第495話 色々と全力な依桜ちゃん

 さて、どういう経緯で天使長やら、悪魔王やら、果てはそれぞれの配下たちが学園に来たのか、という疑問があると思うので、ここは依桜がメルたちと別れて行動を始めた頃に戻そうと思う。



『オラッ! ぶっ壊してやるぜー!』

『あぁ、食材が!』

『ひゃはは! ガキが絶望する顔は良いなァ!』

「楽しい学園祭を壊さないでください」

『は? ごぺっ!?』


 行動を開始した直後、至る所で暴れ回っている人たちをどうにかするべく、動き回る。


 今も、個人でやっていた飲食系屋台を壊していた人を思いっきり殴り、地面にたたきつけたところです。


「大丈夫ですか?」

『め、女神会長……』

「食材がダメになっちゃいましたね……経営の方は……」

『だ、大丈夫っすけど、今日の分が結構やられちゃいました……』


 男子生徒の人は、悲しそうにそう話す。


 その目線の先には、ぐちゃぐちゃになった食材が。


 ……これは酷い。


 どうにかしないといけないね、これは。


「……わかりました。じゃあ、この紙に台無しにされた食材と、個数、それからここの責任者の名前を書いて、生徒会室前のボックスに入れておいてください。後で、補填をします」

『い、いいんすか!?』

「もちろんです。これも、生徒会長の仕事ですから」

『あ、ありがとうございますっ!』

「いえいえ。それでは、ボクは他にも回らなきゃいけない場所がありますので。失礼しますね。あ、こっちの男の人は、しばらく目が覚めないと思うので、あそこのスペースに放置しといてください」

『わ、わかりました!』

「それでは」


 そう言って、ボクは次の所へ向かう。


 それにしても、見た感じ結構被害が出てるみたい……。


 警備員を雇っているはずなのに、どうしてこうなっているんだろう?


 それに、さっき態徒たちを追い回していた人たち、なぜか刀を持っていたみたいだし……。


 武器類の持ち込みは難しいはずなんだけど。


 ……ううん、今は学園祭を守ることが先決!


 それに、態徒たちの方も心配だし、急がないと。


「……でも、一人じゃ結構キツイ、かな、今回は」


 メルたちだって、力のセーブをしなくてもいいとは伝えたけど、万が一があったら嫌だし……うん、決めた。


 協力してもらおう。


(フィルメリアさん、セルマさん、聞こえてる?)

(はいぃ、聞こえていますよぉ)

(うむ、聞こえているのだ)

(今、二人はどこにいるの?)

(私は、初等部の方にいますねぇ。なんだか、外が騒がしいみたいですけどぉ)

(我は中等部にいるのだ。社畜と同じ意見だが、たしかに、騒がしいのだ。何かイベントでもやっているのか?)


 二人はどうやら、それぞれ初等部と中等部にいるみたいだった。


 ただ、セルマさん、喧嘩になるようなことは言わないでほしいかな……。


(外の騒ぎはイベントじゃなくて、緊急事態なの)

((む!))


 緊急事態という言葉に、二人が反応する。


(今から二人にも手伝ってもらいたいんだけど、今すぐ動ける?)

(問題ありませんよぉ)

(問題ないのだ)

(よかった。じゃあ、今から状況を軽く説明するね。今、強面の男の人たちが大勢この学園を襲撃しているの。しかも、態徒とボクの友達の鈴音ちゃんっていう女の子が追いかけられていたり、学園生の出し物を壊したりしている、っていう状況なの)

(それは本当ですかぁ?)

(うん。だから、二人には今から行ってもらうことをしてほしい)

(何でも言ってくださいぃ。子供たちのお祭りを邪魔する愚か者たちに、天罰を与えますよぉ)

(我も、この祭りを楽しもうとしている者共の邪魔をすることは許さないのだ。だから、何でも言うのだ)


 二人は、この学園祭が襲われているという状況に怒ってくれているみたい。


 フィルメリアさんは天使だからそうだし、セルマさんはこう言ったお祭りごとが好きみたいだから、かな?


 まあ、そうだとしても、快く味方になってくれるのはありがたい。


(じゃあ、指示を出すね。フィルメリアさんは天使を五十人ほどこの学園に呼び寄せて)

(わかりましたぁ。ですが、五十人は少なくないでしょうかぁ?)

(相手はこちらの世界の人。天使のみなさんは強いから、それほどの人数はいらないの。それに、天使のみなさんには救護係をやってもらいたいからね)

(つまり、怪我人が出た際、私たちの方で治療をする、ということでしょうかぁ?)

(そういうこと。ただ、フィルメリアさんは荒事の対処をお願いしたいんだけど)

(お任せください、依桜様ぁ。愚か者たちを懲らしめますよぉ)


 うわぁ、フィルメリアさんの言葉の裏から静かな怒りを感じるなぁ……。


 まあ、天使、だもんね。


 悪人は許さないからだろうけど。


(次にセルマさん)

(うむ)

(セルマさんも、フィルメリアさん同様、悪魔を……そうだね、大体三十人ほど呼んで)

(了解なのだ。しかし、天使共とは違って、こっちは少ないのだな?)

(うん。こっちは実働部隊。暴れ回っている男の人たちを倒して回って欲しいの)

(得意分野なのだ。よし、任せるのだ! あ、もちろん我も実働部隊でいいんだよな?)

(もちろん。ただ、殺さない程度にね)

(うむ! ではすぐに行動に移すのだ!)

(こちらも、すぐさま動きますねぇ)

(お願いね、二人とも。あ、一応人間のふりをしてね。こっちの世界では、天使や悪魔は空想上の存在だから)

(かしこまりましたぁ)

(わかったのだ)

(じゃあ、よろしく)

(はーいぃ)

(うむ!)


 ……うん、これで大丈夫かな。


 天使や悪魔の人たちに任せて、ボクは態徒と鈴音ちゃんの方へ行かないと。


 そう思い、行動に移したところで、


(ねーさま!)


 指輪を介した念話がメルから届いた。


(メル? どうしたの? 何か問題が起こったの?)

(ちと、男たちに人じちにされそうになったが、儂の力でげきたいしたぞ!)

(……人質?)

(うむ)

(……怪我は?)

(大丈夫じゃ!)

(そっか。……じゃあ、引き続き、みんなを連れてボクのクラスに行って)

(わかったのじゃ!)


 念話終了。


 …………ふふ、ふふふふふふふふ!


「メルたちを襲うだなんて……これは、本気で潰さないといけないみたいだね」


 ボクの可愛い可愛い妹たちを襲うとは……。


「じゃあ、道中の悪い人たちを倒しながら、先へ進もうかな」


 静かな怒りを放ちながら、ボクは態徒たちがいる方へと向かって行った。



「くっ、あの野郎共、随分と舐めた真似しやがって……」

『す、すいやせん、事前に守り切ることができやせんでした……』

「仕方ねェ。今回は奴らが一枚上手だったってことだ。……だがな、俺の可愛い娘が楽しみにしていた学園祭を、こんな形でぶっ壊すたァ……許せん」

『えェ。ですが、見ての通り、かなり人数がいるようで……』

「チッ。めんどくせェ。だが、ここで守らなきゃ、男が廃る。お前ら! 気張れよ!」

『『『応ッッッ!』』』

「あ、あの……」

「アァ?」


 ボクが態徒たちの元へ向かっている道中、強面ではあるんだけど、どこか善人っぽい雰囲気を持った人たちがいました。


 なんだか盛り上がっているようだったので、一度話に区切りがついたかな? という場面でトップらしき総髪の男の人に声をかける。


「って、なんだ、嬢ちゃん。どうかしたかい? ここは危ねェから、どっかに隠れてな」

「あ、心配ありがとうございます。でも……あなたたちは一体?」

「あァ、すまねぇな。個人的な理由があって、この祭りを壊している奴らを対処しているとこでなァ。まァ、要するに、この学園側からすりゃ、味方って奴だ」

「あ、そうだったんですね。それは助かります。人が多いに越したことはありませんからね」

「ん? どういう意味だい?」

「あ、いえ、この事態はさすがに生徒会長のボクとしても見過ごせなかったので、てんs――じゃなかった、えと、武術の達人の集団と応急処置等に長けた集団をを呼び寄せまして。だから、こうして悪い人たちを倒して回ってくれているのは、ありがたいなと」

「……なんだ、嬢ちゃん、何者だ?」

「この学園で生徒会長をしている、普通の女子高生です」


 一瞬ドキッとしたけど、持ち前のポーカーフェイスで切り返す。


 さすがに、暗殺者なんて言えないし、その武術の達人と応急処置に長けた人たちが天使や悪魔だなんて言えないしね。


「……どうも、嬢ちゃんからは強者の雰囲気ってのがあるように見えんだがなァ」


 ……す、鋭くない?


「あ、あはは、気のせいで――」

『隙ありだぜェ!』

「邪魔です」

『ぶげらっ!?』


 どういうわけか、目の前の総髪の男の人に襲いかかろうとした悪い人が現れたけど、ハイキックを頭部の側面に叩き込み、そのまま静かにさせました。


「――気のせいです」

「いや待て。今、ものすごい動きをしてなかったか?」

「武術をやっているので」

「……今の武術ってーか、全く別のもんに見えたが……まァいい。どうやら、嬢ちゃんはかなりの手練れのようだ」

「いえいえ。ボクなんて、ちょっと強いだけですので。……それで、えと、お名前は?」

「おっと、こりゃいけねェ。俺は、百目鬼どうめき宗次郎そうじろうってもんだ。嬢ちゃんは?」

「あ、男女依桜と言います」


 ボクが名前を名乗ると、百目鬼さんはなぜか驚いたような顔を見せた。


「……男女?」

「はい、男女ですけど……」

「嬢ちゃん、変なことを訊くようだが……七矢鈴音、って名前に聞き覚えはねェかい?」

「鈴音ちゃんですか? えと、聞き覚えも何も、ボクの中学生の頃からの友達ですけど……」

「ほう、嬢ちゃんが鈴音の言っていた友達か。ってーことは、小斯波、椎崎、腐島、変之って奴もいるのかい?」

「あ、はい。いますけど……えと、もしかして、百目鬼さんって鈴音ちゃんの……」

「あァ、俺は、鈴音の父親だ」

「そうだったんですね。じゃあ、鈴音ちゃんはヤクザの家の?」

「……まァ、そう言うこったな」


 なるほど、それで中学時代の鈴音ちゃんの付き合い方に合点がいったよ。


 ボクたちが休日に集まって遊ぶ時、鈴音ちゃんだけがあまり来なかったり、家のことについて訊いて欲しくなさそうな素振りを見せていたりしたのは、自分の家がヤクザであることを隠したかったからだったんだ。


「頭! 大変です、お嬢が……って、ん? 嬢ちゃんは……」


 ふと、どこからか聞き覚えのある男の人の声が聞こえてきて、声の主がこちらへ近づいてくる。


 どこか焦った様子の男の人は、ボクの顔を見るなりやや驚きを見せた。


 あれ? この人って……


「あなたはもしかして、つい最近路地裏で殺されかけていた……?」

「あァ! やっぱあの時の嬢ちゃんか! この学園の制服を着てたんで、ここの生徒だとは思ったが……そうか。こんな偶然もあるもんだなァ」

「なんだ、鬼塚、知り合いなのか?」

「知り合いと言いますか、例の俺を助けてくれた嬢ちゃんです」

「なんだと? つまり、お前の恩人か?」

「はい。あの時は急いでたんで礼もできなかったが……ほんとに助かった。おかげで、色々と未然に防ぐことができた。ありがとな」

「いえいえ。あれから、体の調子はどうですか?」

「頗る良好だ。むしろ、治してもらった前よりも調子がいいくらいだ」


 鬼塚さんは、強面な顔を少しほころばせながら、力こぶを作る仕草を見せた。


「それはよかったです」


 一応、回復魔法で治療をしたにはしたけど、それでも心配だったんだよね。


「っと、そういや鬼塚。オメェ、なんか鈴音のことに関して何か言いかけてなかったか?」

「あ、そうでやした。頭、向こうでお嬢を抱き抱え逃走している男がいやして!」

「何!? 鈴音を抱き抱えてるだぁあ? そいつはどこだ!」

「林の方から出て来やしたが……」

「なんてことだ……おい、速攻で神崎組の奴らとヤリ合っている奴らを集めろ! すぐに、そいつを消す……!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「アァ? なんだ、嬢ちゃん」


 ボクの慌てた制止を受けた百目鬼さんは、熊すらも視線だけで殺せそうな怖い表情で、ボクを睨んできた。


 異世界に行く前のボクだったら、今にも泣きそうだったかも……。


「あの、鈴音を抱えて逃げてる人……ボクの友達、です」

「なんだと? それはどういうことだ?」

「え、えっと、その友達は変之態徒って言いまして、中学生の頃から鈴音ちゃんと仲が良かった内の一人なんです」

「……あァ、たしか、嬢ちゃんたちのグループの。それがどうして、うちの娘と?」

「今日、二人は一緒に学園祭を見て回る約束をしていたので、おそらくその最中に鈴音ちゃんが狙われて、それで態徒が鈴音ちゃんを守って逃げている、って言う状況かと……」

「ふむ……つまり、なんだ。変之とか言う小僧は、うちの娘を守っている、ということでいいんだな?」

「だと思います。態徒、鈴音ちゃんのことを大事に思っているみたいでしたので」

「ほう? ……なら、消すのは一旦はやめだ」


 ほっ、よかった……。


 これでとりあえず、態徒が狙われることはなくなりそう。


 ……一旦、という言葉に、一抹の不安を感じるけど。


「おい、鬼塚。鈴音は今、林の方から抱えられた状態で走ってきているんだったよな? 状況はどうだ?」

「あまり芳しくはないです。神崎組の構成員たちが、続々とそちらに集まっており……我々が急ぎ向かったとしても、まずいかと」

「チッ、やってくれるじゃねェか……まあいい、とりあえず、急いで向かわせろ! なんとしても、鈴音を守るんだ!」

『『『応!』』』

「あ、あの……」

「今度は何だい、嬢ちゃん」

「……いえ、一つお願いがありまして」


 ボクは盛り上がっている百目鬼さんたちのやる気を削ぐかのように、そう切り出す。


「お願いだと? ……ふむ、言ってみろ」

「鬼塚さん、その大勢の人たちの中に、親玉はいましたか?」

「あ、あァ、いるにはいたが……それがどうしたんってんだい?」

「いえ……その人は、ボクの大切な人たちに危害を加えようとしたみたいなので、ボク自らが潰しに行こうかと思っているんですよ」

『『『――(ゾクッ)!』』』

「……嬢ちゃん、その殺気はどういうこった? ほんとに、何者だ?」

「……ただの、友達想い、妹想いな女子高生ですよ」

「……今の異常な殺気、明らかに高校生を逸脱していた気がするが……まァいい。嬢ちゃん、その大切に、うちの娘は?」


 冷や汗を流しながら、百目鬼さんがそう尋ねてくる。


 それはもちろん……


「友達ですから。入っていますよ。むしろ、ここで見捨てるのは違います」

「……うちの娘が、ヤクザの家のもんだとしてもか?」

「当然です。ボクたちのグループだと、今更ヤクザの家の娘です、なんて言われてもちょっとは驚くかもしれませんけど、全然気にしませんよ」

「普通は気にするが……」

「ボクたちは、それ以上の人たちと接する機会がありましたので」


 主に師匠とか、師匠とか、師匠とか、師匠とか。


「……そうか。なら、いい。嬢ちゃんなら、任せられそうだ」


 ボクの答えに、百目鬼さんを含め、他の人たちも目に見えて安堵した表情を見せた。


 やっぱり、いい人たちっぽいね。


 鈴音ちゃんのことを大切に想っているみたいだし。


「はい、任せてください。必ず、鈴音ちゃんも助けますので。……もっとも、ボク以上に態徒が守っているみたいですけど」


 気配を探っている感じ、かなり頑張っているみたいだね。


 たしか、師匠に時たま鍛えられている、って言っていたから、その成果が出ているのかも。


 それなら、すぐにどうこうされる心配いらなさそう。


「……なら、いいがな。すまねェな、嬢ちゃん」

「いえ、お気になさらず。……ただ、ボクがそっちに行っている間、暴れ回っている人たちを倒して回って欲しくて……」

「それくらい、お安い御用ってもんだ。……で、倒したクソ共は?」

「警備員に渡していただければ」

「あいわかった。テメェら! 聞いてたな? 今すぐ動き、奴らを片っ端から倒して回れ! いいな?」

『『『応ッ!』』』

「なら、さっさと行け!」


 百目鬼さんの号令で、ヤクザのみなさんが動き出した。


「……じゃあ、嬢ちゃん、頼んだぜ」

「はい。……では」


 ボクはそう言って、屋上へと向かって行った。



 ところ変わって、依桜から指示を受けた天使たちは……。


「さて……皆さん。依桜様からの命令が来ましたぁ。依桜様は、自らが統治するこの学園に、愚かにも襲撃をしてきた者たちによって被害を受けた子供たちを助けるように、との仰せですぅ」

『い、依桜様が、我々を頼られた、と?』

「その通りですよぉ。我々の忠誠は、依桜様に捧げていますぅ。つまり、今回の命は、何が何でも遂行しなければなりませんよねぇ?」

『『『はいっ!』』』

「ですので……すぐに行動を開始してくださいぃ。困っている子供たちを助け、そして、依桜様のお役に立つと証明するのですぅ!」

『『『わかりました!』』』

「では、行動開始ぃ!」


 なんか、ヤベー集団になっていた。


 依桜を神か何かだと勘違いしている天使たちは、依桜からの命令が来た事を何よりも喜び、そして役に立てることに思わず奮えた。


 そして、フィルメリアの号令で天使たちが行動を開始した。


 尚、この時の天使たちの行動は、救急隊や医者もびっくりな、高度な応急手当や治療を施していたため、後に様々な場所からスカウトが来たが……それは別の話である。



 一方、悪魔サイドはと言えば……。


「喜ぶのだ、お前たち! 我等が主から、命令を受けたのだ!」

『『『おお!』』』

「現在、我が主が治めるこの学園に、祭りをぶち壊そうとするバカたちが入り込んできたのだ。主が治めるこの学園でバカを働く者たちを、我らが見過ごせるか?」

『『『できねぇ!』』』

「そうだろう、そうだろう。そして、我等が主から受けた命令はただ一つ。そのバカ共を一人残らず撃退することのみ。できるな? お前たち!」

『『『もちろんだぜ!』』』

「いい返事なのだ。だが、主はこうも言った。殺さず無力化せよ、と。これができなければ、我等は主の役に立てないと言うことを証明するきっかけとなり、同時に……あのクソ天使共に笑われる。この意味がわかるな?」

『『『おうよ!』』』

「うむうむ。今は同僚のような存在とは言え、腹が立つものは立つのだ。……よし、行くのだお前たち! 主の役に立つのだ!」

『『『YEAHHHHHHHHHH!!』』』

「行け!」


 やはり、天使たちと同じような状況だった。


 天使たちとは違い、神のような崇拝というわけではないが、こっちはこっちで、依桜が最も偉い的な考えをしているため、こうして依桜の役に立ちたいと思っている。


 まあ、その原因は、結構やらかしてボロボロにされたところを許してもらっただけでなく、治療までしたもらったことがきっかけだったりするので、崇拝を否定しきれないところではあるが……。


 尚、この時の悪魔たちは、暴走族とかヤンキーとかやってそうな外見の者が多く、困っている人を助けるような行動だったため、後に舎弟にしてください、とか言われるようになるが……それはまた、別の話である。



 そうして、屋上に辿り着き、態徒たちの所へ来た、というわけだ。


「まったくもって、腹が立ちますよ、本当に。さぁ、殺されたい人からかかってきてください。一瞬で沈めてあげますよ」


 そんな依桜は、ブチギレ状態。


 依桜が手にしている物は、鍔が無い刀が一本と、短刀が一本だ。


 現在身に着けている衣装やらアクセサリーやらによって、ものすごく似合っている。


 むしろ、似合いすぎて怖いくらいだ。


 依桜の持つ、独特なオーラと、暗殺者として培った殺気がベストマッチしてしまっているわけだ。


 ある意味、怖い。


「うぜぇ……おいテメェら。やっちまえ!」

『『『おう!』』』

「……ふふ、その自身、すぐにへし折って、刑務所の中に入れてあげますよ」

「……うわー、依桜の奴、クッソこえぇぇ……」

「う、うん……」


 態徒&鈴音、静かにキレる依桜を見て、軽く恐怖した。



 その数分後。


『ば、化け物が……』

「ふぅ。今回は、手応えがない人たちでしたね。まあ、去年のテロリストに比べたら、被害は大きかったんですけど……。あ、二人とも、無事? どこか怪我はない?」


 襲い掛かってくるヤクザの人たちを沈めたボクは、二人に安否確認をする。


 かなり追いかけられていたみたいだし、一応ね。


 ……まあ、もっと早く駆け付けられれば良かったんだけど、さすがに百目鬼さんたちのことを見過ごすのはちょっとあれだったからね。


 味方でよかったけど。


「大丈夫だ。七矢は?」

「だ、だい、じょうぶ……。態徒君、が、守ってくれた、から……すごく、かっこよかった、よ?」

「お、おう。ま、まあ、あれだ。男的には、女を守るのは当然ってーか……な?」

「じゃ、あ、他の人でも、本気で、守る、の?」

「あ、あー、い、いや、それは、だな……」

「……」


 あ、鈴音ちゃんがすっごくしゅんとしちゃってる。


 まったく、態徒は本当に鈍感だよね。


 どう見ても、自分が態徒に特別扱いされたい、っていう風にしてるのに。


「なんだろう。今、依桜が『お前も人のこといえねぇだろ』的なことを言っていた気がするんだが」

「気のせいです」


 ボクは鈍感じゃないもん。


「……態徒、君?」

「…………ま、まあ、正直なところ、誰彼構わずあそこまでするわけじゃない、としか言えねぇっつーか……まあ、なんだ。七矢だから、あそこまで本気になった、ってーか……うん。そんな感じだ」

「……ほん、とっ?」

「お、おう。なんか、すげぇ食い付きよくね……?」


 ずいっと顔を近づける鈴音ちゃんに、態徒は思わずたじろぐ。


 おー! これはもう、ゴールイン間近なんじゃ?


「……そういや、依桜に訊きたいことがあるんだが……」

「何?」

「いやさ、依桜が今持ってるその二振りの刀って……マジの奴、なのか? それと、その服に付いてる返り血も。デザインにあった箇所とはまったく関係ないところにある気がするんだが……それって……」

「あ、これ? 大丈夫だよ。態徒が想像するようなことはないから」

「そうなのか? ならよか――」

「殺しはしてないから♪」

「それはつまり殺さないレベルのことはしたってことか!?」


 その前まではほっとした様子の態徒だったけど、ボクの発言を聞いた直後に焦ったような様子を見せた。


「…………付与魔法って、色んな魔法を付与できるんだけど、ボクが多用するのは回復魔法でね。まあ、言ってしまえば……どんなにダメージを受けても、回復で元通り、っていう状態になるの」

「…………ち、ちなみに、その時に出た血とか、ダメージってのは……」

「……ふふふ」

「あ……(察し)」


 その辺りは知らなくてもいいことです。


 ……あ、後で匂い消しとかしとかないと。


 結構血って匂うんだよね。


 向こうの世界でも、やっぱり血は落とすのが大変だったなぁ。


 痕跡とか残すとバレちゃうから。


 匂いは落ちないし、時間が経つと血も落ちなくなるから、いいことなかったっけ。


 ……最初の頃は吐いてたけど、今じゃ何も思わなくなった辺り、ボクも悪い方に代わっちゃったんだなぁ。


 プラスに捉えれば、肝が据わるようになった、と言えるけど、悪い方で言えば、血を見ても何の反応もしなくなるくらい冷静になった、ということになるから。


 ……うん、酷い。


「あ、そろそろボクは事後処理に動かないと」

「そうなのか?」

「うん。これでも、生徒会長だからね。それに、ヤクザの人たちに壊された各出し物の補填もしないとだから。学園中の悪いヤクザの人たちは、天使や悪魔、それから鈴音ちゃんのお家の人たちが何とかしてくれたみたいだから、安心していいからね」

「おう……って、え? 依桜、七矢の家の事知ってたのか!?」

「ううん? 態徒たちの所へ向かう途中で、悪い方のヤクザの人たちを倒したり、学園生を助けていたからね。声をかけて、色々と手伝ってもらったの。ちなみに、百目鬼さんに鈴音ちゃんを守るように、って頼まれたよ」

「お父さん、に、会った、の?」

「うん。ちょっと怖い人だったけど、鈴音ちゃんを大切にするいいお父さんだったね」

「う、うん。すごく、いい、お父さん」


 照れ笑いを浮かべながら、鈴音ちゃんが自慢するようにそう言う。


 これを見てる限りだと、親子仲は悪くないみたいだね。


 まあ、百目鬼さんたちの反応を見る限り、それはなさそうだと思ったけど。


「もしかしたら態徒が言ったかもしれないけど、ボクたちは鈴音ちゃんの家庭事情を知っても離れたりすることはないから安心してね」

「……依桜君」

「それと……」


 ボクは鈴音ちゃんの耳元に口を近づけ、態徒には聞こえないくらいの声で、


「この後の告白は、きっと成功するから、自身を持ってね?」


 そう言った。


「……!」

「それじゃあ、ボクはそろそろ戻るから。あ、態徒は絶対にイベントを見に来るように! それと、その時は必ず一人でいること! それじゃあね!」

「それどういう意味だ!?」


 態徒のそんな声が聞こえて来たけど、ボクはそれを無視して、事後処理のために生徒会室へと向かった。



 学園内のあちこちで起きていた問題事は何とか無事に解決。


 その間、何をしていたのか不明だった未果たちは現在、高等部の校舎四階にある、使われていない空き教室にて身を潜めていた。


 そしてつい先ほど、問題が解決したと依桜から連絡があり、四人は教室内で軽く雑談をしていた。


「……はぁ、今年もなかなかすごかったけど、案外あっさり収まったわね」

「そうだな。……だが、見たところ、明らかに人じゃない……というか、天使とか悪魔の人たちがいた気がするが……」

「にゃはは! いやー、依桜君、今年は去年のようなミスはしない、ってさっき連絡があったもんね」

「えと、たしか去年はテロリストの人たちが来て、未果ちゃんが撃たれちゃったんだっけ?」

「そうよ。あの時は、痛みで死ぬかと思ったし、何より依桜の本気の怒りを見て、震えあがった記憶があるわ」

「あの時の依桜は、本当に怖かったからな……」

「わたし、あの時ほど死を覚悟したことはなかったよ」

「女委ちゃんがそう言うレベルなんだ……」

「うむ。……んでまあ、依桜君も随分と万能になってきちゃったねぇ」


 教室内を見回しながら、半ば呆れ気味に女委がそう零す。


「異世界旅行で、フィルメリアさんたちと契約して、それなりのスキルや魔法を得たとか言っていたしな。今回は、『結界』だったか? こっちの世界じゃ反則じゃないか?」


 そう、実は未果たちが身を隠しているこの場所、依桜が指輪を介して未果たちに念話を飛ばし、ここに隠れるよう指示したのである。


 こんな逃げ場もなさそうな場所に隠れておきながら、なにも問題が発生しなかったのは、依桜が夏休みの異世界旅行の際、フィルメリアと契約した結果得た、『結界』のスキルを使用したからである。


 効果内容は至ってシンプル。


 一つは、『学園生・もしくは学園祭を楽しみに来たお客さん以外からは見えなくする効果』。


 もう一つは、『外からの攻撃を防ぐ効果』。


 この二つだ。


 なんと言うか……異世界から帰ってきた後から、どんどんチート化していくTS美少女だ。


「まあ、魔法なんて言う公式チート的なものを使ってる時点で、反則も何もないとおもけどにゃー」

「……ま、依桜、だものね」

「そうだね。…………あ、LINNだ」


 ここで、恵菜のスマホが振動し、LINNの通知を知らせる。


「誰から?」

「ちょっと待ってね。……依桜ちゃんから」

「依桜はなんて?」

「えっと……『事後処理をしてるからちょっと遅くなるけど、先にイベントが開催される広場に行ってて』だって」

「事後処理とは、依桜も忙しくなったな」

「生徒会長だものね。この学園の生徒会長って、ものすごい忙しいみたいだし、仕方ないわ」


 未果のそのセリフに、他の三人は思わず苦笑いを零した。


「……さてと。私たちは先にイベントの広場に行きましょうか。依桜からは、態徒を一人にするようにって言われてるし、どこかから態徒の様子を見守ってましょ」

「「「賛成」」」


 野次馬たちは、自分たちの友人の恋路を見るのが何よりも、楽しそうであった。


 ……尚、ここだけものすごくほのぼのとしているのは、依桜の巻き込まれ体質の被害に遭ったからだろうというのは、言うまでもない。

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