第112話 美天杯1
会場が大惨事になった二人三脚も何とか終わり、ボクたちは5人で集まって話していた。
「……まさか、俺と態徒のBL本があるとは思わなかったぞ」
「……オレもまさか、ネタにされてるとは思わなかった」
相変わらず、二人はグロッキー状態になっていた。
よほど、ショックだったんだね。
「これで、態徒もボクと晶の気持ちがわかったでしょ?」
「……おう。嫌と言うほどな。マジで、気持ちわ――うぷっ」
何を想像したのかわからないけど、言葉の途中で口元を抑えだした。
……よっぽど、だね。
女の子が好き、と常日頃から言っている態徒にとって、これはさすがに堪えたんだね。
「まあでも、一番の大惨事は、依桜と女委のペアだったけどね」
「「あ、あははは……」」
未果のセリフに、ボクと女委は乾いた笑いをするしかなかった。
……まさか、大勢の人が死んじゃうとは思わなかったんだもん……。
訳が分からず、呆然と立ち尽くしていたら、女委がボクを引っ張ってゴールまで行ってくれたおかげで、一位は獲れたけど。
その後、無事に死んじゃった人たちは蘇生され、天国にいた、とこぞって言ったらしいです。
「そう言えば、態徒は無事だったのかしら?」
「オレも死んだぜ!」
「いや、声高らかにして言うことじゃないよね?」
なんで、そんなにテンション高く死んだって言ってるの?
おかしくない? 死因、胸が揺れるのを見て、心肺停止だよ?
……ダーウィン賞も真っ青な死因だよ。
「会場も大騒ぎだったからな。至る所に、安らかな顔して死んでる人がいたしな」
「そうね。救護班も大惨事だったみたいだよ。救護班のはずの生徒や先生方も死んでたみたいだし。さすがね、依桜」
「さすがじゃないよぉ……」
死んじゃってる状態を見て、さすがと言えるのは、酷いと思う。
……実際に、そんな状態になっていたのだから、反論できないんだけどね。
「そういや、美天杯って大丈夫なのか? こんな状態だけどよ」
こんな状態と言うのは、グラウンドの色々なところが血溜まりができてしまっていること。
人のほうは蘇生が済んでいるので、大丈夫……なのかな?
「大丈夫んじゃないかなぁ。半分近くはもう綺麗になってるみたいだし」
「うわ、マジだ」
女委に言われ、グラウンドを見ると、たしかに半分近くの血溜まりがきれいさっぱりなくなっていた。
ど、どうやったんだろう、あれ。
この学園のことだから、最早何でもありな気がするけど……あの量の血溜まりをこの短い間に、どうやってなくしたんだろう?
難しいと思うんだけど……。
「それにしても、準備って一体何をするんだ? それに、試合ってどこで……」
晶が疑問を口にしていた時、それは唐突に現れた。
グラウンドの端の方から、工事現場の人みたいな人たちが色々な物を持って登場。
すると、監督? の人が、指示を出し始め、その指示に従い、何かを組み立てていく。
瞬く間に、その何かが組み立てられていき、気が付けば、天下〇武道会のような舞台が七ヶ所出来上がっていた。
え、何あれ。
『お知らせします。美天杯の準備が整いましたので、参加するの選手の皆さんは、グラウンドに集まるようお願いします』
と、ここで招集がかかった。
……え、あれで、やるの?
「すごいもんが出来上がっているが……とにかく行こうぜ、依桜!」
「う、うん。じゃ、じゃあ行ってくるね……」
「がんばってな」
「依桜、気を付けてねー」
「殺さないようにね!」
「し、しないよぉ!」
酷い声援を見たよ、ボク。
……ボクの場合、一歩間違えたらそうなるから、本当に笑えない。
き、気を付けよう。
『えー、それでは、選手の皆さんが集まったようですので、美天杯のルール説明に参ります! 初日の目玉競技である美天杯では、まず最初に予選をしてもらいす! 予選は簡単! 選手の皆さんには、まずこちらのくじを引いてもらいます。こちらの棒の先端には、A~Gのアルファベットが書いてあります。こちらのアルファベットは、予選のグループを表しており、一グループにつき、六人決めます。そして、あちらの舞台にある、七ヶ所の舞台でバトルロワイアル式で闘ってもらい、本戦通過者を決めてもらいます。そして、本戦に勧めるのは、各グループ一人だけ! つまり、自分以外の五人は敵ということになります!』
あれかな。時間短縮のための、バトルロワイアル式なのかな。
実際、最初からトーナメント式でやっていたら、時間も遅くなっちゃうもんね。
それにしても……一グループ一人なんだ。門は狭いってことかな。
『見事勝ち残り、本戦に進んだ人は、またこのくじを引いてもらいます。このトーナメントは、七番を引くと、シードになり、準決勝と決勝しか闘わなくて済みますので、狙ってみてくださいね! まあ、運ですが。……さて、続いて、試合においての注意点です。武器の使用は、一応ありです! ただし、刃物や金属バットなどは、死んでしまう場合がありますので、禁止です。使用可能なのは、竹刀、メダル、グローブ、鞭、ピコピコハンマーの計五種類です! ですので、これら以外の武器は使わないようにしてください! なお、今挙げた武器は、こちら側で用意しておりますので、必要な人はお声がけください』
う、う~ん?
ちょっと待って。
武器を使ってもいいのは分からないでもないけど……なんで、そのチョイス?
竹刀って、やりようによっては人を殺せるような気がするんだけど、いいの? ……あ、でも、木刀じゃないだけマシ、なのかな? これ。
で、次にメダル。……これはあれかな? 羅漢銭を使う人用、みたいなものなの?
使える人、いないと思うんだけど……。
もし、それ以外に用途があるとすれば、単純にとあるな人が使う、レールガンかな? でもあれ、体から電気を発生させられないとダメな気が……。
……師匠辺りができそう。
で、グローブ……これは、ボクシングとかで使われるような物、なのかな。だとしたら、武器って言えないような気がするけど……ゲーム内だと、装備品として出てくるから、武器でいいのかも。
鞭。これは……高校生で、鞭が使える人がいたら、なかなかすごいんじゃないだろうか。あれ、結構難しいもん。……師匠は、自由自在に操ってたけど。
あの人、体の一部のように使うんだもん。遠くにある物を鞭で取ったりね。
そして最後。ピコピコハンマーなんだけど……あれは武器なの?
あれ、痛くないよね? だって、叩いても音が鳴るだけのおもちゃだよ? あれを武器と言うのはなかなかに難しいような……。
『では次に、リタイアの判定です。リタイアは大きく分けて二つあります。一つは、舞台上でダウンして10秒経過すること。二つ目は、場外に落ちること。この二つが、主なリタイアの状況です。ちなみに、先ほど言った、危険な武器などを使った場合も、即リタイアになりますので、絶対に使わないようお願いします』
その辺りは、普通なんだ。
でもまあ、高校生のお遊び……と言っていいのか分からないけど、それくらいのものだったら、ルールはこれくらいでいいのかもね。
……これが異世界だったら酷いからね。闘技場とか、必要だったから一度出たことあるけど、何でもありだったもん。
殺したらアウトだけど、死ななければ、何をしてもセーフ、なんていうルールだったからね。ルールってやっぱり、大事ですよ……。
『これでルール説明は以上になりますので、選手の皆さんは、早速くじを引いてください!』
その指示で、美天杯に出場する人がくじを引きに行った。
「一緒にならないといいな」
「そうだね」
移動している時、態徒がそんなことを言ってきたので、ボクは肯定した。
だって、友達を攻撃するのって気が引けるもん……。
……あれ? でもボク、前に態徒を投げ飛ばしたり、みんなに針を刺したりしてるから、攻撃してるんじゃ……?
……深く考えないでおこう。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ……これ」
なんとなくで選んだ棒の先端には、Gと書かれていた。
ボクは、Gグループみたい。
「態徒はどこ?」
「オレは、Bだな。依桜は?」
「ボクはGだよ」
「……胸のサイズか?」
「そ、そうだけど、違うよっ!」
ばちんっ!
「ぐはっ!?」
変なことを言った態徒に、軽いビンタをプレゼントした。
……まったくもぉ。
「態徒、冗談でも言っちゃだめだからね!」
「す、すびばぜん……」
「もぉ……」
「……で、でぼ、よがっだだ、べつのグドゥープでよ」
「そうだね」
「まあ、依桜なら本戦出場は確実だからな。仮に、オレが敗退しても問題ないだろ」
「……ボクの場合、ちょっとチートみたいになっちゃうけどね」
「ははは! 別に、努力した結果だから問題ないだろ。チートじゃないぞ?」
からからと笑いながら態徒がそう言ってくれた。
たしかに、ボクが死に物狂いで努力した結果だけどね。
でも、ずるだとは思ってない。
「しっかし、意外と女子もいるもんだな」
「そうだね。……なんか、ボクだけが浮いているような気がするよ」
「まあ……仕方ないんじゃね? 実際の強さはともかく、華奢だもんな。それに比べると、依桜以外に参加している女子って、いかにも体育会系って感じだよな」
「そうだね」
この美天杯に参加している女の子は、どう見ても、武術やってますよ! って言う人たちばかりだった。
普通に筋肉がついてるし、いかにも強そう。
そんな中で、筋肉がついていない(ように見える)ボクは、かなり浮いている気がした。
ボク以外、みんな筋肉がすごいんだもん。
男子の中には、体操着が小さいのか、ピッチピチで、鍛え上げられた筋肉が浮き出てるもん。ムキムキですよ。
腹筋とか、綺麗の六個に割れてるもん。
……ボクも、男の時はあんな風に割れてたんだけどなぁ。
……まあ、今の姿で腹筋が割れてるって、ちょっと嫌だけど。女の子だし……って、違う違う。ボクは男。ボクは男!
……なんだよね?
「しっかし、やっぱりいたなあ、あいつ」
「あいつ?」
「ああ。見ろよ、あれ」
「えーっと……あ、あの人って」
態徒が示した先にいたのは……
「佐々木藤五郎だ。瓦割りで、二位だった奴だな」
あー、あの見るからに強そうな人。
……まあ、どう見ても武術とかやってそうだったもんね。瓦割りとか、すごかったもん。
態徒が勝ったけど。
と、ボクたちが見ていたことに気が付いたのか、佐々木君が近づいてきた。
「変之態徒! この競技でこそ、貴様を倒す!」
ビシッと態徒を指さして、宣言してきた。
……態徒、目を付けられちゃったんだね。
「いや、オレ、お前とは違うグループだぞ?」
「そんなもの、勝ち残ればよかろう! 俺はな、貴様を合法的にボコボコにできるこの機会をありがたいと思っているのだよ!」
……ほんとに、すごい人に目をつけられてるよ、態徒。
「だからな、絶対に勝ち残れよ! さもなければ、競技以外の時に貴様を倒さねばならなくなるからな!」
「あー、はいはい。わかったから、早く行ってくれ」
「舐めた態度をしおってぇ……! 今に見ていろ! 貴様を倒したら、俺は小斯波晶も倒すのだからな!」
そう言って、佐々木君は去っていった。
……それにしても、晶も目を付けられちゃってるよ。
二人が一体何をしたんだろう?
「態徒、大丈夫?」
「まあな。……正直、オレはあいつとだけは当たりたくねーな」
「どうして? 態徒って、結構強いと思うんだけど……」
「そりゃ、武術をやってるから、それなりにな。だが、あいつとはある意味じゃ相性がな……。あいつ、どう見てもゴリッゴリのパワー型だろ?」
「うん。そうだね」
「瓦割りを見ていたから分かると思うんだが、ほぼ腕力だけで割ってたんだよ、あいつ」
「え、それってすごいことなんじゃ……」
だって、二十七枚もの瓦を、力だけで割ってたってことになるから。
ボクはまあ……例外すぎるけど、それってなかなかできることじゃない気がする。
「しかも、スピードもあるから、なかなかに厄介な奴なんだよ。最悪、負けるかもなぁ」
「だ、大丈夫だよ。仮に、本戦に術上したとしても、当たらなければいいんだし……」
「……それはそうだけどよ。やっぱ、心配じゃん? 親友の前で負ける、なんてかっこ悪い姿を見せるってのはな……」
「普段からかっこ悪い姿を晒してるから、気にしなくてもいいと思うんだけど……」
「……何気に酷くね?」
「だって、鼻血を出して死ぬような友達だよ? それを何度も見てるボクからしたら、かっこ悪いんだけど……」
「……反論できねぇ」
ぐうの音も出ないと言った感じだった。
ほんとのことだし……。
『それでは、皆さんくじを引き終えたようですので、これより、試合に移りたいと思います! 各選手の皆さんは、自分のグループの舞台に行ってください!』
色々と話しているうちに、美天杯が始まろうとしていた。
……なんだか、色々心配だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます