第134話 アスレチック鬼ごっこ2

 アスレチック鬼ごっこ開始から、すでに二十分が経過していた。


 その二十分間でわかったことと言えば、一度起動したトラップは、時間経過で再び発動するということ。


 感覚的には、二分程度、かな?


 だから、一度かかったトラップは記憶しておけば大体大丈夫、なんだけど。

 このアスレチックの建物は、十階まであるから、かなり広い。


 たしか、トラップは各階五個ずつだったはずだから、合計五十個あることになる。


 そして、制限時間は九十分なので、短時間で覚えるのもちょっときつい。


 それに、トラップを踏んだとしても、そこには何もないので、トラップがどこにあるのかどうかなんてわからず、誰かが踏んだのを見た、もしくは自分自身がかかった、の二つでしかトラップの位置を把握することができず、なかなかにハードな競技になっていた。


 ボク自身も、それなりに苦戦している。


 この二十分程度で鬼側が捕まえられたのは、三十人。


 元々の人数が百六十八人だとすると、かなりきつい。


 順調に捕まえられているように見えるけど、これはあくまでも人数が多かっただけで、少なくなれば、少なくなるほど見つけるのが難しくなってくる。

 100×100のフロアが十ヶ所もあるので、探すだけで体力が持っていかれてしまうというもの。

 その上、グラウンドのような平坦な場所ではなく、アスレチックという、かなり動き回るようなものが多数設置してある場所での鬼ごっこなので、体力の消耗も激しくなるのは当然。


 ボクの場合は、これ以上に足場が悪いところとか、まともな足場がない場所を動き回っていたりしたので、あまり疲れていない。


 ……それにしても、仮想世界の中でも、疲れって出るんだね。

 どういう仕組みなんだろう?


「……それにしても、ふつうの人だったらかなりつかれるなぁ、これ」


 現在、ボクは一階層から二階層に移っていた。


 一階層は、少し転移が偏ってしまったらしく、ボク以外に五人ほどいたため。

 能力・スキル・魔法なしでの純粋な肉体能力で把握したところ、大体七人ほどいた気がする。と言っても、あくまでも、能力なしでの把握だから、他にもいる可能性は高いけど。

 けど、それくらいの人数なら、五人でもできると思って、ボクは移動することにした。


 それに、ボクの場合は単独行動の方が、動けるしね。


 そう言う理由で二階層に来たんだけど……一階層は、初心者コース、とも言うべき場所だったみたい。


 二階層にくると、SA〇UKEで一番最初に出てくるクワッドステップスって名称のものがあった。


 これは、あれです。斜めになっている四つの足場を飛び移りながら進むって言うあれです。

 違うところがあるとすれば……ターザンロープの時と同じく、謎の紫色の液体で満たされていたこと、かな。


 一体、どういう効力を持っているんだろうね、これ。

 落ちないよう、慌てず、かと言って慎重になりすぎずにそこも通り抜けると、


『うおっ? 天使ちゃんだと!?』


 逃走者を一人発見。よく見ると、その先にもう一人いる。


 うん。チャンス。


 ……トラップがなければ、だけど。


 何と言うか、ちょっと怪しいような気がする。

 見つかって、慌てているように見せかけて、不自然なくらいにその場にとどまっていたような気がするし……。


 見たところ、ここで待っていたりしたんじゃないかな?


 それに、少し声の抑揚が一定な気もするし、視線もどこか彷徨っているようにも見えた。


 となると……


「トラップ、かな」

『――ッ』


 ためしにカマをかけてみたんだけど、どうやら本当にトラップがあるみたい。


 進行方向に分岐する道はなく、30メートルくらい先に左右に分かれ道があるくらい。


 進行方向にいる逃走者は、ボクが見える限りだと二人。


 手前にいる人は身長が高めの人。奥にいるのは……女の子、かな? 多分、三年生くらい。なんとなく、雰囲気が。


 問題は、トラップがどういう風に設置されているか、だよね。


 待ち伏せして、見つかった風を装ってトラップにかけ、時間を稼ぐ。まあ、それがこのアスレチック鬼ごっこでの基本的な戦い方にになるんだろうけど、嘘はもっとうまく吐かないと、バレやすくなってしまう。


 ボクだって、『詐欺師』の職業の人相手は、かなり疲れたし。


 こう言うのは、上、横、下の三方向どこに設置しても問題はないんだけど、ここは天井が低め

だから、上か下のどちらか。


 横は、あまり設置されている場所が少ない。


 この二十分間で、見かけたのは……二ヶ所ほど。その両方が、捕縛系のトラップ。


 下に設置されているトラップは、それなりの種類があった。


 床は、間接的な妨害が多かったかな? 床の摩擦係数を低くして、滑りやすくする、みたいなものや、接着剤のような何かで一定時間固定されるような物もあった。


 反対に、上に設置されているタイプのトラップは、何と言うか……液体系が多かった気がする。


 大体は避けたから何ともなかったけど、たまに掠めた時があった。

 その際、掠めたのは、ニーハイソックス。

 液体がかかったところは、なぜか溶けた。


 ……どう考えても、酸系のトラップ、だよね? いや、肌の方には影響がなかったんだけど。


 そんな感じで、上、横、下の三ヵ所それぞれに大体のパターンがあった。

 うーん、この場合とのパターンなのか、なんだけど……。

 とりあえず、追いかけよう。それで、避ければ問題ないよね。


「ふっ――」

『って、マジではえぇ!?』


 距離を詰めようと、前方にいる男子の人めがけて走り出す。

 あまり力を入れすぎたら壊れるかもしれないので、なるべく力を出さないよう注意を払うのも忘れてないです。


 そして、距離を詰めている際、やっぱりと言うべきか、トラップが仕掛けてあった。


 場所は床。


 それを見て回避をしようとするも……


「わ、わわわっ!?」


 どうやら、滑る系のトラップだったらしく、見事に引っかかってしまい、足を滑らせた。

 だけど、その辺りは師匠に鍛えられたボク。床に手をついて、その反動用いてハンドスプリングをしようとしたら……


「って、にだんがまえ!?」


 手を着いた先に、別のトラップが待ち構えていた。


 くっ、これを避けるのはっ……でも、ここで回避出来なかったら、師匠に何をされるかわからないっ。


 でも、ここである程度の力を使ったら、色々とバレてしまうし……って、こんなことを考えている場合じゃなくて!


 あまりタメを作れなかったけど、なんとかハンドスプリングを成功させる。

 だけど、一瞬、別の考えをしていたのがまずかった。


「しまっ――」


 反応がわずかに遅れてしまい、トラップを回避し切ることができなかった。

 正確に言えば、回避は可能だけど、それをやってしまうと、ボクの本来の身体能力を披露することになってしまうわけで……。


「あぅっ!?」


 そんなことを思っているうちに、トラップがかかりきってしまった。


「うぅっ……なにこれぇ……?」


 気が付けば、ボクは縄で縛られていた。

 足の方まではさすがに縛られなかったけど、上半身の方は身動きできないくらいに縛られてしまっていた。


「んっ~~~~~っはぁ……あぅぅ」


 腕は後ろ手に縛られ、その余った部分なのかは分からないけど、その部分で胸元の方にも縄が回ってきていて、なかなか動けない。


 どうしよぉ……。


『うええええええええ!? ちょ、学園長先生! あれ、あれはありなんですか!?』

『あれ、って言うと……ああ、高手小手縛りたかてこてしばりのこと?』

『いや、名称は知りませんけどっ! あれ、どう見てもアブナイやつですよね!? 普段の生活において、確実に見ないような何かですよね!?』


 さすがの状況に、実況の人も声を荒げて学園長先生に詰め寄っている。

 うん。ようやくまともな反応が見れた気がします……。


『あー、まあ、そう言う趣味の人がいない限りはそうかも? まあいいじゃない。すごくエッチな光景が見れたわけだし』


 ……エッチ、なの? 今のボク。


『いや、たしかに素晴らしいですけども! あれ、今の男女依桜さんにやったら、ただのやばい絵面ですって! 犯罪臭がとんでもないことになってますよ!』


 犯罪臭……? え、もしかしてこれ、かなりまずいことになってるの……?


『かと言って、普段の依桜君があの姿になったらどう思う?』

『え? そりゃあ、どう見ても胸を強調したような縛り方……って、ああ、はい。どうしようもないくらいに、エロ、ですね』

「~~~~ッ!?」


 思わずその光景を想像してしまい、顔が熱くなった。

 ……うぅ、たしかに、普段のボクだとその……かなり恥ずかしいだよぉ……。

 今は小さいからいいけど(全然よくない)……これ、大丈夫なの?


『ともかく、これはさすがにまずいのでは?』

『まあ、一応あれ、一分ほどで解けるますが』

『逆に、一分間もの間、あの姿ってことですよね!? 見てくださいよ、あの姿を見た人の大半がぶっ倒れてますからね!?』

『そう言うあなたも、鼻血出てるわよ?』

『おっと、これは失礼……って、そうじゃなくて! これ、本当に大丈夫なんですよね!?』

『仮想世界だし、現実じゃないから大丈夫だと思います』

『……学園長先生って、変人、とか、変態、とか言われてませんか?』

『よく言われる』

『ですよね!』


 うぅ、まさかこんなトラップがあるなんてぇ……もう、これはあれだね。卑怯だから、なんて理由でボクが身体能力をある程度制限したら、精神的なダメージが計り知れないことになっちゃう。


 多分……マスコミの人たちに張り込まれる以上に。


 だったら、もういい気がするよ……ある程度抑えれば多分大丈夫だと思うし、ね?


 そうと決めたら、すぐに行動。


「……『生成』」


 まず、かなり小さいナイフを生成し、手首の辺りにある縄を切断。

 そのまま、ある程度自由になった手を使い、縄を切る。

 一応、バレないように、最後の方は普通に抜け出しました。


『って、えええええええ!? なんか、普通に縄を解いちゃいましたけど!?』

『まあ、依桜君だしね』


 何をドヤ顔してるんですか、学園長先生!


 もう、自棄です! 全員ボクが捕まえますよっ!

 それに、トラップを踏んだり通過しなければいいんですしね!


 とりあえずまずは、目の前でなぜか倒れてる男子生徒をタッチ。


『おーっと! 縄から抜け出して早々、男女依桜さんのあられもない姿を見て倒れていた逃走者をタッチ! 捕獲です! そして、立ち止まることなく、さらにその先にいる別の逃走者めがけて……って、ちょ、手摺てすりの上を走ってるんですが!?』


 実況の人が言う通り、ボクは手摺の上に飛び乗り、狭い手摺を走りだした。

 ここなら、床のトラップも発動しないし、横のトラップも発動しない。


 上だって、発動してしまっても、手摺と平行になるようにすれば、回避可能。


 もう、四の五の言ってられません。ほかに、どんなトラップがあるか分からない以上、油断してはいけないと思うんです。


 だから、最大のトラップ防止策として、こうして手摺の上などを走ればいいというわけです。


 ……正直、もうあんな姿になりたくないですし。


 あと、ボクが全員捕まえれば、鬼側にいる人たちがトラップに引っ掛かりにくくなるからね。


 さ、さすがに、女の子があのトラップに引っ掛かるのは、その……倫理的にちょっと……問題があると思うので。


『すごいすごい! 男女依桜さん、三十センチほどしかない手摺の上を、ものすごい速さで駆け抜けていきます! そしてそのまま、先の方にいた逃走者をタッチ! さらにさらに、止まらずに走り続ける! 道中のアスレチックも何の苦労もせずに越えていきます!』


 もう、目立ちたくないとか言ってられないもん。


 少なくとも、こっちの世界の人でも、鍛えればできる! って言うレベルで体を動かしているから、何とかなりそう。


 ……最悪の場合は、このゲームの不具合、ということにしておけばいいしね。


 ……あ、終わったら学園長先生にお仕置きしないと。


 さすがに、あれはやりすぎだから。


 そう心に決め、ボクの逃走者狩りが始まった。

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