第110話 二人三脚へ

「てなわけで、オレたち全員一位だったぜ!」

「おめでとう、三人とも」

「おめでとう」


 テンション高めで返ってきた三人に、祝いの言葉をかける。


 友達が一位を獲るって言うのは、やっぱり嬉しいものだからね。


 まあ、ボクも間接的に参加していたけど。


 未果のお題は知ってるけど、結局、女委と態徒のお題って何だったんだろう? 二人とも、お題のことを訊いたら、誤魔化してきたし……。


 でも、未果もボクのためを思って誤魔化していたみたいだったので、二人のお題については追及をしなかった。

 それでも、気になるものは気になるんだけどね。


 でも、なんとなく、聞かないほうがいいんじゃないかなぁって思って。


「まあでも、ひっでえ競技だったけどな!」

「そうね。聞いたところだと、お題には『EX〇LEの歴代メンバーのフルネームを言える四十代以上の人』とか、『ドラマの監督』とか、『異世界に行ったことがある人』なんてのもあったわよ」

「……お題を達成させる気あるの?」


 聞いたお題に、ボクは呆れていた。

 最初の二つはまあ……辛うじてできるかもしれないけど、最後の三つ目に関しては、まず不可能だよね?


 というか、判定役の先生にそのお題を見せたところで、どうやって確認すると言うんだろうか?


 ……あ、でも、希美先生のような人も、もしかしたらほかにいたりするのかな?

 希美先生、学園長先生の研究に関わってる、って言ってたし。


 ほかにいたとしても、不自然じゃない、かな?


「さあね。私たちが、『異世界に行ったことがある人』なんてのに当たってたら、確実に達成できてたと思うけどね」


 未果がそう言うと、ボク以外の三人がうんうんと頷いていた。


 ま、まあね……。


 ボクが異世界に行ったことを知っているのは、この学園じゃ、学園長先生と希美先生含めて、六人くらいだもんね。


「ま、オレと女委も意外と簡単なお題だったけどな」

「そうなの?」

「うん! わたしとしては、役得なお題だったよ」

「オレもだな!」

「そうなんだ」


 どこか嬉しそうな二人。


 う~ん、本当に気になる。一体、何が書かれてたんだろう?


 ……うん? なんかよく見ると……態徒の鼻の下が赤く見えるような?


 って、これ、血?


「態徒、鼻血でも出した?」

「えっ? な、なんでだ?」


 あれ。なんか、見るからに動揺したんだけど……どうしたんだろう?


「鼻の下が赤くなってるから、てっきり鼻血でも出したのかなって」

「あ、ああ、ちょっと転んじまってな!」

「それにしては、どこも怪我した様子はないし、汚れてないけど……」

「あ、あれだ! ちゃんと汚れは落としたし、飛び込み前転の要領で受け身をとったから、大丈夫だったんだよ!」

「ず、ずいぶんアクロバティックな受け身だね。……あれ? でもそれなら、鼻血が出てたのは不自然じゃない? だって、前転って鼻をぶつけるようなことにはならないし……」

「そ、それはだな……」


 さっきよりも、さらに動揺し始めた。


 目は激しく泳いでいるし、冷や汗もだらだら。声も震えてる。


 うん。何か隠してるね、この反応。


 ただ、気になるのは態徒の様子だけじゃなくて……未果と女委の方も。


 どういうわけか、態徒に色々と訊いていたら、横であからさまに動揺しだしてるんだもん、この二人も。


 それがなんだか気になった。


「ま、態徒のことだし、会場内にいる女性のハプニング的な状況を目にして、鼻血を出しただけなんじゃないのか?」


 と、ここで晶がそんなことを言ってきた。

 言われてみれば、その可能性はあり得る。

 態徒だし。


「なるほど。それは十分あるかも」

「たしかにそうね! 態徒は、エロいものが大好きだものね!」

「うんうん! 態徒君、三度の食事よりも、エッチな女の子! って感じだもんね! パンチラで鼻血を出しても不思議じゃないもんね!」

「ちょっ、お前ら!?」


 まるで、これ幸いにと言わんばかりに、未果と女委が便乗してきた。

 何気に言っていることが酷い。

 態徒もそう思ったのか、抗議している。


「態徒、ちょっとこっちに」


 と思ったら、未果と女委が態徒を連れて少し離れた場所に移動していった。


(まあまあ、これで誤魔化せば、さっきの映像が奪われずに済むんだよ?)

(そうよ。わ、私は別に欲しいとは思ってないけど? でも、あんたは欲しいんじゃないの? 私は欲しいとは思ってないけど)

(ぬぐっ! た、たしかに、あの映像は欲しいっ! ……し、仕方ねえ、ここはオレが犠牲になるしかない)


 話が終わったのか、三人が戻ってきた。


「そ、そうなんだよ! さっき走ってる時に、めっちゃエロいお姉さんがいてよ! その人が、すんばらしいパンチラを見せてくれたもんで、つい鼻血がな! ついでに、オレの息子も元気に! はっはっは!」

「そ、そう、なの? それならいいけど……。あと、態徒って子供いないよね?」

「い、いやそうだが」

「じゃあ、息子ってなに?」

「そ、それは、だな……あ、あれだ! げ、ゲームのな! ゲーム内の息子だよ!」

「そうなんだ。でも、なんで急にゲーム内の子供のことを?」

「うぐっ。え、えーっとだな……」

(依桜って、本当に純粋だったんだな)

(あれね。変態とピュアは嚙み合わないって言うのは、本当だったのね)

(いやぁ、あんなに真っ直ぐな目を向けられながら、説明をさせられるのって、かなりキツイねぇ)


 普通に尋ねているだけなのに、なぜか態徒はたじたじに。

 あれ? ボク、変な質問してるのかな……?


 だ、だって、子供がいないのに、息子って言うから、何のことかなって……。


「そ、そう言えば、次は二人三脚だよなっ!」

「え? あ、うん。そうだね。多分、もう少しで招集がかかると思うけど……」

(((うわ、逃げやがった)))


 あれ? なんか、晶たちが態徒に対して、『それはない』みたいな目を向けてるんだけど、どうしたんだろう?


「そう言えば、晶はこれが初種目だったよね?」

「ああ、そうだな。オレが参加するのは、基本団体系の競技だからな。個人……と言っていいのかは分からないが、一応、個人種目は二人三脚だけだな」

「お互い、頑張ろうね」

「ああ」


 二人三脚かぁ。

 最後にやったのはいつだったっけ?


 小学三年生の運動会で、父さんと一緒にやった時以来だから……七年前くらいかな?

 あの時は親子だったけど、今回は友達とだから、ちょっと楽しみだったり。


 ……もっとも。相手は女委だから、何をするかわからないんだけどね!


「そう言えば、よくよく考えてみたら、態徒って午後の部全部出場してるわよね?」

「言われてみればそうだな。全然気づかなかったぜ」

「結構体力を使ってるが、大丈夫なのか? 美天杯とか、疲れてる状態でやったら、かなり不利だと思うんだが」


 心配そうに、晶が態徒にそう訊いていた。


 言われてみれば確かに。


 態徒が出場する競技数は、全部で五つ。


 ボクたちの中だと、一番出場する競技が多い。


 そして、五種目中、四種目は初日に集中していて、その上、四種目とも午後に行われる。それも、立て続けにっていうおまけつき。


「問題ないぞ! 幸い、そこまで疲れるような競技じゃないしな!」

「でも、二人三脚って結構疲れると思うのだけど」

「ま、相方は晶だからな。言うほど疲れないぜ」

「ならいいけど……」

「まあ、美天杯に関しては、依桜も出るし、全然問題ないだろ! この学園に、依桜以上に強い人なんて、ミオ先生くらいだぞ? 学生の中にはいないって」

「あ、あはは……で、でも、もしかしたら、一人くらいいるかもしれないよ?」

「「「「それはない」」」」

「そ、そですか……」


 息ぴったりに否定されちゃったよ。


 ……まあ、ボクとしても、なかなかいないだろうなぁ、とは思ってるけど……。


 でも、ボクのように異世界に行って、強くなって帰ってきた人がいるかもしれないし……。


 一応、学園長先生がいるとは言っていたから、探せばいると思う。


『お知らせします。二人三脚の準備が整いましたので、参加するの選手の皆さんは、グラウンドに集まるようお願いします』

「あ、招集だ。じゃあ行こっか」

「そうだな」

「それじゃあ、行ってくるね、未果ちゃん」

「ええ、頑張ってね、みんな」

「一位を獲ってくるぜ!」


 と言うわけで、未果以外の四人でグラウンドに向かった。



「へぇ、意外と男女で、っていうペアもいるんだな。これは意外だな」


 招集がかかり、グラウンドに集まると、意外にも、ちらほらと男女混合のペアが見受けられた。


「たしかにね。てっきり、同性同士が多いのかと思ってたけど」

「あれじゃないかな。カップル」

「ま、だろうな。もしそうじゃなかったら、単純に幼馴染の関係であるか、両想い、もしくは、女子の方が片思いしている場合だろうな」

「くそっ、羨ましいっ! 羨ましいぞ、コンチクショー!」


 態徒が悔しそうに嘆いているが……ま、いつものことだろう。

 羨ましいと言うが、一応態徒に好意を持っている人がいるんだがな……。

 まあ、向こうは結構内気だったみたいだし、仕方ないと言えば仕方ないが。


「だがまあ、半数は同性同士みたいだな」

「でもでも、半分も男女混合って言うのは珍しいよね!」

「くっ、オレも混合がよかったなぁっ!」

「……まあ、俺と態徒のペアと、依桜と女委のペアで、それぞれ交換したら、態徒か俺のどちらかが死ぬことになるからな。諦めろ」

「そうだけどよ……」

「それに。態徒は依桜とデートするんだろ? ならいいじゃないか」

「それとこれとは別だ! 触れ合えるチャンスがあるなら、触れ合うのが、男ってもんだぞ!」


 我儘だな、こいつ。


 分からないでもないが……俺は、そこまで興味があるわけじゃないからな。


 恋愛ごととかは、割とどうでもよかったりする。


 人の恋路を応援するのは全然いいんだが、自分のとなるとな……まったく意欲がないと言うか、興味がないと言うか。


 その点、態徒はある意味じゃ羨ましいかもな。

 ストレートに言えるから。


「それはそれとして、だ。……気のせいかもしれないんだけどよ、なんか、妙に視線が向いてないか? 主に、オレと晶に」

「そうか? 俺はよくわからないが……」


 俺も最近、自分に向かっている視線は分かるようになってきたが……今回はこれと言って感じられない。


「気のせい……とは言えないかな。ボクだって、結構視線を感じるし」

「依桜君の場合は、いつものことだよね~」

「そうだけど……。でも、いつもとちょっと違うような気がして……」

「あれじゃね? 依桜と女委が走るからじゃね?」

「どういうこと?」

「巨乳と巨乳のペアだからな! 男的には、これ以上ないくらい素晴らしいものってわけだよ!」

「わかる! わかるよ、態徒君!」

「ちょっと何言ってるかわからないかな」


 対照的な二人だな、ほんと。

 変態と純粋。


 よくよく考えてみれば、ある意味じゃ、正反対な二人だよな、この二人は。


 現に、女委はテンションが高いのに対し、依桜はやや呆れている。


 正反対だからこそ、馬が合ったのかもしれんが。


「ところでよ、二人は何レース目だ? オレたちは三レース目だったぜ?」

「ボクたちは五レース目だよ」

「そうかそうか! なら、オレも二人が走っているところを見れるわけだな!」

「ふふふー、楽しみにしててね、二人とも!」

「おうよ!」

「……何を楽しみにするのかは分からないが」


 いや、概ね予想はできるが。

 態徒がさっき言ってたしな。十中八九、それだろう。


 ……そう言えば、依桜と女委のペアが練習で走っている時は、いつも大惨事だったっけな……。


 ……かなり心配になってきたぞ。

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