第345話 ドッジボール準決勝

「お疲れ様、依桜」

「お疲れ、依桜」

「ありがとう、ふたりとも」


 試合終了後、ボクが観客席側に行く、未果と晶の二人が労いの言葉をかけてくれた。


「心配はしていなかったが、やっぱり勝ったな」

「うん」

「自重するー、とか言っておきながら、随分目立ってたけど?」

「うっ……」


 未果の呆れるような言葉に、思わず唸る。


 で、でも、友達の為だったと思えば、まあ……まだ、マシ……。


「ま、いいけど。この後は、ドッジボールの準決勝だったかしら?」

「あ、うん。そうだね」

「私と晶も、バスケがあるし、ないのは態徒と女委の二人ね」


 晶と未果の二人が、態徒と女委の二人と入れ替わる、みたいな感じかな。


 応援に行きたいけど、ボクにも出る種目があるし……。


 うーん、ドッジボールで相手チームをすぐに全滅させれば、できないことはないんだけどね。


 でも、そんなことをしたら、目立つのは確実だから、多分、やらないけど。


「でも、じゅんけっしょうをして、けっしょうもおわったら、けっこうじかんがあきそうだよね」

「まあ、午前の約一時間は準決勝に充てられるけど、決勝戦ともなると、全部の競技が同時に行われるから、それが終われば暇になるでしょうね。まあ、あの学園長のことだし、何かしら考えてはいそうだけど」

「そ、そうだね」


 未果の言う通り、あの人、ちゃんと用意してるしね……。


 しかも、最終種目のためだけに。


 あの人の考えはよくわからないよ。


「そう言えば依桜。メルちゃんたちの方はどうなってるんだ?」

「うーん、けはいをさぐったかんじだと……かっぱつにうごいてる、かな? なんにんかはうごいてないけど、たぶん、おうえんしてるだけかも?」


 動いてるのは、多分、リルとミリア辺り、かな?


 ニアは敗退しちゃってるし、メル、クーナ、スイの三人は次に行われる種目に出場するはずだからね。


 感情を読み取る限りだと、喜びみたいだし、多分勝っているか、もうすでに勝ったかのどちらか、かな。


「便利よね、それ。『気配感知』だったかしら?」

「うん。そのひとのいばしょとか、そのひとのかんじょうがなんとなくわかるから、かなりべんりだよ。いちおう、じょうじしようしているし」

「え、ほんとに?」

「うん。といっても、ししょうみたいに、いじょうなはんいじゃないけど」

「どれくらいなんだ?」

「うーんとね、はんけい5めーとるくらい?」

「いや、じゅうぶんすごいわ」

「スリとか、確実に防げるんじゃないか? それ」

「こっちのせかいではほとんどかくじつだけど、むこうにはきょうりょくなまどうぐとかあったから、ものによってはむずかしかったよ。まあ、みやぶったけど」


 もちろん、能力やスキルに依存しない、ボク自身の技能で。


 能力やスキルに頼り切るな、っていうのが、師匠がもっとも厳しく指導していた部分だったから。


 ボクも実際その通りだと思っていたから、ちゃんと守っていた。


 こっちの世界でも、もしかしたらそれを見破れない人がいるかもしれないけど……。


 だって、低いレベルで使用していたとはいえ、『擬態』とか『気配遮断』とかを見破るような声優さんがいるわけだし。


 あ、声優さんと言えば。


「そういえば、みうさんたちみた?」

「私は見てないわね。晶はどう?」

「俺もだな。たしか、今日は来るんだったか?」

「うん、そうらしいんだけど……きょうはいちどもあってないんだよね、まだ」

「何かしてるのかしら?」

「なにか……うーん、もしかして……」

「ん? 何か思い当たることがあるのか?」

「うん。じつは、きゅうぎたいかいしょにちにね、みうさんたち、がくえんちょうせんせいにあってたの。それで、なんだか、たくらんだようなかおをしていたなー、っておもって……」

「……学園長が関わってるとなると」

「確実に、何かしようとしてるな」

「……うん」


 学園長先生だもん。

 一体、何をするんだろうね?


「さて、そろそろちょうどいい時間だし、それぞれの場所に来ましょうか」

「あ、うん、そうだね」

「じゃあ、お互い頑張ろうな」

「うん」

「ええ」


 ドッジボール、頑張らないと。



 ドッジボール準決勝。


 相変わらず、ぶかぶかのナース服での参加。


 幸いなのは、このナース服の裾がふくらはぎの仲ほどでとどまっていることかな。


 これがもし、足裏まで到達していたら、ボクは試合どころじゃなかったけどね。多分、裾を踏んで倒れるんじゃないかなと。


 ……普通に考えたら、スカートで運動をするって、結構難しくない?


 ズボンと違って、布そのものがばさばさするから、やや動きにくくなるんだよね。


 ボクがそう言う状況でも動けるのは、いかなる状況でも動けるように、師匠に叩き込まれてるからであって、普通だったらまずやりにくいよね?


 ……ボクの体操着、どこ行ったんだろう。


『両チーム、準備はいいですね? それでは、始めます』


 先生がそう言い、ボールを上に投げる。


 ちなみに、今回もボクはやってないです。


 だって、笑われたら嫌だもん。


『おっし! 俺達の方だぜ!』


 ボールは、相手チームに渡りました。


『おっしゃ! ここで勝って、賞金ゲットするんだ! おらぁ!』

『きゃっ!』


 それなりに速い球が放たれ、ドッジボールしている時によくある、一ヵ所に固まっている人たちに投げられ、前の方にいた女の子に当たり、アウトになってしまった。


『よっし!』

『くっ、佐々木がやられた!』

『ならば、仕返し……だっ!』


 佐々木さんに当たったボールが自陣の中に残ったボールを遠藤君が回収し、投げ返した。


『うおっ!? くっ、やるじゃねか……』


 投げ返されたボールは、上手く一人の男子生徒に当たり、アウトにした。


 それで、今度は向こうにボールが渡り、こちらに投げ返されて、またクラスの人に当たり、今度は相手チームの外野の人にボールが渡り、こちらのチームの被害が拡大していく。


『や、やべえ……元外野含めて、もう四人しかいねぇ!』


 と、気が付けばそんな状態になった。


 まあ、元々十人での試合だから、ちょっとでも瓦解すると、すぐに全滅まで持って行かれてしまう。


 それで、ボク含めてもう四人しかいない状況。


 すでに、六人がやられてしまった。


 うぅ……また師匠がこっちを見てるし……負けられないよぉ……。



 なんて思ってたら、ボク以外が全滅。


 いや、早くない?


 さっきの状況から、約二分ほどでこの状況。


 ああ! 師匠がすっごい顔でこっちを見てるぅ! 怖い! 怖いよぉ! なんだか、すっごく恐ろしい笑顔でこっち見てるよぉ!


『おい、愛弟子。お前のその尻尾は飾りか?』


 って、師匠から『感覚共鳴』が届いた。


 ……師匠、変なところで使わないでくださいよ。


 でも、尻尾……。


 たしかに、使えるかも。


 試しに使ってみよう。


『くっ、メッチャ可愛いケモっ娘天使ちゃんを当てるとか、心苦しいし、なんかファンクラブの奴らに襲われないか心配だが……賞金のため! くらぇぇぇぇぇ!』


 それなりの速さのボールがボクに飛んできた。


 これはちょうどいいと思って、軽く横に避けると同時に、尻尾を使ってボールをキャッチ。


 あ、取れた。


『うええ!? ちょっ、それ飾りじゃないの!?』


 ……あ。考えてみれば、これを使うのって結構まずいような……でも、目立つことよりも、師匠がボクに何かをしてくることに比べたら、まだマシと思うべき……だよね。


 なんとなく、尻尾でボールをポーン、ポーン、と上に投げてはボールでキャッチ、みたいなことをしてみる。


 意外と器用に動かせるんだね、この尻尾。


 新発見。


『なあ、あれってどうやって動かしてるんだろう?』

『ってか、あの尻尾って自由自在に動かせたんだね』

『……いや、そもそも、尻尾があること自体が不思議なような気がするんだけど』

『でもよ、男女ならありかなーって思って』

『……たしかに』


 ……なんか、周囲からすご~~~~く視線が集中しているような……?


 も、もしかして、この尻尾……? ぜ、絶対そうだよね!? 原因はそうだよね!?


 ま、まずいけど……い、いいかな。うん。


 今は気にしない方向で行こう。そうしよう。さすがに、ここで負けたら師匠のお仕置きが怖すぎる。


 じゃ、じゃあ、試しにこの尻尾で投げ返してみよう。


「え、えいっ!」


 ヒュンッ!


 という風切り音が鳴り、ボクの放ったボールは……


『ごほぉ!?』

『え、ちょっ、ごふ!?』

『は? げふぅ!?』


 一人の生徒に当たり、それが跳ね返り、別の生徒に当たり、さらに跳ね返り、また別の生徒に当たり、三人まとめてアウトにできた。


 ……なんか、当たったヵ所を手で押さえて、ぴくぴくしてるけど……って!


「あぁ! ご、ごめんなさいごめんなさい! だ、だいじょうぶですか!?」


 慌てて、当てた人たちに近寄る。


『へ、へへっ……ま、まさか、し、心配して、くれるとは、な……ガクッ』

『あ、ああ、めっちゃ、嬉しい、ぜ……ごふっ』

『わ、わが生涯に一片の悔いなし……』


 気絶した。


『はーいどいてくださーい。回収しますよー』


 一体どこから現れたのか、保健委員の人たちが現れて、気絶した三人を回収していった。


 なんとなく、呆然と見ていると、


『あ、隙あり!』


 唐突に距離一メートルくらいの位置から、相手チームの人がボールを投げてきた。


「ふっ――!」


 それを瞬時に察知し、バク転で回避。


『ええ!? い、今、ほとんど距離なかったのに避けなかった!? ってか、よく見たら尻尾でボール取ってるし!?』


 うん、尻尾、便利。


 手にボールを持ち、尻尾を動かしてみる。


 尻尾で円を描いてみたり、丸めてみたり、後はボールをのっけてそのままいじってみたり。


 意外と、いいね。


「っとと、ボールをなげないと」


 相手チームの残り人数は、大体三人。


 もういっそのこと、三人をまとめてアウトにしてしまった方が早いような……で、でも、それだと目立つし……。


『残り時間、一分です!』


 って、ええぇぇぇ!?


 いつのまにそんなことに!?


 し、仕方ない……。


「やぁ!」


 ボールを振りかぶり、なるべく手加減してボールを投げた。


 相手チームの人は後ろの方に下がっている。


 あれくらいなら問題なしです!


 避けられると思って、安心したような顔をしてるけど甘いです!


 ボールは左側にいた人の左肩に当たり、それが跳ね返り、今度は右側にいた人の右肩に当たり、さらにそれが跳ね返り、真ん中の人の肩に当たり……地面にボールが落ちた。


『うっそ!?』

『マジで!?』

『畜生め!』

『試合終了! 勝者は、二年三組です!』


 勝ちました。


『すげええええええええええええ!』

『さっすが依桜ちゃん! かっこかわいい!』

『一人で全滅させるなんて……私たちにできないことを平然とやってのける!』

『そこに痺れる、憧れるぅぅぅぅぅ!』

「あ、あはははは……」


 これ、準決勝なのに、なんで決勝で勝った、みたいな騒ぎようなんだろうね?


 ……まあ、自分でも結構やらかしちゃってるって思ってるけどね……うん。なにも見なかったことにしよう。



 観客側。


「なあ、女委」

「なんだい、態徒君」

「依桜の奴、あんなに尻尾を自由自在に動かせたんだな」

「だねー。私、あれ見てちょっとエロい妄想しちゃったぜ」


 なんて、オレたちはなんとなーく話しているんだが、オレが言ったことに、女委がものっそいにやけた顔でそんなことを言っていた。


 うむ。


「ちなみに、どんな妄想だ?」


 気になる。


 ここはやはり、ド変態同人作家の妄想を聞いてみよう。


「あの尻尾で(ピ―――)とか、(ドゴォォン!)とか、(バァァァン!)とかされてみたい」

「ほう、たしかに。それはわかる。つまり……下の世話をしてもらいたい、と」

「その通り! ほらー、男ってこう、あの尻尾で(Foooooo!)とかされてみたい! とか思うでしょ?」

「うむ。否定せん。ってか、マジで理想! ケモっ娘ヒロインのあの尻尾奉仕、エロゲをやってる時マジで憧れてる!」

「おー、さっすが変態君だぜー。欲望に忠実だぜ」

「ははっ! だろ?」

「うん!」


 オレたちの猥談はかなりヒートアップし、結果的に依桜が俺達の所に来るまで続いた。


 なぜか、依桜に殴られた。


 ピュアなのに……なぜ。


 一応理由を尋ねたら、


『なんとなく、気持ち悪かったから』


 だそう。


 ……あいつ、鋭くね?

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