第235話 呼び出し

 春休みも特にこれと言ったことがなく過ぎていき、春休み最終日の四月七日。


 今日は、ショッピングモール、メルと一緒に来ていた。

 理由は、明日から始まる学園に通うための、ランドセルを買いに行くため。

 あとは、筆記用具とかノートとか。


 今年から新設される、初等部と中等部の内、初等部には制服がない。つまり、服装は自由と言うことになっている。


 私立って、制服があるイメージだったんだけど、ちょっと意外だった。


 その代わり、中等部から制服があるとのこと。まあ、当たり前かな?

 一応、服装的には、高等部の生徒が着ている制服と同じだけど、男子の場合はネクタイの柄が違う。高等部だと、進級するごとに柄が緑→青→赤、と言う風に変わるんだけど、中等部の場合、緑・青→青・赤→赤・緑、といった風に二色使われたものになる。

 で、女の子の方は、中等部はネクタイになって、高等部はリボンになる、という違いがある。


 ちなみに、色は緑→青→赤の順番で、これは中等部・高等部共通。

 ボクもリボンの色が緑から青になります。


 あ、もちろん、制服の柄を選択できますよ。


 それから、今までは女の子の方だけしか制服の柄は変えられなかったんだけど、今年から男子の方にも追加されたそうです。

 こっちも前々から進めていたそうです。


 あとは、これで男女差別だ! なんて言われたら嫌だから、って学園長先生が苦笑いしながら言っていた。

 まあ、たしかにどっちか片方を優遇していると、そういう苦情が来てもおかしくないからね。いい判断だと思うよ。


「それにしても、ランドセルかぁ。五年くらい前まではランドセルを背負ってたなぁ」

「ねーさまも背負ってたのか?」

「それはそうだよ。ボクにだって、小学生だった頃があるんだし」


 まあ、正確に言えば、五年に+三年した数字が、最後にランドセルを背負ってた日だったりするんだけど。


「儂は、ねーさまのおさがりでもよかったんじゃが……」

「ううん、それはさすがに可哀そうだよ。いくら、三年間しか通わないとはいえ、お古はちょっとね。それに、ボクのランドセルは少し古くなっちゃったから。どうせなら、メルのために新しいのを買いたいんだ」

「ねーさま……わかったのじゃ! ねーさまがプレゼントしてくれる、ということじゃな?」

「まあ、そうかも。メルが来ちゃった原因は、ボクにもあるしね。それに、ボクはお金に余裕があるから、メルにランドセルを買ってあげるくらい、わけないよ」

「ねーさまは、お金持ちなのかの?」

「うーん、まあ多分、世間一般で言えば、その部類、になるのかな?」


 原因は、学園長先生だけど。

 あの人が、今までのあれこれのことに対するお金を振り込んできたから。

 結局、まだまだ残ってる。


 一億切ったのかな? 今って。

 一応、家のローン返済に使われたから、少なくとも九千九百万は確実にあると思っていいかな。


 うん。それでも多い。


 これ、使いきれなくない?


 いやまあ、貯金はあるだけあった方がいいんだけど……。

 金銭感覚がおかしくなりそうでちょっと心配。


 ボクは小心者だから、逆に使えなさそうだけどね。


「ねーさま、あそこか!?」


 と、メルが前の方を指さしてボクにそう尋ねてきた。


「うん。そうだね。じゃあ行こ」

「うむ!」



「おー、いっぱいあるのぅ……どれでもいいのか?」

「もちろん。好きなのを選んで。どれでも買ってあげられるから。でも、一個だけだからね?」

「わかったのじゃ」


 そう言うと、メルは目をキラキラさせながら、ランドセルを選びに行った。


 うん、なんか微笑ましい。


 でも、そうだなぁ、メルが似合いそうな色は……うーん、なんだろう。

 メルは、紫色の髪(赤のメッシュが毛先に入ってる)に、紅の瞳だから……やっぱり、赤かなぁ。

 あ、でも全体的に赤多めになっちゃうんだよね。


「ねーさまねーさま!」


 と、うんうん唸っていると、メルから呼び出しの声がかかった。

 とりあえず、考えるのは後にして、メルの所へ。


「どうしたの?」

「ねーさま、これはどうかの?」


 と言って、メルが示してきたのは、なんかどこかのマンガの主人公が来ていた服に似た柄のあれ。

 正直、テレビでずっとやっていてうんざりしている人も多く出始めてるであろう、マンガに登場する衣服の柄。


 いや、正確に言えば昔から日本にあった柄を、どこかの出版社が商標登録しちゃったものなんだけど。もちろん、叩かれたけど。


「えーっと、それがいいの……?」

「かっこいいなと思ったんじゃが」

「メル、そう言うのはやめておいた方がいいよ?」

「なんでじゃ?」

「そういうのは、周囲のブームに便乗して作られたものなの。でも、いざブームが過ぎて、数年先も使っていたとしたら、いじめられる原因になりかねないんだ。そもそも、ランドセルは買い替えることなんてまずしないものだからね。よく考えて選んだ方がいいよ」


 別に、便乗するのは否定しないけど、正直なところ、こういう買い替えないで、数年間も使うような物に対してはやめた方がいいんじゃないかなぁ。利益ばかり考えていると、後々になって自分たちの首を絞めるような結果になりかねないからね。

 なんて思う。

 後々になって、絶対困るもん。恥ずかしい思いをするのは、あくまでも子供だからね。


「そうなのか」

「うん。メルには、普通にシンプルなのが似合うと思うよ、ボク」

「ねーさまがそう言うのなら、シンプルなやつにするぞ!」

「それじゃあ、好きな色は?」

「んーと……赤!」

「赤ね。じゃああっちのはどうかな?」

「うむ、あれにするのじゃ!」

「え、そんなあっさりでいいの?」

「ねーさまが教えてくれたものが一番いいのじゃ!」

「そ、そっか。じゃあ、あれにしよっか」


 結局、メルのランドセルは赤色になりました。



 それから、筆記用具やノートを買ったり、ゲームセンターに寄ったり、フードコートで甘いものを食べたりしたボクたちは、家に帰った。


 家に帰った直後、スマホが鳴り、メールが一件来ていた。

 学園長先生からで、内容は、


『今すぐ、学園に来て』


 とのこと。


 なにやら急用らしいので、ボクは急いで学園へ向かった。



 いつも通りにノックして、中に入る。


「来ましたよ」

「もうすぐ夜なのに、ごめんなさいね」

「いえ、慣れてますから。それで、何かあったんですか?」

「ええ、ちょっとこれ見て」


 そう言って、。学園長先生がPCの画面をボクに見せてきた。

 そこには、日本の地図が映し出されていて、所々に、なにやら黒い点のような物が表示されていた。


「これは?」

「ここ最近、空間歪曲が日本各地で多発していてね。この黒い点が、それ」

「ええ!? だ、大丈夫なんですか、これ?」

「今のところ被害者はいないわ。私の研究所の方で、研究員たちが変わりばんこで監視しているわ」

「それならよかったです……。でも、どうして急に? それも、日本に」

「さあ? 正直、私たちの方でも原因がわかってなくてね。でも、依桜君が異世界に行っていたおかげで、空間歪曲にはそれぞれ種類があることがわかったの。ちなみに、ここ最近見られている空間歪曲は、依桜君が行った世界の物ではないわ」

「え? それじゃあ、新しい世界が見つかった、ってことですか?」

「それはわからないわ。実際、この空間歪曲の先に行かないと」

「そうですか……」


 それは困った。


 日本各地でこれが多発していると言うことは、今は被害者がいなくても、いずれ被害者が出てきてしまう可能性がある。


 ただでさえ、向こうの世界の人がこっちに来ちゃったりしていて、大変だというのに、今度はこっちの世界の人が知らない世界に行くかもしれないと思うと、結構まずい。


「どうにかならないんですか?」

「一応、色々と調べてはいるけど、対処はまだ。そもそも、これがなんで発生しているのかわからなくて。これに巻き込まれたらどうなるかわからない以上、研究は急がないといけなくてね」

「大変ですね……」

「ほんとよ。まあでも、色々と調べられる、って言うのは楽しいからいいけど」


 それはそれでどうなんだろう……?

 あんまりよくない状況なのに、楽しむって……。

 平常運転だね、学園長先生。


「そう言えばこれ、いつから発生してるんですか?」

「そうね……四月に入ってから、かしら」

「本当に最近ですね」


 六日前から多発しちゃってるんだ。


「それから、一番空間歪曲の頻度が高いのは、美天市なのよね……」

「え、ここですか?」

「ええ。あ、もちろん、私たちは何もしてないわよ? むしろ、こっちが知りたいくらいなんだから」

「……ほんとですか?」


 関係ない、と言う風をに言う学園長先生に、ジト目を向ける。


「うわー、信用ないなー、私」

「当然です。学園長先生が原因で、向こうの世界の人たちはこっちに来ちゃいますし、それに、ボクがこんな姿になっちゃいますし。散々だったんですから」

「本当に、申し訳ない」

「まあ、もういいですけど……。それで、ボクを呼んだ意味って何ですか?」

「ほら、依桜君って巻き込まれやすい体質じゃない? もしかすると、依桜君がこれに巻き込まれて、おかしな世界に行っちゃうかもしれないと思ったから」

「あー……ひ、否定できない……」


 いろんなことに巻き込まれすぎて、一年生後半はすごい大変な日常ばかりだったもん・……。

 自分でも、え、何でこうなってるの? みたいな状況になったし……。

 女王になったのが、一番いい例だよね。


「だから、気を付けてね」

「は、はい」

「でも、本当にどこに繋がってるのかしらね、これって」

「ボクたちが知ってる異世界じゃないんですもんね?」

「ええ。少なくとも、パターンが違うから、まったく別の世界だと思うんだけど……。さすがに、これに巻き込まれて、この先の世界を調べる! って言っても、どんな危険があるかわからない以上、どうにもできないから」

「まあ、そうですよね……」


 さすがに、ボクが行きます! なんて言えないし。


 そもそも、学園長先生が言うように、どこに繋がっているかわからないから、怖いんだよね。


 それにしても、なんで急に増えたんだろう?

 しかも、美天市が一番多いらしいし……。


 何かあるのかなぁ。


 思い浮かぶのは、学園長先生なんだけど、今回は違うみたいだし……。


 うーん、わからない。


 一応、自然現象の一種だって、前に言ってたから、異常気象に近い何かだと思っていた方がいいかも。


 学園長先生がわからないなら、どうしようもないしね。


「とにかく、私の方でもしっかり調べておくから、依桜君も気を付けてね。……まあ、見えないものを気を付けろ、って言うのはちょっと無理難題な気がするけど」

「仕方ないですよ。まあでも、ボクも気を付けます。さすがに、もう転移する、なんてことはないと思いますから」

「……今、見事にフラグが立ったわね」

「何か言いました?」

「ああ、ううん? なんでもないわ。それじゃあ、話は以上だから、気を付けて帰ってね」

「はい。それじゃあ、失礼します」



 学園長先生の話を聞いた後だから、少しドキドキしながら家に帰宅。

 何事もなく、無事に家にたどり着いた。


 家に帰ると、もう夜ご飯の準備はできていて、すぐに夕食となった。

 それを食べたら、ボクはお風呂に入って、いつも通り、メルと一緒に寝ました。


 明日から二年生。気を引き締めないと!

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