第54話 王城でのパーティー2
パーティーが始まり、会場は一気に歓談ムード。
ボクはボクで、いろんな人に話しかけられていた。
『あ、あの、イオ殿! うちの息子なんていかがでしょうか!』
『おい貴様! 何を抜け駆けしている! イオ殿、ぜひうちの息子と!』
なんていう風に、なぜか縁談を持ちかけられていた。
もちろん、その相手は男の人なので、ボク的にはちょっと。
「あ、あの、ボク一応、男、何ですけど……」
『それは前の話で、今は女性だろう? それなら問題はないではないか』
『うむ。その通り』
いや、あの……ボク、普通に恋愛する気はないんですけど。
「えっと、今は女の子でも、心は男なので……ごめんなさいっ!」
『そ、そうか……』
『イオ殿くらいの美しい少女なら、きっと想い人がおるのだろうな……』
まさか、いきなり縁談を持ちかけられるとは思わなかったよ。
あ、でも、セルジュさんにプロポーズされたこともあったし……あれも一応、縁談と言えば、縁談、なのかな?
この後も、いろんな人がボクのもとに来て、縁談を持ちかけてきた。
もちろん、すべて丁重にお断りしましたよ。
……まあ、師匠の殺意がひしひしとボクに直撃していたのもあったけど。
それにしても、なんで、結婚させたいと思ってるんだろう?
やっぱり、魔王を倒したから、戦力的に欲しい、とか?
貴族の考えることはわからないよ。
そんなことを考えていると、後ろから誰かが走ってくる音が。
「お姉様!」
うん? 今の声は……。
「お姉様!」
「わわっ……と、危ないよ、レノ」
ばふっと、飛び込んできたレノをしっかり抱きとめる。
「申し訳ありません。その、お姉様がかっこよくて、いてもたってもいられず……」
「そ、それは嬉しいけど、レノはお姫様なんだから、会場内を走ったりしたらだめだよ?」
「はーい」
聞いてるのかな、これ。
『おお、『白百合姫』様だ』
『姫様、なんとお美しい……』
『イオ殿と一緒だと、一層華があるな』
『『白百合姫』様、今、イオ殿のことをお姉様と呼んでいたが……』
『それ以前に、イオ殿が、姫様のことをレノとお呼びしていたぞ』
レノの登場で、周囲がざわざわし始めた。
やっぱり、レノってお姫様なんだなぁ。
たしかに、可愛いよね。
そう言えば、『白百合姫』って聞こえたけど、レノのことかな?
……なんだろう? 普通に容姿のことを言っているはずなんだろうけど、全く別の意味に聞こえてしまうのは、なんでだろう? 女委に毒されたかな?
「さあ、お姉様! 一緒にパーティーを回りましょう!」
「うん、いいよ。約束だったからね」
「ありがとうございます! 行きましょ!」
元気だなぁ、レノ。
ぐいぐいボクの手を引っ張っていくよ。
「あ、そうだ。レノ、ちょっと師匠の所に行ってもいいかな?」
どうせなら、レノを紹介しておこう。
「お姉様のお師匠様のところですか? もちろんです! 私も会ってみたいですし」
「よかった。すぐ近くに行くから、行こっか」
「はいっ!」
うん。レノは可愛いね。
なんだか、妹みたいでちょっと癒される。
……普段、荒れてるからね、周囲が。
こんな風に、誰かと一緒にいて心休まった時なんてほとんどないよ。
レノなら、変なことをしたり考えたりしてなさそうだからね。
「あ、師匠―」
「ん? ああ、イオか。どうした……って、ん? その子は?」
「あ、は、初めまして! リーゲル王国王女、フェレノラ=モル=リーゲルと申します!」
「ああ、あのくそや――こほん。王様の娘か。ふむ……あたしはなんて呼べばいい?」
「え、えっと、レノ、で大丈夫ですよ!」
「そうかわかった。それで、レノ。ちょっと話があるんだが、いいか?」
普通に王女様相手にため口をきける師匠は、本当にすごい。
師匠が敬語を使うことなんて、滅多にないし。
「あ、はい」
「ああ、イオはちょっとそこで待っていてくれ」
「わかりました」
ボクに待ってるよう指示して、師匠はレノと少し離れたところに行ってしまった。
「それで、レノ。お前は、イオのことをどう思ってる?」
「ど、どう、とは?」
「そりゃ決まってる。好きかどうか、だよ」
「なっ、ええええええと、えとえとえとえと……す、すすす好きって、その……そういうこと、ですよね?」
おーおーおー、面白いくらい動揺しているな、レノ。
ふむ。さっき、イオと一緒に歩いているときに、妙に熱っぽい視線をイオに向けてるなと思ったら、やっぱりか。
あいつ、王子だけでなく、王女まで落としたのか。
両性にモテるとだろうなとは思ったが、本当にそうなるとはな。
「ああ、今お前が考えていることで問題ない」
「あ、あの、えっと……わかりやすかった、んでしょうか?」
「さあな? あたしから見たらまるわかりだ。最も、イオの奴は全くと言っていいレベルで気づいていなかったみたいだが」
あいつ、鈍感だしな。
そもそも、自己評価がかなり低いし。
元男なら、自分の可愛さくらい、気づくと思っていたんだが……。
やはり、あいつはそう言った面では疎い。
ま、自分自身だから、すごく可愛い、なんて思わなかったんだろうな。
「そ、そうなんですね」
「ただまあ、あいつと恋愛したい、ってことなんだろ?」
「そ、そのぉ~……はい」
一瞬言い淀んだが、思い直したのか、それを止めて肯定した。
「ふむ。あいつは今、女になっている。当然、同性同士の恋愛になる。お前は、それでもいいのか?」
「もちろんです! お姉様は、私の命の恩人です! かっこよく私を救い出してくれたお姉様に、私は恋をしています! 男性でも、女性でも愛せます!」
頬を赤らめながらも、目をきらきらさせながら力説してきた。
「お、おう、そうか」
これは、ガチだな。
しっかし、命の恩人ねぇ……。
あいつ、そんなこと言ってなかったよな?
いつ知り合ったんだ? あいつ。
というか、普通にお姉様呼びされてるし。
……そういう趣味でもあるのか? いや、違うな。
これは、普通に、レノが自発的に呼んで、イオが断り切れなくて了承した、ってところだろうな。
いやしかし、ここまで本気とはな。
「まあわかった。一応、あいつは呪いを解呪する予定だ」
「解呪? もしかして、反転の呪いって解呪ができるんですか?」
「ああ。一応な。今日あたしがこのパーティーに参加した理由の一つは、解呪だからな。くそや――王様に交渉しに来たんだよ」
「なるほど、そうだったのですね! わかりました、後でお父様を呼んで参ります!」
「そうか、それは助かる」
ほとんど勢いだったが、何とか交渉できそうだ。
ま、こっちがだめでも、イオからクソ野郎に話を聞かせりゃいいだけだが。
後の懸念としては、イオを戻すことに反対だった場合だったんだが……レノはガチだったから、問題ないな。
ただなあ、あたしもあいつが好きだしな……。
「ところで、一つ聞いておきたいんだが」
「なんでしょう」
「たしか、イオにプロポーズをしたやつがいるはずなんだが……そいつは誰だ?」
「え? えっと、
やはりか。イオから聞いていたが、ガチの王子だったとはな。
「それでその、お兄様というのは、金髪碧眼で、ちょっと身長が高めで、常に笑顔を浮かべている奴か?」
「は、はい。そうですけど……どうかしたのですか?」
「いやなに。うちの弟子にちょっかいかけてきやがってるんで、どうしようかなと。ついでに、今もイオに絡んでいるみたいだしな」
「え?」
あたしが指摘すると、レノが慌ててイオの方向に目を向ける。
そこでは、金髪碧眼の、さぞモテるんだろうなと言わんばかりの容姿の青年がいた。
ふむ。初めて見たが……なるほど。かっこいいと言われるのも、わからなくはないな。
だが、イオの方がかっこいい。
「お兄様……抜け駆けしてぇっ」
たしか、噂では仲がいい兄妹と聞いていたんだが……なるほど。お互いに好きになった相手だから取り合っている、と言ったところだな、これは。
「さて、あたしらも行くとするか」
「はいっ!」
おーおー、気合入ってるねぇ。
師匠たち、なに話してるんだろう?
時折、レノが赤くなったり、師匠が笑っていたりするのは見えるんだけど……。
暗殺者としての能力を使用して近づこうものなら、師匠に怒られるどころか、殴られかねない。
まあ、元々やる気はないけど。
やることはないし、とりあえず料理でも食べながら待ってようかな。
「イオ殿、ここにおられたのですね」
「あ、セルジュさん」
料理でもつまみながら待ってようと決めたところで、セルジュさんがボクのところに来た。
言葉から察すると、ボクを探してたのかな?
「セルジュさん、ボクに何か?」
「あ、いえ。少し、お話しがしたいな、と。だめですか?」
「いえ、ボクもちょうど待っていて暇だったので、いいですよ」
「それはよかった」
人懐っこい笑みを浮かべる。
イケメンって、何でも似合うって言うけど、あれ、本当なんだね。
「そのドレス、よく似合ってますね」
「そ、そうですか? ドレスなんて初めて着たので、結構戸惑ってるんですよ」
なにせ、一ヶ月くらい前までは、男だったからね。
ドレスが初めてじゃなかったら、ちょっと怖いよ。
……女装は、させられたけど。
「そうなんですね。イオさんは、元に戻ろうとは思わないんですか?」
「もちろん、戻りたいですよ。まあ、近いうちに解呪をするんですけど」
「解呪、ですか? 呪いの?」
「はい。えと、どうかしたんですか……?」
「あ、いえ。反転の呪いは、かけられたが最後、解呪は不可能、と呪いについて書かれている書物すべてに書かれているのですが……」
「え、そうなんですか?」
それは初耳。
元の世界に帰る前、呪いを何とかしようと、本を読んでいたけど、あの時は少ししか読めなかったからなぁ。
少なくとも覚えている限りでは、一度発動したら解呪は不可能、みたいなことが書かれていた気がするけど。
でもたしかに、呪いの解呪って難しいからね、この世界。
呪いによって解呪方法は違うし、内容によってはかなり入手が困難なものが必要にあるときもある。それに、呪いによっては、ちょっといい方面に転ぶ場合があって、解呪をしない人もいるため、半数近くの呪いの解呪方法はわかっていないらしいし。
ある意味、魔法よりも謎が深い分野なのだそう。
「でも、師匠が戻る方法を知っていたので、それで戻るつもりですよ」
「すごい人ですね」
「本当に、規格外な人ですよ、師匠は」
「イオさんも十分規格外だとは思うんですがね……」
「そうですか?」
「そうですよ。その美貌に、あの身体能力。それをとっても普通じゃないです」
「そ、そうですか」
美貌はともかく、身体能力は確かに、普通の人からはかけ離れてるし……。
まあ、それでも師匠には勝てないんだけど。
……あの人に勝てる日は来るのかな?
「それにしても、戻る、んですか」
「もちろんですよ。元々男なんですよ? 今の姿がおかしいだけで、本来なら男の姿が普通なんですから」
「それもそう、ですね。少し残念ですが……」
何が残念なの?
もしかして、プロポーズの件? あの件ことを言っているの?
「ですがまあ、男のイオさんでも愛せますし、問題はないですね!」
「いやありますよ!?」
「何を言っているんですか。性別など、些末なこと。愛と言うのは、いろんな形があるのです! 好きになってしまったのなら、相手がどんな姿であろうと、愛するのが当然! もし、姿が変わってしまっても愛せないというのならば、それは愛ではない!」
「じゃ、じゃあ、仮にボクが目がいっぱいの化け物になっても愛せるん、ですか?」
「当然さ! 私は、イオさんがどんな姿でも愛せるとも!」
愛がモンスターすぎるよ、セルジュさん!
普通の人は、好きな人が目がいっぱいの化け物になっちゃったら悲鳴を上げて逃げ出すと思うんです。
それなのに、性別は気にしないし、外見も気にしないとなると、本気すぎてちょっと怖い。
これ、断っても断っても、何度でもアプローチをかけてきそう。
好かれるのは嫌じゃないんだけど、ここまでくると、その……ちょっと、ね?
気配感知でこの人の気配を見てみても、悪い感情なんて一切なく、純粋な感じだし……本気で言ってるんだろうね。
「お兄様―――!」
セルジュさんの力説に対して、内心ほんの少しだけ辟易していると、レノの声が聞こえてきた。
「む、フェレノラか」
「お兄様!」
ボクのところに来たときと同じように、セルジュさんに向かって走っている姿が見えた。
あれ? 師匠がいない。
どこ――って、んんっ!?
「おい、貴様。イオにプロポーズしたと聞いたが……本当か?」
気が付けば師匠がセルジュさんの目の前に立って、殺気を放っていた。
しかも、セルジュさんに向けてピンポイントに。
そのせいで、周囲の人は気づかず、談笑を続けている。
そして、その殺気を一身に受けているセルジュさんは、
「そ、そうですはい!」
「ほほぅ? あたしのイオにプロポーズするとは……いい度胸だな?」
「あの、師匠? ボクは師匠の物では――」
「弟子は黙ってろ」
「はい」
封殺。
無理です無理です!
殺気だけで人を殺せそうなほどの状態の師匠に逆らうのは無理ですぅ!
怖いんですよぉ、あの人!
今だって、にっこり笑っているのに、目が笑ってないもん!
完全に、獲物を見る目をしてるもん、師匠!
セルジュさんなんて、顔は青ざめ、体はがくがく震えてるよ!
「それで? お前、イオが元々男だって知ってるんだよなぁ?」
「も、もももちろんです!」
「なるほど? 知ってなお、イオが好きということか」
ああ、ますます深い笑みに!
「す、好きです!」
「そうかそうか。なら――」
「まあ、お兄様、本気だったのですね?」
あ、レノが入ってきた。
師匠が何かを言う前に、割って入ってきた。
いきなりセルジュさんの前に表れた師匠に気を取られて気づかなかったけど、いつのまにかセルジュさんの近くに来ていた。
「当然だ! 私は、そのようなことで嘘を吐くような人間はないぞ」
「それにしては……ミオ様に対して、たじたじな気がするのですけれど?」
「な、何を言っている。堂々としているだろう!」
……見栄を張っちゃうんですね、セルジュさん。
「それとお兄様? イオさんが解呪すると言うことを、聞いているんですよね?」
「ああ、先ほど聞いたが、それがなんだ?」
「お兄様的には、戻らないほうが良いのではないですか?」
「な、何を言う! イオさんの幸せを願えばこそ、元に戻るのが一番いいだろう!」
「でも、お兄様は男性です。イオさんが元に戻ってしまわれれば、男性です。つまり、同性愛になってしまいますよ?」
「私は構わない! たとえイオさんが男だろうと、私は愛せる!」
『きゃあああああ!』
セルジュさんの発言で、周囲にいた貴族の女の人たちが黄色い悲鳴を上げていた。
こっちの世界にも腐女子って、いるんだ。
……女委と仲良くなれそう。
「なあ、イオ。あたし、途中で遮られたんだが……」
「仕方ないです。あの二人は兄妹ですからね」「
「そういう物か? ……にしてもお前、愛されてるな」
「もろ手を挙げて喜べませんけどね」
同性からのプロポーズだったわけだしね……。
「いやしかし、あの二人は仲がいいと聞いていたんだが……」
「そうなんですか?」
「ああ。なんでも、お互いに気遣い、自然に助け合うような仲なんだとか」
「でも、どう見ても言い争っているように見えるんですけど……」
レノは挑発的な笑みを浮かべ、セルジュさんは少し不機嫌そうな顔をしている。
……仲がいいようには見えないんだけど……。
「……さすがあたしの弟子だな。まさか、兄妹の仲すらも破壊するとは」
「師匠、何か言いました?」
「いや、なんでもないぞ。うちの弟子は可愛いな、と」
「あはは。お世辞を言っても何も出ませんよ」
「……これだもんなぁ」
なぜか師匠が諦めたような笑みを浮かべて、首を振っていた。
どうしたんだろう?
「大体、いきなりプロポーズするなんて、はしたないですよ!」
「溢れ出る愛が止められなかったのだ! 好きだと言って何が悪い!」
「せめて、お互いを知ってからですよ!」
「そんなことを言って、フェレノラはどうなのだ!」
「私は、普通にお姉様と呼ばせてほしいというところから始めました」
「ほとんど変わらないではないか!」
「いいえ、お兄様とは違います!」
「いいや違くない!」
「違います!」
「違くない!」
「違います!」
「違くない!」
と、言い争いを続けていたら、
「いい加減にせぬか!」
ゴンッ!
「「あいたっ!?」」
怒った表情の王様が、レノとセルジュさんに鉄拳制裁していた。
あの音は痛そう。
実際に痛かったのか、二人は殴られたところを抑えてうずくまっていた。
「イオ殿が主役と言っても過言ではないパーティーで、恥ずかしい喧嘩をするでないわ!」
「「も、申し訳ありません……」」
謝罪が見事に重なった。
師匠の言っていた通り、本当は仲がいいのかな?
「まったく。パーティーという楽しい場だというのに、王族である二人が喧嘩をしてどうする!」
がみがみと言う言葉が見えそうなほどに、王様は目を吊り上げて二人を叱っていた。
王様、ちゃんとするときはちゃんとするんだ。
ボクは、王様が実はちゃんとした人なんだなと、この時初めて知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます