第487話 世界は結構壮大
学食に着いたボクたちは、各々好きなものを注文して、個室へ移動。
「学食に個室があるなんて、すごいね!」
「探せばもしかしたらこの学園以外にもあるかもしれないけど、多分ほとんどないんじゃないかなぁ」
学食を初めて見たエナちゃんは、注文時や入った瞬間からきょろきょろと好奇心たっぷりの表情で見回すエナちゃんは、どこか楽しそうだった。
まあ、学生受けするように、っていう理由でかなりオシャレな内装になっているし、かなりお金をかけたみたいだからね。
「ほう? こんな場所があったのか。イオ、ここはどういう用途で使われるんだ?」
そう訊いてきたのはもちろん師匠。
「あ、はい。ここはですね、主に来賓の人たちと打ち合わせをする時や、運動部が他校と試合をする際に、顧問同士で食事をする時に使う場所ですね」
「ということは、VIPルームみたいな場所と言うことですかぁ?」
「一応そう言うことにはなりますね。だってここ、防音ですから」
ボクたちが今いるここを簡単に説明すると、フィルメリアさんが言った通り、ここはVIPルームと言えます。
個室の外、つまり一般の生徒の人たちが使う広い食堂の方のデザインは、洋風な喫茶店を大きくしたような感じだけど、こっちの個室はモダンな雰囲気の喫茶店と言った内装。
木造と言う、温かみのある物となっています。
初めて入ったけど、結構リラックスできるね。
そして、今しがたボクが言ったように、食堂の個室は防音。
理由は、たまに学園の運営に関することや、あまり表だって話せないような内容のことを話したりするから、だそう。
本当に、どこにお金をかけてるんだろうね、学園長先生って。
「ふむ。主よ。ならば、なぜ主はここを簡単に使用できるのだ?」
「一言で言うなら、ボクが生徒会長だから、かな」
「ぬ? その、生徒会長、とやらは偉いのか?」
「偉い……かどうかはわからないけど、少なくとも一年に一人しかなれない役職で、生徒では一番上の人ではある、かな」
「なるほど。では、具体的な使用方法はどうなってるのだ?」
セルマさんの質問は、他の三人も気になっていたみたいで、こっちをじっと見ている。
あ、うん。師匠も気になるんだね。
「えっとね――」
なので、軽く説明。
VIPルームとは言うけど、それは使用条件があると言うのと、学園でも偉い人(学園長先生や教頭先生のような役職の人)たちや、来賓の人たちしか使えない、という勘違いがそこそこ広まっているだけで、実際は条件を満たせば学園生の誰もが使える個室。
その条件は至ってシンプル。
まず、成績が良いこと。
ここで言う『成績が良い』と言うのは、赤点を取らず、尚且つ全教科で80点を超えていればOKです。
次に、生活態度がいいこと。
これは簡単に言ってしまえば、常日頃から善行を積むこと。
善行、なんてちょっと大げさっぽく言ってるけど、ようはボランティアに参加したり、部活動や委員会に前向きに参加することとかかな。
そして最後。
最後は出席日数。
これは読んで字のごとく、遅刻・欠席・早退の三つが少ないことが理由です。
具体的な基準を言えば、三つすべてを合わせて五日以下です。
あ、もちろん、エナちゃんのようにアイドルをやっているから遅刻や欠席が多い、なんて言う場合はもちろんカウントされません。
それ以外だと、やむを得ない事情で休む場合(手術や、大きな病気になった場合や、大怪我等で、遅刻や欠席、早退をしなければいけない場合)は、エナちゃんのパターン同様カウントはされません。
「――と言うのが、使用方法だね。もちろん、これら三つ全ての条件を達成していないと使えないし、ちゃんと学園側に申請を出さないといけないけど。理由付きで」
「なるほど。じゃあ、依桜ちゃんが簡単に入れたのは、条件を達成していて、そこから申請を出したから?」
「あー、うーん、実は今回はそうじゃなくて……」
「そうなのか?」
「うん。実を言うと、あれは一般の生徒の人たちの条件なの。中には例外の人もいて、ボクもその例外に入ってるんだよ」
「ほう? それで、例外ってのは?」
「そうですね……言ってしまえば、何らかの実績がある生徒、ですね」
「実績、ですかぁ?」
「うん。実績、と一言で言ってはいるけど、結構その内容が様々で――」
ここで言う実績と言うのは、部活動なら大会などで好成績を収めること。
それ以外だと、委員会で委員長の職に就いている生徒や、生徒会に所属している生徒に、個人で何らかの大きなことをした生徒とかかな。
「だから、最後の個人で大きなことをした生徒、と言う部分には、エナちゃんや女委が該当していたりするんだよ」
「じゃあ、うちも申請すれば使えるの?」
「ううん。実はボクたちのような生徒は、申請無しでも使えるの。……ほら、あそこにタッチパネルがあるでしょ?」
「うん。あるね」
「あれに、最近できた学園用アプリの自分のアカウントを入力すると、それで申請したことになって、同時に許可が出るんだよ」
「へ~、あのアプリにそんな使い道が……。あれ? そう言えば、女委ちゃんはどうして該当してるの?」
タッチパネルに納得したところで、エナちゃんは女委がどうして該当しているのかと尋ねて来た。
まあ、気になるよね。
だって女委、別に部活動に入って活躍したわけでも、委員会で委員長に就いているわけでもない、こういう言い方はあれだけど、体育以外の成績がそれなりに良い一般生徒(?)っていう立場だもんね。
「あー、ボクも一応申請を受理する側で、ね。例外になっている人のリストを貰って、そこに書いてあった情報を知ったんだけど……」
生徒会長の職務の一つに、この個室の申請受理があるんだけど、そこに今言ったように特例の生徒がリスト化されたものがあって、名前の欄の横に、その理由が書かれていたりします。
よくある理由だと、アルバイトでかなりお店に貢献しているとか、人助けをよくしているとか、そんな理由がほとんどなんだけど……女委だけは、異色でした。
というより、異質?
「えっと、女委ちゃん、何したの……?」
「……特例理由ってね、その人がしたこと全部書かれるんだけど」
「うん」
「……女委はまず、メイド喫茶を経営していて、その一部の売上を市に寄付していたり」
「うん……うん?」
「次に、同人誌での売上を表現の自由を守るために使用していたり」
「……え?」
「それ以外だと、どこかのテロリストやハッカー集団の情報をハッキングして盗んだ挙句、それを匿名で警察やその他の諜報機関などに渡していたりと……色々としてるんだよ、女委って」
「……ねぇ、依桜ちゃん。女委ちゃんって、一応こっちの世界の、普通の女子高生なんだよね? 本当は、向こうの世界の人で、能力やスキルや魔法を使って、色々やってるわけじゃないんだよね?」
頭が痛そうに、突然降ってわいた友達の謎すぎる情報に、エナちゃんは目頭を押さえながら女委がこっちの人なのかどうかを尋ねて来た。
「……正直、ボクも最近疑わしくなってきたよ。師匠、女委って本当に、こっちの世界の人なんですか?」
最近、女委のあれこれが出てくる度に、実は向こうの世界の住人なんじゃ? とおモテてきてしまう。
「ん、あぁ、間違いないぞ。心配なら、そこに二人に訊けばいいだろ。そいつら、どっちの世界の人間か判断できるからな」
「二人とも、どうなの?」
「そうですねぇ。女委さんと言うのは、依桜様のご友人の、あのオレンジ色の髪をした方でしたよねぇ?」
「うん」
「それでしたら、こっちの世界の人で問題ありませんよぉ」
「うむ。そこに関しては、我も同意なのだ」
「ほ、本当に?」
あれだけ色々とやらかしていたり、とんでもないことをしているのに、こっちの世界の人なの?
「はいぃ。女委さんに関しては、単純に元々異常なほどに多才だったことや、本人の能力によるところが大きいかとぉ」
「うむ。我も女委は人間にしては尊敬できる部類なのだ。あの同人誌を書いた腕は素晴らしい」
セルマさん、どこを褒めてるの?
「ま、そういうわけだ。あいつはなんて言うか……あたしから見ても、割とすごいとは思うぞ。こっちの世界じゃ、エイコの次くらいにはな」
学園長先生の次くらいにすごいって……師匠がそう言うってことは、よっぽどなんだね。女委って。
「……って、お前ら何か話すことがあってここに来たんじゃねぇのか? これじゃ、ただ飯を食いながら女委の話題で盛り上がる女子会みたいだぞ?」
「し、師匠の口から女子会って……くふっ……」
「お前はどこで笑ってんだ」
「あたっ! あぅぅ、痛いですよししょぉ……」
殴られました……。
頭頂部が痛いです。
「お前が悪い。……んで? たしかお前らは、異界について話してたんだよな?」
「あ、そうでした。……って、師匠、やっぱり異界のことを知ってたんですか?」
「そりゃ、あたしだからな。あたしが記憶している限りじゃ、『天界』、『魔界』、『妖精界』、『精霊界』、『妖魔界』の計五つだったよな?」
「さすがミオ様ですねぇ。その通りですよぉ」
「……さ、さすが、あのド変態女神のパートナーなのだ……」
ド変態女神って……誰のことを言ってるんだろう?
順当に考えれば、ミリエリアさんだとは思うけど……。
「え、えーっと……じゃあ、そろそろ説明をお願いしてもいいかな、二人とも」
「はーいぃ」
「うむ」
「……あ、淫乱ピンクさんは、ちょっとだけでいいですよぉ」
「ふんっ、それはこっちのセリフなのだ、腹黒天使」
「「……ムカッ!」」
「二人とも喧嘩はダメってさっきも言ったでしょ! とりあえず、フィルメリアさんは『神界』と次元の説明を。セルマさんは、異界についての説明をお願いします! いいですか?」
「「はい……」」
またしても喧嘩しそうになったけど、ボクも慣れたものです。
瞬時に役割を割り振って、喧嘩を阻止。
「……イオの奴、すっかり手懐けちまったなぁ。やべー奴二人を。……ってか、こいつらってクソ神共を除けば、一番偉いっちゃ偉いんだがなぁ……」
「あ、そうなんですか?」
「まあ、天使の長と、悪魔の王だからな。本来なら、人間に従うことがおかしいわけだ。そんな超常的な存在が、女子高生に手懐けられてんだぞ? 不思議ってもんだろ」
「おー、たしかに!」
「だろ? ってか、天使のあいつはともかく、まさか悪魔の王までイオにあそこまで懐くとは思ってなかったんで、本当に驚いてるんだがな、これでも」
「ミオさんって、結構表に出ませんけど、驚いてるんですか?」
「暗殺者だから、表に出ないだけで、これでも驚いてるよ。……っと、ほら、そこの阿保二人、さっさと説明しろ。飯食いながらでもいいだろ?」
色々と脱線していた話を、師匠が修正。
こういう時、師匠はズバッと言ってくれるから助かります。
「そうでしたねぇ。それじゃあ、まずは私からぁ。……こほん。先ほどお話したように、『神界』は通常、法の世界、魔の世界、それ以外の異界とはまた違う次元に存在するのですぅ」
軽く咳払いをした後に、椅子に軽く座り直したフィルメリアさんが語り出した。
「えーっと、あの、その肝心の次元、と言う部分がよくわからないんだけど……」
「あー、そうでしたねぇ。んー、何と説明しましょうかぁ…………あ、そうですぅ。わかりやすく言いますとですねぇ。異世界――つまり、こちらの世界に該当するのは、ミオ様の出身世界である、魔の世界であるとはおわかりですねぇ?」
「うん」
むしろ、あそこ以外の異世界をボクは知りません。
四月に行った世界は異世界と言うより、平行世界だったし。
「異世界とこちらの世界は基本的に二対で一つなんですよぉ」
「え、えーっと?」
「つまりですね、どちらか一方が滅ぶと、なし崩し的にもう一方も滅んでしまうんですねぇ」
「え、なにそれ怖いんだけど!?」
片方が滅んだらこっちも滅ぶって……かなり怖いよ?
それってもしかして、向こうの世界でボクが魔王を倒してなかった場合って……最悪こっちの世界も滅んでた、ってこと?
が、学園長先生がファインプレーをしたの?
「う、うち、もしかしてものすごいお話を聞かされてるのかな?」
突然スケールが大きくなった話に、エナちゃんがちょっと困惑していた。
うん。ボクも困惑してるよ、エナちゃん。
「まあ、その辺りは今は重要ではないので置いておきますがぁ」
あ、置いておくんだ。
「向こうとこちらは、密接な繋がりがあるんですねぇ。この密接な関係と言うのは……言ってしまえば、それぞれが存在する宇宙が、隣り合わせになっているか、と言う部分にかかってきますぅ」
「隣り合わせ……と言うことは、ボクたちがいるこの地球がある、太陽系以外の宇宙に魔の世界があるってこと?」
「広い解釈をすればそうなりますねぇ。より正確なことを言いますと、ドラゴン〇ールの世界観が近いですねぇ。あ、超の方ですぅ」
「なんでドラゴ〇ボール?」
「そこは起きになさらずぅ。……とはいえですね、本当にあれが一番わかりやすいんですよぉ。あの世界って、第一~第十二宇宙までありますよねぇ?」
「そう、みたいだね」
あんまり詳しくはないけど、一応見たことはある。
たしか、第一と第十二と言う風に対になっていて、そこから先は、そこから一つずつ増やす、もしくはマイナスした数同士が対になっているとか。
……もしかして、
「あれと同じっていうこと?」
「その通りですよぉ」
「なるほどー! それならうちもわかるよ!」
エナちゃん、もしかしてドラ〇ンボール見てるのかな?
ちょっと意外かも。
「この世界はそれが余計に密接になった感じですねぇ。なので、片方の世界が滅ぶと、結果としてそっちも滅んでしまうわけですねぇ」
「うん、大体理解したよ。……でも、それがどうやって『次元』と言う話に繋がるの?」
「では、本題に入りましょうかぁ。……まず、最初に言いますが、依桜様方が暮らすこの世界や、ミオ様が暮らしていた世界とは、構造が根本的に異なりますぅ」
「構造……」
「ですか?」
「はいぃ」
どうしよう、結構難しい話に……。
おかげで、エナちゃんもボクも揃って首を傾げる。
「こちらの世界や、向こうの世界では基本的に『生きる』という概念と『死ぬ』という概念がありますが、『神界』にはその概念が基本的にありません」
「ま、神が死ぬなんてことは、そうそうないからな。極稀に死ぬ神もいるが……あんなもんは例外中の例外だ」
フィルメリアさんの説明に、師匠がさりげなく補足をしてくれる。
なるほど、神様って基本的に死なないんだ。
でも、なんだか納得。
「さらに言いますと、クソ神様方は生きていると言うより、そこに在るという状態に近いですねぇ。そこに存在するだけで、生物に様々な影響を与えますからぁ。もちろん、悪い影響はほとんどありませんがぁ」
「なぁ、お前、実は説明が苦手だろ?」
「はぐぅっ!」
唐突に師匠がフィルメリアさんに、説明が下手だと容赦なく言葉の刃で突き刺した。
ひ、酷い……。
「……とりあえず、核心的な部分だけ、あたしが言おう」
あ、師匠の講義になった。
フィルメリアさん、ちょっと泣いてる……。
あとで、何か差し入れてあげよう。
「うぅ~、せっかくの活躍の場でしたのにぃ……」
わぁ……本当に落ち込んじゃってるよ。
こっちの世界では、あんまり活躍することってないもんね、天使とか悪魔って。
だからこそ、こういう場で活躍したかったのかな?
「ははは! さすがはてんs――」
「セルマさん。ここでフィルメリアさんをからかったら、怒るからね?」
「……う、うむ」
「さすがイオだな」
「もう慣れましたから」
絶対に喧嘩になると思ったもん、今の流れ。
「依桜ちゃんって、何気に指導するの得意だよね」
「気のせいです」
そもそも、ボク先生じゃないもん。
……将来的には、ちょっとだけありかなー、なんて思ってるけど。
…………あれ? もしかしてボク、高校の先生になれば、メルたちに授業を教えてあげられるんじゃ……?
前向きに検討しよう。
「イオ、愛する妹たちのことを考えてないで、話を聞け」
「はっ! す、すみません……って、なんでわかったんですか!?」
「いや、お前のだらしない顔を見りゃわかる。なぁ、お前たち」
「うん、デレデレだったよ!」
「にやけていましたねぇ」
「だらしなかったのだ」
「…………」
みんなの言葉が、容赦ないんですけど、誰か助けてください……。
ボク、顔に出やすくなっちゃったのかなぁ……?
「こいつの神がかり的シスコンは置いておくとして。……まぁ、『神界』がどこにあるかといや……そもそも、宇宙に存在しない、っていうのが正しいな」
「宇宙、ですか?」
「あぁ。何せ、法の世界と魔の世界は、両方とも宇宙にしっかり存在するが、『神界』は存在しない。そうだな……これを見てくれ」
そう言うと、師匠は個室の中央あたりに、バスケットボールほどの光る球体を出現させた。
聖属性魔法……と言うよりこれは、魔力の球、かな?
これ、地味に作るの大変なはずなんだけど……さすが師匠。
「この球体が一つの宇宙だと思ってくれ。で、この球体と、それ以外の空間の境目を次元の壁と表現する。で、その壁の向こう側に存在する世界が、『神界』だ」
「なるほど……。つまり、宇宙と言うより、理の外にある、という感じですか?」
「ま、それで大丈夫だ」
「……ミオさんしつもーん!」
「エナ」
「えっと、とりあえず、その説明で『神界』と言う場所はわかったんですけど……じゃあ、フィルメリアさんたちがさっき言っていた『異界』って、結局どこにあるんですか?」
またしても、エナちゃんが鋭い(?)質問を。
やっぱり、頭がいい……というよりこれは、好奇心旺盛すぎて、なんでも気になるだけ、なのかな?
だとしても、すごいことだと思うけど。
「そうだな。よし、じゃあここからはこの球体を使って、説明しろ、天使長」
「あ、は、はいぃ。全身全霊で説明させていただきますぅ」
自分からそれを取りつつも、ちゃんと繋げやすいようにフォローをする辺り、師匠ってやっぱりずるいと思う。
「で、では、説明しますねぇ。……とはいえ、ここまで嚙み砕いて説明されると、本当に軽くしか説明することはないんですがぁ……。結論から言いますと、『異界』が存在しているのは、先ほどミオ様が言っていた、この次元の壁の中ですねぇ」
「それって、RPGのバグでよくある、あれですか?」
「いえ、勇者は壁の中に埋まってる、と言うあれではなくてですねぇ」
知ってるんだ。
「そうですねぇ…………次元の壁と言うより、次元の狭間と表現した方がいいでしょうかぁ? あれって、理と理外の間に存在する、言ってしまえば両方の性質を兼ね備えた世界なんですよぉ」
両方……。
どうしよう、いまいちピンとこない。
「えーっと、依桜様とエナさんはピンと来てませんよねぇ?」
「「うん」」
「そうですねぇ……少し前に話した、『生と死の概念』があるかどうか、というお話で言えば、『異界』とは、その概念がありつつ、そしてありません」
「えーっと……?」
「要するにですねぇ。殺される、という方法以外では、基本的に死ぬことがありません」
「不老不死っていうことですか?」
「そうなりますねぇ」
「ほ、本当にいるんだ、不老不死」
どの時代でも、不老不死は人の夢、みたいに言われてるけど、本当に実在しているとなると……それがバレた時、戦争になりそう。
だって、人ってバカだもん。
「弟子、そう言っているが、お前の目の前に、いるだろ。その件の不老不死が二人」
「……あ。そっか、その理屈で行けば、フィルメリアさんとセルマさんの二人も不老不死っていうことだもんね」
「そうですねぇ」
「うむ。まあ、正直暇なのだ」
だろうね。
だってこの二人、こっちの世界に来た途端、片や食という娯楽を全力で楽しみ、片やゲームやマンガなどと言った、娯楽物を全力で楽しむようになっちゃった存在だもんね。
そうなるということは、それだけ暇だったというわけで……。
きつそう。
「と、今お話しできる『神界』のお話はこれくらいでしょうかぁ? これ以外にも色々と情報はありますが、それらすべてを話そうと思ったら、ハードカバーのライトノベル一冊分くらいになってしまいますからねぇ」
「そんなにあるの!?」
「はいぃ。それくらい、複雑なんですよぉ」
「うち、もうお腹いっぱいかな」
うん、正直ボクもお腹いっぱいだよ、エナちゃん。
だって、ちょっと学園祭の準備を見て回っていただけなのに、なんでこんなにスケールの大きい話をしているんだろう? って疑問に思ってるから。
「では、次は我の番なのだ!」
「あ、うん。お願いします」
「任せるのだ!」
えっへんと胸を張り、同時にドンと胸を叩くセルマさんは……なんだかちょっと可愛かったというか、微笑ましく見えた。
外見だけ見れば、高校生くらいに見えるもんね。
「では、そうだな……『異界』とは何かから話すのだ。まず、『異界』とは、そこの奴が言ったように、こちらの世界に干渉することができる者たちが棲む世界のことを指すのだ」
「ちなみに、その干渉する、っていうのはどういうことを指すんですか?」
「うむ。いい質問なのだ。ここで言う干渉とは、人間のみに対することではなく、その他の生命体や自然に影響を及ぼすことも指すのだ。天使で言えば、人の精神や肉体的な救済。我々悪魔で言えば、欲望を刺激し、それを対価に願いを叶えることなのだ。……で、ここからが話題に出た『妖精界』、『精霊界』、『妖魔界』のことなのだ。まず、妖精がすることは、ほぼいたずらなのだ」
「い、いたずら?」
「うむ、いたずらなのだ。とは言っても、そこまで酷いものではなく、食料が少し減ったり、誰もいない部屋からなぜか声が聞こえてきたり、風呂でシャワーを浴びている時、気配を感じさせたりするだけなのだ」
「それただのホラーだよね!? え、妖精ってそういうことをするの!?」
「……ごめんね、うちも、それはちょっと……」
ボクの中の妖精さん像が音を立てて崩れたどころか、核爆弾を打ち込まれたくらいに粉微塵なんだけど。
「まあ、これはあくまで妖精たちの娯楽的面が強いだけなのだ。本質は、感情を引き出すことなのだ」
「感情を引き出す? それってどういう意味?」
「うむ。精霊は人に対するいたずらをすることで、人間の感情を引き出すことをするのだ。先ほどのいたずらの例で言えば、『驚き』や『恐怖』、『憤り』などなのだ。その他で言えば、宿題をこっそりやって終わらせた際には、『喜び』の感情が。他にも色々あるが、これが妖精の存在の本質なのだ」
「へぇ~。じゃあ、いいこともするっていうことですか?」
「うむ。いたずら好きではあるが、基本的に度を超えたことはしないのだ。するにしても、銀行口座のパスワードを勝手に変えるくらいなのだ」
「それはいたずらを通り越して、いじめや犯罪みたいなものだからね!?」
お金が卸せなくなったら、それこそ大問題だよ!
「……奴らはまあ、なかなかにヤバいのだ」
「あぁ、わかりますねぇ。私たちも、たまーにいたずらされたことがありましたしぃ……」
ふ、二人が共感するレベルって……もしかして、妖精さんって、本当にどうしようもない存在なの……?
「気を取り直して次なのだ。次は精霊に関することだな。こっちは人間と言うより、動物や自然に対しての影響が強いのだ。例えば、動物が棲みやすい環境を作ったり、などだな。自然に対してであれば、植物の成長を早めたり、森を拡大させたり、腐葉土の生成をしたり、あとは火山の噴火を食い止めたりなどだな。ちなみに、あいつらはやろうと思えば津波を起こして人類どころか、世界滅亡をさせたり、噴火で大地を焦土に変えたり、後は干ばつなんてことも引き起こせるほど、強力な存在なのだ」
「「……そ、そうなんだ」」
見たことはないけど、精霊、すごい……。
でも、なんだろう。
妖精の話を聞いた後だと、つい裏を勘ぐってしまう……。
何か、別の目的とかあったりしないよね?
「では最後に、妖魔だな。妖魔は…………まあ、何と言うか、そうだな。争いに関することを司っていると言ってもいいのだ」
「争い? それって、戦争みたいな?」
「まあ、そうなのだ。とは言え、そこまで物騒な物ではないのだ。妖魔、と悪い印象を持ちそうな字面ではあるが、実際は『話し合い』や『団結させるための必要悪』というものが本質なのだ」
「……それってつまり、人間が団結できるように、悪役を演じる存在、ってこと?」
「うむ。まあ、あいつらは気のいい奴らなので、気にしなくても問題ないのだ」
「へぇ~。いろんな生き物がいるんですね」
「まあな。……と、『異界』についてはこんなところなのだ。何か質問はあるか?」
「あ、じゃあボクから一つ」
「何でも訊くのだ」
「ありがとう。……じゃあ訊くんだけど、結局のところ『異界』ってどうして存在しているの?」
天使や悪魔は、聖書や、その他の過去の書物とかに登場しては人間に関わっていた、みたいなことになっているし、妖精や精霊なんかは、イメージ的に身近にいるような印象。
妖魔は……よくわからないけど、本質的には必要なんだろうなぁ、って漠然と思う。
じゃあ、『異界』が存在している意味って?
「それに関しては、今は気にしなくてもいい問題だ」
と、不意に師匠が横からそう言い放った。
まるで、何かを隠そうとしているような言い方だけど……。
「師匠?」
「今の段階では、まず関わらない出来事。とかイオは思ってるんだろうが……」
「あ、はい。思ってます」
「……お前、少しは学習しろ」
あれ、なんか目に見えて呆れられたんだけど……。
「どうせ、近々巻き込まれることになるぞ? それに、こういうパターンの時はな、お前がある程度情報を知っていることがトリガーになりやすい。実際、過去のお前の巻き込まれた出来事の一部は、知識の有無にあった気がする」
「そ、そうですかね?」
「例えば、天使や悪魔に関することだな。あれはまあ……悪魔側のことは事前知識も何もなかったが、それを知っていたが故に、旅行の際には事件に巻き込まれて、結果がこれだ」
手に持ったフォークで、目の前のソファーに座る、フィルメリアさんとセルマさんを指した。
……た、たしかに。
「それ以外じゃ、並行世界に関することも一応入らないわけじゃない。あれは、ある程度『空間歪曲』が発生していることを知っていたからだろうし、他にも去年の学園祭はテロリストの存在を知っていたが故のこともあった」
「うっ……」
「……まぁ、今回お前が『異界』や『神界』ことを少しでも知っちまった以上、巻き込まれる可能性は上がったな」
「や、やめてくださいよ! 不安になるじゃないですか!」
「……それなら、これ以上は聞かないことだな。あたしはな、お前が大事だからこそ、こうして止めているわけだからな」
「ミオさんも依桜ちゃんのことを言えないくらいに、過保護ですよね」
「まあ、愛すべき弟子だからな」
「依桜ちゃん、特級フラグ建築士ですからね!」
「ちょっと待って!? ボク、その不名誉な称号を受け入れた覚えはないからね!?」
いつの間にか、未果たちだけじゃなくて、他のクラスメートの人たちにも広まってたんだからそれ!
「そんなわけだからして、お前はこれ以上知らない方がいい。少しでも、巻き込まれる可能性を減らすんだ」
「師匠。あの、なんでそこまでして……?」
ここまでしてボクを事件に巻き込ませまいと言う、謎の鋼の精神は感じるんだけど、その理由がわからない。
……あ、でも。
師匠ってなんだかんだで優しいもんね!
結構気遣いができるもんね!
だからきっと、ボクのことを――
「そんなもん…………目を離した隙に消えるお前を捜索するのが面倒で仕方がないからに決まってるだろ」
……デスヨネー。
えぇ、えぇ、知ってましたよ……師匠が心底からのめんどくさがりってことを……。
ぐすん……。
「……っと、そういやイオ。お前、そろそろ時間はいいのか?」
「え?」
「結構長いこと話してただろ? たしか、もう六時間目が終了する時間……あー、いや。もう過ぎてるなこれ。なんだったら、もう放課後の時間に突入してる」
「それを早く言ってくださいよぉ!? ちょ、ちょっとボク、生徒会の方に戻ります! あの、あとはみなさんでくつろいでてください! それじゃぁ!」
師匠のもたらした情報により、ボクは大慌てで個室を出て生徒会室へと走って行きました。
「あいつ、マジで忙しい立場になっちまったなぁ」
「あはは。依桜ちゃんですからね。きっと、この先ももっといろんなことに巻き込まれて、いつか世界征服レベルのことをしちゃいそうですよね!」
「「「本当にありそうだから笑えない(ですねぇ)(のだ)……」」」
いつもの天真爛漫な笑みを浮かべながら言い放ったエナのセリフに、他の超常現象×3は苦い顔を浮かべながらそろってため息を零すのだった。
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