第531話 妹たちの学校生活【孤児組編】
世の中は得てして大半の物にとっては理不尽である。
それは法の世界もそうだし、魔の世界でもそうだ。
運という未知であり、不確定な要素がある以上、当然の如く不幸な者や幸運な者がいるわけだ。
生まれた時は不運だったが、後から幸運に恵まれた者だっているし、反対に生まれた時は幸運に恵まれていたのに、成長していくにつれ不幸になっていく、などというのは割とよくあることだろう。
ずっと運が良い者もいるかもしれないし、ずっと不幸な者がいるかもしれない。
だが、どちらにとっても確実に悪い方、もしくは良い方に傾く時だってあるわけで。
その少女たちは、生まれた時から不幸だったと言えよう。
一人は戦争の影響で両親を失い、一人は生まれてすぐに様々な理由で捨てられ、一人は野盗に両親を殺され、一人はただ一人の親を傍若無人な者に連れていかれて殺され、一人はクズのような両親の元へ生まれて。
そうして少女たちはそれぞれ孤児院へと引き取られ、平穏で穏やかな生活を送っていた。
それは大きな幸運とは呼べずとも、小さな幸運呼べる環境だった。
しかし、そんな状態も不運によって破られることとなる。
一人は優しい振りをして近づいた者に騙されて攫われ。
一人は一人になったところ攫われ。
一人は寝ているところを攫われ。
一人は傍若無人な者の手下の騎士に連れていかれ。
一人は捕まってしまった友達の代わりに連れていかれ。
そうやって五人の不幸な少女たちは途中で初めて顔を合わせ、そしてとある小屋にある檻の中に入れられた。
法の世界の子供たちとは違い、魔の世界の子供たちは精神が割と発達している。
環境がもたらす精神への影響は計り知れないのである。
さて、この世界において、子供が誘拐されるとなると、この先碌な目に遭わない、というのは共通の認識であり、その認識が五人にもあった。
故に、五人は檻の中で恐怖に震え、この先の真っ暗な人生を頭の中に思い浮かべて涙を零した。
大きな幸せがこないまま、自分たちの一生が終わる。
そう思っていた時である。
小屋の中に見知らぬローブを着た人物が入ってきた。
その人物は入ってくるなり、誰かと話している素振りを見せたあと、フードを外して優しく微笑みながら少女たちに話しかけた。
「君たち、ちょっといいかな?」
びくっ、と少女たちは見知らぬ人物に肩を震わせると、後ずさる。
「ごめんね、驚かせて。えっと、君たちは自分の意思で、ここにいるの?」
度重なる疲労や、劣悪な環境、さらには碌な食事が与えられていない五人は上手く声を出すことが出来なかったので、小さく首を横に振ることで意思表示をした。
「それじゃあ、誰かに連れてこられて?」
今度はこくこく、と頷く。
「えっと、出たい、よね?」
それを見てか、目の前の人物は困ったような、けれど真剣な表情で五人に問いかけた。
それに対し、五人は藁にも縋る思いでこくこくと頷いた。
すると、目の前の人物は魔法でナイフを生成すると、それで鉄格子や少女たちを縛っていた鉄製の手枷足枷を切断し、自分たちを出してくれた。
『イオ様。外から、いや~な気配がいくつかこっちに向かってきてます』
ふと、どこからか聞いたこともない言葉が聞こえて来て驚く。
「ありがとう。ちょっと、ごめんね」
「「「「「――っ!?」」」」」
一言謝りを入れたと思ったら、目の前の人物は突然自分たちの足元に穴を出現させ、自分たちをその中に入れた。
もしかして、騙された? と絶望しそうになる五人だったが、その直後にその人物が優しそうに、そしてどこか忙しそうに、
「その中で、食べたいものを思い浮かべれば、食べ物が出てくるから! あと、洋服も!」
そう告げた。
その直後に穴は閉じられたが、五人はふわふわと浮かぶようなそんな不思議な感覚を味わいながらも、試しにと食べたい物を思い浮かべてみると、本当に頭の中に思い浮かべた物が出現した。
五人は顔を見合わせると、遠慮がちながらも出現した食べ物を口に入れ始めた。
その食べ物たちは温かく(なぜか)、それでいてとても優しい味がして、思わず五人の瞳から涙を溢れさせる。
それから、五人は堰を切ったように、食べ物を食べ続けた。
そうして、しばらくするとどこからともなく穴が開き、そこからあの優しいお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
どうやら出て来てと言っているようで、五人は恐る恐ると言った様子で不思議な空間から外へ出た。
すると、そこは自分たちがいた例の小屋がある森などではなく、すぐそばにお城が存在するどことも知れない芝生だった。
見た感じ庭園か何かであるという事はわかるが、それしかわからない。
しかし、目の前には見たことがない男がいて、お姉ちゃんと何か話していると思ったら、自分たちに視線が向けられ、何かされるのでは? という不安から、優しいお姉ちゃんの後ろに隠れた。
「どうやら、イオ様に懐いているようですね」
男――ジルミスは苦笑い気味に優しいお姉ちゃん――依桜に向かってそう言う。
「あ、あはは…………えーっと、君たちのお名前を教えてくれるかな?」
ジルミスの言葉に苦笑いを浮かべた後、依桜は五人の方を向くと、しゃがんで視線を合わせてから名前を尋ねる。
「ニア、です」
「り、リル」
「ミリア」
「クーナです……」
「……スイ」
「うん、ありがとう。えっと、君たちは自由になったんだけど、どうしたいかな?」
五人の名前を聞いて、一つ頷いてから、依桜は五人に今後のことを尋ねた。
依桜的には、元々暮らしていた場所に戻りたいか、それともここで暮らしたいか、という意味での言葉だったのだが、
「え、えと、お、お姉ちゃんと一緒が、いいです……」
ニアが代表者として、依桜と一緒にいたいと告げた。
「え、えっとね、ボクは、その……三日後には元の世界に帰らないといけなくて、ね? その、一緒にいるにしても、ちょっと今日を入れて四日間しかいられないの」
まさかのお願いに、依桜は思わず面食らうものの、すぐに自分がこの世界の人物ではなく、尚且つ数日したら元の世界に戻らないといけないと告げる。
が、しかし。
「……で、でも、わ、私たち、行く場所がない……」
「お、お姉ちゃん、お、お願い、します……」
「お姉ちゃん、お願いします!」
「私たちを連れてって……!」
「……お姉ちゃんと一緒がいい」
少女たちはそれでも、と懇願した。
自分たちには孤児院で暮らしていた。
別に、それ自体が嫌だ、などという事はないが、あまり金銭的事情がよくないことは子供ながらに理解していた。
仮に戻ったとしても、数ヶ月間も行方をくらましていた自分に、果たして居場所はあるのか。
そんな思いや、自分たちを助けてくれたこの優しいお姉ちゃんのと一緒に暮らしたい。
そう思ってしまったのだ。
それに、自分たちには本当の両親がいなかったし、何よりこんなに一緒にいると暖かで、心が休まる、そんな依桜だから、少女たちは本気でお願いした。
だが、依桜は元の世界の事情のことやら、他にもいろんなことを考え、葛藤する。
それに、メルが既にいるのである。
ここにまた五人が増えるのは……!
みたいな。
しかし、しかしである。
そもそも、メルという可愛らしい少女の懇願に根負けする依桜である。
「「「「「……(潤んだ目+上目遣い)」」」」」
「…………………………この世界とは全然違うけど、それでもいい?」
少女たちの潤んだ瞳と上目遣いのコンボを喰らえば、抗うことなどできずに撃沈するのが当然と言えるだろう。
結局、依桜は五人が一緒の世界に行くことを許可することにした。
「「「「「うんっ!」」」」」
依桜から許可を貰ったことで、五人はそれはもう年相応の可愛らしい笑みと共に、大きく頷いたのだった。
それからは服を買ったり、クナルラルを観光したりするなどで帰還までの時間を過ごした。
そうして、帰還する日となり、五人は依桜に連れられて法の世界へと旅立つ。
転移魔法とは違う、未知の技術による転移におっかなびっくりになりながらも、なんとか異世界に到着し、見知らぬ女性と依桜が何やら話した後に、依桜の住む家へと向かった。
到着した家へ入ると、紫紺色の髪をした少女が依桜に抱き着いた。
二人は何やらよくわからない言語で話していて、少女はこちらを見た後に、にこっと笑う。
それから依桜は五人にわかる言葉で話しかけると、付いてくるように告げ、五人は中へ。
広めの部屋に入ると、依桜は自分たちに言語を覚えて貰うと話し、五人は難しそうと思ったのだが……それらは案外あっさりと覚えられた。
全員が一文字だけでも日本語を覚えた時点で、『言語理解』のスキルを得たからである。
これにより、五人はそれはもう日本語がぺらっぺらになった。
そしてそこで一緒にいた紫紺色の髪の少女について尋ねると、どうやら魔王であるという事がわかる。
クーナとスイの二人は魔族であるため、驚くことになったが、案外すぐに仲良くなる。
途中誰が姉になるのかという話題になったが、それも案外あっさり決まり、依桜の両親への紹介を経て、五人は晴れて男女家の養女となることが決まった。
「というわけで、今日から儂がおぬしらの姉になるぞ!」
引っ越すことが決まり、五人はメルが住む部屋に一度移動し、所謂顔合わせ的なことを行うことにした。
まあ、顔合わせというより、メルがこの世界について軽く説明するという、ある種の説明会みたいなものだが。
「まずおぬしらには覚えてもらうことがあるぞ! 外にある鉄の箱は、車と言ってな? あれはとても危険な物じゃ! おぬしらじゃ、死ぬかもしれぬ!」
「「「「「怖い……!」」」」」
突然死ぬかもしれないと言われ、五人は軽く恐怖した。
「じゃが、安心するといいぞ! 儂らにはねーさまもいるし、ミオもいるからの! それに、歩道と呼ばれる、歩く者のみの場所もあるので、そこを歩けば大丈夫じゃ!」
「「「「「ほっ……」」」」」
しかし、メルが自信のある笑みで対処法を言えば、五人は安堵の声を漏らす。
まあ、実際いきなり死ぬかもしれないなどと言われればこうなっても不思議じゃないだろう。
「それからじゃな――」
と、メルはこの世界で覚えたことを五人に伝えていく。
お金に関すること。
学校に関すること。
家具や家に備え付けられている家電に関すること。
とりあえず、現時点でメルが知っているこの世界についての常識についてを、全員に語って聞かせた。
その間、五人はとても興味津々に聞いており、時折怖がりつつ、時には笑うなど、子供らしいリアクションを見せていた。
「――とまあ、こんな感じじゃな! 何か訊きたいことはあるかの?」
「はい!」
「うむ、ミリア!」
「学校って楽しいの?」
「楽しいぞ! 儂たちと同じくらいの子供と一緒に勉強するからの! おぬしたちにも、友達がいっぱいできるぞ!」
ミリアの質問に、メルはにこにこと楽しそうに笑いながら、そう言う。
すると、五人もメルの様子から楽しそうだと理解し、学校への期待を膨らませていく。
もともと五人は孤児院で暮らしており、同年代の友達もいたにはいたが、学校という物には当然行ったことがなく、そこに行けるとわかると嬉しいのだ。
それに、友達がいっぱいできる、というのが一番嬉しい。
半ば勢いで依桜についてきたものの、それでも不安はあった。
自分たちがこの世界の住人ではなく、異世界の存在であること。
言葉はどうにかなったけど、それでも今までの暮らしの違いはあるし、何より自分たちが暮らしていた街の外ですら未知の領域だったというのに、それ以上の未知へと進んでいくわけなので、余計だろう。
だがしかし、先駆者とも呼べるメルの説明で、それはもう安心したし、同じ場所に通えるというのは大きい。
あと、依桜もいるので。
「はい!」
「お、クーナも質問かの?」
「はいなのです!」
「なんじゃなんじゃ? なんでも答えるぞ!」
えっへんと胸を張って自信満々に言うメルに、クーナは少しだけ不安そうにしながらも、大丈夫だろうとメルに質問をする。
「えと、その、学校というからには、勉強があるのですよね? でも、私たちはよく知らないのです……大丈夫なのですか?」
そう、クーナの質問とは、自分たちは何も知らず、そんな自分たちでも学校に通えるのか、というものだ。
それには、他の面々もたしかにと不安によって表情に陰りを見せる。
しかし、メルは何でもないように笑うと、安心させるように話す。
「うむ! 問題ないぞ! それに、儂も最初は何も知らなかったからな! じゃが、儂も色々と教えてもらって、通っておるぞ!」
「そうなんですか?」
「そうじゃぞ! だから安心するといいのじゃ!」
「よかった、です……」
「だね!」
「はいなのです……」
「……安心」
「それに、もしもわからなかったとしても、ねーさまが教えてくれるぞ!」
「「「「「なるほど!」」」」」
姉大好きな妹たちは、メルの発言に同意するのと同時に、嬉しそうに破願させた。
出会いからあったの数日程度でこの懐かれよう、さすがと言えばいいのか、妹たちが少々ちょろかったのか……そこはわからない。
というわけで、依桜の世界に来た直後に引っ越しが行われることとなった。
最初こそ、部屋割りでもめにもめたが、結果的に夜寝る時は依桜と同じ部屋で寝る、という結論に落ち着いたものの、今度は依桜と同じ階の部屋がいいという喧嘩が発生し、こちらも依桜が週ごとに変えるという事でなんとか決着をつけた。
ともあれ、引っ越し後は編入準備である。
新設されたばかりの初等部への編入だが、本来なら定員オーバーではあるが、そこはまぁ、学園長がOKを出したし、何より依桜の頼みなら基本的に聞くので、問題はなしである。
引っ越しは無事に完了し次の日。
今日からメルを除いた妹たちは学園に行き、学園についての説明を受けることになっている。
もちろん、簡単な基礎知識などの学習も行う。
所属するクラスについても、あらかじめ決めており、ニアとクーナはメルと同じ四年一組で、リル、ミリア、スイの三人は三年二組に編入することになっている。
異世界人ということもあり、固まっていた方がいいだろうという考えによるものだ。
一応、来年からはばらけさせる予定ではあるが。
さすがに、特別待遇をずっと続けるのはまずい為とのことらしい。
そうして、最初は依桜の友人たちに顔を見せて、その日は終了し、次の日に五人はそれぞれの編入予定のクラスにて勉強時以外は共に過ごすことになる。
というわけで、週末ではあるが、五人はそれぞれのクラスにいた。
まず四年生組。
「は、初めまして、男女ニアです! よ、よろしくお願いします!」
「初めまして、男女クーナなのです。これから、よろしくお願いします」
「というわけで、この二人が新しくみんなのお友達になります。はい、拍手!」
担任である、響子が笑顔でそう言うと、クラス内から拍手が起こる。
別段強制されているわけではなく、普通に子供たちの方もかなり笑顔だし、何より二人は可愛い容姿をしていたので、割と嬉しそうにする子供も多いし、男の子の中には少し頬を赤らめている子供もいるが。
依桜が見たら、黒いオーラを出しそうである。
「この二人は、色々な事情で授業の時は別の場所で受けることになりますが、休み時間や給食の時間は一緒にいることになるので、仲良くしてあげてくださいね。あと、男女という苗字からわかるように、ティリメルさんとも姉妹なので、ティリメルさんも色々と教えてあげてね」
「はいなのじゃ!」
メルの元気いっぱいな返事に、響子と二人は安心したような表情を見せた。
「それじゃあ、折角だし簡単な質問コーナーをしたいんだけど、二人は大丈夫かな?」
「大丈夫です!」
「はいなのです!」
二人の返事を聞いて、うんうんと頷くと、早速とばかりに質問コーナーへ移る。
「それじゃあ、二人まとめて訊いてみよっか。質問したい子はいるかなー?」
そう尋ねれば、いっきに手が上がる。
その光景に少しだけ面食らう二人だったが、すぐに嬉しそうに微笑む。
少なからず、自分たちを意識してくれているようだ、と。
「はいっ!」
「じゃあ、甘井さん」
「んと、好きな物はなんですか?」
「イオお姉ちゃんです!」
「お姉さまなのです」
二人の回答は、実に二人らしいと言うか、妹たちらしいと言うべきか……好きな物は依桜だとそれはもう可愛らしい笑顔で答えた。
尚、つい最近全く同じことを言った子供がいて、それをクラスメートたちは覚えていたためか、既視感を覚えた。
あと、姉妹共通で出てくるその姉が、一体どんな人物なのか気になるとも。
一応、メルと親交が深い巴と姫華に関しては、依桜についてのことを聞いているので納得しているが。
「それじゃあ次は……うん、川田君」
「好きな運動はなんですか?」
「えっと、私はお散歩が好きです」
「私はボールを使った物が好きなのです」
それぞれの運動の好みについて二人は回答する。
ニアは色々なことを知るのが好きなためか、いろんなところを散歩して回ることが好きなためで、クーナは向こうで遊ぶという行為自体、大体がボール遊びだったり、駆けっこだったりしたためである。
「じゃあ次の質問は……水原さん」
「好きなゲームはなんですか!」
「あ、えと、私たちゲームをしたことがなくて……」
「気にはなっているのですけど……」
あはは、と二人は困惑したような笑いを零した。
それはそうである。
一応、二人はメルや依桜たちからこっちの世界についてある程度教えられており、その中にはゲームに関する知識もあったのだが、二人は……というか、妹たちはゲームをしたことがないのである。
別に、男女家にゲーム機が一台もない、というわけではなく、単純に妹たちが依桜との触れ合いを最優先にしているからなのだが。
尚、それなりに興味自体はある。
『すっごくそんしてるよ!』
『うんうん!』
『うちに来ればすっげぇゲームがあるから、いっぱいできるぜ!』
などなど、二人がゲームをしたことが無いと言うと、クラスメートたちは別段からかったりすることはなく、むしろ同情したり、しれっと遊びに誘ったりするほどであった。
「うんうん、じゃあ質問コーナーは終わりしましょうね。訊きたいことがあったら、休み時間に聞いてね? もちろん、迷惑がかからないように」
『『『はーい!』』』
と、このように四年生組の方は問題なしであった。
続いて、三年生組。
こちらは、メルのように、先駆者が存在しないため、三人はかなり緊張しており、特にリルが一番ガッチガチであった。
「授業中はしばらくの間は別だが、今日からみんなの新しい仲間になる、三人だ。まずは、自己紹介を頼む」
三年二組では、朝の会にて担任である、桐辻京太郎(二十六歳 彼女無し)がそう切り出し、三人に自己紹介をするように指示していた。
「じゃあ、ぼくから! はじめまして! 男女ミリアです! よろしくお願いします!」
緊張しているリルを安心させるため、ミリアは元気いっぱいに自己紹介の先陣を切った。
そんなミリアの様子を見て、リルはほっと胸をなでおろし、次は自分が、と口を開く。
「はじめ、まして。男女、リル、です。よろ、しく、お願い、します」
いつものように、少々たどたどしくもなるべく笑顔で、自己紹介をこなす。
そして、最後はスイ。
「……はじめまして。男女スイです。よろしくお願いします」
スイは表情の変化が乏しく、やや冷たい印象を与えているが、本人は別にそんなことはなく、むしろ新しい環境にわくわくしているところである。
「ということだ。途中から来たからっていじめたり、仲間外れにすることのないようにな。……じゃあ、一旦これで――」
次の授業の準備がある、ということで朝の会を終わりにしようとすると、
「せんせー! 三人にしつもんしたいです!」
「わたしも!」
「おれも!」
などなど、生徒たちから三人に質問がしたいという希望が出た。
「あー、たしかに親睦を深めるって意味ではありだな。よし、じゃあいくつか質問するとするか。三人とも、大丈夫か?」
「だいじょうぶ、です」
「はーい!」
「……大丈夫」
「よし。じゃ、トップバッターは……」
質問がOKとわかると、子供たちは我先にと手を上げだす。
仲には、はいはい! と口に出しながら、それはもう指されようと必死である。
子供だからこその微笑ましさと言えよう。
「大島さん」
「はい! えっと、好きなものはなんですか!」
四年生組への質問と全く同じ質問がこちらでも飛んで来た。
男女家における、依桜の妹たちは基本的に同じことしか言わないのだが。
まあ、誰もが予想できることだと思うだろう。
答えは至ってシンプル、
「イオ、おねえちゃん、です」
「イオねぇ!」
「……イオおねーちゃん」
まぁ、依桜のことである。
むしろ、男女姉妹の共通点は全員が依桜に対してかなりの好意を抱いている事だろう。
なんだったら、四年生組よりも三年生組の方が大きいかもしれない。年齢的に。
そんな回答だが、三人はそれはもう可愛らしい笑顔で答えたものだから、まだまだ純粋な少年たちの顔を赤くさせた。
まぁ、可愛いので。
「はい次の質問だが……じゃあ、佐々木君」
「三人は姉妹なの?」
姉妹かどうかの質問。
「そう、です」
「そうだよ!」
「……もち」
三者三様の答え方をしたが、息はぴったりなのか、答えるタイミングは同時だった。
全員が姉妹である、という回答はまぁ苗字から分かる事ではあったものの、同時に子供たちの頭の上には疑問符が浮かんだ。
髪色と瞳の色である。
まぁ、子供なので深い疑問には感じないが、それでも全員の髪色が違っていることは不思議に思うだろう。
今の子供はネットに触れる機会がかなり増えているので。
そのため、どこからともなく知識を得て来るのである。
だからまぁ、遺伝についてのことを知っていても何らおかしくはないわけで……子供たちは思った。
同じ苗字なのに、どうして髪色が違うのか、と。
とはいえ、結局は誰も質問することは無いのだが。
「次は……あー、宗さん」
「好きなことはなんですか?」
「イオおねえちゃん、と、いっしょ、に寝ること、です」
「イオねぇと動くこと!」
「……イオおねーちゃんの上で寝ること」
上で寝るって何? と思った子供多発。
でも、やっぱり聞かなかった。
聞き間違いだと思ったから。
子供とて、よくわからない単語はスルーするのである。
「あー、なんか全員が微妙に困惑してるっぽいんで、これで質問コーナーは終了な。三人は休み時間と給食、あとは朝の会と帰りの会は一緒だが、勉強時は別で受けることになる」
「えー、なんでなんでー?」
「いっしょに勉強したい!」
「まぁ、色々と都合があるんだ。けど、いずれは同じように授業を受けるから、それまでは休み時間や給食の時間で我慢するように。あぁ、だからといって押し寄せ過ぎないようにな。以上。仲良くやれよー」
『『『はーい!』』』
そんなこんなで、三年生組の方もつつがなく自己紹介等を終えた。
男女姉妹たちはクラスメートたちと仲良くなっていき、かなりの人気者になった。
尚、時たま告白をするというある種の身の程知らずという少年たちが現れたが、妹たちが依桜を止めることでなんとかなっている。
恐るべし、ドシスコンなTS美少女。
……もっとも、そのドシスコンも徐々に深まって行き、尚且つ妹側も依桜以外をそう言う意味で好きになることは無いので、攻略が不可能レベルなのだが。
そこは、言わぬが花というものだろう。
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