第60話 幼女化の説明(?)
「う、うぅ……ぐすっ……ひっく、えぐ……」
「よしよし、もう大丈夫だから、泣かないで」
師匠に対する恨みつらみを叫んだ後、ボクはその場で泣き崩れ、未果に抱きしめられながら、ぽんぽんと背中を叩かれていた。
ボクの幼女化の原因は、師匠のミスと、王様のミスだった。
根本的なミスは、王様とは言え、どうにかできたにもかかわらず、まあいいか、の勢いで間違えたまま生成し、それを平気で師匠は飲ませてきた。
まかせとけ、と自信満々に言って、ボクも信頼していたのに、この有様。
学園長先生の発明と、王様の召喚によって異世界へ飛ばされ、魔王には呪いをかけられ、女の子になり、マスコミに張り込まれ、異世界へ再び行き、王様のミスを補えたにも拘らずそれをまいっか、で済ませて解呪に失敗し……小学生に。
アポ〇キシンを飲まされた高校生探偵の人の気持ちがなんとなくわかったよ……。
「……今の依桜が泣いていると……あれだな」
「どうみても、お姉ちゃんに慰められている妹、って図だよねぇ~」
「言ってやるなよ。ただでさえ、女子になって大変だというのに、小学生になるとか……普通の奴だったら、絶望して自殺を図るか、引きこもりになるかのどちらかだぞ?」
「いや、自殺は言いすぎだろ。だけど、引きこもりにはなるわな。まあ、オレとしては、是非ともああなりたいがな!」
「……ぐすっ……態徒、殺す……うぅ……」
「ちょっと待て!? 今、泣きながら殺害予告されたんだけど!?」
態徒の抗議が聞こえてきたけど、ぷいっとそっぽを向く。
態徒なんて知らない!
「空気を読まないのが悪い。普通、こんな状況になっている人に、羨ましがるか? 普通。だからお前はモテないんだぞ、態徒」
「う、羨ましいと言って何が悪い! 願望を言って何が悪い! いいじゃねえかよ!」
態徒の自分勝手なセリフに、ボクたちだけでなく、クラスのみんな(女の子たち)からの非難の視線が殺到していた。
自分で自分の首を絞めているということを、気づかないのかな……。
「依桜、落ち着いた?」
「……ぅん。ありがとう、未果……」
「うぐっ……」
「どうしたの?」
「え、あ、な、なんでもないわ!」
どうしたんだろう、顔を赤くして……。
やっぱり、抱きしめながら慰めるの恥ずかしかったのかな……。
「ご、ごめんね、未果にだきついちゃって……」
「な、何言ってるのよ! 別に迷惑だなんて思ってないわ! むしろ、役得よ! 役得!」
「やくとく……?」
(し、しまったっ。つい、本音がっ……! くぅ、今の依桜は可愛すぎるのよ!)
「未果……?」
なぜか急に胸を抑えて悶え始める未果に、心配になって声をかける。
だ、大丈夫なのかな?
「な、何でもないわ。……それで、依桜。叫んだ直後に泣き出したから、依桜がこうなった原因を聞いていないんだけど……さっきの紙に書かれた文字と言い、依桜の幼女化といい、説明してもらえるかしら?」
「う、うん……。じゃ、じゃあ、屋上に行かない? その、ちょっとだけ話しにくいから……」
「わかったわ。晶たちも、それでいいわよね?」
「いいぞ」
「もちろんだよ!」
「おうとも!」
「そ。じゃあ、お昼を食べながらにしますか」
と言うわけで、事情説明のためにボクたち五人で屋上へ。
何人かのクラスメートが同席したいと言ってきたけど、話の内容が内容だけに、あまり不特定多数の人には言えないので、ここはお断りさせてもらった。
その代わり、別の日に一緒に食べよう、という約束を交わした。
「さ、白状してもらいましょうか」
「は、はくじょうって……」
「間違いじゃないでしょ。で、何があったの?」
「じ、実は……」
ボクは土曜日の出来事を話した。
一週間ほど異世界に滞在し、呪いの解呪を試みたことを。
師匠のミスで一生男に戻れないだけでなく、何らかの追加効果が出ること。
そして、その追加効果が原因でボクが小さくなってしまったことなど、今のボクになる原因をかいつまんで話した。
「……なるほど。なんというか……酷い人、ね。あなたの師匠」
「……いい人、なんだけどね」
「でも、依桜君がまた異世界に行ってるとは思わなかったよ~。わたしも行ってみたいなぁ」
行けないことはないと思うけど、向こうの世界は危険だから、一応学園長先生に言えば行けることは黙っていよう。
「なら、その紙にはなんて書いてあるんだ?」
「それ、異世界の言語なんだろ? すっげえ気になるんだが」
「えっと……気になる?」
「「「「もちろん」」」」
四人に気になるか訊くと、声をそろえて即答した。
だ、だよね。
「じゃ、じゃあ読むね――」
言語理解のおかげで、ボクには日本語のように聞こえて、尚且つ文字を読み書きできるけど、みんなからしたら違う。
ボクは日本語を読む感覚で読み上げているけど、実際は向こうの言語で話している。
途中でそのことを思い出し、もう一度最初から、日本語に翻訳しながら読み上げる。
最初の部分で、ん? とみんなが首を傾げ、☆を付け始めたあたりから、難しい表情になり、責任転嫁をしたり、自分のミスを笑い飛ばすような言い方をしたときには、唖然とした表情に。
そんな状態が最後まで続き、手紙を読み終える。
「――って書いてあるの」
手紙から視線を前に戻して、みんなを見る。
よく見ると、ぷるぷる震えてる。
ど、どうしたんだろう?
そして、みんな同じタイミングで開口一番、
「「「「理不尽すぎる!!」」」」
とツッコミを入れていた。
うん。よかった。
みんなも理不尽だと思ってくれたんだね……。
理解者がいるって、いいなぁ……。
「え、依桜の師匠、理不尽すぎない? 何これ? 普通、補えるはずのミスを、そのまま放置する? とんでもない人よね、これ!」
「これだけ色々としていると、依桜の修業時代って何してたんだ?」
修業時代、か。
思えば、地獄だったなぁ……あの一年。
「強力な魔物がひしめいている谷に放り込まれて、魔法を使わずに、身体能力だけで全滅させろと言われ、動体視力と反射神経だけで雷を避けろと言われ、限界まで魔法を使ってまた回復、また限界まで魔法を使う、なんてこともして、師匠の世話は弟子の役目だ! なんて言われて、毎日毎日生活がだらしない師匠のお世話をして……色々とあったよ……」
「「「「うわぁ……」」」」
みんなが引き攣った顔をしながら、ドン引きしていた。
同情する視線が妙に生温かいよ……。
「依桜君、相当苦労していたんだね……」
「……うん。師匠、りふじんだったんだよ……」
「なんつーか……すまん、依桜」
「……いいよ。もう過ぎたことだし、師匠はりふじんだけど、いい人だからね……」
「いや、これを見ている限りじゃ、どう見てもいい人には感じないんだが……」
「あー、えっと……師匠は、その……。本当にどうでもよくて、たいしてあやまる気もない時は、あやまらないんだよ。むしろ、本気で罪悪感を感じていたり、わるいと思っている時ほど、しゃざいの言葉を何回も言うの」
「いや、それはそれでどうかと思うんだが……でも、そうだな。依桜が言うなら、悪い人じゃないんだろ。むしろ、この人だったから、依桜はこっちに無事に帰ってこれた、と思うべきか?」
「うん。ボクもそう思ってるの。むしろ、師匠じゃなきゃ、多分……みんなに再会する前に死んでたよ」
それは間違いない。
ボクが戦った魔王は、歴代最強と言われていた魔王で、師匠を抜いたら、世界最強に近い人だった。
そんな人を倒せる人は、人間にはいなくて、どうにかするために、別の世界であるこの世界から人を喚ぶことにした、と言うのがあの召喚の理由だし。
王国最強と言われていた、ヴェルガさんですら、魔王には遠く及ばないと言っていたし、ほかの国々にも、ヴェルガさんと同じ強さの人がいたらしいけど、結局そこまでの強さだった。
そんな折に出会ったのが師匠で、師匠はボクにいきなり弟子になれと言われ、無理矢理に連れていかれた後に、圧倒的な実力差を見せつけられ、ボクも弟子になると決めた。
どうして、師匠がボクを弟子にとったのかはわからないけど、それのおかげでこうして生き残って、みんなとお昼を食べられているのは、その師匠のおかげでもある。
今思えば、ボクを元の世界に戻すために、あれだけハードなことを課していたんじゃないかな、なんて思える。
「――しかも、師匠はボクを向こうの世界によんだ王様におこっていたからね。やっぱりいい人だよ。……今回の件はあれだけど」
「そう、なのね。……まあ、それでも手紙の内容はちょっとあれだけれど」
「でもでも、面白そうな人だよね~。わたし、ちょっと会ってみたいかな」
「なあなあ、依桜、お前の師匠って、一人称があたしってことは、女の人なのか? 美人か? 美人なのか!?」
「う、うん。美人だよ。えっと、黒かみ黒目で、スタイルがいいお姉さん、って感じ、かな」
「マジで!? 何、お前その人とひとつ屋根の下だったのか!?」
「そうだけど……けっこう大変だったよ。いきなりお風呂に乱入してくるし、ねているベッドにもぐりこんでくるし……めったになかったけど、お酒にようとキスしようとしてくるんだよ? 『だいしゅき~』って言いながら。……師匠にはすごくこまってたよ」
抑えるのも大変だったしね、師匠の暴走……。
「なんだその生活! 羨ましいぞこの野郎っ! しかも、そんな幸せな環境にいながら、困ってた、だと!? 勝ち組はいいよな!」
「何におこってるの!? 何度かおそわれかけてたけど、なんにもなかったよ! それに、師匠はきっと、ふざけていたり、よったいきおいでやってただけだよ!」
ボクも男だったから、色々と大変だし困っていたよ。
だって、平気で自分の体を押し付けてくるんだもん。
色々と抑えるのが大変だったよ……。
「……なあ、未果。依桜の師匠って……」
「ええ。間違いなく、惚の字ね。しかも、依桜本人は全く気付いていないみたいね」
「ちょっと同情するなぁ、依桜君の師匠さんに。鈍感系主人公を落とすのって、難しいからね~」
「……ここは、依桜みたいに、オレも鈍感系を目指すか……?」
「意味ないからやめときなさい」
あ、あれ? またこそこそと話し出した。
なんかもう、いつものことのように思えているから、あまり気にしなくなってきたよ。
みんなのことだし、悪口を言っている、なんてことはないだろうからね。
「まあ、それはそれとして……また学園長には話しておいたほうがいいじゃないの? たしか、依桜の戸籍だとか、依桜に関する書類のすべては、学園長がやったんでしょう?」
「そう、だね。ほうかごにでも、行ってくるよ」
「それがいいわ。少なくとも、制服はどうにかしないといけないしね」
「うん……」
今の制服は、あの姿の時専用だし……それに、胸元とか、お尻とかが明らかにサイズ違いだからね、すっごくぶかぶかだしね。
……身長もあるけど。
ただでさえ、低くなった身長が、さらに低くなるんだもん。
本当に酷いよ……。
ある程度の事情を話した後は、いつもの昼食風景となった。
何でもない日常だけど、ボクだけが、色々と変わって行っている気がして、なんだかちょっと、寂しいなと思った。
でも、みんなはボクがどんな姿でも、いつも通りに接してくれるから、本当にありがたいと思っている。
……まあ、態徒と女委だけが、ちょっとあれな感じになったっちゃったけどね……。
そんなこんなで、お昼を食べながら雑談をして、昼休みは過ぎて行った。
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