第416話 異世界旅行前日から、すでに問題あり
師匠の禁酒生活が空けた二日後。
全員のスケジュールの予定がかみ合ったということで、明日から異世界に旅行へ行きます。
そのための準備として、今日はメルたちと一緒にお買い物。
「ねーさま、明日は異世界へ行くんじゃよな?」
「うん、そうだよ。メルはその時一緒に、里帰りかな?」
「うむ! 久しぶりに、魔族の国に行きたいのじゃ!」
「わかってるよ。だから、今日は準備しないとね」
「うむ!」
まあ、もとはと言えば、メルが帰還時のボクに抱き着いたのが原因だったんだけどね。
とはいえ、その時の行動のおかげで、メルと姉妹になれたわけだし、このことがあったから後にニアたち五人とも姉妹になれたわけだから、決して悪かったわけじゃないからいいんだけどね。
「イオお姉ちゃん、なにを買うの?」
「そうだね……とりあえず、必要な物とは言ったけど、買うのはほとんど衣類とかだけなんだよね。ご飯とかに関しては、向こうでどうにかできるからね。まあ、一人だけちょっと違うんだけど……」
「んー、これは必要だな……あとは、こっちもか。予算は潤沢。ならば、買えるだけ買う」
ボクたちの近くでは、師匠がお酒を漁っていた。
禁酒生活を終えてからというもの、なんだか師匠が際限なく飲むようになってしまった気が……。
うーん、禁酒とまではいかなくとも、ある程度制限を賭けた方がいいのかも。
「師匠、あまり買いすぎないでくださいね? 飲むのもほどほどに」
「わかってる。一日十本程度で抑えるさ」
「いやそれも飲み過ぎですからね!?」
「は? 何を言う。あたしは散々禁酒をしたんだし、一日十本くらいは許してくれよ」
「はぁ……まあ、禁酒をさせたのはボクですが、原因は師匠なんですよ? それと、禁酒が終わったからって、その反動で飲み過ぎると、体によくないですよ? いくら、師匠が規格外だからと言って……」
「大丈夫だって。あたしを舐めるなよ?」
「ですから……って、師匠に言っても無駄ですよね……まあいいです。とりあえず、飲み過ぎなければ」
「わかってるじゃないか。んじゃま、あたしは適当に漁ってるんで、終わったら連絡くれ」
「わかりました。みんな、とりあえず、ボクたちは向こうへ行こっか」
「「「「「「はーい(なのじゃ)!」」」」」」
師匠と一旦分かれて、ボクたちはブティックの方へと向かった。
「ねーさまねーさま! これはどうじゃ?」
「イオお姉ちゃんこっちも!」
「イオおねえちゃん、こっち、は?」
「イオねぇ、どうかな!?」
「イオお姉さま、こっちはどうなのですか?」
「……どう?」
「みんな、順番だよ~」
はぁ、久しぶりのみんなとのおでかけ……。
しかも、みんな一斉にボクに洋服が似合っているかどうかを尋ねてくるのが、すごく嬉しいし、とっても楽しい。
やっぱりこう、可愛い妹たちと一緒にお買い物に行って、尚且つ洋服を選ぶのって、すごくいいよね。和みます。
それぞれに合った感想を伝えると、みんなとっても嬉しそうな反応をした。
可愛い。
夏休みに入ってから、林間・臨海学校をこなして、師匠の禁酒生活の監視をしていたから、なかなかみんなとこうして触れ合う機会とかが少なかったからね、個人的にはとっても嬉しいし楽しい。
妹って、いいよね!
この世に天使とかっているのかな?
いたとしたら、みんなのことを言うよね。
可愛い妹は、まさに天使だと思います、ボク。
反対に悪魔は……学園長先生かな。
だってあの人、結構酷い事をしてくるもん。まさに、悪魔の所業とも言えるようなことを平然とやってくるし。
何度その所業を受けてことか。
まあ、そのおかげで、色々と助かった面もあるし、一概にも悪いとは言えないんだけど……大体は悪い方面に作用しちゃってるから、全面的に肯定するのは無理だね。うん。無理。
「あ、そうだ。みんな何か欲しいものはある? 今日は特別に、何か好きな物を買ってあげるよ」
「「「「「「ほんとう!?」」」」」」
「うん。夏休みに入っても、なかなか構ってあげられなかったからね。せめてものお詫び。どんなに高くても、大丈夫だよ」
「「「「「「わーい!」」」」」」
本当に嬉しそう。
最近まともに遊んであげることができなかったからね。
せめて、何か好きな物を買ってあげよう。
……あんまりやりすぎて、将来我儘な大人に成長したらどうしよう。
まあ、その時はしっかりボクが教育しないとね。
メルは一応預かっている身だし、他の五人は孤児だからね。一生ボクの妹として生きていくことになると思うし、ボクが責任を持たないと。
……そう言えば、ニアたちって一応別々の孤児院にいたらしいけど、一応行った方がいいのかな?
あとで訊いてみよう。
おもちゃ屋さんに移動してみんながそれそれ欲しがった物を購入。
どんなに高くてもいいよ、とは言ったけど、どれも一万円に届かない物ばかりだったのは、みんな遠慮したのかな? と思った。
でも、こういう時は遠慮しなくていいよ、と伝えてあるから、多分本気で欲しかったものなんだろうね。
ちなみに、メルがホラーゲーム(ゾンビ系)で、ニアが魔法少女のおもちゃ、リルが少女漫画で、ミリアが少年漫画(バトル物)、クーナが着せ替え人形、スイがなぜか恋愛ゲーム(男性向け)。
なんだか、みんなの好みがよくわかりそうなものばかりだよね。
メルは魔族で魔王だからなのか、アンデッド系のゲームとか物語に興味を持っていた李、ニアはよくある日曜の朝に放送している女児向けアニメが好きだったり、リルは女の子主観の恋愛が好きなのか少女漫画を好んで、ミリアは元気っ娘だからなのかわからないけど、なぜか少年向けのバトル漫画を好んでいたり、クーナはちょっとお姉さんっぽいイメージがありつつも、可愛らしい物が好きだったりするんだけど……なんで、スイだけ恋愛ゲームなんだろう? しかも、男性向け。
さらに言うなら、女の子同士の恋愛を描いた作品っぽかったんだよね。
サキュバスって、そう言う人もいるのかな?
まあでも、みんなとっても嬉しそうで、ボクとしても買ってよかったと思えるよ。
「さて。こっちのお買い物もある程度終わったし、そろそろ師匠に――」
と、ボクが言いかけた時だった。
ドゴォォォォォォォンッッッ!
突如として、ショッピングモールに轟音が響き渡り、その轟音と共に建物が揺れた。
「な、なんじゃ!?」
「何が起こったんですか……っ?」
「こ、こわい……」
「イオねぇ……」
「な、なんなのでしょうか……?」
「……不明」
「みんな、大丈夫だよ。ボクがついてるから」
怖がってみんながボクにくっついてくる。
突然の出来事に、みんな不安そうにしていたので、ボクは安心させる意味でそう言う。
周囲を見れば、他にいるお客さんたちも突然の出来事に呆然となっていたり、その場でしゃがみ込んでしまっていたりと、反応は様々。
何が起こっているのかわからず、ボクは『気配感知』を使用した。
「……こっちに逃げて来てる人が大勢。あと……この黒い反応は何?」
すると、この先のフロアから大勢の人が慌ててこちら側に逃げてくる様子と、謎の黒いい反応が確認できた。
さすがに、下手に移動してみんなが危険な目に遭うのは避けたい。
それに、こう言った場合、むやみやたらに近づく方がかえって危険。
異世界ほど危険は少ないと言っても、何が起こるかわからない世界でもあるので、ここは慎重に行きたいところ。
それに、ブライズがこっちの世界に来るような事態があったということも踏まえると、ある意味動かない方がいいのかも。
「……あれは」
そして、ふと前方に何か黒い影がいるのが見えた。
いる、と言うより、飛んでるに近いかも。
……あれ? なんだかあの黒い影、こっちに向かってきてる?
……あ、気のせいじゃない! あれ、どう見てもこっちに向かってるよ!?
『ギャハハハハ! いいぜいいぜぇ! 久しぶりの現世だァ。やっぱ、空気がいいよなァ!』
な、何あれ!?
黒い……人? いやでも、人、と言うより動物と人間が混じったような感じ、だよね? 全身黒いけど。
頭はヤギっぽくて、体は人間。
ただ、ヤギと言っても人間の顔も変に混じりあったような感じ。
一言で表すなら……なんとなく、悪魔が近いかも?
でも、問題はその変な黒い人は、謎の存在感を放っているということ。
明らかに異質。
こっちの世界には絶対にいるはずのない人に思える。
向こうの世界だったらいても不思議じゃないように感じるんだけど……明らかに違うような?
向こうの世界でもこんなに独特な存在感を持った存在は見たことがないかな、ボクは。
強いて言うなら、魔王とか師匠かな?
……ともかく、見つからないに越したことはないかな、これは。
と、ボクがそう思った時だった。
『ん~? お~? なーんか美味そうな匂いがすると思ったらよォ……いるじゃねェか、いい生贄ってのがよォ!』
その悪魔っぽい影がボクたちに向かってそんなことを言いながら向かってきた。
狙いは……妹たちの方!?
「やらせないっ!」
ボクは狙に気づいた直後、軽く前に飛び出て、影に蹴りを放った。
しかし、その蹴りは当たらず、影はひらりと躱すと後方へと引いた。
『うおっと! なんだ嬢ちゃん。いい蹴りしてんじゃねェか。それに……ん? なんだ、その気配。オマエ、普通の人間じゃねェな?』
「そういうあなたこそ、明らかに人じゃないですよね? と言うより、こっちの世界の人じゃないですよね? 何者なんですか? あと、なんで妹を狙ったんですか? 返事によっては……潰しますよ?」
『――ッ!? おォおォ。こえー嬢ちゃんだなァ、おい。まあいいや。質問の答えな。まず最初に、嬢ちゃんが言う通り、オレは人じゃねェ。まあ、所謂悪魔って奴だ』
「悪魔……」
本当に悪魔だった。
いるんだ、実際に。
『んで、こっちの世界の住人じゃない、ってーのも正解だ。オレはまァ、魔界出身でな。ほら、よくあるだろ? 悪魔が住む世界的な? そういう場所だよ』
魔界まであるんだ。
……もしかしてボク、またおかしなものに巻き込まれた?
『そして次。狙った理由は……そりゃァオレは悪魔だからなァ。人間が好物ってわけよ。ま、場合によるところもあるけどなァ? だが、そこの小娘たちは、なーんかいい匂いがするんだよ。美味そうな匂いだ。さぞかし、美味なんだろうなァ。アァ、喰ってみてェ』
「させると思いますか?」
『させねェだろうなァ。それにオマエ。なーんか、オレたち悪魔にとって、明らかにまず~いオーラが放たれている気がするしなァ。ついでに言えば、もう一人、この建物にいるっぽいが』
そのもう一人って、師匠のこと、だよね? 多分。
『だがまァ、まずいオーラの質で言えば、オマエの方がいかにもヤバい、って感じだな』
「すみません。そのまずいオーラってなんですか?」
『ンァー、そうだなァ。言っちまえば、猛毒だな。オレたちの天敵がいてよォ、そいつらもそう言ったオーラは持ってるんだが、明らかにソイツらより、オマエの方が質は上だなァ。純度がたけェ』
うーん? なんだか、いまいち言っていることがわからない……。
そのオーラってあれかな? 神気とか?
それなら、ボクも一応あるらしいし、不思議じゃないけど……。
『ま、その天敵ってのも、オレたちが天敵なんだがなァ』
悪魔の天敵……。
うーん、普通に考えるなら、天使、とかかな?
悪魔がいるのならいても不思議じゃないし。
『ま、無駄話はやめて、とっとと食事と行こうかァ!』
「――っ! させませんっ!」
突然突進し、それと同時に振り下ろした爪を、太腿に着けていたナイフポーチから一本ナイフを取り出して、それで防いだ。
うっ、力がそれなりに強い!
「やぁっ!」
力は強いけど、まだ敵わないほどじゃない。
気合の声(?)と共に、弾き返す。
『おっとォ。なんだ、いい力してんじゃねェか。んじゃ、どんどん行くぜェ!』
「みんな、後ろに下がってて! 絶対に、危険なことはしちゃダメだよ! はぁっ!」
『ぐっ……!』
ボクは後ろのいるみんなにそう告げると、悪魔を思いっきり蹴り飛ばして、その後を追った。
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