第152話 二学期終業式
次の月曜日。
今日は終業式がある。つまり、明日から冬休みというわけですね。
まあ、だからなんだ、って話ですけど。
そう言えば、ボクの誕生日に、師匠からもらったリボンを使わないのは悪いと思って、ためしに髪型を変えてみたりしました。
……正直なところ、髪型を変えている姿を見せたりしたら、いよいよ男だと否定できなくなりそうなんだけどね。
でも、それはボク個人の気持ち。
せっかくもらったものを、自室の肥やしにはしたくないし、何より、初めての師匠からのプレゼント。肥やしなんかにしたら、申し訳ない。
なので、二日間だけでも、と思ってためしに別の髪型にしてみました。
前回は試しにツインテールにしてみたんだけど……何と言うか、似合わなかったような気がしてならなかった。
なんでだろう?
まあでも、未果たちからは可愛いって言われたけど。
嬉しいと言えば嬉しかったんだけど……やっぱり、複雑だった。
なので、今日は大人っぽくして見ようかなと思って、サイドアップにしてみました。
季節に合わせて、雪の結晶の飾りが付いたゴムにしてます。結構気に入ってたり。
ポニーテールは、誕生日会の時にやったけど、サイドアップはやってないからね。
ボク的には大人っぽく感じたので、これにしてたり。
「どういう反応するかなぁ」
ちょっとだけ、反応を楽しみにしつつ、学園へ向かった。
「おはよー」
「おはよう、依桜。あら? 今日は、サイドアップなのね」
「うん。ためしにね。大人っぽく見えるかなーって」
「大人っぽくというより、依桜の場合は、大人しめな印象を受けるな」
「そうね。依桜は、美人や大人っぽいと言うより……可愛いの方面に全振りされちゃってるからね。まあ、だとしても、大人っぽくは感じるわね」
「ほんと? よかったぁ……」
((まあ、それでも、結局は可愛いと言われるだけだと思うけど))
そう言えば、一応身長もちょっとは伸びているみたいだし、できれば160くらいまで伸びてほしい。
なんてことを、みんなに言ったら、
『似合わない』
って、一斉に言われてしまった。
酷い……。
ボクって、そんなに身長が高いのは似合わないのかなぁ。
「おっはよー! おー? 依桜君、今日はサイドアップなんだ! 可愛いね!」
「これで眼鏡とかかけたら、図書委員っぽいな!」
「なんかわかる気がするわ。意外と、眼鏡似合いそうよね」
「そ、そうかな?」
あんまり似合わないような気がするんだけど。
「じゃあ依桜君、これかけてみて?」
と、女委がどこからともなく、眼鏡を取り出し、ボクに手渡してきた。
「なんで持ってるの?」
「資料資料! 別に、眼鏡依桜君が見たかったわけじゃないからねー?」
「……」
……絶対、ボクが眼鏡をかけてる姿が見たかっただけだよね、これ。
まあいいけど。
手渡された眼鏡をかける。
「ど、どう、かな?」
「か、可愛い……」
「依桜君、依桜君! ちょっとカーディガン着てみて?」
「え? い、いいけど……」
言われた通りに、カーディガンを着る。
もちろん、学園指定のちゃんとした奴です。ちょっと大きいけど。
「え、えっと、これでいいの?」
『か、可愛いぃぃぃ!』
「え、な、なに?」
唐突に、クラスメートのみんなが可愛いと叫び出した。
ど、どういうことなの?
「やばい、依桜の萌え袖に、眼鏡、それからサイドアップ……大人しい図書委員って感じで、すっげえいいな!」
「わかるよ態徒君! あれだね、恥ずかしがり屋の娘って感じだよね! ラブコメ系のマンガやアニメだと、メインヒロインじゃないのに、結構人気が出るタイプの」
「なんかわかる気がするわ。たしかに、今の依桜の髪型だと、すっごい似合ってるわ」
「……これで、元男、というのが、本当に信じられないな」
「あ、あの、みんな……?」
なんか、ボクだけ置いてけぼりをくらっているような気がするんだけど……どういう状況なの? これ。
萌え袖、ってあれだよね? 大きめのシャツから、手が少しだけ出ている状態のことだよね?
たしか、女の子になった日に、ちょっとだけしてたけど……。
「依桜君お願い! 今日はその状態で過ごして!」
「ど、どうしたの、急に?」
「だって、滅多にこういう姿見れないもん! 少なくとも、冬休みに入っちゃうから、見れる機会ないもん!」
「だ、だったら、冬休み明けでいいと思うんだけど……」
冬休みと言っても、三週間くらいだったはずだし。
「こういうのは、最初が一番いいんだよ! 二回目じゃん! 二回目だと、ちょっとインパクト薄れちゃうんだよっ!」
『男女、俺からもお願いだ!』
『俺も!』
『私も!』
「わわっ! み、みんなどうしたの!?」
『だって、今年中に男女が見れるのって、今日が最後じゃん!』
『見納めなんだよ! どうせ、初男女は、椎崎たちが取るだろ!?』
「初男女ってなに!?」
『だって、こっっっっんなに! 癒される人なかなかいないんだもん!』
『そうだよ! 依桜ちゃんの可愛さは世界一ィィィィィィィ!』
『だからこそ、だからこそ! 滅多に見れないレア依桜ちゃんを目に焼き付けておきたいんだよ!』
「な、何を言っているのかわからないんだけど……」
ど、どうしよう。
なんでみんな、ボクがこの姿でいることを望んでいるの? 別に、髪型を変えて、眼鏡かけて、カーディガンを着ただけだよ?
ちょっとイメチェンしたくらいだと思うんだけど……。
「まあ、なんだ。このままだと、暴動が起きかねないから、その姿でいたほうがいいんじゃないか? 依桜」
「で、でも、晶……」
「いえ、晶の言う通りね。このまま、いつもの依桜に戻したら、暴動が起きて、終業式どころじゃなくなるわ。集団ボイコットよ、ボイコット」
「そ、そこまで!?」
こ、怖いんだけど。
なんで、ボクが普段の姿に戻っただけで、そこまでのことが起きかねないの? ボク、みんなからどう思われてるの?
少なくとも、普通の同級生には思われてないよね? 絶対そうだよね?
で、でも、みんなたしかに、目が血走ってるし……ボクがこの姿でいることで、何も起こらないのなら……
「わ、わかったよ。今日はこの姿でいるよ」
『よっしゃああああああああああ!!!』
「そこまで喜ぶことかな!?」
このクラスはよくわからない。
「……ここまでくると、さすがだな」
「にゃははー。いやぁ、やってみるもんだねぇ」
「……もしかして女委、狙ってた?」
「んーにゃ? 狙ってないよー。……ちょっとしか」
「……本当に、すごいわね、あなた」
「それは、俺も思うよ」
「まあ、可愛いしいいんじゃね?」
「「それは確かに」」
「……お前ら、その内、依桜に殺されるんじゃないか?」
「「「はっはっは! まさか」」」
クラスメート(女子)にもみくちゃにされている中、こんな会話がされていた。
『生活指導の方から、冬休みの注意点を話してもらいます。では、ミオ先生、お願いします』
え、師匠って、生徒指導の先生だったの!?
本当に、色々と謎なんだけど。
というか、一番向いていない役職のような……?
「あー、生徒指導課のミオだ。まあ、あたしの方から、冬休みの過ごし方について説明させてもらう。まず、薬物はやるな」
うわぁ、すっごいシンプル……。
さすが、師匠。
「まあ、一応薬物を使って頭がイカレたら、あたしが治してやれるが……そもそも、使うなって話だな。だが、万が一無理矢理摂取させられた場合は、学園に連絡しろ。すぐぶっ潰すから」
いや、おかしい!
それは、常識的に考えて、教師の人が言わないことですよ!
そもそも、薬物を使って壊れた脳は治せないから! それを治せる時点でおかしいから!
ためしに、周囲に耳を傾けてみると、
『すげえ、美人な上に治療もできるのか……』
『やっぱ、ミオ先生は、ひと味違うなぁ』
『かっこいい……』
うん。変。
さすが、叡董学園に通っている人たちだよね……おかしいということに気づいていない様子。
うん。まあ、ハロパの時も、ホログラム技術に誰も疑問を持っていなかったもんね……。多分、あるのが普通だと思っているんだと思うよ、この場合。
「次、まあ、事故は起こすなよ。とにかく、事後処理が面倒だ」
たしかにそうですけど、それを堂々と言える師匠はすごいと思います。
伊達に、百年以上生きていないってことですね。
「次、クリスマス、だっけか? 話に聞いたところによると、カップルたちが聖夜ではなく、性夜になるらしいが……あんまり羽目は外すなよ。まあ、年頃だしな。気持ちはわかるが、ほどほどにしろよ」
その瞬間、周囲がざわめいた……というか、なぜか顔を赤くしている人たちが多かった。
あれ、どう言う意味……?
聖夜? って、普通にクリスマスの夜のこと、だよね? じゃあ、もう一度言ったほうはどういう意味? うーん?
まったく意味がわからず、頭を悩ませていた。
「じゃあ次な。まあ、当然だが、刃物とか凶器になりそうなものは持つなよ」
なぜか、視線を五つほど感じた。
……視線は、未果、晶、態徒、女委、学園長先生で間違いないよね。
いや、うん。ボクの場合はその……しょ、職業柄色々と、ね? 何と言うか、持っていないと落ち着かないと言うか……今も、装備してるしね、ナイフ。
太腿にポーチがあって、そこに入ってたり……ちなみに、バレてません。
ちょっと前に『擬態』のスキルを手に入れたので、バレることはないです。
「最後、SNSの使い方には気を付けろ。絶対に誹謗中傷はするなよ? 言葉は凶器になるからな」
すっごくまともなことを言ってる……。
師匠、言うことはちゃんと言うからなぁ……それを普段からやっていればいいわけで。
「とまあ、以上の四点だ。バイクの免許や車の免許に関しては、ちゃんと申請をしろよ。以上だ」
「ありがとうございました。続いて、学園長先生からお話しをしていただきます。よろしくお願いします」
「生徒の皆さん、こんにちは。まあ、終業式や始業式、卒業式などの学園長の言葉ほどつまらないものはないと思っているので、手身近に。三年生は、受験の最後の追い込みです。推薦で行く人はいいですが、一般入試の人はこの冬休みで最後の追い込みをかけ、合格できるよう頑張ってください。二年生は、今のうちに進路を明確にしておいたほうがいいですね。後々困りますよ。『進路なんてどこでもいいわー』とか言って、人生に絶望した人とか見たことあるので。一年生は……まあ、進級も控えています。三学期で、赤点を取って、進級できなかった、なんてことにならないよう、しっかり予習復習はしてくださいね。では、最後に。……今年のクリスマスは、パーティーというわけではありませんが、ちょっと考えていますので、いい子にしていてくださいね。以上です」
「ありがとうございました」
……最後、学園長先生がこっちを見たような……?
ま、まさかね……。
「では、二学期の終業式を終わりにします」
「あ、そう言えば、初詣はどうするの?」
HRが終わった後の教室。
最後に、冬休みのことを話しておこうということで、こうして話している。
「んー、たしかゲームのサービス開始って元日だったわよね? どうするの?」
「たしか、初詣のことを考えて、サービス開始は十五時と聞いたが」
「じゃあ、朝は初詣に行って、その後にゲームって感じかな?」
「多分そうなるんじゃないかな?」
「じゃあ決まりだな! んでもよー、キャラクリとかどうすんだ? たしか、結構弄れたって聞いたんだが」
「たしか、リアルモデルとクリエイトモデルの二種類があったはずね。結構自由度高いらしいわよ」
「そうなんだ」
単語の意味からして、現実ベースと、自分で作るって感じかな?
「でも、どうしてキャラクリを訊くんだ?」
「ほら、外見がわからなくなるだろ? だから、誰が誰か、みたいなよ」
「言われてみればそうね。現実とかけ離れたキャラクターを作ってしまったら、わからなくなるわね」
そっか。そういうのもあるんだ。
一般的なネットゲームと違って、ゲームの世界に直接入って動かすわけだから、チャットとか使えないんだ。
「まあ、待ち合わせ場所を指定しておけばいいんじゃないかしら?」
「そうだな。それが無難だろう。もしかすると、他にも方法があるかもしれないしな」
「うん。それじゃあ、それで決まりかな? 初詣の方は……LINNの方でいいよね?」
「だねー。じゃあ、終わりになるかなー? わたし、色々とやることがあってねぇ」
「わかったわ。じゃあ、帰りましょうか」
大まかなことを決めて、ボクたち家路に就いた。
高校生活最初の冬休み……何があるのかなぁ。
うん。楽しみ。
……できれば、何も問題がなければいいんだけど。
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