1-3章 異世界再び
第39話 依桜ちゃん、再び異世界へ
十月二十四日。
学園長先生に異世界へ行ってほしいと頼まれた日がやってきた。
朝起きて、動きやすい服装(Tシャツにパーカー、ジーンズ)に着替えたのち朝食を摂る。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
朝食を食べてすぐに家を出た。
「えっと、ここで待っていればいいとのことだったけど……」
約束の時間は、十時だけど、ボク的には早めにいたほうがいいかなってことで、十分前に到着。
今日は土曜日なので、当然部活をしている人が学園に入っていく。
その際、他校の人が学園に入っていく際には、かなり視線を向けられたけど。
……まあ、そうだよね。
私服を着ている女の子が、学園の校門前に立ってるんだもん。
目立つよね。ボク。
『お、おい、あの娘……最近ネットで噂になってた娘じゃね?』
『うわ、マジだ。この街に住んでたのか……』
『テレビとか写真で見るより、断然可愛いな……』
『彼女になってほしいな』
……ボク、男です。
というツッコミが、いつも胸中にあります。
……まあ、最近そう言うツッコミに対して、少なからず疑問を持ち始めていたりするけど。
とりあえず、周囲の目はいつも通り? 気にせずに待つ。
スマホの時計が十時になった瞬間。
「やあ、依桜君。おはよう」
車に乗った学園先生が目の前で止まって、挨拶してきた。
「あ、おはようございます。時間ぴったりですね」
もちろん、挨拶は返します。
「さ、乗って乗って」
「わ、わかりました」
学園長先生の車に乗るのは、ちょっとだけ気が引けるけど、ここで止まっているのも迷惑なので、促されるままに車に乗った。
助手席のほうがいいかなと思って、助手席に座る。
もちろん、シートベルトは忘れずに。
「えっと、これからどこへ?」
集合場所しか言われてないので、今日の目的地について尋ねる。
一応、異世界に行くことはわかってるけど。
「私の会社だよ」
「え、会社、ですか」
「そうそう。会社の地下に研究施設があるからね。そこへ向かうの」
「なるほど、わかりました」
「よし。じゃあ、しゅっぱーつ」
学園から、大体三十分くらいの位置に、学園長先生の会社があった。
大体……二十階建てくらいのビル。
看板には『アナザーカンパニー』と書かれていた。
車を降りて、先導する学園長先生の後をついていく。
会社内はかなり綺麗だった。
学園長先生は以前、製薬会社、と言っていたけど、たしかにイメージにぴったりな内装だ。
白を基調としていて、所々に観葉植物が置いてある。
あとは、多分カードキーのタイプのロックが各部屋に取り付けられていたりと、セキュリティもバッチリみたい。
監視カメラもちゃんとあるしね。
「こっちだよ」
「え、でもここ、行き止まりですよ?」
こっちと言われて、辿り着いた場所は、どう見ても白い壁しかない行き止まりだった。
「まあまあ。……董乃叡子。パスワード『世界をもっと楽しく。異世界へもっと気楽に』」
『声帯、パスワード……認証しました。どうぞ、お通りください』
無機質な声と同時に、目の前に壁が上下にスライドし、道ができた。
こ、これって、隠し扉、だよね?
なんで会社内にわざわざ……。
というか、そのパスワードちょっとおかしくない?
「さあ、行こうか」
「は、はい」
びっくりしているボクを無視して、学園長先生は先へ進みだした。
ボクも慌てて追いかける。
隠し通路の先へ進むと、なにやら見たことのない機械が所狭しと並んでいた。
それ以外にも、研究員らしき人たちも、忙しなく動き回っている。
『あ、社長、おはようございます』
「うん、おはよう」
『社長、今日も綺麗ですね』
「ありがとう」
『社長――』
という風に、研究員の人たちは、学園長先生を見ると、すぐに作業を止めて挨拶したり、話しかけたりしている。
立場とかがあまり関係ないところなのかも。
「どう? すごいでしょ?」
「そ、そうですね。見たことない機会がいっぱいで……」
「そうでしょそうでしょ! これ、全部異世界に関する機械だからね」
胸を張って自慢気に言う学園長先生。
ちょっと子供っぽくて微笑ましい。
目的の場所は、もう少し先のところらしく、かなり歩く。
道中、機械についての説明をされたけど、ちんぷんかんぷんだったので、頭に入らなかった。
「さ、ここだ」
到着した場所には、これは……筒? のようなものがケースの中に置かれていた。
「これ、ですか?」
「そう。それが完成した、異世界転移装置だよ。一往復分しか使えないが、確実に使えるものだよ」
学園長先生がケースの横にあるスイッチを押すと、ケースが開いた。
ケースが開ききったところで、学園長先生が筒状の装置を手に取る。
「正直なところ、理論上では問題なく成功するはずだ。何度もシミュレーションをしているから間違いない。転移先の場所は、正直設定できなくてね。向こうの座標とかもわからないから、ランダムになってしまう」
「あ、そうなんですね」
まあ、前回はたまたまあそこに出たわけだし……。
「一応、君が転移した先の世界のデータは入手してあるので、行く先は君が行った世界だ」
「そのデータがなかった場合は?」
「君が行ったこともない世界になるね」
そう言えば、世界は無数にあるって言ってたもんね、学園長先生。
データがなければ、ボクはよくわからない世界に言っていたこともあり得る、ってことだね。
「あと、ほかに説明することは……特になし、かな。一応、この装置は使ってから一週間程度でこちらの世界に戻ってくるよう設計し、転移するシステムを君に投射してるから、万が一壊れたり紛失したりしても、問題ないよ」
「なんですか、無駄にハイテクなその技術」
そう言うシステム的なものを、ボクに転移した瞬間につけるってことだよね?
どうやってるの? それ。
「まあ、細かいことは気にしないでいいよ。ここから先は、専門的分野になるしね」
「あ、なら大丈夫です」
どの道、理解するのは難しそうだし。
そもそも、全く知らないものが数多く出てくるということを考えたら、聞いても意味ないだろうしね。
「さて、注意事項だよ。と言っても、それらしい注意は一つしかないけど」
「えっと、その注意というのは?」
「簡単だよ。死なないこと。以上」
「ほ、本当に簡単ですね……」
「まあね。ちなみにだけど、向こうで死んでも、死体はこっちに戻ってくるから。転移初日で死ぬと……一週間ほど放置された死体になって戻ってくるので、本当に死なないでね? そうなると、場所によるけど、野生の動物か何かに喰われてたり、ゴミだめのような場所で死ぬと、かなり腐敗が進んで、腐臭を放ち、体はでろでろのような状態になるので、本当に死なないでね。SAN値が削れちゃうから」
「……すみません。これから異世界へ行くという人間に、そう言うこと言わないでほしいんですけど」
聞きたくなかったんだけど。
……絶対に死なないようにしよ。
「次に使い方。この筒の横に、ボタンがあるのはわかる?」
学園長先生に言われて筒を見ると、横の辺りに青いボタンが一つと、赤いボタンが一つついていた。
学園長先生の質問に、小さく頷く。
「この青いボタンを押すと、異世界に行けるよ。その際、注意しなければいけないのは、自分に触れている物も一緒に異世界に行ってしまうことだよ」
「というと、ボクに触っている人も異世界へ、ということですか?」
「その認識でOKよ」
でもまあ、これを何度も使う、なんてことにはならないだろうから、その心配はないと思うけどね。
「青いボタンはわかりましたけど、こっちの赤いボタンは?」
「あー、それね。それ、自爆ボタン」
「…………………………え?」
ちょっと待って? 今、なんて言ったのかな、この人。
「も、もう一度言ってくれませんか?」
「だから、自爆ボタン」
聞き間違いじゃなかった。
え、なんで? なんで自爆ボタンが付いちゃってるの?
普通、付けなくない?
「まあ、依桜君が思っている疑問はわかるわ。でもね、例えばこれが誰かの手に渡った時のことを考えてみて?」
「え? ……いえ、それでもわかりません」
学園長先生言われて、想像してみるも、やっぱり自爆ボタンをつける意味が分からなかった。
「普通に考えて、この装置は誰でも簡単に異世界へ行けるの。だから、悪用し放題。だから、悪い人の手に渡った時、異世界へ行けるボタンとは別に、自爆ボタンを付けておけば、勝手に押して自爆してくれる、ってわけよ」
「……そ、そですか」
言いたいことはわかるけど、やっていることと言っていることは、ちょっと……というか、かなり馬鹿すぎる。
青は、危険な色って判断しないとは思うけど、赤はちょっと危険だ、って大抵の日とは思うんだけど。
仮に、悪用しようとしていた人がいたとして、素直に押すかな? ボクだったら、絶対に押さない。怖いもん。
これに引っ掛かるのは、態徒とか見たいなレベルの人だよ。
「まあ、ほとんど一度きりの装置だし、さっきも言ったけど、一往復程度しか使えないから、杞憂だとは思うけどね」
だとしても、自爆ボタンをつける意味……。
「自爆ボタンね、会議の時に満場一致で付けることにしたからねぇ」
さすが、面白そうという理由で異世界転移の研究をする人たちだよ。
変なところに、変なものをつけるも好きなようだ。
その内、モ〇ルスーツみたいなものを作って、それにも自爆装置を取り付けそう。
「さて、とりあえず、これで説明は以上だよ。何か質問はある?」
説明らしい説明をしていなかった気がするんだけど……。
でも、質問、か。
「えっと、一つだけいいですか?」
「どうぞどうぞ」
一つだけ、気になったことがボクの中にあった。
「異世界からこっちへ戻る瞬間に、誰かに触れていた場合って、どうなりますか?」
「お、いい質問。その場合は、当然行きと同じだよ。触った人と一緒に、こっちの世界へ来てしまう」
「じゃあ、基本帰る瞬間は人に触らないように、ってことですね?」
「うん、そう。万が一こっちに誰か来てしまったとしても、私の方で色々といじったり根回ししたりするから、そのあたりは心配しないでね」
「わかりました」
こういう風に頼もしい面もあるんだから、そっちを全面的に押し出してほしい。
万が一があっても大丈夫、ということなら、ボクも安心。
……まあ、元々いない人の戸籍とかをどうやって用意して、どうやっていじっているのか、心の底から気になるところだけど……怖いからやめておこう。
「ほかに質問は?」
「うーんと……大丈夫です」
「よし。じゃあ、早速依桜君に異世界へ行ってもらおうかな」
「わ、わかりました」
本題に入ったことで、わずかながらに緊張がボクの中に生まれる。
「さあ、これを持って、青いボタンを押して」
「……はい」
大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
シミュレーションは何度も繰り返し行って、問題なく行けると実証されているようだけど、それはあくまでもシミュレーションの話。
もしかしたら、途中で間違った世界に行くかもしれない、もしかしたら、岩の中かもしれないという不安に駆られる。
「……それじゃあ、行ってきます」
「はいはい。それじゃあ、楽しんできてね!」
心を落ち着かせて、一言言うと、学園長先生がそう言ってくれた。
う、うん。大丈夫だよ。
ちゃんと、前の異世界転移(強制)は成功してたんだし、問題ないよね!
いざ!
ポチっとボタンを押した瞬間、筒を中心に、ボクを包み込むような淡い光のような球体が形成された。
その光は、バチバチと電気を走らせている。
すると、ふわり……と、ボクの体が宙に浮きあがる。
そして、光が徐々に徐々に強くなり、最後には、ボクの視界を白一色で塗り上げ、とてつもない浮遊感を感じ、そこでボクの意識は暗転した。
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