第477話 お説教モードな依桜ちゃん(割とガチ)

 ボクと西宮君で言い争いらしき声が聞こえる一つ上の階へ。


『―――よ!』

「――が!」


 騒がしくなっている方へ歩いていると、前方にちょっとした人だかりができていた。

 そこから、声が聞こえて来るみたいだけど……。


「会長の言う通り、たしかに騒がしいですね。これは、言い争いのようですが……」

「みたいですね。いったい誰が……っ! すみません、ちょっと急ぎましょう」

「どうかしたんですか?」

「ちょっと、ボクの妹が巻き込まれてるみたいなので」

「それはいけませんね。急ぎましょう」


 近づくにつれ、声の主がハッキリして来た。


 それを聞く限りだと、ミリアの声だった。


 大切な妹たちの声をボクが間違えるわけがないし、間違えるなんてことがあったら死んでもいいと誓えるほどです。


「そっちがぶつかったんじゃん!」

『はぁ? そっちがノロノロやってるからだろ! のろま!』

「わた、しは、ぶつかって、ない……! そっち、が、ぶつかって、きた……!」

「……いいがかり」


 そして、その先にはリル、ミリア、スイの三人が男の子数人と言い争っているのが見えて来た。

 見たところ、ぶつかってきたのがどっちか、みたいな話みたいだけど……。

 ちょっと険悪な状態……って!


『う、うるさいっ! おれはわるくないっ!』


 ミリアたちに言い返されて、逆ギレしたのか、男の子一人がリルを叩こうと手を振り上げた。


「はい、ストップです」


 まあ、それを黙ってみているボクじゃない。


 ボクの命より大切な妹たちに手を挙げようとするのを見て、自重するほどボクは人ができていない。


 だから、少しだけ距離があったけど、人だかりをひとっ飛びで超えると、叩こうとしていた男の子の手を掴んだ。


『だ、誰だよ!』

「君、この娘たちに何をしようとしていたのかな?」

『そ、そんなのお前にはかんけーない!』

「ふ~ん、関係ない、ね? とりあえず、話を訊くのは一旦後にして……リル、ミリア、スイ、大丈夫?」

「イオ、おねえちゃん……!」

「イオねぇ!」

「……イオおねーちゃん」

「うん、ボクだよ。怪我は……うん、大丈夫そうだね」


 男の子の手を掴みつつ、ボクは三人に怪我がないかどうかを確かめる。


 見たところ怪我はなさそうだし、三人の表情もいつもの可愛らしい天使な笑顔なので、大丈夫そうだね!


 間に合って何より。


『は、はなせよー!』

「暴れない、って約束したら離してあげるけど?」

『うるせー! なんでおれがこんなことされなきゃいけねーんだよ!』

「それはもちろん、暴力を振るおうとしていたからね」

『そんなの、そっちがわるいんだよ!』

「そう言われても、こういうのは先に手を出した方が負けなの。とりあえず、何があったのかを聞きたいんだけど。えーっと……なんで言い争いになっていたのか説明できる子いるかな? できる限り、この子たち以外がいいんだけど」


 ここはあえて当事者じゃない子に聞いた方がいいんだよね。


 こういう喧嘩が発生した時、一番重要なのはどちらか一方に肩入れをしない事。


 いくら命より大切な、天使よりも可愛い妹たちが叩かれそうになっていたとはいえ、さすがに肩入れはよくないからね。


 もちろん、ボクの可愛い妹たちが先に悪さをした、なんてないと思うけどね。


 そうならないよう、常に教えてあるもん。


『僕、知ってます』


 と、ボクの問いかけに対して、リルたちの周囲を囲っていた子供たちの内の一人の男の子が名乗り出て来た。


「ありがとう。じゃあ、説明してくれるかな?」


 なるべく優しく、笑顔でそうお願いすると、男の子はやや頬を赤くさせながら説明してくれた。


 その内容を要約するとこう。


 三年五組の出し物の準備で、リル、ミリア、スイは仲良しな姉妹として、三人で行動していて、三人は廊下で作業をしていたそう。


 その時、三人は他のクラスメートの子と仲良く準備をしていたみたいです。


 途中までは、和気藹々とした雰囲気だったんだけど、隣のクラス――六組に所属する、当事者の男の子たちが、どうやら悪ふざけをしていたみたいで、その時職員室へ担任の先生の所へ行かなきゃいけない出来事があって、それでリルが代表して職員室に行こうと、立ち上がった時に、後ろで悪ふざけをしていた男の子がぶつかってきて、それで言い争いになったそう。


 ちなみに、悪ふざけと言うのは、所謂チャンバラごっこ。


 なんとも子供らしい悪ふざけです。


「――うん、ありがとう。となると、悪いのは君たちの方みたいだね」


 一応、作り話じゃないかを確かめるために、他の子にも尋ねると、同じような説明が返って来た。

 まあ、ボクは嘘を見抜くことができるけどね。


『ち、ちげーし! そっちがぶつかってきたんだよ!』

『『そーだそーだ!』』


 話を聞き終えたボクは、男の子に向き直ると、悪いのはそっちと指摘。

 だけど、男の子たちの方はと言えば、自分たちじゃなくて、リルたちが悪いと言い続けている。

 まあ、素直に認めていたら、こんな風に言い争いにはならないよねぇ……。


『そ、それに、おれたちのことなのに、なんでおとながでてくんだよ! かんけーないだろ!』


 なんというか、本当に子供らしい怒り方だね。

 ある意味、微笑ましいような……。


「そういうわけにはいかないの。ボクは生徒会長だからね。自分の身近なところで喧嘩があれば、止めるのは当たり前なの。……まあ、そうじゃなくても、喧嘩は止めるけどね」

 子供の喧嘩だから、なんて理由で止めないのはどうかと思うし。

「それに、君はさっき叩こうとした。この時点で、君たちの方が悪いの」

『た、叩いてねーし!』

「ボクが止めたからね。叩いていても、叩いていなくても、叩こうと行動を起こした時点でダメなことなの。今はまだ『子供だから』、で許されるかもしれないけど、これが大人になったら、犯罪になっちゃうんだよ? 傷害罪、って言ってね、相手に暴力を振るったら警察に捕まっちゃうの」

『べ、別に怖くねーし!』

「それは、今はまだ知らないからね。……仮に、君が悪いことをして警察に捕まっちゃったとするでしょ? そうするとね、君は一生『犯罪者』っていう言葉を背負っていくことになっちゃうの。わかるかな?」

『だいじょうぶだし! おれにはしゃちょーのお父さんがいるし!』


 ……あー、なるほど。


 この子、どうやらどこかの企業の御曹司みたい。


 ……となると、今回みたいなことは他にあったかもしれないね。


 そういうことなら、尚更お説教しないと。


「そうだね。権力があるお父さんがいれば、たしかになかったことにできるかもしれない。でもね、仮にそれをなかったことにしたとしても、被害者になってしまった人は、一生君のことを許さないんだよ?」

『そんなやつのことしらねーよ!』

「…………ふ~ん。そう言っちゃうんだ。君、今かなり酷い事を言ったんだけど、自覚あるかな?」


 男の子の発言を聞いて、優しく説教をするということをやめた。


 ……ここからは、ちょっとだけ本気で行こう。


『ぜ、全然ひどくねーし! ってか、ゆるされなくてもべつにいーし』

「……いいかな? 被害者となってしまった人の恨みって言うのは、恐ろしいんだよ? 何が恐ろしいかと言うと……何をするかわからないからなんだよ」

『はぁ? いみわかんねーし』

「そうだね。今の君じゃ、絶対にわからないね。だから、簡単にどういうことをしてくるかを教えてあげるね。まず……君が殺されちゃいます」

『は……?』

「ボクは思うの。人はどういう感情になった時、人を殺してしまうのか。それはね、恨みの感情が強い時なの」


 異世界で様々な経験をしたボクは、何度も人殺しの光景を見たことがあった。


 それは、とある国の首都で。

 それは、ある貴族が治める街で。

 それは、小さな村で。


 例を挙げればきりがないくらいに、人殺しの光景を見たことがあった。


 戦争に関係することもあったし、隣人関係や友人関係などのトラブルによるものもあった。


 その大半が、恨みを持った人の行動だった。


 例えば、自分の大切な人を殺された恨みから。

 例えば、大事なペットを殺された恨みから。

 例えば、恋人を奪われた恨みから。

 例えば、不当な理由で処刑されてしまったことに対する恨みから。


 他にも様々な要因があるけど、そのどれもに共通する感情は『恨み』だった。


『わけわかんねーよ!』

「そうだね。これだけじゃわからないね。だからわかりやすく言うね。あ、一応周囲にいるみんなも考えてみてね」


 これは少し、子供にはまだ早い話なのかもしれないけど、こういうのは知ることができる時に知っておいた方がいい。


 子供は可能性が数多くあるんだからね。


 その中には当然、悪い道というものも存在している。


 だからこそ、その道を潰すために、こういうことは教えないといけない。


「人にはいろんな気持ちがあるの。それは、楽しいという気持ちだったり、悲しいという気持ちだったり、怒るという気持ちだったり。本当に色々ね。その中で最も強いと思われるのは『恨み』だとボクは思うの。それはね、その気持ちが真っ黒だからなの」

『黒いの?』

「そう、黒いの。みんなにわかりやすく言うと、絵の具かな。みんなは、絵の具で色を混ぜるとき、黒を混ぜたことはないかな?」

『ほとんど黒かった!』

『あかをまぜたのに、あかいろがほとんどなかった』

「うん、そうだね。黒色っていうのは、ある意味一番強い色なの。どんなに鮮やかな色だって、黒色を混ぜてしまえば、限りなく黒くなっちゃうから。これは恨みという気持ちにも言えることで、他の楽しい、とか、悲しい、とか、嬉しい、なんて気持ちを黒く染めてしまうの。そしてこれを、被害者になってしまった人に当てはめるとね……その人は、人殺しになってしまうかもしれないんだよ」


 最初の方は少しだけ柔らかい声音で話したけど、最後の部分だけは柔らかさなんてかけらもないほどの真剣な声音で言った。


 そうすると、少しだけざわついていた周囲が一気にしん――となる。


 男の子たちの方も、少しだけ怖がっているみたい。


「加害者側の人からすると『これくらいで』とか『ぜんぜんへいきだろ』とか思うかもしれないけど、被害者側の人はねそれどころじゃないの。『殺したい』とか『絶対に許さない』って強く強く憎んじゃうの。ここまではわかるかな?」

『お、おどろかせようたって、そうはいかないぞ!』

「……ねえ、君はちゃんとお話を訊いてるの?」

『お、大人の言うことはむずかしくてわからねーし! ってか、さっきのとはなしがちがうじゃん!』

「ううん、同じだよ。今話していることと同じ。……ただそれが、子供のスケールになっただけで」


 今の状況を大人に当てはめるとどうなるか。


 それは至ってシンプルで、男の子たち――というより、手を上げようとした男の子が犯罪者になってしまうこと。


 それをスケールダウンさせたのが今の状況だからね。


「まあでも、ほんの少しだけ脱線しちゃったかもしれないね。だから、お話を戻そっか」


 一度今までの話題を切って、仕切り直す。


「君はさっき、自分のお父さんが会社の社長だから大丈夫、って言ったよね?」

『そ、それがなんだよ』

「まあたしかに、子供なら身近な大人であるお父さんやお母さんにいろんなことをお願いしちゃうかもしれない。でもね、それは本当はあまりしてはいけないことなの。特に、悪いことをなかったことにするのはね」

『べ、べつにいーだろ!』

「ううん、よくない。一番ダメなのは、それを自分の力だと思ってしまうこと。本当は、お父さんの力なのに、頼りすぎてしまって、お父さんの力をさも自分の力のように考えてしまうんだよ。これはね、絶対によくないの。なんでだと思う?」

『し、しらねーし』

「……はぁ。せめて、少しは考えてほしいけど……まあいいです。答えを言うとね、『信用がなくなるから』なの。人はね、誰しも一人で何でもできるわけじゃなくて、必ず誰かと協力して生きているの。それがたとえ、君のお父さんのように会社の社長だったとしても、だよ」

『で、でも、しゃちょーはえらいんだぞ! なんでもできるんだぞ!』

「今ボクは、誰しも一人で何でもできるわけじゃないと言ったんだけど、お話聞いてないよね? 人のお話を聞かないのは、直した方がいいよ。さっき言ったように信用を失うから」


 そう言うと、男の子はムカついたような表情を浮かべながらボクを睨んできた。


 多分、甘やかされて生きて来たんだろうね。


 変にねじ曲がった考え方をしているのが本当に気になるし、何より少しだけイライラしてしまう。


 もちろん、ボクは子供ではないので、それを表には出さないけど、実際は結構怒ってるんだよね。


 まあ、今はお説教が先だけど。


「……たしかに、社長は偉いのかもしれないね。だけど、社長がいるから会社はできているわけじゃなくて、社員がいるから会社は成り立ってるんだよ。そもそも、いろんなお仕事をする人が集まって、それで会社になるわけだからね。もちろん、最初は本当に二人とか三人かもしれない。でも、いつかは人が増えて、数十、数百、数千、なんて人数になるの。それらをまとめているのが社長と言う人なんだけど……さて、ここで問題です。その社長さんの子供――つまり、君のような子が、会社内でよくないことをしました。ここで言う、よくないこと、と言うのは、ついさっきこの娘たちを叩こうとしたり、または別の方法でいじめてしまったりしたことね? そんなことをしていたのが、会社内の人たちにバレました。君はどうする?」

『そんなの、お父さんに言って、なかったことにしてもらうし!』

「それは悪い例だね。もしもその方法を取ると……会社は潰れてしまいます」

『はぁ? そんなわけねーよ!』

「ううん、そうなるの。理由はね、問題を起こしたのが、君と言う、社長さんの子供だから、だよ」

『なんでおれがお父さんの子どもなだけでかいしゃがなくなるんだよ』

「だって、そんな人が社長の子供だとわかれば、ほとんどの人は親である社長さんのことをそういう風に考えるからだよ。つまり、君がさっき言ったように『お父さんに頼めば大丈夫』と言う考えは、結果として、お父さんに迷惑をかけることになるんだよ」


 権力を持った親がいると、この子のような子供はどうしたって出てくる。


 もちろん、そうじゃない子もいるけど、割とこういう子の方が多い気がする。


 理由は多分、優越感に浸れるから、じゃないかな。


 まあ、そういうのは普通の学校とか幼稚園じゃなくて、そういう人が多く集まる場所に通わせるから、一般的な学校では起きにくいとは思うけど。


 とは言っても、そういう場所でも必ずこういう子は出てくると思うけどね。


 いじめっこがいじめをするのは、自分が上だと言う優越感に浸りたいからだからね。


 それと似た様なもので、こういう子供が親に頼めば大丈夫、という考え方をずっと持っていれば、ボクがさっき言ったように、それを自分の力だと勘違いしてしまうことになる。


 それは結果として、周囲からの信用を失うし、何より自分に多くの敵を作ってしまうことになる。


「もちろん、今はまだそういうことはないかもしれない。だけど、近い将来、必ずそういうことになるよ。君は多分、将来は社長になる、なんて思っているのかもしれないけど、今のままで言ったら確実に失敗するよ」

『そ、そんなのわかんねーだろ!』

「ううん、絶対に失敗する。相手の気持ちを考えることができない人に、人の上に立つ資格はないよ」


 バッサリと反論の言葉を切り捨てる。


 男の子は今の言葉にたじろぐ。


「逆に、相手の気持ちになって考えることができたり、分け隔てなく優しさを振りまくことができる人は、上に立つ人としての資格があるとも言えるね。だって、その人はみんなから好かれるから」


 これはまあ、ジルミスさんがいい例だね。


 あの人、本当にいい人だったし、実際ジルミスさんが嫌われている姿を見たことがない。


「だから、今の君だと、絶対に失敗するよ。断言してもいい。そうなった場合、君は今までの生活はできないよ。美味しいご飯を毎日食べられるかわからないし、暖かいベッドで寝られないかもしれないし、それ以前に家に住めないかもしれない。何を言っているのかわからない、そう君は思うかもしれないけどね、今さっき君がしようとしたことは結果として、君や君のお父さんお母さんも苦しむことになっちゃうの。それは嫌でしょ?」

『う、うるさいうるさいっ! わけわかんねーことをいうなっ! ぜんぶあいつらがわるいんだ! おれはわるくないっ! お前もわるいんだっ!』


 子供だからまだ仕方ない、と思うのかもしれないけど、周囲の反応を見る限り、理解できていない子よりも、できている子の方が多そう。


 この子は多分、理解しようとしてないんじゃないかなぁ。


 だから、こんな風に癇癪を起こすわけで。


 なんて、少しだけ吞気に考えていると、言ってはいけないことを男の子は言い放った。


『――しね! しねしねしね! お前らんてしんじまえ!』


 と。


「その言葉は看過できないよ」


 その瞬間、強い怒気が含まれたセリフが口から零れた。


 同時に、ほんの僅かだけ、殺気をピンポイントで男の子に送る。


『ひっ……!』


 殺気に当てられた当てられた男の子は、サァーっと顔を青ざめさせ、小さな悲鳴を漏らした。


「君は今、死ねと言ったね? それはね、軽々しく言ってはいけない言葉だよ。たとえそれが本心ではないとしても、言われた相手は少なからず傷つくの。それを、君は今、自分が悪いことを棚上げして言ったね? なんでかな?」

『お、お前らがわるいからだ!』

「どこがわるいの?」

『ぜんぶだよ!』

「全部って、どこ?」

『ぜ、ぜんぶはぜんぶだ!』

「……何も言えないのに、悪いと言わないで。そもそも、君にはそうやって怒る資格はないの。自分たちが悪ふざけしていたことがきっかけなのに、それをぶつかった相手が悪いと言って。君、相当恥ずかしいことをしているんだよ? それなのに、なんで怒るの? 本当は使いたくない言葉なんだけどね、それはバカな人がやることだよ。ああ、ごめんね。いい意味でのおバカな人に失礼だったね。君はそれ以下だよ」


 普段のボクなら、こんなことを言わない。

 だけど、今回のこの子の言ったことはそれだけ問題と言うこと。

 ボクが本気で怒るくらいには。


「君の言葉が誰かを傷つけて、取り返しのつかないことになったら、君は責任が取れるの?」

『そ、そんなの――』

「お父さんがなんとかしてくれる、そう言うんだろうけど、いくらお父さんでもできないことだよ。その時はね、君じゃなくて、お父さんやお母さんが償わないといけないんだから。君を助けている余裕なんてないよ」

『……っ』

「そもそも、その考え方が間違い。悪いことをしたら素直に謝る。人として最も大事なことだよ。ありがとう、と、ごめんなさい、が素直に言える人はね、君のようなことはしないよ」

『で、でも――』

「でもじゃありません。間違いは誰にでもあることだけど、それを謝らないのはね、悪い人がすることだよ。君は、悪い人になりたいの?」

『な、なりたくない……』

「そうでしょ? だからね、君はまず、謝るところから始めないといけないね。それだけじゃなくて、これからは自分のお父さんの力を振り回さず、自分の力で頑張らないと。それができないようなら……」

『な、なら……?』

「君は一生ひとりぼっちだよ。一人で寂しく、誰からも信用されないで生きていくことになるね」


 そう言うと、男の子はようやく理解してくれたのか、ぽろぽろと泣き出してしまった。


「自分で謝れるかな?」

『で、できるよ……』


 ボクの問いかけに対して、男の子はそう答えると、リルたちの前へ行き、


『ご、ごめんなさい……』

『『ごめんなさい……』』


 リルたちに対して謝罪の言葉を口にした。

 一緒にいた男の子も、一緒に謝ったあたり、何か思うところがあったのかな。


「わたし、たち、も、言いすぎた、から、えと……ごめん、ね」

「ぼくも、ごめんなさい」

「……ごめんね」


 男の子たちに謝られたリルたちは、自分たちも悪いところがあったと思ったのか、自ら謝罪の言葉を口にしていた。


 ……ボクの妹たち、偉いなぁ……。


 責めるんじゃなくて、自分から謝れるようになっているなんて……お姉ちゃん、嬉しいよ。


「うん、これで大丈夫だね。いい? 今後は絶対に、さっきのようなことをしちゃダメだよ? お姉ちゃんと約束、できるかな?」

『『『うん……』』』

「じゃあ、約束だよ。……さて! 楽しい学園祭の準備の続きをしないとね! さぁみんな、それぞれ自分のクラスに戻って、それぞれのお仕事をしてね!」

『『『はーい!』』』


 さっきとは打って変わって、明るい言葉で言うと、子供たちは元気いっぱいな返事と共に、自分たちの持ち場へと戻って行った。


『『『……』』』

「君たちも、楽しまないとダメだよ? そんなに暗い顔していないで、ね?」


 暗い顔をしている男の子たちに、優しく笑いかけながら話す。


 んー、ちょっと言いすぎちゃったかな?


 でも、こういう時加減をしちゃうと、またやっちゃうかもしれないからね。


 だからこそ、手を抜かなかったんだけど……これはちょっと、効果がありすぎたかな。


 大人げなくも、殺気まで使っちゃったし。


 ……ここは年上のお姉ちゃんらしい元気づけ方をしてあげよう。


「三人とも、ちょっとこっちにおいで」


 そう言うと、三人はおずおずと近づいてくる。

 うんうん、素直でいいです。

 そんな近づいてきた三人に対し、ボクは、


「これから、いい子で頑張るんだよ」


 そう言いながら、一人ずつ、軽く抱きしめて頭を撫でてあげた。


『『『……』』』


 そうすると、男の子たちは顔を真っ赤に染めて、なぜか俯いた。


 あれ? もしかして嫌だったかな……?


 メルたちにこれをすると、結構喜ぶんだけど……。


 なんて、少し心配になっていると、


『お、おれ、ねーちゃんが言うみたいに、いい子になる!』

『お、おれも!』

『ぼくも!』


 急に宣言して来た。


 あ、よかった。見た感じ嫌じゃなかったみたいだね。


「うん、みんな頑張ってね。お姉ちゃんも、みんなにがっかりされないように、いい子で頑張るからね」


 にっこりと微笑みながら、そう言ったら、


『お、おれ、いい子でがんばるから、大きくなったら、おれのおよめさんになってよ!』


 御曹司の子がそんなことを言ってきた。

 なんとも微笑ましいセリフだね。


「ふふっ、でもお姉ちゃんは君が大人になる頃にはおばさんになっちゃってるかな」

『それでもいい!』

「……そっか。まあでも、お姉ちゃんじゃなくて、きっと同じくらいの歳の子と出会うかもしれないし、その子をお嫁さんにした方がいいかな。……さて、じゃあボクもそろそろ行かないとだから。ここでね」

『ま、またな!』

「うん、またね。……リルたちも、準備頑張ってね」

「「「はーい!」」」


 別れ際にリルたちの頭を撫でて、ボクは三年生のフロアを後にした。



 ちなみに、さっきの状況を見ていた西宮君が、


「……会長、将来は教師になった方がいいですよ、絶対」


 って、感服したような表情で言ってきました。


 ボク、そんなに向いてるの?

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