第439話 再び孤児院巡り
異世界旅行三日目。
朝起きたら、
「……わー、久しぶりー……」
通常時に狼の耳と尻尾が生えた姿になっていました。
うーん、最後にこの姿になったのっていつだったかな。
記憶が正しければ、去年の冬〇ミだったような……というか、あれが最初で最後だと思ってたんだけど。
他にはなったっけ?
……いやないね。この姿は、二度目。
普段からころころ変わるから、自分でもいつ、どのタイミングで姿に変わったかなんて覚えてないし、どの姿なのかも覚えてない。
そう考えると、本当に不思議体質になったよね、ボク。
……男の姿に戻れてもいいと思うんだけどなぁ。
なんて思うけど、最近は自分が男だったということすら忘れてるし、なんだったらボク自身戻りたいという願望すら薄れてる始末。
もう、女の子であることを完全に受け入れているような物だよね、これ。
多分九割方受け入れてるんじゃないかな? なんとなくだけど。
「……まあ、別に不便があるわけじゃないし、いっか」
そう思おう。
三日目にすることと言えば、これと言って特に決まっているわけじゃない。
強いて言うなら、今日はニアとミリアの二人がそれぞれ過ごしていた孤児院に行くこと、かな?
せっかくだし、みんなが過ごしていた場所を見てみたい。
今は家族だからね。過去のことを知りたいと思うのも当然だと思うし。
そう言った事情もあり、今日はメルたちを連れて故郷巡りへ行こうかなと。
まあ、故郷巡りとは言っても、行くのはニアとミリアがそれぞれ過ごしていた二ヵ所だけなんだけどね。
さすがに、距離的なことを考えて、昨日と同じように分かれて行動することにした。ちょっと遠いしね。それに、大勢で行くにしても、大変そうだから。
あとは、ボクの私的な理由だからというのもある。
「……俺は単純に、街に出た瞬間から謎の寒気を感じたからな。依桜の方に同行しよう」
「私は女委がなにかしでかさないか心配だから残るわ」
「オレも残るわ。というか、残らされた」
「お前はこっちだ。軽い修行をする」
態徒、ドンマイ。
こっちの世界だと、師匠が自分にかけた制限とか一切なくなるから、多分……死ぬんじゃないかなぁ……。
もしそうなったら、その時は優しくして上げよう。
「うーん、じゃあ私は依桜ちゃんについて行こうかな」
「うちは女委ちゃんの方に行こうかな? ちょっと面白そうだし!」
「うん、わかった。メルたちは……」
「ねーさまと一緒じゃ!」
「イオお姉ちゃんについていきます!」
「イオ、おねえちゃん、と、一緒……」
「イオねぇについてくよ!」
「イオお姉さまと一緒なのです!」
「……同行」
「うん、だよね」
知ってた。
とまあ、こんな風になりました。
未果、女委、態徒、師匠、エナちゃんの五人が王都に残って、晶、美羽さん、メルたち六人がボクの方へと来ることに。
こちらの方が大人数だけど……まあ、問題はなさそう。
「それじゃあ、孤児院を回ったらこっちに戻ってくるね」
「わかったわ。気をつけてね」
「うん。師匠、よろしくお願いします」
「ああ、任せな。そっちも、何かあればあたしに連絡しな、分身体とか送るか、こっちに分身体を残して行ってやるよ」
「ありがとうございます、師匠。それじゃあ、行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
というわけで、出発。
「それで依桜ちゃん。最初に行くのは、ニアちゃんとミリアちゃんのどっち?」
いざ出発し、王都から少し出たところで、美羽さんがボクに質問して来た。
「えーっと、正直なところ、距離的にはそんなに変わらないんですよ。だからどっちでもいいんですけど……まあ、二人に聞いてみましょうか。ニア、ミリア、どっちが先がいい?」
「私はミリアが先で大丈夫です!」
「ぼくもニアねぇが先で大丈夫!」
仲がいいが故の問題。
仲がいいと、あっちが先でとお互いに譲りあっちゃうんだよね。
こうなると、微妙に困るよね。
「仲いいんだね」
「あ、あはは……見ての通りです」
美羽さんも今のやり取りを見て、ほっこりしたような表情を浮かべて言った。
うん、いいよね、こういう光景。
「うーん……じゃあ、ミリアの方から先に行こっか」
「「「「「「はーい!」」」」」」
まあ、どっちでもいいんだけどね。
「本当に、姉をしているなぁ……依桜は」
少し歩いて、ルエアラ町へ。
王都から大体徒歩三十分くらいかな?
それくらいで町に到着。
「依桜ちゃん、この町はどんな町なの?」
「えーっと、こう言ってはあれなんですけど、ボクは戦時中に世界中の街を回っていたわけじゃなくて、襲われているところをメインで回っていたので、リーゲル王国内でも行った場所と行ってない場所があるんですよ。ここは、後者ですね。というより、みんなが住んでいた場所なんですけど、どこも行ったことはなかったり……」
「へぇ、それは意外。勇者って、全部の街とか村を回ってるのだとばかり……」
「いかに勇者や英雄と呼ばれていても、結局は一人の人間ですからね。全部を回るのは無理です。そういったことができるのは、神様とか、もしくは大勢で異世界転生・もしくは転移した場合じゃないと無理だと思います」
「んー、それもそうだね。しかも、依桜ちゃんって、チートと呼ばれるような能力とかももらわなかったんでしょ?」
「はい。『言語理解』だけです……」
「何度聞いても、可哀そうな話だな。依桜のそれは」
可哀そうな人を見る目をボクに向けながら、そういう晶。
本当にね……。
今思えば、よく魔王を倒せたなぁ……。
「ミリア、ここであってるよね?」
「うん! ここ! ここがぼくが住んでた場所だよっ!」
「よかった。じゃあ早速、ミリアが住んでいた場所に行こっか」
「うん!」
さて、この町がどういう場所なのかな?
みんなで町に入り、ミリアが過ごしていたという孤児院に向かう。
町の規模自体はそこまで大きくはないけど、かなり活気があるみたい。
『新鮮な野菜はいらねぇかー!?』
『皇国から仕入れた、珍しい魔道具があるぞー!』
『お、そこの兄さん、いいもんが入ってるぜ?』
と、こんな感じ。
なんと言うか、上野のアメ横商店街を思い出すね、これ。
あそこの活気ってすごいからね。
初めて行った時は、あの活気にびっくりしたもん、ボク。
……メルたちを連れて行きたい気持ちはあるけど、あそこは何があるかわからないからなぁ……せめて、中学生くらいになってからかな。うん。
「この町って活気がすごいねぇ。アメ横を思い出しちゃった」
あ、美羽さんも同じこと思ってる。
まあ、この画期ならね。
「ミリア、ここっていつもこんな感じなの?」
「うん! えっとね、あっちにお菓子を売ってるお店があって、あっちに美味しい料理を食べさせてくれるお店があるの!」
「あはは、食べ物ばかりだね」
「美味しいものは美味しいもん!」
「うん、そうだね」
実に子供らしい。
それに、この六人の中だと、ミリアが二番目に多く食べるからね。
ちなみに、一番はスイです。
身長的には一番小柄なんだけど、食べる量は一番多い。
前なんて、かなり用意していた十段くらいのお弁当だって、気が付けばほとんどなくなっていたし、四、五段くらいを一人で食べてたもん。
一応ボクも同等以上は食べられるけど、スイくらいの時は無理だったなぁ……。
一瞬、魔族だからなのかな? とか思ったけど、クーナは割と小食だったし……多分、リルが特殊なんだと思います。うん。
「……イオおねーちゃん、あれ、孤児院?」
と、しばらく歩いていると、スイが前方を指を指しながらこちらに尋ねてくる。
スイが示した先を見ると、たしかに孤児院らしき建物があった。
見れば、今は子供たちで遊んでいるらしく、孤児院の前でシスターのような人がにこやかな笑みを浮かべながら見守っていた。
「ミリア、あそこで合ってる?」
「うん! あそこだよ! イオねぇイオねぇ! 早く行こ!」
「そうだね……って、わわっ、引っ張らないで! 逃げないから!」
孤児院を見つけるなり、ミリアが目をすごくキラキラとさせながら向こうへ行こうとする。それだけでなく、ミリアはボクの手を強く引っ張っていた。
うーん、可愛い。
あ、ともあれ急がないと。
駆けるミリアに引っ張られつつ、孤児院の前へ。
孤児院に近づくと、シスターさんがこちらを見た。
最初はきょとんとしたような表情だったけど、こちらに向かっているミリアを見るなり、表情が驚きに変わった。
「ミリア!」
「シスター!」
シスターさんは駆け寄ってくるミリアを見て、すぐさま走り出すと、リルの時と同じような感じで、ミリアを抱きしめた。
やっぱり、誰しも抱きしめるものなんだね。
「一体、今までどこにいたのですかっ! ずっと、ずっと心配していたのですよ……!」
「ごめんなさい……でも、ぼくを助けてくれた人がいるんだよ! ほら、そこにいる人!」
「助けた……? あら? あなたは……」
と、ミリアに言われて、シスターさんは顔を上げるとボクを見つめて来た。
「……銀色の髪に、翡翠色の瞳……もしや……でも、耳と尻尾が……」
これはあれかな。
髪の色と瞳の色でボクだと当たりをつけているけど、耳と尻尾があるから若干疑っている、みたいな感じかな。
まあ、うん。そうだよね。
変化した姿でこっちの世界にいるのは二度目だし、一度目は魔王城にいた時だけだったからね。しかも、あの時は魔族の人たちにしか見られてなかったから尚更かな。
「えっと、自己紹介した方がいいですか?」
「で、できればして頂けると……」
「わかりました。……初めまして、ミリアの義理の姉をさせてもらっています、イオ・オトコメです。よろしくお願いします」
「……………………え?」
あ、固まった。
う、うーん……やっぱり、目の前に勇者がいるってなると、こうなるのかなぁ……。
「あ、あの、ゆ、勇者様……なんですか? 本当に?」
「い、一応……」
「でも、人間だと聞いているのですが……」
「あー、この耳と尻尾、ですよね? 実は、呪いの解呪に失敗しちゃって、不定期で姿が変わるようになっちゃったんです。今の姿は、いくつかある姿の内の一つ、と思って頂ければ」
「な、なるほど、そんなことが……」
男に戻るとはいかなくても、普通の姿だけに固定できるようにならないかなぁ……。
そうすれば、普段の負担がある程度減るのに。
「ミリア、本当に勇者様が姉なの?」
「うん! ぼくね、イオねぇに助けられて、妹になったの! あそこにいる娘たちもイオねぇの妹で、ぼくの姉妹でもあるんだよ!」
「そうでしたか……ミリアを助けていただき、ありがとうございました」
ミリアが事情(?)を説明すると、シスターさんはボクに頭を下げてお礼を言ってきた。
「頭を上げてください。ボクはただ通りかかった小屋の中から、気配を感じただけで、助けたのは偶然なんですから」
「ですが、身寄りのないこの娘を妹――家族として迎え入れてくださったのですよね?」
「ま、まあ、そうですね。他の娘たち同様、孤児院暮らしだとは聞きましたし、それに、一緒に行きたいとせがまれちゃったものですから。あ、とは言っても、ボク自身はちゃんとみんなことは大好きなので、心配しないでくださいね」
さすがにあれは断れません。
潤んだ瞳で懇願されれば、誰だって断れないと思うもん。ボク的には。
「そうですか……安心しました。孤児院にいる子供たちには、いつか養子としてもらわれて欲しいものですから。やはり、たった一つの家族が一番大切だと思っているので」
「そうですね。たしかに、孤児院でもいいかもしれませんが、やっぱり血は繋がっていなくても、父親や母親はいた方がいいですからね」
「はい。それに、この娘はかなり元気ですから。できる事なら、この娘がのびのびと成長できる人に引き取ってもらいたかったので。そう言う意味では、勇者様でよかったと思っています」
「あ、あはは。ちょっと気恥ずかしいですね……」
ボク自身は、普通に育てているつもりなんだけどね。
それに、普段はボクが面倒を見てはいるけど、父さんと母さんもメルたちを気に入ってるし、みんなも二人を本当の親だと思っているみたいだから、ある意味では心配いらない。
……母さんだけがちょっとあれだけど。
「それにしても、まさか、勇者様に引き取られていたなんて……すごい偶然もあるものですね」
「そうですね。ボクも、たまたまこっちに旅行に来ている時に、妹が増えるとは思いませんでしたよ。今はみんながいない生活は考えられないんですけどね。可愛いですし」
「……それを聞いて、本当に安心しました。ミリア、ちゃんと勇者様の言うことを聞くんですよ?」
「大丈夫! イオねぇの言うことを聞かなかったら、怖いもん!」
怖いって……。
ボク、そんなに怖いことした?
「ふふっ、そうですか。改めて。勇者様、今後とも、ミリアをよろしくお願いします」
「はい、任せてください。必ず、立派な大人に成長するまで育てますから」
「そう言ってもらえると、心から安心できます」
まあ、大人になったら大体見守ることになりそうだけどね。
その時までには、自立できるようにしておかないと。
「……ところで、勇者様」
「なんでしょうか?」
「あの、つかぬことをお聞きするのですが……九ヶ月ほど前、この町に立ち寄ったりしていませんか?」
「……え?」
またしても、例の九ヶ月について言われた。
……本当に、どうなってるの?
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