第469話 テレビ出演
ボクが生徒会長になって、一週間ほど経過。
その間、特段ボクに生徒会長としてのお仕事はなく、家でのんびりと過ごしていました。
と言っても……
「依桜ちゃん、早速行こ!」
「う、うん。準備してくるから、待ってて」
今日はエナちゃんとの約束があるんだけどね。
約束、とは言っても、以前話していたテレビ番組の件。
つい最近、それに関する撮影もしたんだけどね……あれがお茶の間に流れると思うと、頭が痛い。
別に、恥ずかしいことをした、というわけじゃなくて、何と言うか……アクション系のドラマや映画とかのオファーが来そうで怖いと言うか……。
ともあれ、ボク自身あまり乗り気じゃない。
じゃあ、なんで受けたのかと言われると……エナちゃんがちょっとだけ困っていたから、これに尽きます。
というのも、お祭りに行く三日前の、エナちゃんからの連絡が事の発端。
『依桜ちゃん、あの件、考えてくれた?』
電話に出るなり、そう訊かれた。
あの件? と最初は疑問符が頭に思い浮かんだけど、すぐに思い出した。
「あ、テレビ番組の件?」
『うん! 今日が返事の締め切りで……それで、どうかな? 出てくれないかな……?』
「えーっと、それはあの時言ってたように、いのりとして、でいいんだよね?」
『そうだよ。向こうのプロデューサーさんのお願いでね』
「うーん……」
テレビ番組……。
ボク自身テレビに出たことはない。
一応、間接的には出てはいるんだけどね。
アニメとか、ライブの時とかに。
でも、今回は生放送らしいし、バリバリ映ることになる。
ライブの時も実質生放送だったみたいだけど、それはそれ。あれのメインはボクじゃなくてエナちゃん。
目立ったには目立ったけど、突発的なものだったのである程度はセーフ。
ただ、今回はそういわけにもいかなさそうというか……。
うーん……どうしよう。
『うちとしては、できれば出てほしいかなーなんて』
「どうして?」
『恥ずかしい話、ちょっとだけいのりちゃんに関することで面倒くさいことになっててね……』
「ボク?」
『うん。色々とややこしいから、簡単に言うとね、『謎のアイドルいのりの情報を出せ!』っていう風に、事務所に問い合わせが殺到中で……』
「えぇ……」
『でも、いのりちゃんってうちの事務所の正式なアイドルじゃないでしょ?』
「そうだね」
そもそもボク、どこにも所属してないもん。
声優事務所にも所属していなければ、芸能事務所にも所属していない。
言ってしまえば、フリーの声優であり、フリーのアイドル、ということでもあるわけだけど。
もっとも、ボク自身はそっちの道に行こうとはあまり思ってないんだけどね。
『言ってしまえば、いのりちゃんって芸能人と言うより一般人になっちゃうの。だから、仮に情報を持っていたとしても事務所が言うのは色々と問題でね……』
「あー……まあ、部外者が一般人の情報を流す、って言うことになるもんね……」
『そうなの……。こっちも、どうしようもない状況で困っていて、たまに嫌がらせが来るの』
「嫌がらせ!?」
『あ、別に脅迫状とかが来てるわけじゃなくて、無言電話とか非通知電話で変なことを言われたりする程度だから」
「世間一般的に見ても結構嫌な嫌がらせだよね!?」
程度で済ませていい物じゃないと思うんだけど。
『あ、あはは……だから、何と言いますか……今回のテレビ番組に出てもらえると、こっちとしてもとても助かるわけで……。もちろん、出演料についても事務所経由で振り込まれるから』
お金に関しては別に困ってないし、そもそも異常なくらいの大金があるんだよね……。
そういう観点で言えば、別に出演料はいらなかったりするわけで。
でも……エナちゃんの声を聴く限り、本当に困ってるみたいだし……。
うん。ここは、友達としてエナちゃんのために一肌脱ごう。
「……わかったよ。引き受けるよ、その話」
『ほんと!?』
「うん。エナちゃん、本気で困ってるみたいだからね。友達として、助けたいし」
『わーい! 依桜ちゃんありがとうっ! 前収録もあるから、それについてもよろしくね! 細かいことは、マネージャーがLINNの方で教えてくれるみたいだから、安心してね!』
「うん。わかったよ」
『それじゃあ、うちはそろそろお仕事だから切るね。バイバイ!』
「またね」
ということがあった。
つまるところ、事務所が困ってるから助けて! ということになるのかな?
まあ、それはいいんだけどね。エナちゃんのお願いだし。
友達の頼み事は基本断れないもので……。
「お待たせ、エナちゃん。じゃあ、行こっか」
普段の姿から髪型と髪色、瞳の色を弄って声音もアイドルいのりとしての物に変える。
うーん。慣れって怖い……。
「うん! しゅっぱーつ!」
収録場所は東京なため、ボクとエナちゃんの二人は電車で移動することに。
一応、正体がバレないよう、変装もしています。
……よくよく考えてみたら、いきなりアイドルの姿になるんじゃなくて、黒髪黒目の地味目な姿にしておけばよかったような……。
って、それじゃあエナちゃんが大変なことになる可能性があるもんね。
それに、テレビ局に入る際に問題が起こるような可能性もあるし、この姿の方がいいかもね。
ちなみに、変装は何というか……THE変装、と言わんばかりの、キャスケットとサングラスにマスク。
なんだろう、不審者にしか見えないような……。
あと、服装に関しても、派手過ぎず地味過ぎない普通のものとなっています。
エナちゃん曰く、
『変装は、どこにでもいそうな女の子を演出するのが一番大事!』
だそう。
それは一理あると思ったものです。
師匠から教わった、暗殺者の変装術でもそんなこと言われたしね。
『暗殺者としていかに悟られず、いかに一般人として溶け込めるか』
なんだって。
……まあ、ボクの場合、当時はまだ『変装』と『変色』の能力とスキルを持っていなかったから、『気配遮断』とかでどうにかしていたりするんだけどね。
でも、気配を偽ることは仕込まれたからね。
一般人に溶け込むことは造作もないです。
ただ……
『なあ、あそこの二人、サングラスとマスクでよく見えないけどさ、普通に可愛くね?』
『たしかに。しかも、右の青い髪の娘とか、胸でけぇ』
それでもなお、ボクたちは目立つようです。
うーん、困った。
さすがに収録前にこうやって注目を集めるのは問題だよね……。
となると、取れる方法は一つ。
「……エナちゃん、ちょっとごめんね」
そう言って、ボクは隣にいるエナちゃんの左手とボクの右手を繋いだ。
「い、依桜ちゃんっ?」
いきなり手を握られて、エナちゃんは顔を赤くさせながら驚きの声を上げた。
「……ごめんね、ちょっとだけ我慢して」
そう言うと、エナちゃんはこくこくと頷いた。
ボクがしたのは至ってシンプルで、エナちゃんの手を繋いだ状態で『気配遮断』を使用しただけ。
実はこの『気配遮断』、その人の才能次第では自身が接触している人にも効果を発揮させることができたり。
ボクは大体十人くらいが限度らしいけど、師匠は百人だとか。桁が違う……。
でも、こういう場面においては結構有用的。
しかも、能力の効果をちょっといじれば、ちゃんと気配はあるけど、そこまで目立たない、と言う風に見せることも可能。
なので、さっきボクとエナちゃんを見ていた二人の男性の人たちも、こっちを見なくなっています。
うん。すごく便利。
ただ、これの欠点はその人に触っていないといけない、と言う点なわけで……。
正直、手を繋いでいることが申し訳ないんだよね……。
この後、エナちゃんは終始顔が真っ赤でした。
それから東京に到着。
「あ、こっちよ、二人とも!」
すると、駅前にはマネージャーさんがいて、こっちに手を振って来た。
傍から見ると、年上のお姉さんに呼び止められる姉妹のよう。
ボクとエナちゃんは、マネージャーさんところへ。
「こんにちは!」
「こんちには」
「ええ、こんにちは。さ、変に注目を集めるといけないし、ついてきて。車はこっちよ」
「「はい」」
移動は車です。
そんなこんなで、車に揺られること数十分。
目的地の放送局に到着。
「大きい建物……」
「うちも初めて来たときは驚いたよ」
到着した建物の大きさに目を丸くしていると、横にいるエナちゃんが笑みを浮かべながらそう言う。
やっぱり、エナちゃんもそう思ったんだ。
「二人とも、まずは楽屋に行きましょ。一応まだ時間はそれなりにあるし、荷物を置いて挨拶回りの方をしないとね」
「はーい」
「わかりました」
挨拶回り、あるんだ。
「はぁ……なんだか疲れた……」
「お疲れ様、依桜ちゃん」
挨拶回りを終え、ボクとエナちゃんの二人は楽屋に来ていた。
そして、楽屋に入るなり、ボクは床に置いてあった座布団を敷いて、そこに座り込んだ。
「うぅ、ボクですら知っている人に会うのは緊張したよ……」
「大きな番組だからね、今回のは」
「そうだね……」
今回、エナちゃんにお願いされて出ることになった番組は、かなり大きな番組。
知らない人の方が少ないんじゃないかな? っていうくらいには有名なバラエティー番組。
普段あまりテレビを見ないボクでさえ、テレビで放送していたら見るくらい。
なので当然、有名な人も多いわけで……。
そんな人たちと挨拶をしないといけなかったもので、すでにボクの緊張がとんでもないことになっていたり。
いやまあ、ボクも芸能人に近い状態ではあるけど、それはそれ。
ボクはフリーだからね。一般人よりだからね。
「はぁ……エナちゃんはすごいね。あんな人たちが相手でも、緊張しないで堂々としてるんだもん」
「うちの場合は慣れてるからね。一気に有名になって、それから色んな人たちと共演させてもらってたから! おかげで、度胸は付いたよ!」
「やっぱり、慣れなんだね……」
さすがにアイドルをやっているだけあるよ。
「でもでも、依桜ちゃんもすごいよね」
「ボクが?」
「うん! だって、緊張しながらも普段通りの優しい笑みを浮かべながら挨拶してたもん。うちなんて、初めての時はガチガチだったよ?」
「あ、あはは……まあ、ボクの方も経験、かなぁ……」
主に、異世界での、だけど。
あっちの世界では、王様や貴族の人たちだけでなく、大きな商会のトップの人ともかかわったことがあったからね……。
でも、それは異世界の話なだけであって、こっちの世界ではない。
こっちにはこっちの有名人がいるわけだもん。
向こうは権力者。
こっちは芸能人。
そう言う意味で全然違う人種。
「ねえエナちゃん」
「なに?」
「一つ気になるんだけど……前収録の時に、あんなことがあったでしょ?」
「あ、うん。そうだね。それがどうかしたのかな?」
「もしかしてなんだけど……今日も途中で仕掛けられたり、なんてことはない、よね?」
「うーん、どうだろう? そう言う番組だし、もしかするとあるかも。ほら、今までだってアイドルの人とか、女優さんとかも仕掛けられていたわけだし」
「……用心、しておいた方がいいのかなぁ」
「そうだねー。でも、こう言うのって引っ掛かるからこそ面白いからね。どうすればいいのかな?」
「うーん……まあでも、ボクたちはお笑い芸人って言うわけじゃないし、その時はその時かな」
「じゃあじゃあ、もしそういうことがあったら、前みたいにしてくれるのかな?」
「あぅっ。あの時のことは忘れてぇ~……」
キラキラとした目に、何とも嬉しそうな表情で以前のことをからかい交じりに言ってくる。
それを言われたボクは、顔を赤くしてその顔を隠すように両手で覆った。
今思い返しても、恥ずかしいんだよぉ……。
「でも、あの映像は使われると思うから、依桜ちゃん的には辛いかもね」
「……だよね……だってあの時のカメラマンさんとか、プロデューサーさんとかかなり興奮してたもんね……」
「まあ、無理もないんじゃないかなぁ。だって普通、あれはああいうものじゃないわけだし、普通なら、一人で逃げるか、もう一人を助けるかの二択だもんね」
「今まであれを仕掛けられた人とかもそうだもんね……。はぁ。そう言う仕組みってわかっていれば、あんなことしなかったのになぁ……」
「そうだとしても、依桜ちゃんってわかっていながら助けてそうだよね!」
「…………否定できない」
それがたとえ罠とわかっていても、助けずにはいられないのがボク。
特に、それが大切な友達なら尚更。
「依桜ちゃん優しいもんね!」
「当たり前のことだもん」
「うんうん。実に依桜ちゃんらしいです!」
そう言うエナちゃんはとても嬉しそう。
今まで友達と言える人がいなかった、というのが大きいのかな?
「あ、そうだ。ねえねえ依桜ちゃん」
「何?」
「うちと依桜ちゃんって、世間的に見ると二人組のアイドルユニットでしょ?」
「事務所には所属していないけど、一応そうだね」
「よくよく考えたら、ユニット名って必要なんじゃないかなって」
「……たしかにそうかも」
「でしょでしょ?」
エナちゃんの言う通り、ユニット名はあった方がいいかも。
別段、アイドル活動に専念するわけじゃないけど、こうして二人で出演することが今後ないとも言い切れない。
むしろ、あると思った方がよさそう。
だって、今回のようなことが今後起こりそうだし。
まあ、それはいいとしても、ボクとエナちゃんはちょこちょこ二人で活動する時があるし、世間的に見ても二人組のアイドルと思われていることは明白。だって、女委がそんなこと言ってたし。
それに、テレビって出演者の下の方にテロップで名前とかユニット名が表示されるわけで、そこに名前がない、と言うのは不自然に思われそう。
そうなった場合、エナちゃんの所属する事務所に変な嫌がらせとか噂が立ちかねない。
そう考えると、名前はあった方がいいし、何より自然に見せられる。
「うん。じゃあ、今のうちに考える?」
「時間もあるからね! ちゃちゃっと考えよ!」
「そうだね。それじゃあ――」
この後、時間が来るまでになんとか名前を決めることができました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうも、九十九一です。
今回はね。ちょっとお願いと言うか、できれば協力していただければありがたいなーと言う事態が発生したので、こうしてあとがき的なものを書いております。
と言いますのも、今回の終盤にて、ユニット名に関する話題が出ていると思いますが……正直、何にも思い浮かんでおりません。ネーミングセンスが壊滅的過ぎて、あまりいい案がないんです。ですので、もしも何かいい案がある方がいらっしゃいましたら、教えていただけると私は非常に嬉しいです。早く決まった分だけ、おそらく早めに次の回が出ると思うんで……。もちろん、私も頑張りますけどね! 作者だもの!
というわけです。もしよろしければ、協力していただけると、私は非常に嬉しいです。
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