第472話 コンセプトと役割決め

 次の日。


 今日はお化け屋敷のコンセプト決め。


 お化け屋敷、と一括りに言っても色々あるからね。

 去年やった喫茶店もそうだったし。


 ……ボク個人としては、あんまり怖くないのがいいけどね……。


「さて、今日はコンセプトと役割分担を決めるわよ」

『委員長、内装は決めなくていいのか?』

「内装はとりあえず後回しでOKよ。どのみち、女委に頼むつもりだから。……大丈夫よね? 女委」

「もちのろんさ! 決まったコンセプトを基に、とびっきり怖~い内装をデザインするぜー」

「だそうだから、とりあえずいいわ。必要なのは、クラスでやる出し物と、そのコンセプトについてだから。そうよね? 依桜」

「うん。そうだね。ある程度生徒会の仕事内容を見た感じ、許可するために必要なのは、その出し物の規模と題材とコンセプト、あとは避難経路の確保についてだからね。それさえちゃんと書けていれば大丈夫だよ」

「ありがと。避難経路はまあ、中身をある程度決めてって感じね。そんなわけだから、とりあえずやるわよ」

『『『へーい』』』

「じゃ、適当に思いついた人から言って」


 未果がそう言うと、クラスメートのみんなは少し考えだす。

 うーん、コンセプトかぁ……。

 ……ボク自身、お化け屋敷に行かないからね……。だって、怖いんだもん……。

 実際、ボクがお化け屋敷に入った回数は、片手で数えられるほどしかない。

 もしかすると、三回くらいかもしれないしね……。


「へい!」

「態徒」

「廃墟とかどうよ」

「ん、廃墟ね。他、何かある?」

「ほい!」

「女委」

「墓地!」

「あー、墓地ね。了解了解。……晶」

「病院とかか」

「病院ね。……エナ」

「学校!」

「定番ね。……他何かある? でも、実際お化け屋敷のコンセプトってこれくらいな気がするけど」


 言われてみるとそうかも。

 あんまりお化け屋敷に詳しくないけど、今挙げられたようなものが多いような気がする。

 特に、廃墟とか病院、学校なんかは。

 ……まあ、ボクからすればどれも怖いんだけどね!


「とりあえず、他の意見もなさそうだし、これに絞って考えるわよ。正直なところ、この学園の教室は地味に広めだからいい感じにできると思うわ。でも、廃墟とか、病院ってちょっと難しそうよね。一番やりやすいと言う意味では、墓地と学校なわけだけど。ま、難しいだけで、色々と工夫をすればできるかもしれないけどね」


 たしかに。


 他の高校の教室の広さについてはよく知らないけど、この学園の教室は一応広い方……らしい。


 らしいと言うのは、さっきも言ったように、他の学園の教室の広さを知らないから。


 だけど、この学園は何かと目立つため、学園祭や見学会には多くの人で賑わう。

 そのため、学園の設備に関することが、色々なSNSにて呟かれていたり。その中に、教室の広さについて言及している呟きは多く、それらを見ている限りだと、それなりに広いみたい。


 まあでも、中学校の時の教室よりはたしかに広いけど。


 ともあれ、こんな感じに、それなりの広さがあったとしても、未果が言ったように墓地や廃墟、というコンセプトは結構難しいのかも。


 ……なんて、そんなことを思っていたら、


「……ん? 何かしら、この文章」


 不意に、未果が持っていたプリントを見て、首を傾げながらそんなことを呟いた。

 どうしたんだろう?


「依桜、ちょっといいかしら?」

「あ、うん。なに?」

「いえ、ちょっと気になる文章があるんだけど」

「気になる文章?」


 どういうものか気になったので、ボクは席を立つと未果の所へ。

 そうすると、未果は持っていたプリントをボクに手渡してきた。

 それに目を落とすと、横から「ここ」と言いながら、指で指し示す。


「えーっと、『大規模な出し物をやりたいクラスは、事前申請をすれば色々と貸し出します』? 色々って何」

「さぁ?」


 ボクの読み上げた文章を聞いていたクラスのみんなも、色々と言う部分がよくわからず首をひねる。

 全員がうーんと考え込んでいると、戸隠先生の方から補足が入った。


「あぁ、そう言えば言い忘れてたな。今年の学園祭では、まあ、様々な理由でとある方法が採れることとなった」

「先生、それってどういう意味ですか?」

「簡単だ。今年の学園祭から、『New Era』を用いた出し物がOKになったんだよ」

『『『えええええええええええええ!?』』』


 戸隠先生の発言に、クラス全員もれなく驚愕の声を上げた。


『せ、先生! それってつまり、VR世界で学園祭の出し物ができるってことっすか!?』

「ああ、そうだ。その中でやるものはほぼ自由だ。現実ではできないことをするためらしいな。……あの学園長のことだから、裏でなんか企んでそうだがな」


 あー……否定できない。


 学園長先生のことだから、『New Era』を用いた出し物があれば、その中身を自身の会社のアイディアとかの足掛かりにしそうだもんね……。


 ボクと同じ子を思ったのか、未果、晶、態徒、女委の四人は苦笑い気味だった。


 エナちゃんは単純に学園長先生についてそんなに知らないから、他のクラスメート経ち同様、不思議そうにしていた。


「で、だ。もしも使用したいと言うのであれば、この申請書に使用用途と必要な台数、それからクラス代表の名前を書いてくれ。あぁ、必要台数に関しては、その出し物で必要になるであろう最高台数を書くように。他にも注意点はあるが、とりあえずそれだけ書けばいい。それ以外は後で言えばいいからな」

「なるほど、そんなこともできるのね。……だ、そうだけど、どうする? 使いたい人が多いようであれば、こっちも手――」

『『『使いたい!』』』


 身を乗り出しそうな勢いで、クラスメートのほぼ全員がきらきらとした目をしながら言った。


「そ、そう。……まあいいわ。じゃあ、使う方向で行くわよ。それじゃ。制限は特になくなりそうだし、さっきでた案の中の一つを決めるわよ」


 と、広さなどの制限がなくなり、色々と話し合った結果、ボクたちのお化け屋敷のコンセプトは……廃墟&病院となった。なんで。



「じゃ、コンセプトが決まったところで、次は役割分担ね。……ところで先生、VRでやるのはわかるんですけど、これ、どうやって建物とか再現するんですか?」


 いざ役割分担を、と言うところで未果がもっともな疑問を戸隠先生に尋ねた。


「あぁ、それな。まず必要なのは、デザイン担当だな。まず設計図を作るところから始め、それができたら所謂3Dモデルを作る、と言うことをしないといけない」


 あー……なるほど、それってつまり、結構面倒くさいということだね。


「なるほど、そう言う感じなのね……。あー、女委? できる?」

「もちのろんさ! デザインは余裕だし、3Dモデルもできるよー! 何せこのわたし、たまーにMMDモデルとか作って電子の海に流してるからね!」


 女委、本当に多才だねぇ……。

 まさか、3Dモデルも作成できるなんて。

 ……どうなってるんだろう、本当に。


「まあ、仮にいなくても学園長の会社の人間を手伝いにいれることもできたんだがな」


 あ、そうなんだ。


 ということは、仮に女委のような人がいなくとも、学園長先生の会社の人に手伝ってもらえるわけだから、VRを用いたことができなくなる、というわけじゃないんだね。


 うん、本当にすごいね、学園長先生。


「じゃあ、手伝いはいらないか?」

「んー、やる規模によるかなぁ。廃墟と病院の複合型となると、作ることは多そうだけど、まあ大丈夫でしょう! 土曜日から作り始めれば間に合うと思うし」


 ……3Dモデルって、そんなに早く作れるものだっけ?

 少なくとも、結構時間がかかったような気がするんだけど。


 ま、まあ、女委だもんね。こういった、創作関連の腕に関しては、女委を信用して問題ないよね。


「まあ、とりあえずそれでいいが、もしも大変だと思ったら言えば人材を貸し出してくれるらしいから言えよ」

「了解でーす!」


 びしっ! と敬礼。

 うん、女委らしい。


「じゃ、女委はデザインのリーダーよろしく」

「まっかせてよ! お客さん全員を恐怖のどん底に落とすレベルの超ホラーなものを作るぜ!」


 ……それはやめてほしいなぁ……。


「ちなみにだが、建物の配置などは中で行う。行ってしまえば、積み木に近いな。腐島がオブジェクトを作り、それを中にいる奴らで配置する、と言う感じだ」

『ってことは、中担当と外担当がいるってわけか』

『面白そう!』


 作成方法に、クラスメートのみんなはかなり乗り気。

 あれだね、なんだかゲームを作ってるみたいだね。


「じゃ、役割を全部書いていくわ。みんなは、その中からやりたいものを選んでね。もし、そこに人が集中したジャンケンで決める事」


 そう言うと、未果は黒板に役割を書き始めた。


・デザイン 八人

・広報 四人

・受付 四人

・建築兼脅かし役 十九人

・衣装 六人


 この五つ。


「じゃあ、適当に役割を説明するから、必要な人はメモして。まず、デザイン。これは女委を筆頭に、お化け屋敷のデザインを決めてもらうわ。主に、怖い雰囲気を作りたい、もしくは作るのが得意、と言う人向けね。次、広報。まあ、広報なんてそれらしい単語で書いてあるけど、簡単に言えば宣伝係ね。看板やパンフレットに書く説明やらイラストを書く仕事よ。こう言うのは、魅力を文章で伝えるのが得意な人向けね。次は、受付。これは文字通り、当日の受付をお願いするわ。午前午後交代になるかしら。次、建築兼脅かし薬ね。これも文字通りね。女委が作った3Dモデルや設計図を基に、VR空間で建築をお願いするわ。組立が得意な人や、黙々と作業をする人向けね。あと、脅かし役も兼任してもらうわ。そして最後、衣装。これは、宣伝の際や受付の人達用の衣装を作る人よ。必要なのは宣伝をしに、校内を歩き回る人や、ミス・ミスターコンテストに出場する晶と女委の二人用ね。だから、六人分くらいかしら? まあ、それくらいね」


 うーん、色々あるけど……個人的に、建築兼脅かし役はやりたくない。

 自分たちで作る出し物とはいえ、お化け屋敷の中にいたくないし……。


「未果ちゃんや!」


 ふと、説明を終えた未果に、女委が手を挙げながら立ち上がる。

 それ、手を挙げる意味ある?


「ん、なに、女委?」

「衣装は別に、去年と同じでもいいと思うんだけども」

「去年? あー、田中さんの店? でも、いいの?」


 あのお店の服かぁ。

 たしかに、あれのクオリティは高かったよね。

 ……まあ、すごく恥ずかしい衣装を着させられたんだけど。


「あったぼうよ! 友達価格で安く仕入れられるお店だよ? やっぱり、目を引く衣装がいいと思うのさ!」

「たしかにそうね。たしか去年はオーダーメイドだったわよね?」

「そだね」

「じゃあ、衣装の役割ちょっと変更。デザインだけしてもらうことにするわ。女委、それで大丈夫?」


 女委の提案に未果はそれを採用すると、デザインを衣装の仕事として回すことに。

 なるほど、全部任せるんじゃなくて、最低限はこっちでやる形にすると。


「大丈夫だよ! 田中さんには、原案を崩さないようにしつつ、よくできる所はして、って頼んどくよ」

「ありがと。じゃあ、そう言うわけだから、各々どれをやりたいか考えてね。十分上げるから、それまでに、考えておくこと」


 そう言うと、クラスのみんなは各々友達同士で話し合いだした。


「依桜ちゃん依桜ちゃん!」

「なに? エナちゃん」

「依桜ちゃんは何にするの?」


 すでに楽しそうな表情を浮かべているエナちゃんに声をかけられ、そう訊かれる。

 やりたいこと……。


「うーん、何がいいかなぁ……とりあえず、建築兼脅かし役はやりたくないかな」

「なんで? ……って、そっか。そう言えば、依桜ちゃんってお化けが苦手だったもんね!」

「うん、そう言う理由でやりたくなくてね……。だから、それ以外のことにしようかなって」

「そうなると、デザイン、広報、受付、衣装の四つだね。依桜ちゃんなら、受付とか衣装が似合いそう!」

「そ、そうかな?」

「うん! きっと似合うよ!」

「あ、ありがとう」


 自信満々にそう言われると、ちょっと照れる。


 まあ、ボク自身、受付の仕事は経験があるし、衣装だって向こうの世界にいた時とか、こっちに帰って来てからもちょこちょこ作ってたことがあるしね。


 ……たしかに、エナちゃんの言う通り、ある意味合っているのはこの二つかも。

 怖いのが苦手だから、デザインでは役に立ちそうにないし、広報だってあまり得意とは言えないしね。


 そもそも、ボクは宣伝する側じゃなくて、される側だったからね……勇者的な意味や、芸能人的な意味で……。


「と、ところで、エナちゃんは何かやりたいものってあるの?」

「うち? うちは……うーんと、受付とか?」

「エナちゃんも似合いそうだね」

「そうかな? じゃあ、依桜ちゃんも一緒にやる?」

「ボクも? ……そうだね。受付ってちょっと面白そうだし、あんまり目立つこともなさそうだからいいかも」


 お客さんの相手をするだけだもんね。

 大丈夫大丈夫。

 そんなに目立つことはないよね!


「……なるほどー、これが特級フラグ建築士って言われる所以なんだね」

「何か言った?」

「んーん、なんでもないよ! じゃあ、受付でいいかな?」

「うん、ボクはいいよ。とりあえずまずは、一緒の役に就けるように頑張らないとね」

「うん!」


 この後、ボクとエナちゃんの二人は、話した通りに受付の役職に就きました。

 ちなみに、未果は広報で、晶と態徒は建築兼脅かし役になりました。

 意外とあっさり決まってよかった。

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