第111話 大惨事、二人三脚!
『えー、それでは、選手の皆さんが集まったようですので、二人三脚のルール説明に参ります! この二人三脚では、通常のものとは違う方式をとっております!』
……なんだ、ものすごく嫌な予感がしてきたんだが……。
『では、選手の皆さん! コース上をご覧ください!』
言われて、選手全員がコースの方に目を向ける。
そこには、なぜか……風船が置かれていた。
『コース上に置いてあるのは、皆様ご存じ、風船です! この風船をどうするかと言いますと……ペアのどちらかが風船を膨らませ、二人で割ってもらいます!』
その瞬間、選手たちがざわつきだした。
俺も、なぜそんなことをするのかわからず、眉をひそめていた。
『この風船を割る時、ルールがございます! それは……上半身だけで割る、と言うことです!』
……なんだ。何を言っているんだ、放送部は。
『簡単に説明しますと、この時だけ、足を縛っている紐を解いてもOKです! そうしましたら、お互い向き合ってください。そして、二人の間に風船を挟み、抱き着くような形で割ってください!』
その瞬間、歓声と悲鳴が上がった。
歓声はおそらく、男女ペアの選手たちからだが、悲鳴に関しては、同性のペア――それも、男子から出間違いないだろう。
かく言う俺と態徒も、頭を抱えていた。
おかしい! この学園、絶対おかしいぞ!
『いいですねいいですね! 会場が盛り上がっていますよー!』
盛り上がり方は違うと思う気がするんだが。
これ、ある意味では天国かもしれないが、ある意味では地獄のような競技になるぞ?
なにせ、男同士で抱き合わなくちゃいけないんだからな。
女子同士なら、そこまで気にすることはないのかもしれないが……男同士なんて、ただただきついだけだぞ。絵面的に。
嬉しいか? 汗だくになって、お互い抱き合いながら風船を割る光景とか。
……いや、この学園にいる女子だったら、確実に喜ぶような状況だろうな。
腐女子だから。
俺は……そこまでと言うほど気にはしないが、これ以上ホモ疑惑が出るのは、本当に勘弁してほしいところだ。
ただでさえ、告白してきた人をフラれるたびに、ホモ疑惑が拡散していくんだぞ?
しかも、その相手が態徒なんじゃないか、という誰得状況になっているみたいだし。
……マジで、きついんだよ。
『はい、それでは、準備も終わりましたので、始めたいと思います! まずは、一レース目の――』
と、ある意味、嫌な思い出になりそうな二人三脚が始まってしまった。
二人三脚が始まると、それはもう、地獄の様だった。
まず、男女ペアの場合。
『は、恥ずかしいね……』
『お、おう。ちゃ、ちゃっちゃとすませちゃおうぜ?』
『う、うん』
という、ラブコメが展開されたせいで、
『なんだあの野郎!』
『見せつけてんのか? アァ!?』
『リア充爆発しろ!』
『豆腐に頭をぶつけて死ねばいいのに!』
こんな感じで、彼女がいない男子たちからの怨嗟が酷かった。
同様に、女子からもそんな怨嗟が飛んできていたりしたが。
もちろんその理由は、ペアの男子が校内でも有名なイケメンだったからだ。
お互いに照れ笑いしながら、風船を割るものだから、それはもう、酷かった。
だが反対に、女子同士のペアは歓声が沸いた。
ある意味当然と言えば当然、か。
この学園に在籍している女子は、何かと容姿が整っている人が多い。
そのため、女子同士の風船割りは、何と言うか……男的には素晴らしいものではあった。
俺自身は、そこまででもないが……興味がないと言えば、嘘になると言うのが本音だ。
態徒や、女委ほどではない。
だが、普通の生徒でこれとなると……依桜と女委のペアはどうなるんだろうな。
片や純粋。片や変態と言ったペアだ。
依桜には、性的な方の知識はほとんど皆無と言っていいレベルで、ない。そのため、女委が騙そうと思えば、簡単に騙せてしまう。
そうなると、練習時の惨劇が再び繰り返されることになるんだが……
「……まさか、本番に、こんな頭のおかしいルールがあるなんてな」
これは予想の斜め上を行き過ぎた。
そもそも、二人三脚で風船を割る、なんてルール自体、あるとは思わなかった。
何かの作品では、椅子に置いた風船を座って割る、って言うものがあったが……そんなものは、まだマシな方だ。
今回、抱き合いながら割る、ということは、当然胸辺りになるわけだ。
そうなると、学園一大きい依桜と、学園で二番目に大きい女委のペアだと、かなりえらいことになりそうだ。
当然、それを目当てにしている人もいると思う。
少なくとも、依桜のお父さん――源次さんはその目当てにしている人の一人で間違いないだろう。
遠目にだが、明らかに一眼レフカメラを構えてるし。
何をしてるんだ、あの人は……。
「では、三レース目に走るペアは、準備をしてください」
「お、呼ばれたみたいだぜ、行こうぜ!」
「ああ。それじゃ、俺たちは行ってくるな」
「うん。頑張ってね、二人とも」
「がんばってね~!」
二人の応援を受け、俺たちはスタート地点へ。
スタート地点に行き、互いの足を紐で縛る。
「……何が悲しくて、野郎と二人三脚をしないといけないんだろうな」
「仕方ないだろ? さすがに、依桜のファンクラブの人間に殺されるのはな……。俺たち、ブラックリストに載っているみたいだし」
「だよなぁ……。まあ、晶だから別にいいんだが……」
「その言い方は誤解を招くからやめろ」
今一瞬、背筋がぞくっとしたぞ。
こいつ、本当にホモじゃないんだよな? たまに心配になる時があるんだよ。
「でもまあ、これが終わればよ、依桜たちのエッロい光景が見れるわけだろ? なら、頑張って一位を獲らないとな!」
「……たまに、お前が本当にすごい奴なんじゃないか、と思う時があるんだが」
「そうか? はは! 見直したろ?」
なんて、調子よく笑う態徒。
まあ、主に悪い意味で、だがな。
呆れながら言ったというのに、何を勘違いしているんだろうな、この馬鹿は。
『準備が終わったようですので、先生お願いします!』
「では、位置についてー。よーい……」
パァン!
その音共に、せーので足を踏み出した。
「「1、2、1、2……!」」
伊達に友達をやっていないな。
俺たちのペアは、かなり高スピードで進んでいた。
ほかにも、何ペアか早い選手たちがいるが、俺たちほどではない。
なにせ、こっちはお互いの癖もある程度は把握してるからな。
そんな俺たちがまず目指すのは、50メートル先にある風船だ。
二人三脚だから、普段よりも速く走るのはなかなかに難しい。
かなり高スピードを維持しているとはいえ、俺たちでも、普段の本気のスピードが出せるわけではない。
俺の最高記録が6.9秒。おそらく、今のスピードは、8秒~9秒の間だろう。
だがまあ、今のところは一位であると考えると、マシ、か?
四人とも、出てる種目すべてで一位を獲っているからな。俺としても、一位は獲りたいのだ。
そんなことを考えつつ、風船が置いてある場所に到達。
「はぁっ、はぁっ……やべえ、意外と疲れんのな、これっ……!」
「ま、まあなっ。疲れないのなんて、依桜くらいだぞっ……。そ、それで? どっちが膨らませるんだ?」
「お、オレがやろう」
と、態徒が風船を膨らませてくれるようだ。
お言葉に甘えて、俺は態徒に任せることにした。
『三レース目、最初に風船エリアに到達したのは、最近、腐女子の間で密かなブームとなっている、美男と野獣カップルだ!』
「「ちょっと待てーーーー!?」」
態徒が、風船を膨らませようとしたところで、そんな実況が耳に届き、思わずツッコミを入れていた。
いや、当然だろう、これは!
なんだ、美男と野獣って! あれか? 美女と野獣のホモバージョンか!?
名作を汚すなよ!
『えー、こちらのカップルを題材にした、ラブストーリーな同人誌が学園内に出回っているらしいです! 作者は『謎穴やおい』さんと言う方です。素性がわかっておりませんが、良質なBLを描くとして、大変人気な方だそうです! ちなみに、私も愛読しております!』
そんな情報、いらないぞ!?
というか、その作者、どう考えても女委だろう!
何してるんだ、女委は! まさか、俺と態徒のBL本を描いて、校内に散布してたとは思わなかったぞ!?
見ろ!
「オロロロロロロ……!」
態徒なんて、あまりの酷さに、嘔吐してるぞ!
『おーっと! 変之態徒君、なぜか吐いてしまいましたーーーーーーー!』
なぜか、じゃない!
明らかに原因はお前だ! 放送部、大丈夫なのか!?
「す、すまんっ、晶……オレは、もう、ダメ、だ……ぐはっ……」
「た、態徒! しっかりしろ! 傷はあさ――くはないが、ここで死んだら、依桜と女委の二人三脚が見れなくなるんだぞ!? それでもいいのか!」
「ハッ! そ、それはダメだ! オレは、何としてもあのおっぱい合わせをみるんだ!」
……自分でやっておいてなんだが、こんな方法で起きるのは、世界広しと言えど、対とくらいなんじゃないか?
い、いや、今はそれに感謝するしかない。
「ふーーーーーーーッ!」
は、速い! ものすごい速さで風船が膨らんでいく!
50メートル走ったというのに、よくできるな。
……煩悩か?
そんなことを考えていたら、気が付けば風船が膨らみ切っていた。
いや、本当に早いな!?
「よ、よし……これだけ膨らませればよ、あまり至近距離にならない、よな?」
「そ、そうだな。……これ以上、美男と野獣なんてことは言わせたくないもんな」
「ああ……じゃあ、いくぞ」
「「せーの!」」
ぐぐぐっ……と、俺たちは風船を間に挟み、抱き合う。
すると、
『きゃああああああああああああああああ!』
……女子からの、黄色悲鳴が多数上がった。
お、落ち着くんだ、俺。平常心。平常心だ。
無心で抱き合うこと数秒。
パァン!
という、ものすごい破裂音と共に、衝撃が発生した。
し、至近距離で割ると、痛いな、風船。
「よ、よし、あとはゴールするだけだ!」
「ああ! 急ぐぞ!」
この後、何とか無事にゴールすることができたが……なぜか、ものすごく寒気がした。
……放送部は野放しにしたらいけないな。
「……と言うわけで、一位を獲ったぞ」
「お、お疲れ様……」
一位を獲ったのに、晶と態徒は沈んでいた。
見てわかるほどに、表所は暗く、晶は笑顔を浮かべているはずなのに、どこか暗い。と言うか、目がちょっと虚ろ。
態徒は、ゴールした直後、すぐに水飲み場にダッシュしていった。
……まあ、吐く、って言う大惨事になったからね……。
気持ちはわかるよ、態徒。
以前、ボクと晶の苦労を笑っていたけど、これでボクたちの気持ちを理解してくれたと思うので、是非とも、今後は笑わないでほしいと思いました。
「じゃあ、依桜君! わたしたちの番だね!」
「う、うん。頑張ろうね」
「もっちのろんだよ!」
晶君と態徒君を慰めていると、ついにわたしたちの番に。
ふっふっふー。わたしはこの時を待っていたよ!
なぜなら……合法的に、堂々と依桜君のおっぱいを触れるからね!
いやぁ、本当に病みつきになるんだよ、依桜君のおっぱいって。
大きくて柔らかいのはもちろんのこと、自由自在に形を変えるのに、決して垂れることはなく、ツンと上を向いて、綺麗な形を保っている。
さらに、もちもちしつつ、手に吸い付くような感じなのに、ものすごい張りのよさ!
あれは、まさに至高! 至高のおっぱいなのですよ!
いやぁ、楽しみだなぁ。
しかもしかも、抱き合うことになるんだから、なおさら……ふへへぇ。
「め、女委? 涎垂れてるよ?」
「おっと、ごめんごめん」
いけない。あまりにも楽しみすぎて、つい妄想が……。
晶君と態徒君の抱き合いもよかったけどね! リアルBL最高ですよ!
『準備が終わったようですので、先生お願いします!』
「では、位置についてー。よーい……」
パァン!
何度目かもわからないスターターピストルの音が響くとともに、せーので足を踏み出した。
「「1、2、1、2!」」
ふぉおおおおおおおおおおおおおお!
柔らかい! 柔らかいよぉ!
手で支えつつも、依桜君のおっぱいに触り、同時にわたしのおっぱいも依桜君のおっぱいに触れている!
美味しい! なんて美味しい競技なんだ!
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
わたしたちが走り始めると、会場――特に男性――が沸いた。
ふふふ。やっぱり、依桜君のおっぱいはすごいね!
『すごい! すごすぎます! 男女依桜さんと腐島女委さんの胸が、ものすごく揺れています! これには、会場にいる男の人たちも視線が釘付けです!』
「~~~~ッ!」
おお、依桜君の顔がみるみる真っ赤に!
可愛い、可愛いよ依桜君!
そして、すごいよ依桜君! 恥ずかしがりつつも、呼吸は合わせてるんだもん!
と、こんなに恥ずかしがりつつも、わたしたちはトップで風船のところに。
「じゃあ、風船を膨らませよう!」
「う、うん。じゃあ、ボクがやるね」
「ありがとう、依桜君!」
ふへへ、依桜君の息が入った風船……イイね!
「ふ~~~~~~っ!」
おお、すごい。
さすが、異世界で鍛えた体! みるみるうちに風船が大きくなっていくよ!
そして、気が付けば、あっという間に風船が膨らみ切った。
「はい、じゃあ、割ろっか」
「うん! それじゃあ、依桜君わたしの背中に手を回して? わたしは、依桜君の背中に手を回すから!」
「う、うん……」
恐る恐ると言った感じに、依桜君がわたしの背中に手を回してきた。
うんうん! いいねいいね!
依桜君、わたしよりも身長低いから、いい感じに見上げてくれるんだよね!
その時の依桜君って、恥ずかしいのかちょっと頬が上気しているんだよ!
エロい! エロいよ依桜君!
「じゃあ、せーので割ろうね?」
「う、うん」
「「せーの!」」
『おおおおおおおおお! 素晴らしい! 素晴らしいです! 巨乳と巨乳で風船を割ろうとしています! これには、会場内にいる男性たちも、目が釘付けどころか、ものすごくガン見しております! 目が充血していそうです!』
『俺、生まれ変わったら、風船になって、あの楽園に挟まりたいっ!』
『俺は、風船じゃなくて、今の間まで挟まりたいぞ! あの素晴らしすぎるおっぱいに挟まれて、生を終えたい!』
『はぁ、はぁ……やば、鼻血が……』
ぐぐぐっ、と、風船を割ろうとしているけど、お互いのおっぱいが柔らかすぎるせいか、なかなか割れない。
でも、形が変わるおっぱいは……いいものです。
そして、
「ふぅっ、んっ……! んっ~~~~~~……!」
と、必死になって割ろうとしている依桜君が、とってもエッチなんだよ!
しかも、微妙に喘ぎ声に近いし! いやぁ、この競技に出れてよかった! ありがとう、未果ちゃん!
だけど、楽しい時間と言うのは、終わりが来るものです。
おっぱいに圧迫された風船が耐え切れず。
パァン!
という、かなりの破裂音を響かせた。
それと同時に、
「ひゃんっ!」
ぶるんぶるん! ばるんばるん! と、わたしたちのおっぱいが揺れた!
それも、走っている時の比ではないくらいに!
その結果、
『『『ぶはっ!』』』
会場は、血で染まりました!
ふっ、いいものが見れましたよ。
『おーっと! あまりにも眼福すぎる光景に、会場内にいる男性たちが、一斉に鼻血を噴き出しました――――――! よく見ると、同じレースに参加していた男子の選手たちも、軒並みノックアウト! 恐るべし、学園のツートップ!』
見れば、他の選手の人たちは、みんな鼻血の海に沈んでいました。
おぅ、すごい光景。
これ、後片付けが大変そうだね!
『先生! 富樫君が息してません!』
『こ、こっちもです! ものっすごい安らかな顔で死んでます!』
『まずい! 救護班もやられた!』
『なにぃ!? 急げ! 急いでAEDを持ってくるんだ! 蘇生を急げ!』
『大変です! あまりにも刺激が強すぎたのか、大多数の人が心肺停止状態に陥ってしまったようです! 今、各地で人体蘇生が行われています!』
あっちゃー。ひっどいことになったね、これ。
「ど、どうしよぉ……」
依桜君は、顔を青ざめさせている。
うん。可愛い。
わたしは、現実逃避をした。
いやだってねぇ? まさか、死んじゃうとは思わなかったし……まあ仕方ないね。
依桜君だもん。
実際、その可愛さで、言葉だけで人を昇天させることができちゃうもんね。
ある意味、才能だよね、これ。
「とりあえず、ゴールしよう!」
「え、あ、み、未果!?」
逃げるように、わたしたちはゴールしました。
当然、一位でしたとも!
一位を獲れて、依桜君のエッチな姿も見れたし、おっぱいも触れたしで、最高の競技だったよ! ありがとう、依桜君!
この、とんでもない大惨事を引き起こした二人三脚は、後に『大惨事 おっぱい二人三脚』と、語り継がれることになったが……この時の依桜と女委は、知る由もなかった。
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