第48話 王都観光……のつもりが

 ―三日目―


 今日で異世界に来て三日目なわけだけど……実際、今日は特に何もなかった。


 昨日のテストもあってか、師匠が『今日は自由。テストもないし、修行もないから好きに過ごせ』と言ってきたので、正直なところ、暇です。


 この世界では、電波もないからスマホは画面が点くかまぼこ板にしかならないし、ほかに持ってきたものと言っても、ほとんど着替えだから、暇つぶし用のものを持っていない。


 ゲームとかPCとか、持ってくるべきだったかなぁ。


 PCには、色々とゲームも入っているし、ゲームだったら一人でもそれなりに時間はつぶせるから、持ってきてもよかったかも。


 ……まあ、ボク『アイテムボックス』のスキルとか持ってないから、PCとか持ってこれなかったんだけどね。

 そう言うこともあって、今のボクはとても暇。


 やることもないので、今日は王都観光をしようと思い立ち、ボクは王都へ向かった。



「おー。やっぱり、活気が違うなぁ」


 王都に到着したのは、大体十一時くらい。


 家のこと(掃除・洗濯)を済ませてから来ているので、特に心配はいらない。


 師匠にもらってきた地図を見ながら散策。


 どうやら師匠、ちょくちょくこっちに来ていたらしく、おすすめのお店や観光スポット、危険な区域などについて細かく書かれていた。

 うーんでも、観光スポットとか、師匠興味ないと思ったんだけどなぁ。

 意外とそう言うの好きなのかも?


 もしかしたら、ボクのために書いた、ってことかもしれないよね!

 ……ないね。うん。ない。

 自分で言ってて思ったけど、それはないかな。

 だって、師匠だし。


「んーと……まずはどこに行こう?」


 気を取り直して、地図を見て行先を考える。


 特に予定もなくて暇だったから、こうして王都に来たんだけど……まるで何があるのかがわからない。


 いや、師匠の地図に細かく書かれているのはわかるんだけど、お店の名前とちょっとした内容が書かれているだけで、ほとんど王都初と言ってもいいくらいに分からないボクとしては、戸惑うわけです。


「う~ん?」


 周囲を見回すと、いろんなお店がある。


 ボクが今いるのは、南区。


 南区と東区は普通の人……平民の人たちが多く暮らしていて、売っている物もそれに合わせたものになっている。

 西区が貴族エリアらしく、有力な貴族の人たちが暮らし、それに合わせた高級品などを扱っているお店が多いようだ。


 ボクとしては、あまり西区には行きたくないところではあるかな。

 昨日の師匠の話を聞いたら、行く気にはなれないよ。


 それに、高級品と言っても、洋服とか、強力な魔法が付与された武器や防具が置いてあったり、高級食材が置いてあるだけだから、ボク的にはあまり必要のない場所ばかり。


 四百万テリルあったとしても、ちょっとお買い物しただけで、すぐになくなっちゃいそうだし。行くとしたら……高級素材買う程度だと思う。


 師匠は、高級食材よりも、普通の食材の――と言うより、ボクの料理が好きだから、わざわざ高級食材使わなくてもいい、と言われている。


「でもなぁ……お買い物は昨日のうちに済ませちゃってるし……」


 ボクは二日分の食糧を買い込むタイプなので、次の日は基本買うことはない。

 初日は、単純にこっちに来たばかりと言うのもあってその日の分しか買わなかったけど。


「ん~……ん?」


 なんとなく街を歩いていると、なんだか嫌なものが見えてきた。

 …………あ、あれって……。

 前方に、ものすごく気になる物体があったので、近くにいた男の人に尋ねる。


「あ、あの、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど……」

「なんでしょ、う……か?」


 あ、あれ?

 話しかけたら、固まっちゃったんだけど。

 も、もしかして、ボク、変なところでもある?


「あ、あの……」

「は、はははい! な、んですかね?」


 急に顔を赤くして、慌てだしたぞ?

 う~ん? どうしたんだろう?


「えっと、あそこにある像って……」

「あ、あれかい? ありゃあ、勇者様だよ。嬢ちゃん、勇者様を知らないのかい?」

「そ、その、か、かなり辺境な村で住んでいたものですから、知らなくて」


 嘘です。本当はそれ、ボクです。

 はい。前方に見えていたのは、異世界救った主人公にありがちな、本人の銅像です。

 ボクです。男の時のボクです。

 しかも、本当によくできているせいで、ものすごく恥ずかしいんですけど!

 ナイフを構えて、ちょっとカッコイイポーズをとっているのがさらに羞恥心を刺激する。

 う、うぅ……恥ずかしいぃ……。


「そうかそうか。勇者様はこの国……いや、世界の英雄さ! 歴代最強と謳われた魔王を、単身で倒したって言うんだからな! しかも、魔王軍に侵攻を受けていた街々を助けて回ってたって話さ! その上、勇者様は年若い少年だって言うんだから、本当にすげえやな! って嬢ちゃん、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「あ、あはは、い、いえ……す、すごかったんですね、勇者様って……」

「そうだなぁ。おらあ、生で見たかったもんだぜ」

「あ、あははは……」


 どうしよう。ボク、本気で英雄にされちゃってるよ!

 え、いつこの像建てたの? いつの間にこんなことしてたの!?

 これをやったのは誰!?


「あ、ありがとうございました……」

「お、おう。なんだか知らんが、その……元気出せよ」

「はい……」


 見ず知らずのボクを慰めてくれる、いい人だった。



 まさか、ボクの像が作られているとは思わなかった。


 幸いなのは、ボクが今は女の子であること。

 いや、不幸……なのだろうか?

 少なくとも、女の子になったことは不幸であることに変わりはないと思う。


 でも、男の時にこっちに来てたら、もっと大変だったんじゃないだろうか?

 多分、人が多く寄ってきて、観光どころじゃなかった気がする。


 そう考えると……女の子の方が、こういう時は楽、ってことかな。


 ……複雑。


「はぁ……」


 こっちの世界では、あまりいいことが起こっていないんだけど……少なくとも、ボクに益があるような幸運なんて一度も起こっていない。

 あるのはほとんど不幸か、少し面倒くさいことだけ。

 まあ、今はそれなりにのんびりできてるからいいけど。

 できれば、こんな日が長く続いてほし――


「って思っていたんだけどなぁ……」


 気まぐれで使用した気配察知に、嫌な反応が引っかかってしまった。

 見たところ、悪意ある人に誰かが誘拐されている、と言う風に見える。


「はぁ……見てみぬふり、はできないよね……」


 知ってしまった以上、見てみぬふりはできない。

 助けられるのなら、助ける。それがボクの信条でもあるしね……。

 ボクは、その場で気配察知と消音を使用すると、すぐに行動に移した。



 気配感知を使ったところ、人数は……ん、十人くらいかな。


 誘拐されているのは一人。

 うーん、一人に対して結構多いような気がする。


 そうなると……この誘拐されている人は、貴族の人かな。

 あれ、じゃあ結構まずくない? これ。

 見たところ、追いかけている人はない。

 動いている方向とは逆の方向に、弱々しい反応がいくつもあるところを見ると……どうやら、誘拐犯たちにやられてしまったみたいだ。


 今のところは、命に別状はないし……あ、反応が強まってきてる。

 ということは、回復魔法を得意とした人がいたのかも。

 それなら、こっちにはいかなくて問題はなし。


 でも、距離が結構離されてる。

 これじゃあ、逃げ切られちゃう。


「急がないと!」


 少なくとも、ボクの気配察知できる範囲を出られたら、追うことなんてできなくなってしまう。

 今はまだ余裕があるからいいけど、ちょっとね。

 道を走っていたんじゃ、全然間に合わない。

 王都だから人は多いから、走りにくいし、気配遮断と消音を使っているからなおさら。

 とすると、暗殺者お得意の屋根の上を走るしかない。


 ボクは高めに跳躍し、近くの民家の屋根に着地。

 そのまま屋根を駆け抜ける。

 途中障害物もあるけど、ほとんど意味をなさないしね。


「んー、ちょっと速いね。……これ、もしかして、馬車とか使ってたりする?」


 よく観察してみると、誘拐されている人はわずかに動いているけど、それ以外の、囲っている人数人がその場で動かずに、平行移動しているように見える。

 馬車、かな?

 それとも、そう言う移動系の能力、スキル、魔法のどれか……。

 そう言う移動系スキルがあるのは聞いたことあるけど、能力と魔法は聞いたことがない。

 そうなると、スキルか馬車のどちらか。


「……ちょっとスピード上げよう」


 少しギアを上げて走る。

 そうすると、目的の集団までぐんぐん近づく。

 全体の四割くらいの力で走って、これくらいなら、もうちょっと早くしても……ダメだね。

 それをしちゃうと、大小はあれど、家を壊しちゃう。

 これくらいが限界、かな。

 力のセーブは、師匠に厳しく指導されているから、そこまで難しくないけど。

 と、そんなことを考えていると、ようやく追っている人たちが見えてきた。


「やっぱり馬車、か」


 予想通り、馬車がかなりの速度で走っていた。

 あんな速度で街を走るって……被害を全く考えてない人たちみたい。

 普通に今が昼間というのに、爆走するとは……。

 いや、人の家の屋根を走っているボクが言えた義理じゃないかもしれないけどね。

 でも、被害が出ないよう気を付けてるから、まだマシ……だと思いたいです。


「……とりあえず、ここは暗殺者らしく行こう」


 ボクは家が壊れるか壊れないかくらいのぎりぎりの力で走り、客車の屋根に乗る。

 着地した瞬間に、ガクッと客車が沈んだけど、すぐに元通り。

 中の誘拐犯も気づいていない。

 ちょっと揺れた、程度にしか思っていないだろうね。


「さて……切れ味最高のナイフを生成……」


『武器生成』を使って、世界最高レベルの切れ味を持ったナイフを作成。


 この魔法って、結構便利だけど、切れ味や強度を上げれば上げるほど魔力の消費が高くなる。

 今ボクが作ったのは、軽く石を撫でただけで石が切れるナイフ。

 かなりとんでもないものだけど、ほとんど使い捨てに近い。

 多分、数回使っただけで折れるんじゃないかな? ってくらいだね。

 切れ味だけを強化すれば、ある程度は魔力消費を抑えられる。


 一応、切れ味と強度の両方とも最高レベルのものを作れないわけじゃないけど、魔力消費が激しすぎる上に、ボクでも九割くらい持ってかれちゃうので、ほとんど不可能。

 反対に、どちらか一方だけなら、そこまでって言うほど魔力を消費しない。

 具体的に、四割くらいで済む。


 この客車の材質から考えると……うん、五回くらいまでなら使えるね。


「それじゃ……お邪魔します!」


 作り出したナイフで、天井を切り抜き、中に侵入。


『な、なんだぶはっ!?』

『て、天井が落ちてきやがっだぐほっ!?』

『なっ、ど、どうなってぐべ!?』

「い、一体何が――きゃっ」


 中に侵入すると、男が三人、縛られている女の子が一人いた。

 それ確認してから、慌てる男たちの意識を刈り取る。

 一人は、鳩尾に拳打を入れ、一人は顎めがけて裏拳を素早く入れ、一人は頸動脈に当身を入れる。

 意識を落とすレベルの一撃を入れたから、多分しばらくは起きないと思うけど、急ごう。

 男の人たちを気絶させてから、女の子を抱きかかえて客車から脱出。

 もちろん、気配遮断と消音を使っているので、周囲には漏れていない。

 まあ、声はちょっと聞こえちゃったかもしれないけど……大丈夫、だよね?


「しっかり捕まっててくださいね」

「え、あ、は、はい……」


 客車を脱出すると、ボクは急いでこの場所から離脱する。

 あれ、女の子の方がちょっと身長高いね……。

 自分より身長が高い人をお姫様抱っこするって、なんかその……ちょっとあれだね。

 敗北感が……。


「あ、あの、あなたは……」


 名前を聞かれて、はたと気付いた。

 考えてみればボク、この人から見たら普通に不審者なんじゃないだろうか?

 男の時だったら、まあ……有名だったから正体を知っていたかもしれないけど、今のボクは女の子だから、さすがに知らないよね……。


「え、えっと、た、たまたま通りすがったただの旅人、かな?」

「あの、なんで疑問形なのでしょう?」

「あ、あはは……き、気にしないでいただけると、助かります……」

「は、はあ……」


 ちょっと微妙な反応だけど、一応は納得してくれたようで何より。

 ボクとしても、あまり正体とか知られたくないしね……まあ、明日のパーティーで知らされちゃうわけだけど。


「それで、えーっと……とりあえず、誘拐されたあなたを追いかけていた人たちのところへ送り届けます。それで大丈夫ですか?」

「は、はい。構いませんわ」


 よかった。それならすぐだ。

 助けている間に、ある程度回復したらしく、それなりに近くまで来ているみたいだし、急ぐとしよう。



 しばらく走ると、目当ての人たちが前の方で走っているのが見えた。

 こちらに向かっている。


 ……あれ? なんだろう。すごく見覚えのある人がいるような……?

 というか、見覚えのある甲冑に、紋章が見えるんだけど。


『そこの少女! とまれ!』


 ボクに気づいた先頭の人が、ボクに制止をかける。

 もちろん、止まるつもりだったので、言う通りその場で止まる。


「お前、姫様を……って、ん? イオ殿か?」

「やっぱり、ヴェルガさんでしたか」


 厳つい顔で近づいてきた騎士姿の男の人は、王国騎士団団長のヴェルガさんだった。

 制止をかけた相手が、ボクだと知り、ヴェルガさんがきょとんとした顔をしている。


「えーっと、なぜ、イオ殿が?」

「普通に今日は王都観光でもしようかと思って、街をふらふら歩いていたら、なにやら不穏な気配を感じまして。見たところ、誘拐が起こっているのかなって」

「さすがというかなんというか……本当にすごいな、イオ殿は」


 感心半分、呆れ半分と言った様子のヴェルガさん。

 器用な表情だなぁ。


「た、たまたまです。それで、この人が、ヴェルガさんたちが追いかけていた人、何ですよね?」


 相手がヴェルガさんだとは思わなかったし、気配感知を使ったのも本当にたまたまだったけどね。


「ああ。ちょっと目を離した隙に、誘拐されてしまってな」

「そうだったんですね。それで、騎士団の人たちが必死になるこの人って……」

「あ、ああ。この方は、リーゲル王国王女、フェレノラ=モル=リーゲル様だ」

「王女様だったんですね。…………って、えええええ!?」


 助けた相手が、とんでもない人でした。

 普通に、国の要人だったんですが。


「す、すみません! ずっと抱きかかえてしまって!」


 ボクは慌てて王女様を地面に下ろし、縛っていた縄をナイフで切る。

 その様子をクスクスと笑う王女様。


「いえ、構いません。助けてくださった恩人ですもの」

「そ、そうですか」

「はい。改めまして。リーゲル王国国王、ディガレフ=モル=リーゲルが長女、フェレノラ=モル=リーゲルと申します」

「あ、え、えっと、お、男女依桜、です」


 綺麗なカーテシーを決めながらの自己紹介をした王女様に見惚れて、慌てて自己紹介を返す。

 王女様はかなり綺麗な人だった。

 肩口で切りそろえられた、輝くような金髪に、ボクと同じような色を持った碧い瞳。

 顔だちもかなり優し気で、目はくりっと大きく、スッと通った鼻筋に、淡い桜色の唇。

 黄金比と言っていもいいほどのバランスの取れた体つき。

 身長は……百五十前半と、ボクよりも高い。

 誰もが認めるほどの美少女。

 そんな美少女な王女様。

 ボクが自己紹介をした途端、目を見開いて驚きの表情を見せていた。


「あ、あの……勇者様、なのですか?」

「へ? あ、えっと、一応、そう言われています」

「で、でも、勇者様は殿方だとお聞きしていたのですけれど……」

「そ、その……お恥ずかしながら、魔王の悪あがきで呪いをかけられてしまい……女の子になってしまいまして」


 苦笑い気味に説明すると、王女様はわなわなと震えだした。

 そういえば、王様が結婚させたいって言ってたっけ。

 もしかして、王女様も希望していたの?

 ……もしそうだったら悪いことを――


「す……」

「す?」

「素敵ですっ!」

「え?」


 突然、目を爛々と輝かせながら、素敵だと大声で言われた。

 ヴェルガさんたち騎士の人たちを見ると、あっちゃーみたいな顔をしていた。

 ど、どういうこと?


「イオ様……いえ、お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか!?」

「え!? あ、あの、えっと……ボク、元々男、ですよ?」

「構いません! わたくしにとって、今のイオ様しか知りません! ならば、お姉様とお呼びするのが当然なのです!」


 と、当然なの?

 あと、セルジュさんもそうだったけど、なんで性別を全く気にしないんだろう?


「ぜひ、ぜひお姉様とお呼びしたいのです!」

「あ、あの……」

「私、ずっとお姉様に憧れておりまして。お兄様も大好きですが、やはり姉が欲しいとずっと思っていました」


 あれ、なんか無視されているような?


「しかし! そんな中、イオ様のお話を聞き、私は憧れたのです!」

「そ、そうなんですね。でも――」

「それはもう、結婚してもいい、と思えるくらいには憧れておりました!」

「あ、あのですね? だか――」

「しかし、イオ様は帰ってしまわれました……。そして、再びこちらの世界に来たと、お父様にお聞きし、是非ともお会いしたいと思っておりました!」

「わ、わかりましたから、あの話を――」

「そうして、今日運命の出会いを果たしたのです! その上、イオ様はお姉様になっておりました! これはもう、運命なのです!」


 どうしよう。王女様が話を聞いてくれない。

 あと、何気にサラッと結婚してもいいって言っていたんだけど。

 ボク、あのまま残っていたら、王様の策略で、本当に結婚させられていたのかも。

 ……よかった、ちゃんと帰還して。

 ……うん。現実逃避はやめよう。


「なので、イオ様をお姉様とお呼びしたいのです!」

「で、でもボク、貴族でもなんでもないですよ? ごく普通の平民――」

「いいえ! イオ様は素晴らしいお方です! 僅か三年で魔王討伐を果たしたのです! そんなイオ様を平民と呼ぶのはおかしな話なのです!」


 うんうんと、騎士団の皆様も賛同していた。

 え、本当にボク、普通の平民なんですけど。


「それでしたら、問題ないと思うのです! なので、どうか……どうか! お姉様とお呼ばせください!」


 あ、ダメだ。

 何を言っても聞かないかもしれない、王女様。

 断ってもいいけど……ここまでくると、泣いちゃうような気がしてならない。

 でも、ここまで好意的だと無碍にもできないよね……。


「……わかりました。お姉様でいいですよ」

「あ、ありがとうございます! とっても嬉しいです!」


 お姉様と呼ぶだけなのに、そこまで喜ぶのだろうか?


「それと、ですね、お姉様」

「なんですか?」

「あの……私のことは、レノ、とお呼びください」

「え、でも……」

「いいのです。というか、レノと呼んでほしいのです!」


 ずいっと顔を近づけてくる王女様。

 もう、とことん付き合ってあげたほうがいい、よね。


「わかりました。レノ、さん。これでいいですか?」

「いいえ! レノです! あと、敬語もいりません!」


 この王女様、押しが強い。

 ここまで来ちゃうと、苦笑いするほかないです。

 ……はあ。


「レノ、これでいい、かな?」

「はいっ!」


 わぁ、なんて眩しい笑顔。

 花が咲いたような笑顔、っていうのかな、こういうのを。

 なんだか、大変なことになっちゃったような……?

 まあ、今さら、だよね、うん。

 ボクに降りかかってくる事柄が全部大変なのは、もう今更だなぁと、諦めることにした。

 ……改善、されないかなぁ。

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