第135話 アスレチック鬼ごっこ3
というわけで、あまりのトラップの酷さに、ボクはこの競技に関しての自重はやめて、ある程度の力を出して臨むことにした。
……なんか、この言い方だと、中二病みたい。
一応、中二病じゃない……と思うけど。多分。
「見つけたっ!」
『げえ!? 天使ちゃん!?』
現在の階層は二階。
ボクが逃走者を全員捕まえると決めてから、七分程度で、すでに四人捕まえた。
現在も、暗殺者時代の感覚で建物内を疾駆しており、また一人ターゲットを見つけた。
その途中、またしても床にトラップが仕掛けられており、発動するも、
「ふっ――!」
『ちょ、普通に避けられた!?』
頭上にあった棒を掴んで回転、そのままトラップから出現した縄をそこに巻き付けさせ、ボクは回転の遠心力を使って跳ぶ。
その勢いを活かしたまま、背を向けて走っている逃走者めがけて走り、背中をタッチ。
「つぎっ!」
捕まえても、その場にとどまらず、また走る。
もう卑怯だのなんだのを言っていられる場合じゃないので、能力もある程度使用。
『気配感知』を使い、索敵。
見たところ、一階層の人は全員捕まえてあるみたいだったので、スルー。
二階層に、あと十人ほどいるみたいなので、そっちへ向かう。
正直、どんなトラップが来ても、避けてしまえばいいので、もう気にしない。
仮に、さっきのトラップのような滑る系のものが仕掛けられていたとしても、むしろ滑りを利用して走ればいいわけだから問題なし。
さらに走り続け、道中のアスレチックも軽々と突破し、次の曲がり角に二人いることを感知。
道中に、トラップが三つあったと考えると、あったとしても一つ。
さっきのような嵌め技みたいな仕掛けにはなっていないはず。
なら、さっき同様回避するのみ。
「見つけましたよっ!」
『て、天使ちゃん!?』
『うっそー!? なんでここが分かったの!?』
なんでと言われましても、『気配感知』使ってますから。
『くっ、天使ちゃんだったら捕まってもいいけど……負けるわけにはいかないのよ!』
『そうね! 逃げ延びるわよ!』
と、意気込んで走り出す。
ボクもスピードを緩めることなく二人を追いかける。
ふふふー。そこそこ本気になったボク相手に、逃げられると思わないことですね!
もう自棄なので、キャラがブレてると思うけど、もういいんです。この競技だけでも、はっちゃけちゃっても問題ないよね!
普段、ボクだって酷い目に遭ってるんだもん。
こういう時くらい、ストレスを発散したいのです。
やっぱり、ストレスが溜まったら、運動して発散するのが一番良いよね。
「はい、タッチです」
『くぅっ、やっぱり天使ちゃんには敵わないよー』
『っていうか、天使ちゃん速すぎ……』
「ふふっ、ありがとうございます」
『『はぅあ!』』
なんとなく、にっこり微笑んだら、捕まえた女の子二人が、胸を抑えて消えて行った。
最後のは何だったんだろう?
ま、いっか。
さあ、どんどん行こう!
『なななななんと! 一度トラップにかかった後から、男女依桜さんの動きががらりと変わりましたーー! 軽い身のこなしで、道中のアスレチックをいとも簡単に突破していきます! しかも、逃走者がどこにいるのかわかっているかのように、なんの迷いもなく建物内を逃げ回る逃走者たちを捕まえていきます! 十分で、二階層にいた人、全員捕まえてしまいました! 伊達に女神とか、天使とか言われておりません! 鬼側にとっては、まさしく勝利の天使と言うべき存在ですが、逃走側からしたら、悪魔のような存在です!』
実況の人の言う通り、あのあと二階層にいた人を全員捕まえることに成功。
そのまま、三階へと上がる。
道中に設置されているアスレチックは、ボクにとって、路傍の小石でしかない。
師匠に修業時代行かされた場所の方が、圧倒的にきつかったもん。これの比じゃないもん。下手をしたら死んじゃうもん、あれ。
地獄の修業時代をくぐり抜けてきたボクからしたら、自然に突破できますとも。
後のことは考えない。
考えてしまったら、躊躇して、勝てなくなっちゃうし。
それに、早く終わらせれば、トラップにかかる可能性もある程度潰せるからね。
だから、このまま全速前進あるのみです!
『現在、一階層、二階層にいた逃走者は、軒並み確保され、全階層合計で、四十三人脱落しています! ですが、まだあと、百二十五人います! 残り時間、六十分! 果たして、勝つのはどちらか!?』
むぅ、あと六十分か……。
うーん、この調子だと間に合わない可能性もあるし……。
正直、階層を移動するのが一番時間のロスが大きい。
だって、10メートルもあるし。
しかも、螺旋階段だから、ショートカットができない。
そうすると、採れる行動が限られてくる。
話し合いの前に一度、外からこの建物を見たところ、このキューブ状の建物は、各階の壁の外側から、木の枝が飛び出ていた。
遠目だったからあれだけど、少なくとも人一人がぶら下がっても全然問題なさそうだった。
そうと決まれば、次から上に上がる時は、あの木を使おう。
その前に、この階にいる人たちを捕まえないとね。
うーんと、人数は……十八人。
鬼側は、四人、と。
うーん、十八人相手に四人か。
この広さで十八人だと、逃げるのは大変そうだね。
100×100ってそこまで広いようには感じないし……まあ、これくらいなら全然問題なし。
「あ、だれかトラップにひっかかっちゃってる」
鬼側の誰かがトラップにかかって、足止めを喰らってしまっているみたい。
ほかの三人は、何とか動いてるって感じだけど、動きが少し遅い気もするかな。
考えてみれば、約四倍の人数差があるってことを考えたら、疲れて当然、か。
人数が多い分、動かなければいけない時間も延びるわけだし。
それに、トラップのことも考えたら、抜け出したりするのにも時間がかかるし、学園長先生曰く、捕縛系は一分程度で消えるみたいだけど、それを知らない人は抜け出そうと必死になるからね。
そこで体力の無駄遣いをしたら、疲れてしまう。
ボクの場合は、肉体面よりも精神面の方に疲労が出るので、大丈夫だけど。
さて、とりあえず、ここの階層の十八人も捕まえてしまおう。
『気配感知』では、どうやらこの近くに三人ほどで固まっている人たちがいる。
しかも、動きが同じ場所を行ったり来たり。
となると、この付近にはトラップが仕掛けられていると思ったほうがいいかも。
問題は、いくつあるかどうか、かな。
少なくとも、鬼側の人の誰かが引っかかったところを除けば、あと四つ。
おそらく、行ったり来たりしている三人の近くにあるとなると、最低でも一つ。
もし、ボクが引っかかった時みたいに、二段構えだった場合もあると考えると、一つとは限らないかもしれない。
こういう時、『罠看破』の能力があると便利なんだけどね……。
一応、暗殺者の能力だから、覚えられないこともないんだけど、師匠に、
『んなもんなくても、問題ない。引っかかっても、当たる前に避けりゃいい』
って言われたため、ボクはその能力を持っていないのです。
……まあ、実際ボクも避けてるからいいと言えばいいんだけど。
「じかんもないし、いそごう」
三階層目のアスレチックは、何と言うか、自然系? って言うのかな? そんな感じのものばかりだった。
縄で吊るされた丸太の上を走ったり、二メートルほどの高さの木でできた壁を乗り越えたり、あとは、結構な斜度がある床……というより、ほとんど壁のような道とかね。
この建物自体が木造だけど、今のところ、一~三階層は、全部木造でできている。
階層によっては、材質とかも変わるのかもしれないね。
一旦考えるのは保留に、ボクは例の三人の近くに来ていた。
曲がり角で一旦止まり、向こうの様子をうかがうと、やっぱりうろうろしていた。
鬼が来るのを待っているのかな、あれ。
捕縛系なら一分は稼げるし、鬼ごっこにおける一分って結構大きいと思うんだよね。
だから、気持ちはわかるんだけど、ボク相手だと、ほとんど意味を成していないような気がする。
まあ、それ以前に逃走側が待ち伏せしてもあまり意味がないような気がするけど。
何はともあれ、さっさと突撃、だね!
そう思い、曲がり角から姿を現し三人のところへ。
『なに!? 実況で聞いてはいたが、二階層にいたのはついさっきだろ!?』
『天使ちゃん、どんだけ運動神経イイんだよ!』
『おい、逃げるぞ!』
曲がり角から突然現れたボクに、三人が焦りの表情を見せた。
運動神経がいい悪い以前に、異世界で鍛えてたからね。
以前のボクだったら、全然動けなかったよ。だって、どちらかと言えば運動は苦手だったし。
それに、握力だって、20キロ程度だったもん。しかも、男の時。
……あれ、そう考えたら、以前のボクって非力過ぎない?
……悲しくなってきた。
「っと、あ、あぶないあぶない」
一瞬、気落ちしたけど、足元が光ったことですぐに気を持ち直して回避。
うん。体が小さいと、こういう時小回りが利くし、逃れやすくなるね。
ある意味、暗殺者に向いた体かもしれない。
『やべえ、トラップを回避された!』
『そんなことありえるのかよ!?』
『さっき、まぐれって言ってたよな!? なぁ!?』
まぐれじゃないです。一応、ボクの身体技術です。
一応、目で追えないほどの動きをしているわけじゃないけど、ボクが本気を出したら、避けるところも見えないレベルになるんじゃないかな。いや、やらないけど。
「はい、じゃあ、タッチですね」
『くそぅ! 逃げ延びて、MVPになって、女子をデートに誘うという夢が――』
『捕まえられた相手が、天使ちゃんだったし、いいや……』
『いよっしゃあ! 合法的に幼女に触れたどー!』
……この学園に、まともな人って、いないの?
なんか、とんでもないこと言った人がいたような気がするんだけど……。
……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない、よね。
「つぎっ!」
どうやら、三階層にいたボク以外の人が頑張ってくれたらしく、半数近くの人が脱落していた。
八人捕まえたから……この階は残りは七人。
それで、制限時間は……五十三分。
うーん、この調子だと、時間以内の全員捕まえるのはほとんど不可能かも……。
三階層でこれって考えると、いかに二階層で手を抜いていたかがわかる状況だね、これ。
うん。本気を出そう。
じゃないと、勝てない。
ここまで来たのなら、優勝はしたいしね。
……それに、みんなが一位を獲った意味がなくなっちゃうし、何よりも……ボク自身が報われない気がするので。
「さっさと、おわらせよう!」
さっき以上の速度で走り続けると、幸いなことに、ほとんどの人が近くにいてくれた。
人数は五人。
合流して、一緒に行動しているわけじゃなさそう、かな。
うん。だったら簡単。
ボクは、スピードを緩めることなく、建物内を走り続け、例によってアスレチックそのものも意に介さず突破。
すると、逃走者の人たちに近づいてきた。
幸いにも、ボクの足音には気付いておらず、背を向けている状態。
あ、ちなみに、『気配遮断』と『消音』に関しては使っていません。
単純に、足音がほとんど鳴っていないのは、純粋な身体技術によるものです。師匠に仕込まれました。それに、周囲と同化させるようにしているため、こうしてバレないというわけです。あ、これは能力でも、スキルでもないですよ。
「タッチ、です」
『は!? ちょ、て、天使ちゃ――』
『おい、どうし……って、まずい! みんな、天使ちゃんが来たぞ! 逃げろ!』
一人を捕まえたことで、近くにいた人たちの一人がボクの存在に気づいた。
慌てて逃げていくものの、
「せなかががら空きですよ」
そう言いながら、にっこり微笑んで背中に手を触れた。
『これは無理だろぉ!』
そんな文句? を発しながら消えていくのを横目に、さらに進む。
ここは30メートルほどの直線の道なので、目の前にいる人たちが良く見える。
暗殺者相手に、一本道で背を向けるのは悪手ですよー。
「タッチです♪」
『くぅ、天使ちゃん、可愛いの強いなんてぇ!』
と、また一人捕まえ、その後も、一人、また一人と捕まえていき、残り時間五十分になる頃には、三階層にいた逃走者の人たちを全員捕まえることに成功していた。
うん。ちょっと楽しくなってきたかも。
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