2-3章 ミオの世界探訪
第294話 調査へ
時間は遡り、ミオが依桜の世界に来た後のこと。
「それで? 要件はなんだ? エイコ」
突然異世界――イオが住む世界に呼び出されたあたしは、エイコが経営する学園とやらに、教師として働いていた。
つってもまあ、ちょっと体の動かし方を教えるだけだ。あたしからすれば、余裕ってものだな。こんな楽な仕事があるとは、思わなかったし、殺す技術が必要ない職業ってのも、個人的には新鮮でいい経験だな。
いくつになっても、経験は積めるってことか。
んで、あたしが赴任してから、少し経った、十二月頭頃の土曜日。あたしはエイコに呼び出されていた。
「ミオって、最近世界を飛び回ってるらしいじゃない?」
「まあな。ちょっと、調べることがあるんでね」
「なるほど。じゃあ、私からお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「お願い? エイコの頼みなら、受けるのもやぶさかではないが……ただ働きってのは、御免だぞ?」
この辺りは、単純にあたしが意地悪だったり、優しくないんじゃなくて、お互いのためでもある。
ただ働きをさせ、それを了承するってのは、後々問題を生みかねないからな。
仕事とプライベートはちゃんと分けるんだ、あたしは。
……まあ、イオなら、特に報酬は要求しないんだがな。愛弟子だし。
「もちろん。ただ働きじゃなくて、報酬は払うわよ」
「ほう? どのくらいだ?」
「んー、そうねぇ……とりあえず、定期的にやってもらいたいことだから、一回につき、四十万ほどでどうかしら?」
「ふむ……まあ、それならいいだろう」
「ふふ、交渉成立ね?」
「ああ。それで? あたしは一体、何をすればいいんだ?」
「やってもらうと言っても、今まで通り、この世界を調べてくれれば問題ないわ。その際に、ちょっとこっちが調査していることを、ミオがデータ採取してくれればいいわ」
データか。
たしか、異世界に関する研究だったな。
この世界と、あたしがいた世界に関するデータらしいが……まあ、いいだろう。
しかしまあ、こっちの世界に、世界観を移動できる物を発明する奴がいるとは思わなかったな。
あの世界ですら、世界間移動は不可能で、召喚と送還しかできないというのに。
いやはや、エイコはすごいな……。
「了解だ。なら、あたしはそろそろ出発するかね」
「あ、待って。それともう一つ。どうも、こっちの世界に、向こうの世界の人が紛れ込んじゃってるらしいから、その人たちの保護もお願い。一応、研究のためにほぼ全世界の国々に拠点があるから、そこに連れて行ってあげて」
「ああ、わかった。それじゃあ、あたしはそろそろ行くぞ」
「ええ、いってらっしゃい。データ採取、お願いね。内容については、ミオのスマホに連絡するから、それで確認を」
「了解した。じゃあな」
そう言って、あたしは『空間転移』を使用した。
『空間転移』を使用したあたしは、空港に到着。
ま、いきなり現れるのはあれなんで、空港内にあるトイレの個室の中に転移するんだがな。もちろん、人がいないかを確認しているので、問題なしだ。
『アイテムボックス』の中から、ボディバッグを取り出し身に付ける。ボディバッグの中には、パスポートや財布が入っている。まあ、調査用に使うやつだ。
準備ができたら、適当に飛行機のチケットを買う。
まあ、今日は……とりあえず、アイルランドでいいだろ。
あそこにも、いくつか反応があるしな。
おっと、乗り換えが必要なのか。仕方ない。とりあえず、アムステルダムへ行って、向こうに着くのは、明日ってとこか。まあ、仕方ないな。
そんなわけで、あたしはチケットを買って、飛行機に乗り込んだ。
あたしは、この世界に来て少しした後、調べることがあって、世界中を回って調査していた。
もちろん、非合法には行かない。
合法的に国に入り、調べて回るだけだ。
きっかけは、体育祭のあの一件だな。
ブライズ。あたしがそう命名した存在が、この世界に紛れ込んでいる。
初めは、学園だったんだが、なぜかこの世界に出没しだしてるしな……。
正直、問題しかない。
あんなん、こっちの世界の人間からすりゃ、厄介、面倒だからな。
取り憑かれたら、普通に力は増すし、聖属性系の攻撃か浄化じゃないと、あいつらは倒せんし、引き剝がすことができない。
この世界の人間には荷が重いだろう。
あたしやイオがいれば大して問題ないんだが、高望みはできないな。
少なくとも魔法がない世界だ。
特殊なことができる奴の方が少ない。
むしろ、イオは変だけどな。
異世界に渡ったから魔力得た、なんて話は聞いたことがない。というか、そもそも魔法ってのは、魔力で満ち溢れた世界で、生物が大気中にある魔力を取り込み、それが魔力回路を形成。それを用いて魔法を使うというものだ。
だから、魔力が大気中に一定の量を下回っている場合は、生物に魔力回路が形成されることなく、魔法が使えない生物が生まれるというわけだ。
実際、あの世界にもそう言う奴はいる。
そう言う奴が向こうにいるから、こっちの世界の人間はそいつらに近いんだろうが、イオははっきり言って異質だ。
そもそも、母体が大量の魔力に晒されることで、胎内にいる子供に行き、それが体を形成すると同時に、、魔力回路を形成する。
そもそも、これは後付けは不可能であり、移植も無理だ。
途中で魔力回路が出来た、なんて話は聞いたことがないしな。
だが……なぜかイオは魔法が使える。それに、魔力回路があった。しかも、珍しいことにあたしと似た回路だ。
そもそも、似た回路を持つこと自体が奇跡に等しい。
だからこそ、『感覚共鳴』での能力・スキル・魔法の伝授をする奴がいない。そもそも、『感覚共鳴』自体、相当なレアスキルだし、伝授できるなんて知らない奴の方が多い。
まあ、そもそもの話が、知っていたとしても、似た回路を持つ奴がいるなんて稀だしな。
……そうなってくると、いよいよイオの存在がわからん。
あいつはなぜ、魔力回路を持っていたんだ?
もしもの話、あの世界の人間の転生体だとしたら、まだ可能性はあるが……それは難しい。
世界を超えての転生は、基本的にないらしいからな。
この情報は、ミリエリアから直接聞いた話だし、間違いない。
あたしの唯一無二の親友だった、ミリエリアはたしか、こんなことを言ってたな。
『世界に生きる生物はね、転生することもあれば、そのまま天国へ行くこともあるの。でも、転生は基本、死んだ世界でしか転生することができないんだ。これは、神にだって不可能。死んで、別の世界に転生させる、というのはいくら神とは言っても不可能なの。魂の操作は神にだってできないからね。だからね、仮に異世界から人を召喚して死んだ場合、元の世界に転生することはなくて、死んだ世界で転生することになっちゃうんだ。その場合、性格や人格、容姿も含めて、全部引き継がれるんだよ。一応、記憶もある程度残るはずなんだけど……実はね、神様って死んだらね、必ず――に生まれ変わることもあるんだよ。その場合、前世――つまり、神様だった時の記憶は封印状態になっちゃうの』
ってな。
……改めて思うが、本当に不思議なやつだったな。
……しかし、なぜか最後の部分が思い出せん。
神が死んだら、一体何に生まれ変わるんだ?
普通に考えたら、神なんだろうが……どうにも、そうじゃない気がする。
まあ、別に何でもいいな。
……そういや、あいつは死んだが、考えてみれば……あいつは、何かに生まれ変わっているんじゃないか?
神は死んだら必ず生まれ変わる、そう言っていたし。
ならば、いつか生まれ変わったあいつに会えるかもな。
あたしの人生はまだまだ長い。
寿命は遥か先。そもそも、あたしの寿命が長い原因の一つは、ミリエリアだからな。
あいつと長く一緒に暮らしすぎた。
だから、寿命が延びた。
正直な話、あたしの人生で初の仕事で魔王を倒したのは嘘ではない。
だが、邪神を倒したのは、二十歳と言ったが、本当は嘘だ。
あの時は、単純に自身の年齢がわからなかったから、鯖読んだだけだしな。
あー、あたしって何百年生きてるんだかな。
おっと、思考が脱線した。
ミリエリアについては、その内探すとして、だ。
イオはあれだな。保留。
だって、種族と固有技能が見れないとか、お手上げだぞ。
まさか、『鑑定(極)』が通用しないとは思わなかったしな……あれよりも上位があるとは思えんしな……いや、あるかもしれない。
鍛えてみるか、『鑑定(極)』を。
そうすりゃ、あいつのことが色々とわかるだろ。
さて……
「ふぁあぁぁ……寝るか」
眠い。寝よう。
イオが住む国、日本は治安がいいみたいだしな。
あたしは寝ると決め、毛布を取り出し寝始めた。
そして、
パァンッ!
という、乾いた音が響いてきた。
チッ……うるせぇなぁ……人が気持ちよく寝てるってのに、なんだぁ?
『今からこの飛行機は、俺達がジャックした! いいか! 変な動きを見せたら、容赦なく撃つからな!』
あぁ? ジャックだぁ?
それはあれか? ドラマなんかで犯罪者どもがよくやる、飛行機の乗っ取りってやつか?
何を考えて、んな馬鹿なことをしてるんだが。
ま、あたしは目的地に着きさえすれば問題はないな。
『この飛行機は今から、ロシアへ向かわせる!』
……なにぃ? ロシアだぁ?
こいつら、この飛行機に乗る奴らがアムステルダムに向かっていると知ってて言ってるんだよな?
クッソムカつくな……。
気にせず寝ようと思ったがやめだ。
こいつら、ぶっ倒す。
『あ? おい女! なに立ち上がって……ヒュ~! イイ女じゃねぇか! おい、お前は俺の女に――』
「うるせぇ、誰がテメェなんかの女になるかよ。あたしはな、あたしの好きな奴にしか、この体は許さん。お前みたいなブ男、あたしの愛弟子に比べりゃ、ミジンコみてぇなもんだよ」
『き、貴様ぁ……! これが見えねぇってのか!』
「あ? そんなおもちゃであたしを殺せるとでも?」
『おもちゃじゃねえ! こいつはほんもんだ! おいお前ら! こいつをう――』
「――殺すぞ、クソガキども」
『『『――あががががが……!?』』』
あたしが殺気を込めてクソどもにぶつけると、その場で泡を吹いて気絶した。
チッ、この程度の殺気で気絶するのか。つまらん連中だ。
この程度なら、タイトですら耐えられるというのに。軟弱だ。実に軟弱だ。
しっかりと鍛えりゃいいものを……。
さて? こいつらの仲間は他にいないだろうな?
……ほほう? いるなぁ、それも背後に。
まあ、気づいているわけだが。
『お、お前! い、一体何をした!?』
「なに、ちょっと殺気を込めて威圧しただけだ、気にするな」
『ふ、ふざける! こ、こうなりゃ、これで――』
「させるか、馬鹿。テメェも大人しく寝てな」
『は――? ごふっ!?』
あたしはそのまま裏に肘鉄を鳩尾に打ち込んだ。
はは、本当に弱い。
さて……適当に縛っておけばいいか。
あたしは縄を取り出すと、クソどもを縄で縛り上げ、そのまま隅に捨てた。
「あ、見ての通りなんで、そのままアムステルダムに向かってくれ。この馬鹿どもは、当分起きないぞ」
『『『( ゜д゜)』』』
さて、と。あたしは、寝るかね。
邪魔者を片付けたから、ぐっすりだ。
なにやら、歓声のような物が上がっていた気がしたが、気のせいだろう。
まだまだ時間がかかりそうだが、向こうでは、どんな酒に会えるかね?
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