第100話 女委のパン食い競争(酷い)
「よしよーし、わたしの出番だね!」
パン食い競争の招集がかかったので、グラウンドに集まると、いかにも食べるのが好きですよ! みたいな人が多かった。
いやぁ、やっぱりタダでパンが食べられるんだもんね。やるしかないでしょ。
どんなパンかは気になるけど、きっとおいしいものに違いないよね。
この学園の購買で売られてるパンって、何気に手作りだし。しかも、すっごくおいしいからね。期待度MAXですよ!
まあ、パンよりも依桜君の作った料理の方がおいしいけどね。
学園祭の準備期間中に食べたおにぎりとか、味噌汁とか。あとは、学園祭当日に作ってた料理とかね。
いいよねぇ。美少女で、優しくて、家庭的とか。
元々男の娘で、ここまで女の子が似合う人はなかなかいないよね! 奇跡ですよ奇跡!
依桜君に頼んで、また何か作ってもらおうかな。食べたいし。
むぅ、食べ物のことを考えてたら、お腹空いてきたなぁ。
早く始まらないかな。
「……んー?」
ふと、なにやらいい匂いが漂ってきた。
どこからかなと思って、周りを見回すと、コース上に設置されたパン食い競争用の物干し竿からだった。
上からカーテンのようなものを被せられているからよく分からないけど、このいい匂いが漂っているのは、絶対にあそこからだ。
『さてさて! パン食い競争の準備が整いました! 選手の皆さん、コース上をご覧ください!』
放送の人のそのセリフと共に、バッとカーテンのようなものが取り払われ、そこに吊るしてあるものがあらわになった。
……あ、なるほど。そう言う感じなんだね。
『この学園のパン食い競争は、通常のルールとは違ったものとなります! 何が違うかと言いますと、まず、よくある未開封品のパンではありません! 吊るされているのは、出来立てのパンです! つまり、熱々です!』
だよね!
どう見ても、熱そうだよ! 湯気が出てるよ! あと、明らかに悪意を感じる様な選択だよね!
『ちなみに、レースに用意されているパンは、激辛カレーパン、直径三十センチの激熱ピザ、激堅フランスパン、コッペパンからマスタードがはみ出ているホットドッグ、とある獄激辛の焼きそばを挟んだ激辛焼きそばパン、激熱タルト式ドリア、レモン一〇〇個分の果汁をぶち込んだ激酸っパン、最早辛子しか入っていない肉まん、大量のわさびソースがかけられたドーナツ、直径三十センチの熱々アップルパイ、砂糖ではなく、間違えて塩を大量に使ってしまったメロンパン、ケチャップではなく激辛唐辛子ソースを挟んだ激辛ハンバーガー、ドリアン100%使用のジャムを塗りたくったドリアンジャムパンなどがあります!』
……う、うわぁ。なんて馬鹿なラインナップなんだろうなぁ。
その頭がおかしいラインナップを聞いた選手の人たちは、顔を青ざめさせていた。
食べることが大好きなわたしでも、このラインナップはちょっと厳しいものがある。
あと、明らかに作る側が失敗したよね、って言うパンが存在しているのも、嫌なポイントだと思います。
お祭り好きを突き詰めると、ここまでカオスなパン食い競争になるんだねぇ。
『一レースに付き、六人で走ってもらいます! いつものルールであれば、どのレーンのものを食べてもよかったのですが、それだと怪我につながる恐れがあるとして、今年から事前にくじを引いて、どのパンを食べるか決めてもらいます! と言うわけで、先生方、よろしくお願いします』
まさかの、聞いていたルールとは違うものに。
「聞いての通りなので、一レース目に出る人、くじを引いてください」
最初は楽しみにしていた人たちも、さすがにラインナップが酷すぎて、完全にお通夜ムードになってる。
おおぅ、楽しいことが大好きなわたしでも、これを純粋に楽しむのは至難だねぇ。見てる分には楽しいけども。
いや、逆に考えるんだ、わたし。
これはむしろ、滅多に食べられないものばかりだと。
実際、いくつか、普通に美味しそうなものがあるからなぁ。
アップルパイとかよさそう。あと、タルト式ドリアとか。
あとは、ピザかな。多分あれ、クアトロフロマッジなんじゃないかな。どうみても、チーズオンリーだし。これらは、普通に美味しそう。
わたしの出番は、最後だからなぁ。
早く食べたい。
そんなことを考えているうちに、どうやらくじを引き終えていたみたいだね。
ある人は、安堵したような表情。ある人は、FXで有り金を全部溶かしたような表情。ある人は、嬉々とした表情。
うん。当たり外れがよくわかるパン食い競争だね!
『くじを引き終えたようなので、ここでルール説明です! まず、選手の皆さんは、パンがある場所まで走ってもらいます。スタート地点から、パンがある物干し竿までの距離は50メートルです。通常のルールなら、咥えてゴールするだけですが、この学園ではゴールテープ前の机で、全て完食してもらいます。完食した人からゴールできます。ただし、最後の一口を飲みこんでからゴールしてくださいね。続いて、失格の条件に関してです。こちらは、ほかの選手の妨害をした場合にのみ、失格となります。仮に、咥えたパンが落下してしまった場合、減点となりますので、注意してください。ちなみに、物によっては咥えて持っていくことができないものがありますので、その場合は手を使っても大丈夫です。使っても大丈夫かどうかは、くじに書かれていますので、そちらを見てください。なお、万が一落としてしまったら、新しいものが用意されますので、ご安心ください』
結構ルールが細かいんだね、このパン食い競争。
手を使ってもいいパン食い競争というのも、なかなか斬新な気がするよ。いや、すでにパンのラインナップが斬新すぎるけどね。
『さあ、ルール説明も終わりましたので、競技に入りたいと思います! 一レース目に走る選手の皆さんは、スタートラインに立ってください!』
おや、ここからは放送がある程度仕切るんだね。
『それでは、先生お願いします』
「それでは、位置について、よーい……」
パァン!
と、スターターピストルが鳴り響き、パン食い競争が始まった。
まあ、ここは、面白い人? の食事風景をDieジェストで。
『うぐあああああああああああああ!? か、かれぇえええええええええッッッ!!』
これは、激辛カレーパンを食べた人の断末魔。
顔を真っ赤にしながら、火を噴いている。え、人間って本当に火を噴けるんだ。
『あっつ!? このピザあっつ!? つか、手が焼ける! 口の中が山火事レベルなんだけど!? ぎゃあああああああああああああああ!? チーズが! チーズが目にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!?』
これは、激熱ピザを食べた人の断末魔。
熱々すぎるピザは、その熱さゆえに、人の手と口を大惨事にしている。うん、本当に熱そうだね! 火傷しそう。と言うか、この人、熱々のチーズが目にクリーンヒットしてるけど、大丈夫なのかな? かなり心配。
『ああああああああっ!? やばい! この肉まんやばい! 鼻が! 鼻にくるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!?』
これは、最早辛子しか入っていない肉まんを食べた人の断末魔。
辛子って、食べすぎると鼻にツーンとくるよね。わかるよわかるよ!
『しょっぱ!? このメロンパンしょっぱ!? やばっ――ゲホゲホ! き、気管にっ、ぱ、パンくずがっ!』
これは、砂糖と間違えて、大量に塩を入れてしまったメロンパンを食べた人の断末魔。
あれ、どれだけ入っているのか、すごく気になる。
と、一部を抜粋してみたけど……うん。酷い。
少なくとも、断末魔しか上げてないねぇ、これ。
ほかにも、ドリアン100%使用のジャムを塗りたくったパンを食べた人は、あまりの臭さに気絶したり、レモン一〇〇個分の果汁をぶち込んだ激酸っパンを食べた人は、あまりの酸っぱさに、涙が止まらず、口の中が痛くなったりしてましたよ。
いやぁ、何度も言うようだけど、ひっどいねぇ、これ。
高校の体育祭で見る光景じゃないね! いやぁ、面白い!
あまりにも酷すぎる光景に、会場は大爆笑ですよ。
わたしももちろん大爆笑。
まあ、わたし以外の選手の人は、次は自分の番なんだと、ガクブルしてたけどね!
その光景はまるで、これから出荷される豚さんですよ。
……例えが残酷だね、これ。ちょっと変えよう。
うーんと……小さい子供が、注射の順番待ちをしている様子、かな。
それにしても、ドリアン100%使用してるだけあって、本当に臭うね。
50メートルも離れてるのに、ここからでも臭いがくるんだけど。
すごいねぇ、ドリアン。あれ、武器になりそうだね。
『さあ、六レース目も終了! 最後の七レース目です! 選手の皆さん、くじを引いてください!』
おお、ついにわたしの出番だ。
くじが入った箱を持ってる先生の所へ。
「さ、引いてください」
「はーい」
ごそごそと、箱の中を探る。
どれにしようかなぁ……んー、これだ!
「えーっと……お、激熱タルト式ドリアだ」
やった、普通に当たりが出たよ!
紙には、手を使って取ってもOKって書かれてるし、ラッキーラッキー!
「では、君は第四レーンに行ってください」
「はいはーい」
言われた場所に立ち、スタートを待つ。
しばらくすると、全員そろった。
わたしと同じ組の人の顔を見ると……みんな死んでいた。
あのラインナップを考えると、顔が死ぬようなパンは、激辛系か、ドリアンくらいかな。
熱いのは、それさえ我慢してしまえば美味しいものだからね!
『それでは、選手の皆さんの準備が整ったようですので、先生お願いします』
「位置についてー。よーい……」
パァン!
もうすでに、何度も鳴らされている音が響き渡ったタイミングで、わたしを含めた選手が走り出した。
目標は、くじ引きで当てた、自分が食すパン。
50メートル走なので、体力測定と同じくらいの速さで行くのがベスト、と思うのが一般的だけど、わたしは少し手を抜いて走った。
激しい運動をした後だと、食べられないからね。
それに気付いているのは、半数の選手で、気付かなかった選手は、全力でパンのところに向かっていた。
指定されたパンを咥える(もしくは手で持つ)と、ゴールテープ前にある机に座ってパンを食べ始めた。
わたしも、少し遅れて激熱タルト式ドリアを回収、机に向かった。
「いただきます」
本当なら、フォークかスプーンが欲しいところだけど、どうやら素手で食べなきゃいけないみたいだね。
……うん、本当に熱い!
お手玉していた人の気持ちがよくわかるよ。たしかに、これは火傷するや。
まあ、熱さなんて、夏のコ〇ケに比べたらマシなもんですよ。
と言うわけで、熱々のタルトにかぶりつく。
「あちち!」
ドリアのチーズがものすごくぐつぐつしてたから、絶対に熱いと思ったけど、本当に熱いね!
はふはふと何とか熱を逃がしながら咀嚼。
……あ、美味しい!
いい感じにドリアはとろとろだし、タルトの方もサクサクしてるから、すごく食感がいい。
チーズも数種類使っているのか、コクがあるし、それに合わせたソースもほどよい甘みに、トマトの酸味があってすごく美味しい。
これ、お店に出せるんじゃないの? ってくらいに。
あー、わたしのこの食レポスキルのなさよ。
でもまあ、わたしが美味しいと思ってるからいいよね! すっごい熱いけど。
『おーっと! 一年六組腐島さん! 激熱タルト式ドリアを瞬く間に食べ進めていく! 速い! ものすごく速い! 熱さを意に介さず食べ進める!』
いやあ、ラインナップを見た時はどうなることかと思ったけど、これならいくらでも食べられるね!
そのまま、ぱくぱくと食べ進めていき、
「ごくん。……美味しかった。ごちそうさまでした!」
最後の一口を飲みこんでから、席を立ってゴールテープを切った。
『ゴール! 第七レースを制したのは、一年六組腐島さんです! ものすごく熱いタルト式ドリアを、ものすごい速さで完食しました! 圧倒的です! これにより、西軍には、三十点が加算されます!』
いやぁ、一位獲れちゃったよ。
やったね。これで、優勝まで一歩近づいたね。まあ、どうでもいいんだけど。
「ふぃ~、タルト式ドリア美味しかったなぁ。あれ、購買で売りに出してくれないかなぁ」
やっぱり、食事のレベルが高いと、モチベーション上がるもんね。
まあ、一番はやっぱり、依桜君の料理なわけだけど、いつも食べられるわけじゃないからね。美味しいものが増えてほしいな。
この後、最終的にゴールできたのは、二人だけだった。
ほかの三人は、あまりの辛さで
二位と三位は東軍だったのがちょっとなぁ。
んー、まあ、いっか! どうせ、次の種目は依桜君が出るしね!
それに、わたしも一位が獲れて満足満足!
あとは、借り物・借り人競争で入賞できるか、かな!
いやぁ、この学園の体育祭は楽しいね。ここまでとは思わなかったよ。
次の障害物競争、依桜君がどんなことになるか、楽しみで仕方ないです。
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