第239話 語り合い 下

 ボクたちの話は続きます。


「ところで、桜はモデルとかエキストラとかやっていたか?」

「やったよ。あれだよね? 碧さんにスカウトされて、っていう」

「そう! で、美羽さんって言う女優……じゃなくて、声優を助けたり」

「うんうん! そしたら、なぜかテレビで有名になっちゃったりして……」

「……しかも、それが原因で白銀の男神とか言われるし……」

「ボクの場合、白銀の女神って言われてるよ……」

「恥ずかしいよな……」

「……うん。すごく」


 テレビで、そんな大層な呼ばれ方をした時は、本当に恥ずかしかった。

 しかも、学園にいるみんなも知ってるし、未果たちだって知ってたから、本当に恥ずかしかったんだよね……。


「そう言えば、そっちのミス・ミスターコンテストの、ミスター部門は誰が出たんだ?」

「晶だよ。ちなみに、優勝したよ」

「まあ、晶はかっこいいからなー」

「それじゃあ、依桜の方のミス部門は、誰が?」

「未果だ。こっちも、未果が優勝してる」

「そうなんだ。未果、可愛いし綺麗だもんね」

「ああ。性格もいいから、モテてるよ」

「やっぱりそうなんだ」


 本当にそっくりな世界なんだね、ここって。

 ボクの性別とかが違うだけで、結構、変わってる部分も多いけど、大きくは外れていない。

 不思議な世界だよね。


「まあでも、あれだな。体育祭では、本気で怒ったものだ」

「もしかして、態徒?」

「ああ。まさか、大事な友人をボコボコにされてるなんて夢に思わなかった。おかげで、殺意が芽生えたよ」

「さすがにあれはね……。しかも、下手をしたら命に関わってくるような怪我があったし」

「ま、その犯人のやつは、異世界送りになったが」

「あー、あれね。後日見に行ったら、かなり委縮しちゃってたよ。ボクを見ると逃げちゃって……」

「……向こうで何があったのやら」


 佐々木君は、異世界で相当嫌なことがあったんだろうね。

 向こうの世界は、一応戦争が終結して、平和が訪れたとは言っても、まだまだ悪い人たちがいたわけだし。

 まあ、ちゃんと無事に帰って来れただけ、まだマシだと思うけどね。


「冬〇ミも行ったか?」

「……うん。スカートの中を盗撮されたりしたよ……。というか、女委に渡された衣装が、すごく露出が多くて恥ずかしかった……。依桜の方は、どうだったの?」

「……僕も、女委にメイド服を着させられたよ……。しかも、なぜかスカートの中を盗撮された……。男です、って言っても、なぜか鼻息荒くされてな……はは……」

「……大変だったね」

「……まあね」


 お互いの苦労のレベルがかなり高いと思います……。

 そっか……やっぱり、大変なんだね、女の子から男になるのも……。

 そもそも、性別が変わっちゃってること自体が非常事態なわけでだし……。


「男になってからというもの、苦労の連続だったよ……。なぜか、女性から痴漢を受けるんだぞ? この気持ちわかるか……? あれはさすがに、精神に来たよ……」

「……ボクも、痴漢に遭ったことあるよ。ちょっと太ってて、不潔な印象を受ける男の人。鼻息が荒かったです……」

「……それは嫌すぎる。なんかこれ、ある意味桜の方が大変じゃないか?」

「……依桜の方だって、結構苦労してるみたいだけど」

「……僕の場合は、一応男だから、あまり被害に遭いにくい……いや、普通の男よりかは被害を受けやすいかも……」

「……結局、どっちも大変、ってことだね……」

「……そうだな」


 結局、性別が変わると、生活がかなり苦労するものになるみたいです……。

 普通の人生を送りたい……。

 ボクたちの願いはそれだけだと思います。



「ところで、そっちに《CFO》ってあるのか?」


 話変わって、ゲームの話になった。


「うん。あるよ。『New Era』だよね?」

「そうそう。そのゲームでキャラを作って、どうなって?」

「……すごく、おかしなキャラクターになったよ」


 ステータスは最初から三桁がほとんど。

 他にも、スキルがかなり多くあったし。


「あれか、変な称号があったりするって言う……」

「そうだよ。おかげで、レベル18のキャラクターでイベント優勝しちゃって……」

「あれだろ? インガド」

「うん。あの人が原因で、ボクつい怒っちゃって。無傷で優勝したら、【覇者】なんて称号も手に入っちゃうし……」

「あれな……おかげで、効率がさらに倍になったよな……。上げにくいステータスが実質的になくなってさ」

「2FPで、ステータスが1じゃなくて、2上がるんだもんね」

「そうなんだよ。まあでも、目立つのは好きじゃないから、基本店の方なわけだが」

「あ、もしかして、『白銀亭』?」

「ああ。ということは、そっちも?」

「うん。洋服を売ったり料理を出したりしてるよ」

「さすが僕。考えることは同じなわけか」

「もちろん」


 どうしよう。会話が止まらない。


 ついつい、今までの苦労を話しちゃう。

 向こうも向こうで、ボクと同じことをしてきたから、話がすごく合うし。

 ちょっと楽しい。


 それからも、色々なことを話した。


 商店街の福引での旅行とか、大食い勝負とか、ハロパ、お悩み相談、風邪を引いた時に、学園見学会、誕生日会、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行った時の話に、スキー教室とか。


 他にもいろいろあったけど、その中で話が盛り上がりと言えば、


「バレンタインはどうしてた?」

「ボクは、クラスメートのみんなと、商店街のみなさん、あとは父さんと母さんに、未果たち、師匠、美羽さんに渡したよ」

「やっぱり、やるよなー。僕は、男になったから、作ったりしなかったんだけど、なんだか落ち着かなかったよ。毎年作ってたから。……まあ、学園中の生徒たちからかなりもらったけど」

「ボクもだよ。女の子たちから大量のチョコレートをもらったよ……」

「……いくら甘いものが好きと言っても、飽きるんだよな」

「そうなんだよね……。ボクもさすがに、あの量はちょっと……」


 『アイテムボックス』に入れないと運べないレベルのチョコレートって、普通に考えたら相当多いと思うんだよ。

 しかも、全部手作りだったから、食べないわけにもいかなくてね。

 結構頑張って食べた記憶があるよ。


「まあ、おかがでホワイトデーはかなり作る羽目になったが……まあ、料理は好きだったから、全然構わなかったけど」

「わかるよ。料理は楽しいし、喜んでくれた時の顔を見ると、幸せな気持ちになるよね」

「そうなんだよ! だから、ゲーム内でも、喜んでもらえるのが嬉しくて、ついつい料理を作ったり、洋服を作るわけで」

「うんうん。ボクたちの場合は、向こうで嫌というほど戦っていたからね……」

「ああ……」


 文字通りの地獄だったよ。

 自ら進んで傷つけなきゃいけないから。

 本当に、あの時代は辛かったなぁ……。


「まあ、そのおかげで守れるものもあったわけだけど」

「そうだね」


 特に、未果たちなんていい例だよ。

 もしも、ボクが異世界に行っていなかったら、学園祭とかはどうなっていたかわからない。それこそ、死人が出たかもしれないし。

 それ以前に、データを盗まれて、戦争が起こったかもしれないから。


「……さて、とりあえず、お互いの身の上話はこれくらいにして、僕たちの設定を考えるか」

「設定?」

「本来、僕という存在は、一人だけしか存在していないはずなのに、どこかのマッドサイエンティストのせいで、もう一人の別の僕が現れてしまった以上、対外的な事情を考えないといけないから」

「あ、それもそっか。こっちの未果たちは事情を知っているんだよね?」

「ああ。僕が異世界に行っていたことは知っている。そっちの四人には、明日事情を話そう」

「うん。わかった。じゃあ、えっとボクの存在をどう説明するか、だよね……」


 うーん……。

 何がいいだろう。

 少なくとも、一般的に説明しても不思議じゃない理由にしないと、おかしいよね……。


 そうなると……何がいいんだろう?


 やっぱり、他人の空似?


 ……一応、こっちのボクの元の姿が今のボクと同じらしいから無理、だよね。

 だって、空似どころの話じゃないもん。同一人物って言われるほどにそっくりなんだもん。


 しかも、男の姿が、ボクの性転換前と全く同じだし……。

 そうなると……


「じゃあ、双子だった、っていうのはどう?」

「双子?」

「うん。これなら、似ていても不思議じゃないし」

「たしかに。となると……生まれてすぐ、桜が間違えて別の家に連れていかれて、最近ようやく戻って来た、って設定にしよう」

「その理由だと、結構すごいことになってるけど……まあ、それが妥当かな」


 そもそも、碧眼の時点で間違えようがない気がするけどね。


「それに、この理由にしておけば、お互いの名字が違う理由になるだろう? そっちは男女だけど、僕は女男なわけだし」

「そうだね」

「じゃあ、決まりだ。……この後、師匠とメルに話すのがちょっと大変だ……いや、あの二人は異世界の存在を実際に知っているわけだから、問題はない、か?」

「あー、特に師匠の方はそうなんじゃないかなぁ。何でも知ってるような感じがあるし……。それに、並行世界から来た依桜です、って言えば、普通に納得してくれそう」


 大抵のことでは驚かないからね、師匠。

 むしろ、かなり興味を持ちそうだよ、並行世界の話は。


「……たしかにな。メルは普通に喜びそうだ」

「それに、父さんと母さんだって、すんなり信じてくれるし、意外と問題はないかも」

「言われてみれば、そうだな。……意外と心配事は少ないな。あるとすれば……ちゃんと帰還できるか、ってところだな」

「……そうだね」


 学園長先生のことだから、多分ちゃんと帰還できるような装置を作ってくれるとは思うけど……これでもし、無理、みたいなことになったら、相当困るよ? ボク。


 ボクにだって、自分の住む世界があるわけだし……。


 ……うん? そういえば、四月一日から並行世界の装置に関する試運転した、って言ってたよね?

 たしか、ボクの世界の方でも、四月一日から空間歪曲が日本各地で多発してるって……。


 ……まさかとは思うけど、その原因もこっちの学園長先生?

 あ、あり得る。


 というか、絶対そうだよね、これ。


 今回、学園長先生は、この件に関して関わっていない、って言ってたけど、ある意味では関わってたよ。


 別の学園長先生が、だけど。


 う、うわぁ……まさか、ボクの方の世界で起きてる問題事の原因が、あの人だったなんて……もうこれ、どうしようもない気がするんだけど……。


「ん、どうした、桜?」

「あ、いや、えっと……ふと思いだしたんだけど、ボクの世界でね――」


 と、軽く思い当たったことを依桜に説明。


「……あんの馬鹿……はぁ。本当に申し訳ない。今回の件、明らかに僕たちの方の学園長が原因だ。まさか、そっちの世界にも影響があったなんて……あとでシバいとくよ」

「あ、あはは……い、一応被害が出てないから、お手柔らかに、ね?」

「任せておけ」


 う、うわぁ、すっごくいい笑顔。

 ボクが男だった時も、こんな笑顔ができたのかなぁ……うん、まあ、できた気がする。

 ……多分。


「……それにしても、話してるだけで、気が付けば昼過ぎか。昼ご飯、どうする?」

「それじゃあ、ボクが作ろうか?」

「いいのか?」

「うん。一応、居候になるわけだしね。家事は得意だよ」

「そこも同じなのか。……まあ、頼むよ。自分なら、味の心配もいらないだろうからな」

「うん。任せて」


 というわけで、ボクがお昼ご飯を作ることになった。



 二人でリビングに行き、ボクは冷蔵庫を覗く。


 あまり材料は多くなかったけど、炒飯くらいなら作れそう。


 ボクは材料を取り出し、細かく切っていく。

 それと並行して、わかめスープも作る。

 海藻類好きだからね。多分、こっちのボクも好きなはず。


 軽く材料の準備が終わったら、中華鍋でご飯や材料を一緒に炒めて完成。


「はい、どうぞ」

「炒飯か。しかも、わかめスープ付き。さすが僕。わかってる」

「でしょ?」

「それじゃ、いただきます」

「ボクもいただきます」


 向かい合うようにしてちょっと遅めのお昼ご飯を食べる。


「うん。僕が作る炒飯と同じ味だ。ちゃんと、好みの味だな」

「それはよかったよ」

「別の自分が作る料理を食べるって言うのも、不思議な気分だな」

「それを言うなら、ボクもだよ。別の自分がボクが作った料理をおいしそうに食べてくれる、って言う不思議な状況だもん」

「それもそうか」


 お互い軽く笑う。

 こっちのボクが、変な人じゃなくて良かったよ。

 大体は、ボクと同じみたいだからね。

 これでもし、荒っぽい性格をしていたり、悪い性格をしていたら、さすがに戸惑ったよ。



 この後、お昼ご飯を食べた後は、他愛のない雑談をしたら、お互いの世界の情報交換をしました。

 意外と、楽しかったです。

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