第190話 サバイバルゲーム1

 目を開くと、ボクは草原にいた。

 どうやら、ボクの初期位置は草原エリアだったみたい。

 周囲を見渡せば、それなりに人がいるのが見える。

 間隔的には、100メートル近く離れているかな。


「……さて、と。探そうか」


 ボクはアイテムボックスから、【映し鏡】というアイテムを取り出す。

 これは、ボクが修業時代終了の際、師匠からもらったもの。

 どうやらこっちの世界にあったみたいで、ボクが昨日回収しに行っていた。

 これがあれば、知っている人の位置が割り出せるという、結構使い勝手のいいアイテム。

 と言っても、知らない人とか、他人から訊いた人とかだと、まったく見えないけどね。


 早速アイテムを使用。


 使用すると、スクリーンが出現。

 そこに、名前を入力する項目があるので、そこにインガドと打ち込むと、一瞬のロードの後、忌々しいインガドの顔が写りこんだ。


 周囲の風景を察するに、街エリアみたいだね。

 しかも、手当たり次第に倒していってるところを見ると、そこそこ強いと言うことがわかる。

 まあ、あれだけ威張るんだから、これくらいじゃないとねぇ?

 もっとも、これでもまだまだ役者不足だよ。


 ……【一撃必殺】で終わらせてもいいけど、それだとつまらないよね。あれ、防ぐの難しいし。


 それに、ボクには色々とおかしな称号もあるからなぁ。

 今回【慈愛の暗殺者】が火を噴きそう。

 暗殺者の本領発揮だよ。


 なんて、そこで呑気に考えていると、


『いただきっ!』


 と、背後から声がした。

 振り向くこともせず、ボクは切りかかって来た(殴ってるかもしれない)プレイヤーの方へ跳び、そのまま後ろに短剣を突き出す。


『な、なん、だと……』


 その声が聞こえた直後、刺した感触のあった短剣から、感触が全部消えた。

 どうやら、今の一撃で倒したみたいだね。


 師匠に鍛えられたボクは、人を見ずとも急所を狙える。

 さっき狙ったのは、心臓部。

 人間でいえば、本当に急所。


 正直、急所の判定がどこになるかはわからないけど、脳、首、心臓の三ヶ所だと思っていいと思う。

 でも、肋、肝臓、腎臓、鳩尾、膀胱あたりも一応胴体では急所。

 他だと、こめかみ、額、顎、目、頚椎もダメ。


 正直、位置を正確に把握して、さらにそこを正確に攻撃を当てることなんて難しい。

 だから多分、脳、心臓、首、の三ヶ所だけでいいと思う。


 お医者さんとかじゃない限り、ほとんどわからないと思うしね。


 それにしても、普通不意打ちを仕掛けるなら、声を出しちゃダメだと思うんだけどなぁ。

 戦いの原則だよ、まったく。


「さて、ここで油を売っていて、インガドが誰かに倒されちゃうのは嫌だから、さっさと動こう」


 ボクは自身のAGIを活かして、草原を疾走した。



 草原の手前で、ボクは軽く思案する

 街へ行くルートはいくつかある。


 一つ目は、森林を真っすぐ通過するルート。

 これは、森林内に潜んでいるプレイヤーがいた場合、やや不利になりかねない。

 ……まあ、ボクみたいに、【気配遮断】とか、【気配感知】をレベル10にしている人はいないと思うけどね。

 だってあれ、現実で使ってるやつだもん、ボク。

 だから、そこまで警戒してなくても問題なし、かな。

 それに、いざとなったら、《ハイディング》使うし。


 二つ目、森林を迂回して、砂漠を通るルート。

 砂漠だと、砂に足を取られて走りにくい、なんてことがあるけど、ボクの場合は【悪路ブーツ】があるので、全然問題なく走れる。

 どんな場所でも走れる、っていう暗殺者にとってかなり有用性が高い装備。

 向こうでもお世話になりました。


 そして、三つ目。砂漠とは反対方向を迂回して、山岳ルートを通るルート。

 こっちはあんまり行きたくないかな。

 一応、師匠に壁面走行しろ、とか言われて壁は走れるけど、あれ、結構疲れるからなるべくやりたくない。


 となると、ボクが行くべきは、森林ルートだね。

 正直、障害物が多い方が、暗殺者にとって一番動きやすいし。

 それに、隠れやすい。

 そうと決まれば、早速。

 草原を抜け、ボクは森林の中へ飛び込んでいった。



 森林の中をユキは走る。


 と言っても、ステータス通りの速度ではなく、少し抑えてる。

 おそらく、200あるかないかくらいだろう。


 あまり速すぎても、注目を集めてしまうから、できるならやりたくない。

 なるべく、目立たず、インガドを倒したら、適当に自害して終了にし用途考えるが……


(……いや、それはやめておこう。他のプレイヤーの人たちに対して失礼だよね)


 そう思い、踏みとどまった。

 優勝、はせずとも、レギオと言う知られている中での最強の人がいるので、その人に負ければいいと考えた。

 なんてことを考えていると、


「ふっ」


 突然(すでに知っていたけど、)矢がユキの目前に飛来してきた。


 キィィンッッ! と言う音を立てて、矢が宙を舞った


 飛来してきた矢をナイフで弾いたのだ。


『うそぉ!?』


 その通常ありえない光景に、弓矢を放った張本人が思わず叫んでしまっていた。


 聞こえた方角は、斜め上。

 木の上からの狙撃だったみたいだが、ユキには通用しない。


 というか、魔王軍の幹部に弓を扱う魔族がいて、その魔族は、10キロ以上離れたところからの精密な狙撃をしてくる、なんていう化け物だった。


 その上、速さが落ちることなく、とんでもない速度で飛来してくるのだから、ユキは本当に肝を冷やした。


 ミオによる、動体視力と反射神経の特訓がなければ、おそらくそこでアウトだっただろう。そう思えるほどの危険な攻撃だった。


 そんな攻撃に比べれば、先ほどの矢を弾くなど、ユキにとっては児戯にも等しい。

 そして、弾き、宙を舞った矢を掴み、


「【投擲】!」


 そのまま投げ返した。それも、弓矢が放たれた時よりも速く。


『ちょっ――ぎゃああああああ!』


 死んだ。


 流れるような動作で矢を投げ返すも、その間、ユキは一切足を止めることなく、走り続けていた。もっと言うなら、ユキは弓矢を放ったプレイヤーを一瞥もしないで矢を当てている。

 ここまでくると、気配だけで当てられるようである。

 さらに進む。


『死ねぇ!』


 すると、今度は横の茂みから直剣を振りかぶったプレイヤーが出現。ユキに切りかかる。

 が、


「はぁっ!」

『ぐはっ!?』


 それよりも速く、ユキは短剣で胴体を切断した。

 一撃で終了。

 出オチ感半端ない退場だ。


 さらに走る。


 今度は、周囲にいくつもの気配を感じた。

 何やら集団で倒そうとしているようだが、それに気づかないユキではない。

 ユキは軽く跳躍すると、


「【武器生成】! 【投擲】!」


 集団の人数に合わせた数の針を生成し、【投擲】で一斉に投げる。

 投げられた針はピンポイントで、待ち伏せをしていたプレイヤーたち全員の脳天に突き刺さり、


『『『うぎゃあああああ!』』』


 断末魔を残して死んでいった。


 ちなみに、集団は合計で十人いた。

 つまり、一斉に針を投げているのにも関わらず、それを一本も外すことなく針を同じ場所に刺していた、と言うことになる。

 やはり、異世界チート美少女はゲームでもチートだった。



 一方、敗者部屋。


『ま、負けたぁ……』

『やっぱ、レベル23じゃ無理かぁ』

『だなー。最低でも、28とかじゃね?』

『それはある』


 敗者部屋とは言っても、映画館のような場所だ。

 違う点があるとすれば、椅子がなく、階段状になっていないことくらいだろうか。

 あとは、かなり広い。

 おそらく、参加人数全員が入るのも余裕なくらいには入るだろう。


 開始からすでに一時間ほど経過しているわけだが、敗者部屋にはすでに、1000人近くはいた。

 実際、七万人という人数が参加しているが、一時間で1000人死んでいる。

 おそらく、もっと増えることだろう。


 なにせ、制限時間は24時間だ。まだまだ始まったばかり。


 しかし、面白いことに、ここにいる1000人近くのプレイヤーたちの大半はと言えば……


『はぁ、森林の中にいるんじゃなかったぜ……』

『なんだお前、森林の中にいたのか?』

『ああ。普通に木の上で、プレイヤーを待ち伏せして、弓を射っていたんだが……投げ返された』

『はあ? 投げ返すぅ?』

『そうなんだ。弓矢を撃って、当たった! と確信したら……一瞬のうちに抜き放っていた黒い短剣で弾かれて、その弾いた矢を俺にめがけて、投擲されて死んだ』

『……化け物じゃね? それ』

『ちょっといいか?』


 とあるプレイヤー二人……と言うか、ユキに殺された弓術士のプレイヤーと、近くにいたプレイヤーと話していると、十人くらいの集団が話しかけてくる。


『なんだ?』

『いや、その投げ返してきたプレイヤーって、全身黒装備か?』

『ああ、そうだが……それがどうかしたのか?』

『いや、俺たちもその黒装備にやられたんだよ……』

『は、マジ?』

『こっちは十人くらいで待ち伏せして、集団で倒そうとしていたんけどさ、まるでこっちに気付いたかのように、高く跳躍して、気が付いたら、俺たちの脳天に針が突き刺さってて、そのまま退場だ……』

『……このイベント、相当やばいのいないか?』

『あーあ、もう少し残れると思ったんだがなぁ……』


 なんて、口々に言っている。

 ちなみにだが、この十人がやられたのは、開始二十分くらいの時だ。

 つまり、その後にも被害者がいるわけで……


『ああ、オレもそいつにやられた』

『私も』

『僕も』


 その数、およそ100人。


 曰、背後から切りかかったら、死んでたのは自分とか。

 曰、茂みに隠れて、飛び出したはずなのに、見向きもされず切られてたとか。

 曰、背後に回ったと思ったら、背後に回られていた、とか。


 その他etc……。


『な、何者なんだろうな、あの黒装備のプレイヤー』

『男なのか、女なのか……』

『てか、レベルいくつだったんだ?』

『……8の数字しか見えなかった』

『8、か。まあ、38と28はない、はず。いたら目立つし、そもそも気付くだろ』

『じゃあ、18か、8、か? それこそないだろ。そんな低いレベルじゃ』

『だよなぁ……じゃあ、一体レベルはいくつなんだろうな』


 ユキに倒されたプレイヤーたちは、ユキの正体に頭を悩ませた。



 そんな、色々と悩ませまくっているユキはと言えば、


「はぁ!」

『つ、つえぇ……』


 ひたすら降りかかる火の粉を払っていた。

 一応AGIを抑えて走っているせいもあって、AGIが高い上位者レベルの速度になっている。


 そのため、それを読んだプレイヤーたちが、ユキに攻撃を仕掛けてくるのだが、そのことごとくを無傷で撃退してしまっていた。


 道中、【アローレイン】という、弓術士のスキルを使われ、矢の雨が降り注ぐも、すべてを避ける。避け切れなさそうなものは、短剣で弾くなど、本当に人外な動きしかしなかった。


 幸いなのは、フードを深く被っていることで、顔が見えていないことだろう。

 見えていたら、かなり目立つ。

 ……そもそも、まだ朝なので黒い服装はかなり目立っているようだが。


 襲い掛かってくるプレイヤーの中には、そこそこ強いプレイヤーがいたのだが、やはり、瞬殺。


 ここまでで、ユキはかなりの数のプレイヤーを屠っているのだが、未だ被ダメ0。


 ユキ自身、VITを上げずとも、そもそも攻撃が当たらないので、ほとんど上げる意味はないのだが、万が一があったらまずい、ということでVITを上げている。


 まあ、当たりそうになったとしても、短剣で受け流されてしまうので、あまり意味はないのだが。


 ちなみに、敗者部屋で目玉を飛び出させんばかりの行動があった。というのが、


『はぁ!?』


 飛来してきた矢を、生成した針を投げて相殺する、と言うものだ。

 もう一度言おう。かなりの速度で飛来してきている矢を、矢よりも圧倒的に細い針で、相殺したのだ。


 そりゃ、弓矢を放ったプレイヤーも目を見開いて驚くの無理はない。というか、驚くなと言う方が無理だ。


 確実に、人間業じゃない。

 もちろんこれ、ミオが仕込んだ技術だ。


 できるまで、散々やらされていたので、ユキからすれば、本当に初歩中の初歩みたいな業である。


 ちなみに、相殺したかに見えた矢は、針によって破壊され、そのまま弓術士のプレイヤーの脳天を貫通した。


 VITが低かったようだ。


 そこそこのVITがあれば、貫通することなく、脳の中心辺りで止まるが、貫通するとなると、弱いVITと言うことになる。


 ……いや、普通ならユキのようなステータスになることはなく、まんべんなくやるのが基本なので、そうそう防げないが。


 このゲームにおける、戦闘職のなかで最も難しく、弱いとさえ言われている暗殺者に、数々のプレイヤーたちが葬られていくのだから、本当に笑えないだろう。


 敗者部屋にいるプレイヤーたちは、あれは無理、と思ったそうだが……そんなことを思われているなど、ユキはつゆほども知らない。

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