第53話 王城でのパーティー1
お姫様抱っこのまま、王城前まで連れていかれ、門番の人がいる目の前でようやく下ろしてもらえた。
「ほい、着いたぞ」
「……恥ずかしかったですぅ……」
「あたしは楽しかったぞ。イオは、ちょうどいい大きさだからなぁ」
「や、やめてくださいよ……」
本当に恥ずかしかった。
街中を、師匠にお姫様抱っこされながら進むんだもん。
師匠は、神経が図太いからいいけど、ボクはそこまで強くないし……。
『お名前をどうぞ』
「くそや――こほん。国王陛下に招待された、イオ・オトコメと、ミオ・ヴェリルだ」
今師匠、王様のこと、クソ野郎って言いかけてたよね?
『ゆ、勇者殿に、英雄様ですか!?』
『へ、陛下の言っていた通り、本当に女性になっているのだな、イオ殿』
「あ、あはは……まあ、そう言うことです」
門番の人たちとは、面識があるので、かなり驚かれたようだ。
心なしか、顔をが赤い気がする。
風邪かな?
あと、師匠が英雄様って言われているのが、なんだか違和感というかなんというか。
『お二人には招待状は送っておりませんが、陛下が顔パスでよい、と言っていたので、このままお進みください』
「あいよー」
「ありがとうございます」
顔パスって……。
王様、たまに適当だよね。
『お待ちしておりました。イオ様、ミオ様』
王城に入ると、待ち構えていたかのように、メイドさんが歓迎の意を示してきた。
何度呼ばれても、様付けは慣れない……。
ちらりと師匠を見ると、いつも通りのすました表情。
慣れてるんだろうな、こういう場面に。
『更衣室はこちらです、どうぞ』
「は、はい」
丁寧にされるのも、本当になれない。
やっぱり、普通の庶民的な生活が一番落ち着くよ……。
通された更衣室は、前回ボクがドレスの試着をした部屋だった。
そう言えば、試着するための個室のようなものが、いくつかあったっけ。
師匠は一人でいいと、メイドさんの申し出を断っていたが、ボクは着慣れないドレスなので、手伝ってもらうことにした。
その際、手伝ってくれたメイドさんの目が怖かった。
獲物を見るような目というのだろうか? そんな感じだったので、早く着替えを済ませたい、という気持ちでいっぱいだった。
それに、やたらとボクの体を触ってくるんだもん。
胸とか、背中、腰、脚も、いろんなところを触られた。
こ、これって、ちゃんとドレスを着るために必要なことなんだよね?
決して、メイドさんたちが、奇行に走ったってわけじゃないんだよね?
『イオ様、終わりましたよ』
「あ、ありがとうございます」
妙につやつやとしているメイドさんにお礼を言って、個室から出た。
「ん、おー、遅かったな、イオ」
「あ、師匠、お待たせしました」
個室の外では、すでに師匠が待っていた。
さ、さすが長身美人……ドレス姿が似合ってる。
師匠は、黒のロングドレスを着ていた。
裾は膝より少し下くらいの長さで、よく見ると、スリットが入っている。
ドレス自体は、体のボディーラインをはっきりさせている物のせいか、師匠のメリハリのあるスタイルがよくわかる。
いつもはポニーテールにしている髪も、今日は下ろしているようで、ストレートロングにしていた。
普段のずぼらな師匠は一体どこへ? と思えるほどに、師匠はとても魅力的だった。
「ん、どうした、あたしをじーっと見て」
「あ、い、いや、その……」
「ほほう? もしかして……見惚れたか?」
「はぅっ!」
「図星か。つか、今の声可愛いな。お前、ますます女になってきてるんじゃないのか?」
……ボクもなんで、今の声が出たのかがわからないです。
「い、いえ、だって、師匠ってすごく綺麗ですから、その……魅力的、ですよ」
「そうか。ありがとな。……できれば、男の時に言ってもらいたかったが」
「師匠、今何か言いました?」
「いや、何でもないぞ」
ぽそっと最後に何か言っていたような気がしたんだけど……気のせいだったのかな?
「さて、行くぞ、イオ」
「あ、はい」
着替えを終え、ボクたちは王城内のパーティー会場に来ていた。
そこでボクと師匠は一旦別れた。
というのも、ボクは魔王を倒した立役者であり、異世界からの来訪者、それに加えて勇者という立場だから、正式に発表したい、とのことらしく、王様がさっき頼みに来ていた。
恥ずかしいから断りたかったんだけど、師匠にも行って来いと命令されてしまった上に、王様に泣きつかれるという悲惨な状況になってしまったので、断り切れなかった。
まあ、こっちでかなりお世話になったしね……あれ、本当にお世話になったっけ?
少なくとも、衣食住だけでしか助けてもらわなかったし、何より、それらを手助けしていたのって、メイドさんとか執事さん、あとは騎士団の人たちだったような……?
……あれ、王様命令しただけで、何もしてなくない?
……それに、この世界に呼んだきっかけの一人と考えると……ボクからしたら加害者以外の何者でもないような?
うん。やめよう。王様はいい人。うん、そう考えよう。
そんなわけで、ボクは現在、舞台裏にいる。
王城内に、パーティーをするための部屋があり、そこには舞台も作られていた。
ボクは舞台袖の方にいる感じです。
こっそり、会場を見回すと、かなり大勢の人がすでに会場内にいた。
この王城に呼んだのは、貴族だけらしいので、爵位を持っていないのは、ボクと師匠だけになる。
リーゲル王国の貴族の人たち全員に招待状を送って、来ていない家はないのだとか。
それだけ、魔王討伐が喜ばしいことだったってことみたいだ。
……まあ、ボクとしてはあんまり喜ばないでほしいんだけどね。
あれでよかったのかな、ってずっと思うわけだし。
……魔王は絶対に許さないけど。
ボクに反転の魔法をかけたからね、あの人。
魔王が復活して、もしも、ボクが倒した魔王さんだったら、ボクは間違いなく、真っ先に倒しに行くだろうし。
それにしても、この国って、こんなに貴族がいたんだ。
見るからに、人、人、人。
会場を動き回って、サポートや料理の配膳、お酒を注ぎまわっているメイドさん以外の人全員、豪華なドレスや、礼服を着ている。
うっ、こういうパーティーって参加したことないから、勝手がわからない……。
師匠は。師匠はどうしているんだろう?
そう思って、会場内のどこかにいる師匠を見回していると、
「……あ、いた」
貴族の人と談笑していた。
え、なに、あの微笑み。
見たことないくらいに、美人なんだけど……。
師匠って、本気を出したらすっごく美人だから、自然な微笑みとかを見ていると、つい見惚れちゃいそうになる。
でも、普段のずぼらな姿を見ているボクからしたら、少し寒気が……
「……」
ギロッと師匠の鋭い眼光がほとんど知覚できないほどのスピードでボクに飛んできた。
これだけ離れているのに、なんで気付くの? あの人。
本当は、読心術系統の能力かスキルを持っているんじゃないだろうか?
「イオ殿、準備はよいか?」
「あ、王様。え、ええっと、恥ずかしいということを除けば、大丈夫、です……」
「わかった。それでは、始めるとしようか」
う、うぅ、緊張してきたぁ……。
「あー、あー……ごほんっ。我が親愛なる臣下たちよ。此度のパーティーによくぞ出席してくれた。我が国……いや、人間の国全てが、魔王軍からの侵攻を受けて十年。戦争が始まったばかりの頃は、幸いにも数による戦略で押し返していた。その状態が、五年も続き、未曽有の危機にはさらされていなかった。しかし、かの魔王が出現してから、魔王軍は個人としての強さが目に見えて向上し、押していた我が人類の軍も、押し返されていった。押され気味の状況が二年ほど経ち、我らは異世界の者を召喚するという暴挙に出た」
あ、暴挙って思ってたんだ。
あと、あの戦争、十年もしてたの?
「召喚された勇者殿は、我らに対し怒るでもなく、助けると言ってくれた」
いや、助けるとは言ってなかったんだけど……。
どちらかと言えば、魔王倒さないと帰れない契約だったから、しかたなく、って言う面の方が強かったような……?
まあ、押しに弱い、って言うのもあったかもしれないけど。
「しかし、勇者殿は最初はとても弱く、非力な存在であった」
酷くない? 勝手に異世界に呼んでおいて、そんなことを思ってたの?
思わず殺気が漏れ出そうになったけど、寸でのところで抑える。
……あれ、なんだか殺気を感じる……って、ああ、師匠がすごい殺気を漏らしてる!
しかも、周囲には悟らせないって言う、半ば化け物みたいな殺気の出し方だよ!
あれ、すごく怒ってるよ。王様に対して、すごく怒ってるよ!
「だが、勇者殿は、自分の力のなさを理解し、修業を積み、一年で王国最強となるに至った。その後は、師匠を探して旅に出て、見つけた師匠殿に一年間修業をつけてもらい、三年目でとうとう、魔王討伐に乗り出した」
旅に出る、なんて言ったけど、師匠と出会ったの、王城から出て数分だったんですが。
言うほど、師匠探しの旅に出ていたわけじゃないんだけど……。
は、恥ずかしぃ!
「そしてついに! 一月ほど前、勇者殿は魔王討伐を果たした!」
王様のその一言で、会場は沸き、耳を澄ませると、王都の方でも歓声が沸いていた。
この王様のお話しは、国中に流されているのかも。
国民を安心させたい、ってことなのかな。
「勇者殿は魔王討伐後、十日ほどの休息を経て、元の世界へと帰還していった。しかし、勇者殿は現在、我が国で滞在しており、この場に来てもらっている!」
あ、あれ? 妙にハードルを上げてない?
「勇者殿――イオ・オトコメ殿、舞台へ」
き、きた。
し、深呼吸……。
「すぅー……はぁー……よ、よし」
緊張しながらも、ボクは舞台袖から、王様のいる部隊の中心へと歩いていく。
ボクが現れた瞬間、会場がどよめいた気がする。
気がするだけであって、気のせいだとは思うんだけど……。
そんなことを気にしつつも、中心へ向かって歩き、王様の横に立って一礼する。
「この者が、イオ・オトコメ殿。人類にとっての勇者であり、英雄だ!」
『おおおおおおおおおおおっっ!』
王様がボクの紹介をすると、会場から歓声が上がり、拍手をしだす。
そんな中、一人の貴族の男の人が挙手をした。
「ノートレス侯爵家長男、ギスベル=ノートレスと申します。国王陛下。一つ、質問をよろしいでしょうか」
「うむ。許す」
「ありがとうございます。聞いたところによると、勇者殿は若い少年だった、と聞き及んでいるのですが、その者は美しい少女です。これは一体どういうことなのでしょうか?」
あ、うん。やっぱり聞かれるよね。
王様を見ると、予想通りという表情をしていることが見て取れた。
あと、わざわざお世辞を言うとは、さすが貴族だ。
慣れてるんだろうね。
「イオ殿は、魔王を倒した直後に、反転の呪いをかけられ、このような少女の姿になってしまった。だが、紛れもなく勇者殿で間違いはないので、安心するがよい」
『あ、あの伝説の呪いを……』
『大丈夫なのだろうか?』
『あの者は、本当に勇者殿本人なのか?』
あー、疑い始めてる人も出始めた。
ど、どうすればいいんだろう? この場合。
王様もどうしたものかと、悩んでいる様子。
何かした方が――ッ!
「やぁっ!」
一瞬、妙な殺気と共に、何かが飛んできた。
そしてそれを何とかキャッチし、投げ返す。
その先にいたのは、
「って、師匠!?」
投げ返した先にいたのが師匠だったため、思わず大声を出してしまっていた。
王様もびっくりしたのか、顔には驚愕の文字が浮かび上がっていそうなほどに、ぽかーんとしていた。
「はっはっは! いやぁ、不意打ちだというのに、よく取れたなぁ、弟子」
「いや、洒落になりませんよ! というか、なんでいきなりナイフなんか……」
さっき師匠が投擲したのは、普通のナイフだった。
多分、武器生成か何かで創ったんだろうなぁ。
「でもま、これではっきりしたんじゃないのか? お前が、イオ・オトコメ本人だって」
「……あ」
「なるほど。わざわざ信用させるために、仕掛けてくれた、というわけか……。皆の者、たしかに、イオ殿は女子になってしまったが、その強さが決して疑われるわけではない! 今のように、突然飛来したものをしっかり受け止め、投げ返すことができるほどに、イオ殿は強い! そして、今投げられたものが何か分かった物はおる?」
王様が貴族の人たちに尋ねると、誰一人として答える人はいなかった。
「この芸当は、騎士団団長のヴェルガですら不可能だ。これでもなお、イオ殿を疑う者はおるか?」
無言。
つまり、それはつまり肯定。
「そもそも、この国どころか、人類にとっての恩人を疑うとは何事か! おぬしら、それでもリーゲル王国貴族か! 儂は恥ずかしいぞ!」
王様の叱責に、疑った人たちが下を向く。
これ、やりすぎなんじゃ……?
「あの、王様? ボクが女の子になったということを知らなかったわけですし、しょうがないんじゃないでしょうか?」
「む、そうか?」
「はい。そもそも、ボクってあんまり強そうな外見をしてませんから、疑ってしまってもしょうがないです。それに、ボク自身、自分の功績をわざわざ言うようなことをしたくないですから」
「……やはり、おぬしは謙虚だな。聞いたか、皆の者。イオ殿は、疑ったことを許すと申しておる! 本来であれば、厳しい処罰があるが……イオ殿の寛大な判断に感謝するのだぞ!」
あ、あれ!? そう言うことじゃないんだけど!?
というか、あれだけのことで厳しい処罰を与えようとしてたの、この人!?
どうしてこうも、この世界の人って言うのは、無茶苦茶な人が多いんだろう?
「さて、長い儂の話はここまででにして。ここからは普通に行こうぞ! お互いの立場など、忘れて、お互いが同じ立場だと思って、思う存分、飲み、食べよ! 乾杯!」
『乾杯!』
う、うわ、すっごい強引にいったよ!
ここまで無理矢理に、乾杯まで持っていた人をボクは見たことがない。
そして、それに対して疑問にも思わずに乾杯している人たちも見たことがない!
本当に価値観が違うなぁ……。
「さ、イオ殿。イオ殿も楽しんでいってくれ」
「あ、は、はい」
楽しんでって言われても……。
どうすればいいのかわからないけど、とりあえずボクも舞台から降りよう。
ずっとここにいるのもあれだからね。
そう思いながら、ボクは舞台から降りて行った。
そんなこんなで、王様の強引な挨拶で、パーティーが始まった。
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