第198話 スキー教室1

 そうして、スキー教室当日の朝。


 大きな荷物に関しては、昨日学園に持っていったので問題なし。

 と言っても、ボクには『アイテムボックス』があるので、そこまで持っていくのも問題ないし、なかったとしても、鍛えた体があるからね、重さも全く感じずに持っていくことが可能なんですよ。

 まあ、ちょっと大変かなーなんて思ったので、『アイテムボックス』は使いましたけど。

 ちなみに、師匠も使ってます。


 ボクは、適当なところで旅行バッグを取り出し、学園内へ、と言う形で持っていった。

 なので、今日は特に大きな荷物はない。


 一応、普段は学園指定のカバンではなく、自由になっている。大きな荷物は旅行バッグなどに入れたとはいえ、それ以外にも荷物はあるからね。


 学園指定のカバンだと、ちょっと無理がある。


 それで、今日のボクは、肩掛けカバンです。

 リュックってあんまり好きじゃないんだよね、昔から。

 電車内にいる時とかは、いちいち前に持っていくのがちょっと大変だからね。それに、寄りかかるときかちょっと。


 その点、肩掛けカバンに関しては、すぐに前に持っていけるし、道具も取り出せる。

 だから、こっちの方が好きだったり。


 ……まあ、男の時は、今よりもかなりひ弱だったから、肩が疲れてたけど。

 今は別の意味で肩が疲れてる。


 今回のスキー教室は、温泉があるから、そっちが楽しみ。いや、本命の方も楽しみだけど。

 できれば、肩こりは解消したい。


 そんな一心です。


 と言うことを考えながら、ボクは通学路を歩いた。


 ……そう言えば、いつも以上に視線を感じたような? 主に、胸に。肩掛けカバンになった瞬間、と言っても過言ではない気が……なんだろう?



「おはよー」

「おはよう、依桜」

「おはよう」


 やっぱり、二人には勝てない。

 今日こそは! なんて思いながら来たんだけど、見事に未果と晶の方が早かった。

 むぅ、勝てない……。

 もうちょっと早く来るべきだったかなぁ。


「おーっす」

「はよー」


 と思ったら、二人も登校してきた。

 ボクの直後だったから、結構早く来たね、二人とも。


「おはよう、二人とも」

「おはよう」

「おはよう」


 いつも通りの五人。

 周囲も、仲のいい人で固まって、わいわい騒いでいる。


「しかし、依桜。やっぱり、肩掛けカバンなんだな」

「うん。楽だからね」

「……楽なのはいいんだけど、それ、非常に目に毒よ」

「え? 毒? ボクのカバンには毒なんてないし、まして邪眼なんて物もないけど……」

「依桜君、本当に天然だねぇ」

「???」

『まあ、依桜なら仕方ない』


 みたいな顔は何? ボク、何か変なこと言った?

 うん?


『俺、初めてパイスラを見た』

『……めっちゃいいな、あれ』

『男女マジナイス』

『眼福だわー』


 なんだろう? やっぱり視線を感じる……。

 ボクの胸元に何かついてるのかなぁ。


「おーし、お前ら集まってるなー? 誰かいない奴はいるか?」


 戸隠線が前に出てきて、点呼を取り出す。

 誰も反応がないと言うことは、来ていない人はいない、ということになる。

 全員出席しているらしい。


「それじゃ、もうそろそろ出発するから、バスに乗れー」


 いつものように気怠そうに指示を出す。

 ボクたちも、話を中断し、バスに乗り込んだ。



 わたしと依桜君の座席は、左側の真ん中辺り。

 依桜君が窓側で、わたしが通路側。

 特に理由はないです。

 持ってきた荷物を、荷物棚の上に置くとき、


「よいしょっ」


 依桜君が軽く飛び跳ねながら、カバンを置こうとしていたんだけど、それはもう、眼福でしたよ。


 依桜君が跳ねるたびに、ぽよんぽよんって胸が大きく上下するんだもん。

 いいねぇ、依桜君のおっぱい。

 大きいし、形は綺麗だし、すごく柔らかいし……最高ですとも。


 依桜君の身長的に、かなり跳ばないといけなかったからか、すごくよく見えていた。

 男子のみんなは、鼻の下を長くしてましたよ。ついでに、ごくり、と生唾を飲み込んだりね。

 男の子だねぇ。


 でもやっぱり、依桜君は気付かない。

 そっちの方面には疎いからなぁ、依桜君。


 視線が向けられていることに気づいても、どういう感情を伴った支線なのかは理解していない。


 うむ。だからこそいいんだけどね、依桜君は。


 実際、肩掛けカバンで現れた依桜君の胸元に視線が行ったのは、間違いなく、パイスラだからだね。


 そこそこの荷物が入った肩掛けカバンのベルトによって、依桜君の胸を大きく強調していたからね。視線が行くのも納得ですよ。形の良さがわかるんだから。


 まあそれはそれとして、荷物を置いたら座席に座る。

 面白いことに、わたしたちの反対側には、未果ちゃんと晶君がいて、一個後ろの座席には態徒君もいる。

 見事に固まった。うん。素晴らしい。運がイイね。


「全員自分の座席に座ったな。そろそろ出発だ。行くぞー」


 やっぱり、戸隠先生は気怠げ。

 うん。いつものことだね。あの先生、基本的に微妙な気力で生きてるしね。

 まあ、そこがいいんだけども。

 というわけで、七クラス分のバスが、目的地に向かって走り出した。



「おーし、バス内レクやるぞー」

『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!』


 バスが走り出して少したった頃、戸隠先生がレクをやると言い出すと、バスの中が途端に賑やかになった。

 うんうん。旅行系の学校行事の定番だよね!


「んじゃ、まずは一発芸なー。ここに箱がある。こん中には、お前たちの名前が書かれた紙が入ってる。私が引くから、紙に書かれた名前の奴、一発芸しろ」


 その瞬間、バス内に戦慄走る。


 一発芸。


 それはまさに、地獄のような無茶ぶり。


 芸人でも何でもない人がやろうものなら、生きるか死ぬかのデスゲームに等しい。というか、大体の人は死ぬよね、あれ。

 実際、冷や汗を流している人が多い。


「おーし、引くぞー。最初は……ああ、篠崎か。よし、篠崎、やれ」

『畜生、俺かよ!』


 最初に選ばれたのは、篠崎君。

 篠崎君は、何と言えばいいのか……まあ、態徒君を劣化させたような感じ、かな。つまり、変態です。

 というか、うちの学園、変態しかいないけどね! 依桜君がすごく珍しいだけで。


 晶君は……まあ、常識人、かな? もしかすると、むっつりかもしれないけど。

 いや、もしかするとじゃなくて、本気でそうだと思うな―、わたし。

 だって、ちょくちょく晶君も悪ノリしてる時とかあるもん。

 依桜君に言ってないだけで。


 まあ、それはそれといて、篠崎君の一発芸。


『やべえよ、何も思い浮かばねーよ……』

『とりあえず、なぞかけでもやっとけ』

『とりあえずのハードル高くね!?』

「篠崎、とりあえず、なぞかけだ」

『だから、なんでなぞかけをやらせようとするんですか!?』


 戸隠先生にも言われ、周囲にも囃されて結局、篠崎君はなぞかけをすることになった。


『ド素人だからな? 絶対馬鹿にするなよ?』

『わーってるから、はよせい』

『……終わるマンガとかけまして、鏡に映る自分と説きます』

『『『その心は?』』』

『どちらも終(対)になるでしょう』

『おー、普通にできてるやん』

『よかったぞー、篠崎』

『すごいぞー』

『ちょっ、棒読みじゃねえか! だから嫌なんだよ!』


 うん。まあ、できてる方なんじゃないかな。うん。


「篠崎戻っていいぞー。それじゃあ次なー。えーっと……お、男女だな。よしやれ」

「ぼ、ボクですか!?」

「ああ。早くしろー」

「うぅ……」


 次は、まさかの依桜君。

 次の犠牲者が依桜君とあって、バス内は盛り上がる。

 さすが依桜君。


「えっと、何をしようか……」


 前に出てきて、少し思案する依桜君。


「依桜、とりあえず、手品でもしておけば?」

「ああ、そう言えば、手品ができたな、依桜」


 と、未果ちゃんと晶君から、救いの手とも呼べる提案が飛んでくる。


「ん? 男女、お前、手品ができるのか?」

「え、いや、まあ、似たようなことなら……」


 まあ、依桜君の場合、手品じゃなくて、本物の魔法だもんね。


「えーっと、じゃあ……手品します。ここに、何の変哲もない袋があります。この中には何も入ってません」


 そう言いながら、依桜君がカバンの中をみんなに見せる。

 たしかに、何も入っていない。


「じゃあえっと、この中から……ココアのマーチを出します」


 そう言って依桜君はカバンの中に手を入れて、引き出すと……


「はい、ココアのマーチです」


 本当に出てきた。


『す、すげえ! マジで出てきた!』

『依桜ちゃんすごい!』

『男女って多才なんだなぁ』

『ねえねえ、もう一回やって!』

「も、もう一回? いいけど……じゃあ、何かリクエストとかあるかな?」


 と、依桜君がそう言うと、みんな一斉に手を挙げだした。

 一応、わたしも手を挙げておこう。うん。


 でもあれ、魔法だよね? どう見ても、魔法だよね?

 冬〇ミの時に見せてもらったあれだよね。

 なんてことを考えていると、新井さんが指名された。


『じゃあ、猫のぬいぐるみ!』

『いや、無茶じゃね?』

『さすがに、それは無理だろ』

「わかったよ」

『『『できるの!?』』』


 さすがに無理と思っていたみんなだったけど、依桜君ができると言ったことで、全員驚愕の声を上げていた。

 うん、わかるよ。


「じゃあ……はい、猫のぬいぐるみです」


 そう言って、依桜君はカバンの中から可愛い猫のぬいぐるみを取り出した。


『『『ええええええええええええええええ!?』』』


 うん。だよね。

 普通はそう言う反応になるよ。


『もう一回! もう一回!』

『依桜ちゃん、もう一回やって!』

『頼む!』

「ふぇ!? せ、先生……」

「まあ、いいんじゃね? 結構盛り上がってるし。てか、私も見たい」

「……わ、わかりました。じゃあ、次やります」


 このあと、しばらく依桜君の手品ショーが続きました。



 バス内レクは続き、一発芸の次はカラオケとなりました。

 うんうん。やっぱりこれも定番だよね!


 そして、まさかのクラス全員一曲は歌うことになりましたよ。おうふ、酷いぜ。

 多少のブーイングはあったものの、本心ではなく、みんな歌いました。

 中でも盛り上がったのは、やっぱりというか、依桜君。


「あなたのハートを打ち抜き、ます♪ だから、絶対にがさな~い♪」


 バリバリのアイドル系の歌を歌ってました。


『え、上手いんだけど』

『……男女って、できないこととかないんじゃね?』

『もういっそのこと、アイドル目指せばいいと思うんだけど、依桜ちゃん』

『……才能の塊と言うか、強すぎない?』


 もともと可愛い系の声だったので、曲調はすごく合ってるんだよね。あれ。

 しかも、歌ってる時とかすごくいい笑顔だからね。


 うん。可愛い。

 私の友達は可愛いなぁ。


 そうして、盛り上がりまくって、アイドルのライブみたいになるという事態に発展。

 依桜君が歌い終われば、アンコールのコールがバス内に響き渡る。


 さすが依桜君。

 神に愛されてるねぇ。


 まあ、そんなわけで、依桜君のアイドルライブ的なものはもう少し続いた。



 カラオケも終わり、休憩時間みたいになった。

 そうして、しばらくたった頃……


「……ふぁぁ……」


 依桜君がうつらうつらと、眠そうにしていた。


「依桜君、眠いの?」

「……ぅん。ちょっと、ね……」

「ふふふ、だったらわたしによりかかって寝てもいいよー」


 なんてね。依桜君なら、断るに決まって――


「そぉ? じゃあ、お言葉に、甘えて…………すぅー……すぅー」


 こてんと、わたしによりかかるようにして眠ってしまった。


 お、おおおお、依桜君の寝顔、素晴らしい!

 可愛い! 女神じゃなくて、まさに天使!

 無垢な表情を浮かべながら、気持ちよさそうに眠ってるんだけど。

 これは心があったかくなるねぇ。


 んー、これはあれだね。

 膝枕してあげよう。


 幸い、このバスの座席はそこそこ広いし。

 そう思って、わたしは依桜君の体をそっと動かして、頭をわたしの膝の上に。

 まあ、正確に言うと、胸の辺りから上なんだけどね。

 このバス広いから大丈夫さ!

 一番後ろだったら、もう少しいい状態にできたんだけどねぇ。


「ん、ぅ……すー……すー……」


 なんて気持ちよさそうな寝顔……。

 ああ、癒されるぅ……。


 なんとなーく、依桜君の頭を撫でる。

 さらさらとした髪質に、撫でるたびに香ってくる、依桜君の花のような匂い。

 て、本当にいい匂いするなぁ、依桜君。

 すごく落ち着くよ。


「あら、寝ちゃったの?」

「うん。疲れたんじゃないかな」

「まあ、手品をやったり、アイドルまがいのことをすればね」

「そっとしておくか」


 なるべく静かにして、依桜君を眠らせてあげた。


 ……んー、なんかこう、依桜君の寝顔を眺めたり、頭を撫でてると、すごくドキドキするなぁ。

 もしかしてわたし、依桜君が好き、なのかな? 恋愛的な意味で。

 ……うん。悪くないね! それはそれでいいかも。

 もともと好きだったし。わたしバイだしねー。依桜君が女の子でも愛せるし。


 まあでも、依桜君は恋愛しない、みたいに言ってたけどね。

 最近、妙に仲のいい女の子相手に、顔を赤くすることが増えた気がするけど。

 ……なんてね。あははー。まさか、依桜君が百合に走るわけないよねぇ。

 なんて、一瞬頭の中に出てきた状況を、笑いながら否定した。

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