第81話 依桜ちゃんの評価(ネット上)
「はぁ……」
自室のベッドでため息を吐く。
もちろん、あの件。
チアガールである。ここまであの話を引っ張るのもどうかと思うけど……それくらい嫌なんです。
いくら、ほかの人もそれで参加することが決まったとしても、恥ずかしい格好をすることに変わりはない。
……まあ、いつぞやのサキュバスの衣装に比べたらマシなのかもしれないけど。
あれはもう、ほとんど下着姿と変わらなかったし。
「まさか、三着も作ってるとは思わなかったなぁ」
通常のサイズ、小学三年生くらいのサイズ、そして、小学一年生くらいのサイズ(尻尾穴あり)。
最大の疑問は、どこで小さい時のボクの体のサイズを測ったのか、と言う部分。
あの姿の時って、一度も測ってなかった……って、そう言えば、学園長先生に測ってもらった時があったっけ。
となると……やっぱり、学園長先生が情報を漏らしたのかな? でも、ボクと学園長先生にかかわりがあることを知っている人って、保険の先生くらいだよね?
……なら、一体どうやったんだろう?
しかもこれ、サイズが合う服と比べても、丁度いいサイズだし。
謎すぎる……。
「それにしても……体育祭かぁ」
異世界へ行ってなければ、きっと素直に楽しめたんだろうね。
もっとも。今は、楽しむどころか、内心ひやひやしてるわけだけど。
通常時なら力の加減はうまくできるけど、小さくなるとなかなかに難しくなってしまう。
今だって、いつ小さくなるか、どっちの姿になるか、ということ把握できてないし、そもそも、予兆とかもないので、対処のしようがない。
まあ、仮に予兆があったとしても、対処ができるかと言われれば……無理と答えるしかない。だって、異世界の呪いの産物だよ? 仮にわかっていたとしても、『あ、明日小さくなるから』って言う感じで、未果たちに事前に伝えておくくらいだろうし。
……あれ? そう言えば、前に女の子になる前日の夜とか、獣人風の幼い女の子になる前日とか、すごく眠くなってたような?
それも、抗えないほどの強い睡魔。
……もしかして、ボクが変化する前日って、すごく眠くなったりする?
「だとしたら、余計にわからないなぁ」
そもそも、睡魔が来た時点で、すぐに眠っちゃうほどのものだと考えると、未果とかに『明日小さくなるから』と言うような感じで、知らせるのは不可能。
ほとんど一瞬で落ちるし。
「お手上げかぁ」
できれば、本番当日に小さくならないでほしいな。
力制御を誤ると、何かしらを壊しかねないし。
例えば……サッカーゴールとかは簡単に逝くね。
さすがに、サッカーゴールを使うような競技はないから、あくまでも例えだけど。
実際の競技にありそうなのは、ちょっと力んじゃって、リレーのバトンを握り潰しちゃうくらいかな。
たぶんこう……ぐしゃって。
あ、でも縮んでることを考えたら、抉る感じになるかも。
それ以外だと……障害物競走とか、綱引きとか?
障害物競走の中身が何かは知らないけど、少なくとも壊しかねないものでなければ問題はないです。
綱引きは……まあ、うん。一対四十でも勝てるんじゃないかなぁ、ボク。
……やっぱり、力業でやっても問題ない競技にボクが出るって、結構反則じゃない?
あっちの世界では、ボクより力が強い人はいっぱいいたけど、こっちの世界じゃ基本的にボクが圧倒的すぎる腕力になっているだけ。
これはあれかな。一度向こうの世界で、身体能力を抑える魔道具か何かを探したほうがいいかもなぁ。
まあ、今行くのはちょっと無理かなぁ。
一応、向こうでの一週間はこっちので一日だけど、その辺りの加減は学園長先生次第になるし。そもそも、行かせてくれるかどうかがわからないけど。
……いや、あの人のことだから、絶対にノリノリで承認しそう。
「まあ、それは本当にまずいと思った時、かな」
当日、どうなるかもわからない以上、今の段階で身体能力を抑制する魔道具を使ったら、もしもの時に対処できなくなりそうだし。
実際、テロリストに襲撃されたとか言う前科があるわけだしね。
「さすがに、今回はないと思うんだけど……」
すべてにおける諸悪の根源は、学園長先生だからなぁ。
何もしていないのに、いつも何かしら問題を起こし、それの収拾をつけてるのがボクだし……。
テロリストの時なんて、一番いい例だよ。
……逆にボクの方で困ったことがあったら、手助けしてくるのも学園長先生なわけだから、おあいこな気がするけどね。
……いや、よくよく考えたら、ボクの方が異常なまでの被害を被ってる。
そもそも、ボクが困るような事態に発展したのだって、全部あの人のせいだもん。
「……そう言えば、インターネット上でのボクって、今どうなってるんだろ?」
ふと、そんなことが気になった。
前に、ボクがインターネット上では、『白銀の女神』なんて、ちょっと痛いあだ名のようなものを付けられていたらしいし。
一体、誰が考えているんだろう?
「えーっと……とりあえず、あだ名を入れれば問題ない、かな?」
検索欄に、ネット上でのボクのあだ名を入力し、検索。
すぐに検索結果が表示されると、一番上には、
『エロ可愛美少女、白銀の女神の正体は?』
と言う見出しの、何かの掲示板が。
………………………なにこれ?
いやちょっと待って? エロ可愛美少女って何?
ボク、エロくないよね? そこまで可愛くないよね? なのに何、このわけのわからない見出しは。
ボク、いつからそんなことになってるの?
それ以前に、誰が言いだしたの、これ?
……中身が気になるけど、ちょっと怖いので一旦保留にして、下へスクロール。
『エロい美少女がいるんだが』
とか、
『最近の女子高生ってエロくね?』
とか、
『ヤバイww マジでエロすぎ、この美少女www』
みたいな見出しのものある。
…………………………泣きそう。
ボクじゃないだろうと思いつつ、そのサイトへ飛んだら、ボクの写真が一番上に表記されたので、ボクで間違いないと思います。
しかも、どれもボクが何らかの形で写真や映像が流出した時の奴だし。
よく見ると、なぜかボクのメイド姿や、サキュバス衣装姿の写真もある。
え、これどうやって謎システムを掻い潜ったの?
……いや、今考えるのはそこじゃない。
ボク、世間的に見て、エッチだと思われてるの?
たしかに、サキュバスの衣装は、その……エッチだと思うけど……ほかのは違うと思うんだけど。
少なくとも、モデルをやった時の写真とか、エキストラの時に画とかは、そこまで……と言うか、全然エッチじゃないよね?
なのになんで、エッチだと思われてるの!?
こ、こういう時は……
「みんなに確認を取ろう」
急いで、LINNのボクたちのグループでさっきのことについて尋ねる。
『いたら、確認したいんだけど……ボクって、エッチなの?』
と、グループに送ると、すぐに既読が四付いた。
え、もう見たの?
『あー、依桜、急にどうした?』
最初にメッセージを飛ばしてきたのは、晶。
……言われてみれば、いきなり『ボクって、エッチなの?』と聞かれたら、事情を聴かれるよね。
顔は見えないけど、眉間にしわを寄せてどうした? みたいな表情をしている晶が目に浮かぶ。
『ネットで、ね。ボクがどういう風に見られているのか気になっちゃって……それで、みんなからみて、どうなのかなって』
『エロいわね』『エロいよ!』『エロいぜ』『まあ……エロいな』
まさかの、一斉に同じ反応が来てしまった。
打合せとかしてないよね!? それくらいのレベルのレスポンスだったんだけど!
『ま、まさか、みんなにも思われてたなんて……』
『いや、まあ……なんつーかよ、依桜って無自覚にエロい行動するし、な?』
『……え?』
『いや、例えばな? 昼飯食べてるときに、腕の当たりにソースか何かついてたろ?』
『あ、うん。たまにあるね』
それが何だと言うんだろう?
『で、よ。そう言う時、お前は、どういう行動をとる?』
『え? えっと……普通に、舐めとってるけど……』
なんとなく、行儀が悪いのはわかるんだけど、ついついやっちゃうんだよね。
向こうでの生活が原因な気がするけど。
『それだよそれ』
『え、っと、どういうこと?』
『あの時のお前、普通に色気が、な? 高校生とは思えない……それこそ、年上の色気って言うのかね? それがあるんだよ』
……あ、そう言えばみんなには言ってなかったっけ。
『あの、ね。ボクって、その……実年齢、十九歳、なんだけど』
『え、マジで!?』『ほんとに?』『ほぇ~、年上だったんだぁ』『初耳だな、それ』
うん。ほんと、レスポンスが速いことで。
『あれ? でもよ、俺たち普通に同じ時期に中学卒業して、高校に入学してるよな? おかしくね?』
『……ああ、なるほど。そういうことね』
『未果はわかったのか?』
『そりゃあね。というか、態徒、依桜ってどれくらい向こうの世界にいたか、覚えてるのかしら?』
『は? えーっと……三年だな』
『でしょ? こっちの世界では、時間は進んでなかったらしいけど、依桜は三年間向こうで過ごしたの。だから、私たちよりも年上、ってことよ』
『はー、なるほどなぁ……そりゃ、依桜が妙に色気を放っていたりするわけだ』
『年上だからと言って、そこまで色気とかはないと思うんだけど……』
だって、高校三年生よりも、一つ上ってだけだし。
それだけで、そこまで変わるものかなぁ。
『依桜自身は気づいていないかもしれないが、何と言うかだな……依桜が浮かべる微笑みとかは、妙に大人っぽくてな。あとは、妖艶な雰囲気とでもいうのか? そう言ったものもよく出てるんだよ』
『ええ? ボク、そんな雰囲気だしてたかなぁ……』
いつも通りに生活してただけだし……。
あ、でも、向こうでの出来事が濃すぎて、こっちでは結構冷静でいられたりするんだよね。
まあ、学園祭の時とか、ハロウィンの時とかは例外だけど。
『というか、だな……今日、依桜と帰り際に話していた時とか、ちょっとドキドキしたぞ? 俺は』
『なんで?』
別に、外見的には女の子と男子、って言う絵面だけど、ボクたちからしたら、男同士で歩いているようなものだと思うんだけど。
『なんでって……そもそも、依桜と二人きりで歩いて、尚且つ、頬を赤らめ、ちょっと大人っぽい微笑みを浮かべながら、ふふっ、とか笑われたら、な?』
『うわっ、なんだそれ、すっげえエロい』
『なるほど。依桜って、結構無自覚にそう言うことをしてるのね』
『それはそれで見てみたいなぁ。普段の依桜君のギャップと相まって、すっごく魅力的なんだろうしね』
『いや、そこまでじゃないと思うんだけど』
そんな笑い方ひとつで思われてたら、ボク、相当エッチな人になっちゃうよ。
『まあ、そもそも、依桜君のスタイルがすでにエッチだしねぇ』
『ちょ、何言ってるの!? ふ、普通だから!』
『ええー? 依桜のそれで普通とか……ないわー』
『そうだな。依桜は結構、発育がいいと言うか……そこらのグラビアアイドルなんかより全然いいと思うぞ?』
『おっぱいでかいし、腰は引き締まってるし、お尻もいい形してるしな!』
『タイト、アシタ、コロス』
『ちょぉ!? なんか、依桜が見たことない片言を使ってきただけじゃなく、殺害予告もしてきたんだけど!?』
ストレートにそう言うこと言うんだもん。
恥ずかしいんだよぉ……。
……だ、誰もいなくてよかったよ。今のボク、顔真っ赤だもん。
『まあ、態徒の自業自得だな』
『それはそうと……結論。依桜はエロい。これでOKかしら?』
『否定できないからな』『だねー。依桜君、いつ襲われてもおかしくないと思うしー』『まあ、そうなったら逆に返り討ちだと思うけどな!』
『え、エッチじゃないもん……普通だもん……』
……結局、そう言うしかなかった。
それから、ちょっと軽い雑談をして、ボクは眠った。
そして、依桜が寝た直後のこと。
依桜が性転換した、次の日に作成されたグループ(依桜以外のメンバー)にて。
『……で、どう思う? 最近、依桜がかなり女子に近づいているんだが』
『近づいているって言うより……ほとんどそれ、よね?』
『だよなぁ。オレだって、依桜は最初から女だったんじゃ? なんて思っちまうし』
『依桜君、可愛いしね。しかも、口調とか、前までは使わなかった、『~もん』とか、さっき晶君が言ってた『ふふっ』みたいな笑い方、一度もしなかったからねぇ』
『あれ、無意識らしいんだよな……。どうも、本人は気付いていないみたいだし』
『でもまあ、いいんじゃね? 受け入れつつあるのなら、それはそれで。前までは、普通に可愛いと褒められると、複雑そうな顔してたのに、今じゃ照れ笑いだぜ?』
『一人称は相変わらず『ボク』のままだけど、ボクっ娘とかいるもんねぇ。リアルでいるかはわからないけど』
『……ま、私たちにできることなんて、いつも通りに接する、これだけよね』
『そうだな』『だね』『おうとも!』
依桜は本当に恵まれていた。
ちなみに、このグループでは、結構会話が繰り広げられていたりするが……そのほとんどは、依桜関係のものである。
特に、依桜が可愛いというような題材が多くなっている。
それから、依桜本人が見つけたあの掲示板では……かなりド直球で下世話な会話が繰り広げられていて、依桜が顔を真っ赤にしながら気絶したとか、しないとか。
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