第295話 異世界の本
アイルランドに到着。
ふむ、気温は低めだが、全然問題ないな。
しかし、ここはいい国だな。
自然豊かで、空気も澄んでいる。
あれだな。あたしの住んでいた場所を思い出す。
「さて、滞在できるのは、今日だけだ。さっさと、用事を済ませるかね」
まだ朝の時間帯だが、まあ、問題がないわけじゃないからな。
とりあえず、反応は……ふむ。いくつかあるな。
一、二……合計で五ってところか。
なかなかに多いな。
少なくとも、全世界にいるブライズの数は……まあ、五百ちょいってところか。
ふむ。この国には、五分の一の数のブライズがいるってわけだ。
さて……ここは一つ、あたしの修行にも活用しようじゃないか。
これは、イオの正体を探るための旅でもあるかもしれないな。あたしの『鑑定(極)』を鍛えまくれば、閲覧不可だったイオの種族・固有技能の部分が見れるようになるかもしれない。
ならば、あたしはひたすらに『鑑定(極)』を使い続けていればいいわけだ。
滞在は今日だけだし、さっさとブライズどもを滅ぼすかね。
あたしは適当に歩く。
正直なところ、ブライズの正確な位置は補足しているんだが、どういうわけか、見当たらなくてな。
十中八九、もうすでに誰かに取り憑いているか、もしくは見えないのか、だ。
あたしにとって、面倒なことこの上ないんだが……まあいい。
見えないのなら、見えるようにするまで、ってな。
しかもこの状況、あたしの『鑑定(極)』を鍛えるのにちょうどいいかもしれんな。
あたしは目に映るものすべてを『鑑定(極)』で丸裸にする。
正直、視界に映るすべての物に対して『鑑定(極)』を使うのは、得策じゃない。というか、常人なら想像を絶する頭痛に襲われて、一瞬で意識が飛ぶな。
あたしは、もう慣れている。というか、そうやって鍛えたんだ。今更頭痛が来ても、大して痛くもない。
……ん? なんだこりゃ。
いつもとは若干毛色が違うな……。
禍々しい……いや、黒い? というより、無、か?
少なくともこの反応がブライズだが……なるほど、変質か?
だとしたら、厄介かもしれんな。
こんな奴がこの世界の人間に取り憑こうものなら、こっちの世界の人間にはどうすることもできないな。
ならば、さっさと消すに限る――
そう思った時だった。
『きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
不意に、女の悲鳴が聞こえてきた。
なんだ?
ちょっと気になるし、行ってみるか。
軽く『千里眼』を使用して位置を特定、『感覚移動』にて、自身にそこへ行ったという情報を覚えさせ、『空間転移』で移動。
やはり、この三連コンボは使い勝手がいいな。行ったことがない場所にも、『空間転移』で行けるようにすることができる。
これがあれば、どこにでも転移が可能になるのだから、楽なものだ。
一応、この方法を用いれば、世界中、どこにでも行くことができるが、さすがに犯罪者になるつもりなど、毛頭ない。
ならば、多少はこちらの世界のルールに従うまでだ。
だからこそ、あたしは飛行機なんていう、遅い乗り物に乗って移動しているんだがな。
それで? 一体何が……ふむ。どうやら、厄介ごとらしい。
『殺す……殺す!』
一人の男が、ブツブツと殺すと呟いているな。
体から黒い靄が僅かに漏れているところを見ると、どうやらブライズに取り憑かれたらしい。
つまり、あの男は黒い感情を持っていた、ということになるな。
あれは、人の黒い感情を増幅させる効果しか持たん。故に、黒い感情を持った人間にしか取り憑かない。
そして、その感情は嫉妬やら殺意がある。
ならば、あの男は誰かを殺したいと思っているとみた。
まあしかし、面倒であることに変わりはないな。
さて、止めてやるかね。
「おい、さっさとその男から出てけ」
『殺す……!』
「チッ、聞く耳持たない、か。仕方ないな……死ぬなよ?」
そう言ってあたしは、手に聖属性の魔力を纏うと、そのまま顔面を殴った。
男は錐もみしながらすっ飛んでいき、やがて地面にダイブした。
まあ、回復魔法も付与してたし、問題はないだろ。
痛みでショック死してなければな。
『はっ……! お、俺は一体何を……』
よし、問題なしだな。
ブライズも綺麗に消滅したみたいだし、あたしは次へ行くかね。
そういや、図書館に行きたいな。
こっちの世界にも神話があるらしいし、もしかするとそこに何か手掛かりがあるかもしれんしな。
ああ、そうだ。
「おい、殺したいほどに難い奴がいるんだろうが、抑えな。衝動で殺しても、なんの意味もない」
『え……?』
「じゃあな」
呆けた顔をする男に背を向け、あたしはひらひらと手を振りながら立ち去った。
それからは、意外とすぐにブライズ共は見つかった。
二人ほど取り憑かれちまったが、まあ、問題なくぶっ飛ばしたし、大丈夫だろう。
さて、最後に図書館に行きたいんだが……どうするかね。
なんて、少し考えていたら、
『あの……』
唐突に話しかけられた。
「ん? なんだ?」
『いえ、悪魔憑きを祓って回っている女性がいると聞きまして……あの、あなたがそうでしょうか?』
「悪魔憑き……? んなもん、あたしは祓ってないが……」
『そうなんですか? ですが、いきなり暴れ出した人を抑えたりしていると聞いたんですが……』
……ああ、悪魔憑きってのは、そう言うことか。
「たしかに、そう言う奴らを倒して回ってるのはあたしだな」
『やっぱり! ちょうどよかった! えっと、実はお礼がしたくてですね……』
「お礼? 別に、そう言うもんはいらんぞ? あたしは、あれらを世界中回って、情化しているだけだ」
『そ、そうですか。では、何か望みはありませんか?』
「……ああ、それなら一つだけあるぞ?」
『本当ですか!? では、なんなりと言ってください!』
「ああ、実は図書館を探していてな。できれば、でかい場所がいいな」
『図書館ですね。わかりました。この近くに、国内で一番大きい場所があります。そこへ行きましょう』
「ああ、頼む」
ちょうどよかったな。
これで、少しは調べられるというものだ。
ちなみにだが、あたしに話しかけて来た奴は、どうも政府の人間らしい。
なぜか、一日の間で暴れ出す国民が何人か出たので、それを調査していたらしい。
んで、それを鎮めて回っているあたしの存在を知り、そして見つけ、話しかけてきたようだ。
まあ、こっちとしては、図書館に行けるとあってちょうどよかったがな。
情報を入手するのが早いんだな、政府ってのは。少なくとも、今日出現したばかりなんだが……まあ、細かいことはいいか。
そんなわけで、政府の奴が案内してくれた。
図書館に行くなり、あたしは奥へと進む。
本来は立ち入り禁止エリアがあるそうだが、今回はなぜか許可してくれるとのことだ。
ありがたいから、全然いいがな。
それで、禁止エリアである地下へ行くと、目を疑うものがそこにはあった。
「おい、この本は……」
『ああ、それですか。かなり昔、とある人物がそれを書いたらしいのですが、本人もわからないそうです。見たこともない文字で書かれた本らしきものを、書き写したものだそうです。それは、原本ではなく、写本ですよ』
「そうか……」
なんだって、こっちの世界に向こうの言語で書かれた本があるんかね?
どうも、こっちの世界とあの世界は密接な関係にある気がする。
いや、まだわからんがな。
それに、あたしはこっちの世界に来たばかりだ。ならば、思い過ごし、ということもあり得よう。
「それで? この本は、読んでもいいのか?」
『構いませんが……それは、誰にも解読できていない文字なんです。多くの考古学者や、言語を研究する方たちが解読を試みましたが――』
「……なるほど。この世界は、二つではない、か」
『え!? よ、読めるんですか!?』
「まあな。それで、この本なんだが……あたしがもらってもいいか? どうやら、知りたい情報が少しはありそうでな」
『それは……はい。どの考古学者の人たちも、価値がないと言っていましたので、誰かに貰われて行っても問題はないと思いますが……』
「そうか。なら……これを礼代わりに貰っていくが、構わないな?」
『わかりました。図書館側にもそう伝えておきましょう』
「すまないな。……さて、あたしはそろそろ出るとしよう」
『そうですか。では、お気を付けて』
「ああ。じゃあな」
あたしはそう言うと、図書館を出ていった。
飛行機のチケットを購入し、あたしは本を見つめる。
タイトルは、『世界神ノ独言』か。
世界神となると……これは、あれか。ミリエリアが直接書いた本なのか?
だとすれば、なぜ、この本の写本がこっちの世界にあるのか、ということになるんだが……まあ、とりあえず中身を見てみるか。
というか、もっとマシな名前はなかったのか。
「……あー、これはたしかに、あいつの書き方かもしれないな」
なるほど。この世界は、無数にあり、それぞれ対を成す世界がある、か。
たしかあいつは、あの世界を管理する女神で、その初代管理者だったな。
……ん? そうなるとあいつってもしかして、あの世界を創った神、か?
まあ、まだ断定はできん。とりあえず、続きを読むか。
『世界は無数にある。だけど、世界を創り出しているのは、他でもない、神。――が創り出した世界は、この世界ともう一つ。一つは魔法があり、一つは魔法がない。でも、両世界には魔力はある。だからこその対』
ね。
魔法がある、なしに関しては、どうやらミリエリアがそうなるよう創った……というより、そう言う風にしか創れなかった、か?
ところで、この読めなくなっている部分は、一体なんだ? 普通なら、ここには『私』だとか、『俺』だとかのような、一人称が入るはずだが……なぜ、見れなくなっている? あいつって、一人称『私』じゃなかったか? ちがったっけか?
ふぅむ……よくわからん。
まあいい、それはそれとしてだ。
この世界……というより、おそらく創造神と呼ばれる神どもは、全ての世界にいるのだろうな。
そして、この場合、この世界と向こうの世界は、ミリエリアが創ったことになるだろうな。
対となる世界を創り出す、ねぇ?
なぜ、世界は対でなければいけないのかはさておき、つまるところ、世界は無数にあるものの、それぞれには必ず対となる世界が存在し、それらは何らかの形で分かれている、と。
この世界と向こうの世界の場合は、魔法の有無だが、世界によっては、人種の違いや、何らかの法則の有無、という形で分かれている可能性があるな。
それで、他は?
『世界のバランスは、対になることで保たれる。片方が崩れれば、片方は修正しようと動く。そうして、滅びかけてしまう。滅びかける時の前兆は――――に――――が出てくること。これが発生してしまったら、あとは――をするしか、崩壊を止める術はない。これには当然、その世界を創造した神が必要。でも、創造神が死ねば、後釜の神には不可能。神は転生する。見つけることができれば、問題なく、――ができるはず。――はそう考える』
「なんだ、ところどころ読めなくなってるな……」
しかし、崩れる、ねぇ?
ここで言う、『崩れる』とは、一体何を指しているんだ?
わからん……。さすがに、あたしは何でも知っているわけではない。いくら、天才とは言え、わからないことだってある。
というか、マジで神が言うことはわからないんだよなぁ。
あいつら、マジで謎だらけだし。
そもそも、神とは一体何なのか、という部分から考えなけりゃいけない。なぜ、創造できる神と創造できない神がいるのか、という部分とかな。
神には何らかの能力があるが……。
そもそも、なぜ神は世界を創るんだ?
……あ、いや待て。そう言えば、以前会ったあの神が言ってたな……たしか、
『いやぁ、やっぱ生命が動くのって面白いじゃん? そこで生きてるだけで娯楽ってかね? それに、神々は生物が好きでねぇ。ほら、神は持っていないものがあるじゃん? それが面白いんだよ。だから、生命を作るのさ。不完全でね』
だったか。
ほんとあいつら、クソだよな。
ミリエリアを見習ってほしいものだな。あいつ、神なのに異常なくらいいい奴だったからなぁ。
まあいい。それで、他には?
『近いうち、――は死ぬかもしれない。でもきっと、――は生まれ変わる。――として。だけど、――の時の記憶はきっとないだろう。でもそれは決して、消えるわけじゃない。魂の奥底に封じられて、基本的な――が無くなった時に、――は顔を出すはず。でも、それは一瞬で、――に戻れば、また消える。でも、記憶は共有される。だから、――は消えることはない。その時のために……世界が崩れそうになった時のために、この本を残す。きっと見ているであろう、――の親友、ミオに届くように』
「……あいつ、こんな本を残していたのか?」
まさか、あたしに向けて残している本だとは思わなかったな。
だが、やはりところどころ読めなくなってる。
おそらくだが、時間経過とともに劣化してしまったんだろう。
『――の能力の断片はあると思うけど、それは、――の人たちを――するだけ。でも、それで十分。――は――が好きだから』
ここで終わってるな。
他にも色々と書かれているみたいだが、今のところはこれだけでいいだろう。
ミリエリア、ね。
まあ、この本は何かと重要そうだ。
あたしに向けた本だ。なら、あたしが大切に持っていなきゃいけないな。あいつの形見って奴かね?
あいつはいつも、あたしと一緒にいてくれたからなぁ。
にしても、読めなくなった部分が気になる。
一体、何が書かれていたんだ?
これはこっちの世界の本で書かれている。だから、劣化し、読めなくなっている。
なら、向こうの世界の物で書かれている原本なら、劣化せず、読めるんじゃないか?
原本ならば、この本に書かれている謎がわかるはずだ。ならば、目的の一つに追加、と。というより、優先かもしれんな。
正直、ミリエリアについて調べることは、何か色々なことについてわかりそうだしな。
まあ、今のあたしが一番気になってるのは、あたしの愛弟子なんだがな。
「ふぁぁ……さて。着くまで寝てるか……」
着いたらそのまま学園だしなぁ。
仕事は嫌いじゃないし、必ず行く。
ふっ……あたしも、真面目になったもんだ。
あ! しまった! アイルランドの地酒飲み損なった! くっ、その内、『空間転移』で行ってやる!
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