第153話 依桜ちゃんサンタさん 1
十二月二十三日。クリスマスイブの前日のこと。
冬休みに入り、特にやることはなく、普通の休日同様に、家事をして過ごしていました。
と言っても、始まってまだ二日目なんだけどね。
こういう長期休みじゃないと、ボクはどうも休めないようで、本当にありがたいです。
毎日毎日、何らかの出来事に巻き込まれるのは、嫌じゃなくても、さすがに疲れてしまいます。主に、精神的に。
だから、本当に冬休みはありがたいものです。
全力で冬休みを満喫するために、ボクは宿題を配られた時点ですぐに終わらせました。
多分、どこの高校でもそうだと思うんだけど、冬休み近くなると、授業中に冬休みの宿題が配布されるので、ボクは配布されたその日には、半分ほどを片付けて、次の日に終わらせる、ということをしています。
そのおかげで、宿題はすべて終わり、身軽な生活になっているわけです。
そうして、さっき言ったように、リビングの掃除をしていると……。
『~~~♪』
スマホに着信が入った。
一旦、掃除している手を止めて、ディスプレイに目を落とすと、そこには『学園長先生』の文字が。
……どちらかと言えば、出たくない。
学園長先生から電話がかかってきて、いい話だったためしはないもん。全部、大変なことだった気がするもん。
……でも、一応通っている学園の長だし……そもそも、電話に出ないのもまずい、よね。
しかたないので、電話に出ることに。
「もしもし」
『あ、もしもし、依桜君? 今ちょっといいかしら?』
「大丈夫ですよ」
『よかった。えーっと、依桜君って、明日予定ある? できれば、一日。それから、今日この後も教えてもらえると助かるわ』
「明日ですか? えーっと、特になかったはずですよ。それと、今日も特にはないです。普通に家事をするだけですし」
毎年、みんなで集まって、何かをするにしても、クリスマス当日だからね。
今年はどうするんだろう?
正直なところ、誕生日会をやっちゃったせいで、もう一回パーティー? みたいな考えになりかかっている。
……まあ、楽しいからいいんだけど。
『ならよかった。それじゃあ、今から学園に来てもらえるかしら? あ、私服で構わないわよ』
「わかりました。準備したらすぐに行きますね」
『ありがとう。それじゃ、またあとでね~』
通話終了。
呼び出しがかかったことだし、着替えて学園に行こう。
掃除は……帰ってきてからでいいかな。やるにしても、ちょっとだけだし。
こういう時、こまめにやっていると楽だよ。
あとあと、慌ててやらずに済むし。
なんてことを思いながら、掃除用具を片付けて、自室で着替えてから学園へ行くべく、家を出た。
言われた通り、私服で学園へ。
今日はちょっと寒いので、白のブラウスに、黒のロングスカート。それから、黒のダッフルコートに、ニーハイソックスとブーツといった服装です。
もう、スカートに対する抵抗なんてないです。
これでいいのかな? と思う時はあるけど。
私服で学園にはいるんは、なんだか不思議な気分だけど、ちょっと楽しいかも。
部活動をしている人のために、昇降口は開いており、上履きに履き替えて中へ。
道中、先生方に『なんで私服なんだ?』って不思議そうに訊かれたけど、普通に学園長先生に呼び出されたからと答えると、納得してくれた。
すれ違う先生方や、部活動見学に来ている中学生、それから、練習試合のために来た他校の生徒さんとすれ違いざまに挨拶をしながら、学園長先生へ。
もう何度やっているんだろう、と思いながら、扉をノック。
『どうぞ』
そして、いつもの学園長先生の反応を聞いてから、ボクは中へ入る。
「失礼します」
「あら、依桜君。冬休みなのに、呼び出しちゃってごめんね」
「いえ、家事をしていただけなので、大丈夫です。それで、今回はなんで呼ばれたんでしょうか?」
「明日、明後日が何の日か知ってる?」
「と、唐突ですね。……えーっと、明日はイエスキリストの降誕祭の前夜祭で、次の日が降誕祭ですよね?」
「たしかにそうだけど……いや、そう言うことじゃなくてね? 世間一般でのことを訊いたんだけど」
「あ、そっちですか。えっと、クリスマスイブとクリスマスですね」
「そうよ。……まさか、意味の方で答えを返されるとは思わなかったわ。依桜君、天然?」
「晶たちには、前に言われましたけど……」
「……近くにいる人がそう言うんだから、天然なのね」
ボクって天然なの?
別に、天然じゃないと思うんだけど……。
「まあいいわ。それでね、依桜君。冬休みに入る前に、学園でアンケートを取ったことを覚えてる?」
「はい。内容は確か、学園の過ごしやすさや、設備に関してでしたよね?」
「そうね。じゃあ、最後の質問は?」
「最後? えーっと、たしか……欲しいもの、でしたっけ?」
「そうそう。あれね、みんなにはよくわからない質問として映ったかもしれないけど、結構大真面目な内容だったのよ」
「え、そうなんですか?」
なぜか、学園に関することを訊いているから、なんとなくで追加された項目なのかと思ってたけど……。
「依桜君って、サンタクロースは知っているわよね?」
「はい。サンタさんですよね? 毎年、プレゼントを置いてくれてる……」
「そ。今回ね、私はあのアンケートを基に、生徒全員にプレゼントを配りたいと思っているの」
「…………は、はいぃぃぃ!?」
ちょ、ちょっと待って? 今この人、生徒全員って言った?
40×7×3の人数だよ? 八百四十人だよ?
「ほ、本気、なんですか?」
「本気も本気。高校生と言えど、まだ子供。なら、学園の長として、クリスマスプレゼントを上げなくては! って思ってね」
「思ってね、じゃないですよ! 全員分って、八百四十人ですよ!? 大丈夫なんですか!?」
「問題なーしよ。私の財力はすごいわよー。学園経営に会社経営だからね」
……そうだった。
考えてみれば、VRゲームを作っちゃうほどの財力を持っているし、そもそも、異世界転移装置なんてものを創っちゃうレベルだった。
そう考えると、かなりお金を持っていてもおかしくない……むしろ、無い方がおかしい、のかな?
「でも、これってサプライズなんですよね? 生徒のボクに言ったら意味がないんじゃ……?」
「普通ならね。ほら、やっぱりサンタクロースは必要でしょ?」
「え? サンタさんっているんじゃないんですか?」
「え?」
「え?」
顔を見合わせて、お互いに首を傾げる。
「え、もしかして依桜君……サンタクロースがいると思ってる?」
「はい!」
「……あ、うん。オーケーオーケー」
なにがオーケーなんだろう?
え、サンタさんっているよね? だって、毎年枕元にプレゼントを置いて行ってるし……。も、もしかして……
「さ、サンタさんっていないん、ですか……?」
「い、いえいえいえ! い、いるわよ!? 毎年、大忙しで、世界中をビュンビュン飛び回ってるわよ!?」
「そ、そうなんですね。よ、よかったぁ……」
学園長先生の様子から、もしかしてサンタさんはいないの? と思ってしまったけど、よかったいるみたいだね。
「……ど、どうしよう。依桜君が、純度がとんでもなく高いピュアなんだけど……」
「? 学園長先生、何か言いました?」
「な、なんでもないわ! えー、こほん。それで話を戻すとね。サンタさんとは別件で、依桜君にプレゼントを配ってもらいたいのよ」
「え、ぼ、ボクが、ですか?」
「ええ」
「ぜ、全員……?」
「全員」
「ほ、本気で……?」
「本気と書いてマジよ」
なんて、冗談のように言っている言葉は、全く冗談に聞こえず、本気だった。
「……む、むむむむ無理ですよぉっ! 何考えてるんですかぁ!」
「プレゼント企画」
「そう言う意味じゃなくてっ! 八百三十九人も一人じゃ無理ですよ!」
「大丈夫!」
「何がですか!?」
「ミオにどうにかしてほしいって頼んであるから」
「し、師匠に……?」
ど、どういうこと?
そもそも、一人で八百三十九人分のプレゼントを配るなんて、正気の沙汰じゃないよね?
「と、というより、何時からやるんですか……?」
「夜の九時ね」
「せ、制限時間は?」
「うーん……できれば、朝の六時までかしらね」
「九時間……」
そうなると、一人につき、約一分半。
……無理じゃない?
「安心して。別に、一人でやるわけじゃないから」
「一人じゃない……?」
「ええ。あーでも、実質的には一人なのかしらね?」
「えーと、どういう言う意味ですか……?」
「とりあえず、ミオを呼ぶわね」
「師匠が来てるんですか?」
「もちろん。さっき、ミオにどうにかしてほしいって頼んである、って言ったでしょ? ミオ! 入ってきてー!」
と、学園長先生が師匠を呼ぶと、
「時間か?」
窓から師匠が入ってきた。
って、
「し、師匠!? なんで窓から入ってきてるんですか!?」
たしかここって、四階じゃなかったっけ!?
しかも、どこにも上れるような場所ないよね? ベランダがあるけど、ここの部屋にはないよね?
いや、ボクも学園祭の時に、つい我を忘れてやっちゃったけど。
「気にするな。暗殺者としての性だ」
「い、嫌な性ですね」
「んなことはどうでもいい。よし、依桜。ちょっと空き教室に行くぞ」
「空き教室? えーっと、一体何をするんですか……?」
なぜかはわからないけど、空き教室という単語に、そこはかとなく不安を感じる。
というか、師匠が笑顔を浮かべている時点で、あまりいいことが起こる気配じゃないよね?
この場合の師匠は、ボクが困るような何か。
「気にするな。まあ、あれだ。……ちょっと、お前にスキルを習得させようと思ってな」
「す、スキル、ですか?」
「ああ。あとついでに、前教えると言っておいて、全然教えてなかった『アイテムボックス』だな。まあ、こっちも今回必要になりそうだったからていう理由だが」
「ほ、ほんとですか!?」
「ああ」
やった! 念願の『アイテムボックス』を覚えられる!
暗殺者的には、絶対に欲しいものだったんだけどね……。
だって、暗器とか持ちすぎるとかさばるんだもん……。
だから、仕事に合わせて持って行ってたよ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい♪」
「それじゃ、一時間後くらいにここに戻ってきてね」
「わかりました!」
「ああ。……それじゃ、行くぞ、依桜」
「はい!」
ついに『アイテムボックス』を覚えられるとあって、気分はウキウキです。
これで、いついかなる時でも武器を収納しておけるよ。
と、そう楽観的に考えていたボクが馬鹿でした。
そもそも、スキルを習得させる、と言っていた時点で、思い出すべきだったんです。
あの、美天杯での悪夢を……。
「よし」
「……あ、あの、師匠? スキルを習得するだけ、なんですよね……?」
「ああ。そうだが?」
「な、なんで結界を……?」
空き教室に入るなり、なぜか師匠が結界を張っていた。
なぜ結界を張るのかわからない。いや、どちらかと言えばわかりたくない。
「当然、お前の声が漏れないようにするためだな」
「こ、声……?」
「よし、じゃあ始めるぞ。今回、お前に習得してもらうスキルと魔法は、『分身体』と『アイテムボックス』の二つだ。まあ、正直この二つはあってもいいだろうと思ったから、習得させる。そして、習得方法は……『感覚共鳴』だ」
「あ、ありがとうございましたっ!」
『感覚共鳴』での習得と聞いて、ボクは迷わず教室から出ようとした。
しかし、
「あ、あれ!? 鍵が開いてるのに開かない!?」
なぜか教室のドアがびくともしなかった。
結構本気で力を入れているのに、全く動かない。
「甘いぞ、弟子よ。お前の行動なぞ、わかり切っていることだ。さあ、習得を始めようじゃないか……」
にやりと、口を三日月のような形にしながら迫ってくる師匠は、ボクの目には邪悪に映った。
後ずさろうにも、すでに壁際。もうすでに、どこにも逃げ場はなかった。
「二回目だ。きっと慣れてるさ!」
「ま、待って! 待ってください! あ、あれだけは……あれだけは、嫌なんですよぉ! あ、ちょっ、まっ……いやあああああああああああああっっっ!」
この後、腰が砕けて、ボクが動けなくなったのは言うまでもないです……。
あぅ……もういやぁ……。
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