの人たちが大勢いて、通るのは厳しそうだった。
そこで考えたのが、【瞬刹】を使って、AGIを向上させ、【隠者ノ黒コート】のスキルである、《ハイディング》を使って、姿を消す。そこからさらに、【気配遮断】と【消音】を使用。
これにより、現在のボクがどうなっているかと言うと……姿が見えない、気配がない、音も出ない、すごく速い、となります。
ボクが、人から逃げる時に使った、ボクの中では最強の逃走術です。
これを見破ったのは、師匠だけだったり。
つまり、他の人がボクを見破るのは不可能というわけですね。
ふふふ。これであとは、みんなにメッセージを送信……。
内容は、
『さっきの喫茶店の前で会おう』
です。
ボクはともかく、みんなはこのゲームの世界のマップを、正確に把握しているわけじゃないので、できるだけ、みんなが知っている場所の方が好ましい。
メッセージを送信後、すぐに返信が来た。
『了解よ。とりあえず、私が代表して送ってるから、三人のは待たなくても問題ないわよ』
よかった。
どうやら、みんな無事に逃げ切れていたみたい。
……と言っても、あの装備だったら、普通のフォレストボアーに負けることはないと思うけど。
人と人の間を上手く縫って進み、街に入ると同時にスキルの効果が切れた。
街の中では、スキルの効果は発揮されないみたい。
だからと言って、それを予想しないボクではないです。
師匠には、いかに能力やスキルをなしに、気配を隠すか、という技術を叩きこまれているので、問題はないです。
幸い、人が集中していたのは、入り口付近だったので、街中はそこまでプレイヤーの人に見つかることはなかった。
あ、もちろんフードは被ってますよ。
周りの人が、不審がりつつも、見るだけでとどめてくれる辺り、やっぱりこう言う服装は大事だね。
そうして、無事他のプレイヤーの人たちに見つかることなく、喫茶店に到着。
喫茶店の前には、見知った(一人だけまだ見慣れない)顔の人たちが四人ほど。
「来たわね。おーい、ユキー!」
近づいてくるボクに気付き、ミサが手を振りながらボクを呼ぶ。
たたたっ、と小走りでみんなのもとへ向かう。
「おまたせ」
「おかえり、ユキ君。囮、ありがとうね」
「いいんだよ。あのままだと、みんなやられてたかもしれないからね」
「そうだな。ユキがいなかったら、ユキ以外全滅してた」
「マジ、感謝しかねえな」
「そ、そこまで言われると、こそばゆいね……」
なんだか、背中がむずむずする。
みんなから、本気で感謝されると、嬉しいんだけど、どうにも気恥ずかしくて。
「えっと、これからどうする? さすがに、もう外には出たくないんだけど……」
「そうね。私たちの装備的に、結構目鯛そうだし、いらぬ争いが起こるかもしれないし……」
「そう言えば、マップを見た時に、宿屋が近くにあるって書いてあったよ?」
「お、いいな。とりあえず、そこに行って、方針とか決めようぜ」
「そうだね」
レンの提案で、宿屋に行くことになった。
とりあえず、6人部屋を借りて、中へ。
話し声などが漏れないように、しっかりと防音対策してあるらしく、外には聞こえないらしい。
各々ベッドに座って、向かい合う。
「さて、まずはどうするか、だけど……ユキ、さっきのモンスターはどうしたの?」
「倒したよ」
「……でしょうね。そこはおおむね予想通り、と。さっき、ユキが囮をしている間に、運営の方から通知が来たわよ」
「ほんと?」
「ああ。どうやら、明日の正午に、《ギルドシステム》と《マイホーム》が実装されるみたいだ」
「えっと、どういうの?」
「《ギルドシステム》というのは、ゲームによくあるあれだ。色々な人たちが一つのグループに所属し、一緒に狩りに行ったり、クエストに行ったり、イベントに参加したり、って言うやつだな」
「へぇ、もう実装されるんだ?」
もっと遅いのかと思ってたんだけど。
少なくとも、一ヶ月とか、それくらいかかりそうだと思ったんだけどなぁ。
「ちなみに、ギルドを結成するには、ギルドホームを購入する必要があるみたいだ。最低金額が、20万テリルで、最高が100万テリルだそうだ」
「あれ? 意外と安いんだね」
「いやいやいや! ユキがめっちゃ金持ってるだけで、実際は全プレイヤーの所持金、カッツカツだからな!?」
「あ、そう言えば……」
ボクの場合は、向こうで持っていたものがこっちに反映されちゃってるから、400万という大金を持っているだけであって、本来はかなりないんだよね……。
「とりあえず、話を続けてもいいか?」
「あ、うん。どうぞ」
「《マイホーム》は、まあ、名前の通りだな。無人の一軒家や、部屋を購入することができるシステムらしくてな。購入すれば、そこがそのプレイヤーの所有物になるらしい」
「けっこういいね」
「ああ。しかも、今俺たちがいる、この宿も購入することができるらしく、同時に運営もできるようだ」
「すごい! と言うことは、生産職って呼ばれてる、《調合士》と《鍛冶師》の人たちとかが、お店を持つこともできる、ってこと?」
「ああ。マイホーム、とは言うが、どうやらショップも兼ねているそうだ」
「なるほど……」
そうなると、色々な人たちがこぞって手に入れようとしそうだね。
……と言っても、まだまだ先になりそうだけど。
「そう言えばボク、【料理】と【裁縫】のスキルを持ってるから、これでお店を開いてもよさそうだね」
「実際、ありだと思うわよ。まだこのゲームはついさっき始まったばかり。最初にやるのは、レベル上げ、お金集め、装備品を向上させること。ゲーム自体が娯楽だけど、あんまり癒しとかもなさそうだし、いいんじゃない?」
「だな。ユキが料理屋を開けば、すぐに行列になりそうだ」
「さ、さすがにないと思うけど……」
現実じゃあるまいし……。
「まあ、それはそれとして……ギルド、どうする? 結成するの?」
「それもいいと思うが……ギルドを作るのは、ある程度のギルドができてからの方がいいんじゃないか?」
ミサの問いに対し、ショウは様子見の意思を示した。
「そりゃなんでだ?」
ショウの言ったことに対して、レンがショウに尋ねていた。
「考えてもみろ。ミサがさっき言ったように、このゲームはついさっき始まったばかり。サービス開始の次の日に、《ギルドシステム》が追加される。早すぎるとは思うが、別にあっても不思議ではない。だが、開始と同時に最低20万もの大金、手に入れられると思うか?」
「……いや、無理だな」
「そうだろ? つまり、俺たちが実装直後にギルドを立ち上げようものなら、怪しまれるってことだ」
「もっとも、私たちの場合、ユキがいるからね。怪しまれるよりも、入団希望者が多く発生しそうよ」
「そ、それはないと思うけど……」
「「「「はぁ……」」」」
「え、何今のため息」
ボクが否定したら、みんなため息を吐いたんだけど。
なにその、やれやれ、みたいな仕草!
「見ての通りよ。ユキは、押しに弱い面もあったりするし、純粋すぎるから、気が付けば大規模ギルドになりかねない。そうなったら、大問題よ」
「ボク、そんなに純粋? 普通だよね?」
「「「「いや、純粋」」」」
「そ、そですか……」
どの辺りが純粋なんだろう……?
純粋な人は、ゲームとはいえ、殺すことをためらったりするような人だと思うんだけど。
そう考えたら、ボクって全然純粋じゃないよね?
「それで、マイホームの方って、いくらくらいなの?」
「ああ、たしか……アパートなどの集合住宅系だと、一部屋5万テリルらしいぞ」
「意外と安い」
「と言っても、そこまで広くないらしいがな。一番高いのだと……たしか、豪邸らしい」
「豪邸?」
「ああ。なんでも、絶対に変えないと言われそうな……というか言われてる建造物がこの街にはあってな。そこの値段、1億テリルらしいんだ」
「……え!?」
「……それ考えた人、馬鹿じゃないの?」
「買える猛者が現れるのは、一体いつになるのかねぇ」
「当分どころか、一年近く現れないんじゃないかな」
だって、1億だもん。
ボクだって、三年間色々やって、最終的に溜まった金額が400万だからね。と言ってもこの金額、必要最低限だけ受け取って、使わずに至らこうなった、みたいな貯金だから、全部受け取っていた場合、軽く1000万くらいは行きそうだったり……。
でも、受け取っても使い道がなかったし、よかったんだけどね。
「ああ、そう言えばもう一つ。来週、イベントがあるらしいな」
「へぇ、早いね?」
「いや、平均的じゃないか? 今は大体冬休みだしな。会社の方も、連休になっている社会人もいる。それに、サービス開始一週間後にイベントなんて、割とよくあることだ」
「そうだね。早いソシャゲだと、二日後くらいにはやってたりするね」
「は、早いね」
そう言うのって、最初はレベル上げしているようなイメージがあるんだけど……。
その辺りってどうなんだろう?
ゲームはやるけど、ソーシャルゲームとじゃなくて、家庭用ゲーム機の方が多いからなぁ。
だから、いまいち基準とかはわからない。
「んで? ユキは、家買うのか?」
あれ、いきなり話題が変わった。
「う~ん……でも、あった方が便利だよね」
「そうね。正直なところ、いちいちお金払って宿屋で話すより、そっちの方が楽ね
「とはいえ、家を買うのはユキだし、ものによっては高いからな。その辺りはユキに任せるさ」
「……序盤は、あんまりお金を使いたくないもんね、みんな」
「まあ、そうだな。進んでくると、金に余裕は出るが、最初は全然ないからなぁ。正直、金が欲しい! って奴はいっぱいだと思うぜ?」
「じゃあ、みんな的にも?」
「私もそうね。できるだけ、序盤は温存したいわ」
「俺も。装備に関しては、ユキからもらったこれらで、当分先は大丈夫だろうが、強化したりするのであれば、今は温存しておきたい」
「わたしは別に。好きな時に使い、好きな時にためる! が信条だからねー。……とはいえ、あまりなさすぎるのもやだし、今は貯めたいなー」
「オレも大体ヤオイと同じだな。できれば、序盤は使わない方針だ」
「なるほど……」
概ね、考えは同じみたいだね。
そうすると……やっぱり、こうしてお金を払って宿屋に入って、話すというのも、ちょっともったいないかも……。
それなら、
「じゃあ、ボクは家を買おうかな?」
「ユキ、別に無理しなくてもいいのよ?」
「ううん。個人的にはあると便利かなーと思って。あとは、不定期で料理屋さんや、洋服屋さんもできたらなーって思っただけだよ」
「そうか。なら、いいんじゃないか?」
「うんうん。ユキ君が家を購入すれば、わたしたちも心置きなく話せるしねー。でも、お金は大丈夫?」
「もちろん。100万テリルくらいまでだったらいいかなって思ってるよ」
「……普通に考えて、とんでもねぇこと言ってるよな、ユキって」
「今更だろ」
なんだろう。不本意なことを言われている気がする……。
「予算が100万なら、少し大きめの家が買えるね、ユキ君」
「そうなの?」
「うん。たしか、二階建てで、やろうと思えばお店も経営できるほど、一階は広いよー」
「そうなんだ。ありがとう、ヤオイ」
「いいってことよー」
お礼を言うと、ヤオイはいつものにこにこ顔に。
「話が脱線したが、とりあえず、方針を決めるか」
ということで、ボクたちのプレイ方針を話し合った。
その結果、エンジョイすることに心血を注ぐことになった。
一応、ガチ勢、と呼ばれる人たちがすでにいるそうだけど、そう言う人たちのようにプレイするのではなく、自分たちで気ままにやろう、ということになった。
それから、一応ボクたちでギルドを作る予定ではあります。
と言っても、さっき話し合ったように、ある程度の数のギルドができてから、と言うことにはなったけど、
それに際して、あらかじめギルドマスターを決めておこう、と言うことになり、その結果、
「ぼ、ボク!?」
「「「「当然」」」」
多数決でボクになった。
ちなみに、ボクはミサを指名したけど、四人はボクを指名してきました。酷くない?
ボク、そういうのは似合わないと思うんだけどなぁ……。
それから、イベントは、みんなで参加できるものは、みんなで参加しよう、と言うことになった。
もし、対人戦などのイベントになってしまった場合は、恨みっこなし、と言うことになった。
なんか、ボクを見てみんながため息を吐いていたけど。
……すごく申し訳ない。
そして、大体は自由行動と言うことにした。
普段からずっと一緒、というのもあれだからね。
方針を話し終えてからは、レベリングをすることにし、レベル3にしてから、ゲーム初日は終了となりました。
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