第195話 イベント終了

 レギオとの勝負が終わった直後、


『しゅーーりょーーーーーー! CFO内大規模イベント、記念すべき一回目を制したのは、銀髪碧眼の美少女! ユキちゃんですっ!!』


 ミウミウの実況が入り、CFOの初イベントの終了を告げた。

 そして、ユキはその時になって気付いた。


(……あ! ふ、フードがとれてる!?)


 自身のフードが取れていたことに。


 ユキがフードを取らなかった理由は、単純に素顔を見られたくなかったから。

 暗殺者時代の癖、と言うものだろうか。ユキは、自身の素顔が見られることをよしとしなかった。


 銀髪のキャラクターは、かなり目立つからだ。


 目立ちたくない一心でフードを一切とらなかったというのに、痛恨のミスによって、ユキの素顔が多くのプレイヤーに知られる結果となってしまった。


 その結果に、ユキは心の中でがっくりと肩を落とした。



『うおおおおおおおおおお!』


 敗者部屋の中は、ユキとレギオの短い戦闘によって、大興奮だった。


 誰もが、レギオの勝利を疑っていない状況だったのだが、始まった戦闘を見て、誰もが驚愕した。

 暗殺者だと思われるユキが、戦士職のレギオの攻撃を受け止めていたからだ。

 そして、すぐさま攻撃に出て、レギオを蹴りで吹っ飛ばし、【煌聖斬】を動体視力だけで避けて、そのまま一撃で体力をすべて持っていった。


 まさかの大番狂わせに、敗者部屋は熱狂し、大興奮した。


 と、同時に、別に意味でも熱狂したのだ。


 その理由はもちろん、


『な、え……か、可愛い!?』

『嘘だろ!? あんなに強かった黒装備のプレイヤーの素顔が、銀髪碧眼のとんでも美少女!?』

『ほへぇ……』

『全然信じらんねぇ……』


 ユキの素顔は瞬く間に、プレイヤーたちの記憶に刻み込まれていく。

 ある者は、見惚れ。ある者は、驚愕した。


 異常な強さを持っていた全身黒装備のプレイヤーの素顔が、まさか銀髪碧眼の美少女だと、誰が予想できただろうか。


『銀髪碧眼ってことは、リアルモデル……?』

『だろうな。銀髪なんて、まだ実装されてねーし。というか、初期選択にはなかった』

『……可愛すぎる。なんだあの娘』

『あんな娘がイベントに参加して、優勝しちまうなんてなぁ……』

『見た目で判断するな、ってことじゃね?』

『だな』


 ユキの存在はやはり、かなり目立ってしまう。


 銀髪という髪色のキャラクターは、このゲームにおいて、珍しい。それどころか、髪を染めている、もしくはユキのように、地毛がそうでなければ銀髪になることはない。


 現状、このゲームに、ユキ以外の銀髪のプレイヤーはいない。

 髪を染めていたとしても、何らかの違和感がある場合の方が多い。


 ただ、ユキは違和感などなく、ただただ自然だった。

 だからこそ、似合っているわけだが。


『てか、あの娘、サービス開始の次の日に開店した、白銀亭の店主じゃね?』

『……言われてみれば』

『あの、料理を食べた奴にバフをかけたり、ステータス補正がかかる衣服を作ったりする、あの店主?』

『てっきり、生産職かと思ったんだが……まさか、戦闘職だったなんて……』

『しかもあれ、どう見ても暗殺者なんだよなぁ……』

『暗殺者なのに、生産職以上のことができてるって、どうなってるんだろうな、あの娘』

『まあでも、可愛いからよくね?』

『『『たしかに』』』


 可愛いから、で許される人間は、ユキくらいのものだろう。

 と言っても、ユキ自身は別に可愛いとは思っていないが。


『俺、あの店行ったことないんだけど、実際どうなん?』

『料理めっちゃ美味い。可愛いウェイトレスが二人。男の店員二人』

『マジか。男の方はどうでもいいけど、あの娘以外にもう二人いるのか』

『しかも、料理はあの娘の手作りだ』

『マジ!? やべえ、普通に行ってみてぇ』

『そう言えば、あの娘が作ってる衣服ってすごく可愛いって聞いたなぁ』

『ああ、知ってる。とあるプレイヤーの五人組が身に着けてたよ』

『ほんと? どんなの?』

『和服、ブラウス、ワンピース、カーディガン、コートだったかな?』

『へぇ、本当に色々あるんだ。今度行ってみようかなぁ』


 知らず知らずのうちに、ユキの店の評判が広まっていく。

 これによって、行ってみようと思うプレイヤーは増えていっている。


『にしても、優しい店主が、まさかあんなに強い暗殺者かぁ』

『仕事人みてぇ』

『動きとか、素人のそれじゃなかったしなぁ。あれ、プロの動きだろ』

『たしか、武術の大会に出て、優勝経験もある猛者がいたはずだよな、あの娘が倒したプレイヤーの中には』

『そういやいたな。あの娘、結局ノ―ダメで倒してるんだよな』

『……おっそろしいわ』

『レベル18であれ、だもんな……もっとレベルが上がったら、どんな化け物になるんだか』


 その言葉は、この場にいる者たちが薄々思っていたことを表していた。



 イベント終了の言葉が発された後、ボクは表彰台? みたいなところにいた。


 周囲を見れば、ここは街の中の様だけど、いるのはボク含めて三人。


 ボクと、レギオさん、それからえっと、名も知らない人。


 より正確に言えば、ボク含めた三人がいるのは、表彰台のような場所だけど、目の前には大勢のプレイヤーの人たちがいた。


「はいはいみなさん! 大変お待たせ致しました! これより、表彰式に映りますよー!」

『うおおおおおおおおおお!』


 いつの間にか横に現れていた美羽さんのセリフに、街の中が沸いた。

 それに驚いて、思わず気圧されるも、他の二人はあまり驚いていないようだった。


「はい、では3位のディグルさんから、お気持ちを話してもらいます。どうでしたか?」

「1位を狙ってたんですけどね。やっぱ、レギオさん強いっすよ。無理無理。まあでも、2位になれたのでよかったっす」

「おめでとうございます! では次、2位のレギオさん、どうでしたか?」

「いやぁ、1位は取れると思っていたんですけどね。とんでもない伏兵にやられました。まあでも、あんな負け方をすれば、いっそ清々しいです」

「でも、いい戦いでしたよ! おめでとうございます! そして、最後、初イベントの1位、ユキさん、どうでしたか?」

「え、あ、そ、その、ええっと……な、何を言えば、いいんですか……?」


 突然(というわけでもないけど)気持ちを話して、と言われても、いいセリフが思い浮かばず、いつぞやの学園祭で言ったようなセリフをこぼしていた。


「おぅふ、相変わらず可愛いですね、ユキちゃん」

「ふぇ!? そ、そんなことは、ない……です……」


 突然可愛いと言われて、ボクは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


『え、何あれ、可愛すぎない?』

『殺戮の限りを尽くしていたのに、素があれとか、反則だろ……』

『俺、あの娘に殺されてよかったわ……』

『俺も』

『私も』


 ……なんだか、変なセリフがいろんなところから聞こえてきたんだけど、気のせい、だよね?


「それで、お気持ちは?」

「え、えっと、その……嬉しい、です」


 優勝したいという願望はなかったとはいえ、こうしてトップに立てたのは嬉しい……のかな。うん。

 かなり目立つことになっちゃったけど、これはもう、ショウがないとしか言いようがないよね……。


 はぁ……。あの時、フードがとれていなければ、こんな風に大きく目立つこともなかったのになぁ……。


 これはやっぱり、AGIをもっと上げないとなぁ。

 できれば、現実と同じく、1500以上にしておかないと、本当に困る。

 現実と同じように動けないというのは、ちょっときついものがあるし。


「はい、ありがとうございました! えー、ここにいるユキちゃんは、白銀亭という料理屋兼、洋服屋も営業しているようなので、ぜひぜひ、お立ち寄りください!」

「えっ!?」


 美羽さんがいきなり、ボクのお店を宣伝しだしたんだけど!

 思わず、美羽さんの方を見ると、ウィンクしてきた。

 なんだろう。美羽さんの顔に『これで、人がいっぱいだね!』って書いてあるように見えるよ。


「では、1位~3位の三人には、特別報酬を。4位~10位の人たちには、入賞報酬が送られます! 大切にしてくださいね! それでは、CFO、第一回目のイベントを終了します! みなさん、お疲れさまでしたー!」

『おおおおおおおお!』


 こうして、世界初のフルダイブ型VRMMOゲームの、記念すべき第一回目のイベントは、終幕となった。



「お疲れ様、ユキ」

「あ、あはは、ただいま……」


 イベント終了後、ボクは逃げるようにお店に戻ってきていた。


「案の定、優勝しちまったな、ユキ」

「おかげで、ユキ君はこのゲームで一番の有名人になったちゃったね」

「……できれば、最後まで素顔は隠したかったんだけどね」


 苦笑いを浮かべながら、本音をこぼす。


 素顔が見られれば、目立つのは間違いなかった。


 だからこそ、なるべく【投擲】のみで戦っていたんだけど、今回に限って言えば、スピードが足りなかった。

 速さが足りない。


「でもよ、あいつを倒したのはスカッとしたぜ」

「ああ、インガドね。ほんと、いい気味だったわ。私はまだしも、ユキたちを馬鹿にするのは、許せないし」

「そりゃ、オレたち全員が思ってることだぜ?」

「そうだな。俺たちは、誰かが馬鹿にされたりするをの嫌うからな。……まあ、今回はユキの怒りが強すぎたが」

「でも、よかったよ、ユキ君。インガドのプライドをズタボロにするところとか」

「……正直、あれでも足りないくらいだけどね」


 だって、ミサを突き飛ばすし、みんなを馬鹿にするしで、本当に酷かったんだもん。

 あれで済んだのだから、まだマシだと思ってほしい。


 ボク的には、両手両足を落として、最後に首を落とす、くらいやらないと、割に合わないと思っているから。


 なんてことを言ったら、


「「「「え、えげつない」」」」


 ドン引きされた。


「……オレ、今度かユキを怒らせる止めるわ……」

「もともと、ユキは怒ると怖いでしょうが」

「異世界へ行く前のユキですら、底知れない怖さがあったからな……」

「わたしも、できればユキ君にだけは怒られたくないなぁ」

「あ、あれ? ボクって、そんなに怒ると怖い……?」

「「「「ものすごく」」」」

「そ、そうなんだ……」


 ボクって、怒ると怖い、んだ。

 あんまり自覚なかったんだけど……。


 ただただ笑顔で、延々とお説教をしたり、針でツボを刺激して、二度と悪さができないようにしたり、特定の行動ができないようにする程度なんだけど……。

 あとは、ひたすら謝らさせたりするだけ。


「にしても、優勝できてよかったな、ユキ。それで、特別報酬ってなんなんだ?」

「あ、うん。えっと……『城の招待状』?」

「城って、あれか? この街にある、あのデカイ城」

「多分」


 でもあそこは、まだ入れなかったはず、だよね?


 ……正直なところ、ボクだったら入れるんじゃないか、なんて可能性があるんだけど。


 あの一週間が基になって創られているのはほぼ確実だと思う。

 この世界のNPCがどうなっているのかはさておき、あそこには王様とかレノがいるかもしれない。

 あ、セルジュさんも。


 とりあえず、もう一度『城の招待状』を見る。

 使用可能日、未定。


「うーん、これ、使用できる日が未定になってるんだけど……」

「まあ、その内使うんじゃね? とりあえず、取っておけよ」

「そうだね」

「報酬はそれだけなのか?」

「えっと、100万テリルと、あとは称号、かな」

「なんて称号?」

「えっと、【覇者】」

「これまた、強そうなのが出てきたねぇ」

「効果は?」

「ちょっと待ってね、えっと……」


【覇者】……被ダメ0で尚且つ、多くの人々の頂点に立った者に贈られる称号。取得条件:対個人戦イベントを、被ダメ0で優勝すること。効果:全ステータス+100%。上位称号


「……これ、ユキが手に入れちゃいけない類の称号じゃない?」

「……ただでさえ強いのに、さらに二倍とか、笑えねぇ」

「少なくとも、ユキに勝つには相当なレベル差が必要、というわけか」

「……だね」

「あ、あははは……」


 ボクも、本当に笑えない称号が手に入っちゃったよ……。

 それにしてもこれ、上位称号ってどういうことだろう?


「ねえ、ヤオイ、上位称号って何かわかる?」

「上位称号? うーん……聞いたこともないけど、多分、何らかの称号の上位互換って感じなんじゃないかな?」

「なるほど……」


 ちょっと試しに、この称号を鑑定してみる。


【覇者】……【勝者】の上位互換


 あ、ほんとだ。

 というか、【勝者】って何?

 さらに鑑定をしてみる。


【勝者】……多くの人々の頂点に立った者に贈られる称号。取得条件:対個人戦イベントで優勝する。効果:全ステータス+20%


 ……上位互換どころじゃなくない?

 上位互換、これの五倍のステータス補正がかかっちゃってるんだけど。

 とりあえず、これの下位互換の称号と効果を言う。

 すると、みんなは苦い表情をした。


「これ、運営が悪乗りして作った結果の称号よね……」

「多分な。少なくとも、あそこまで大規模なイベントで、被ダメ0で優勝するなんて人間離れのこと、ユキ以外は不可能だろ」

「多分、誰も取れない、なんて思ってたんじゃないかなぁ」

「こんな無理ゲーな取得条件、普通は無理だからな。まあ、いいんじゃね? ユキは別に、強くなりたいんじゃなくて、サポートメインなんだろ?」

「うん。目立つのはちょっとね……」

「もうすでに、目立ちまくってるけどね」

「……そうだね」


 目立ちたくないと思っていても、結局は目立ってしまう。


 今回のイベントは、自分が悪いとは思っているけど、さすがに目立ちすぎた。

 容姿云々は置いておくとしても、結構暴れちゃったからなぁ……。


 たしか、ものすごい人数のプレイヤーを蹴散らしちゃったり、弓矢を弾いて、そのまま投げ返したり……つい、向こうでやっていたことと同じことを……。


 暗殺者は、基本的に隠れてやるのが普通なんだけどね……。

 師匠の教えって、多対一でも戦えるように、っていう部分もあったから。


「それで? 今日は営業するの?」

「まあ、一応……。なるべく、ログインしている時はやりたいしね」

「無事に終わればいいわね」

「や、やめてよぉ、そう言う不吉なこと言うの……」


 ミサの不吉なセリフに、さすがにボクは抗議した。

 そしてこの後、ものすごくえらいことになるんだけど……この時のボクは知る由もなかった。



《CFO公式掲示板 匿名プレイヤーたちのお話広場》

【スレッド名:女神様優勝】

1:いやぁ、勝ったなー


2:勝ったねぇ


3:勝ったでござるなぁ


4:勝ったンゴ


5:勝ったのぅ


6:……いやおかしくね!?


7:それな


8:あんだけ戦っておいて、被ダメ0はやばいだろ


9:そもそも、動きが他のプレイヤーと一線を画していたンゴ


10:しかも、文字通りの暗殺者だったよな、あれ


11:何と言うか、プロ、じゃったなぁ


12:もしかして女神様って、現実じゃマジもんの暗殺者やってたとか?


13:いやー、いくらなんでも、それはあり得んだろ


14:だよなぁ


15:てか、優勝候補のプレイヤーたちを瞬殺するって、異常だよな


16:【一撃必殺】とか言ってたっけか?


17:名前からして、相当やばそうだよな


18:そもそも、そんなスキルを持ってるって、どうなってんだ?


19:てか、レギオってたしか、STR結構あったよな?


20:そのはず。たしか、200は超えているのは確か


21:なのに、女神様は正面からぶつかっていったよな?


22:てことは、200以上のSTRを持ってるってことか


23:……暗殺者って、上げにくいはずなんだがなぁ


24:あ、そう言えばさ、イベントの報酬見てたら、面白い称号があったんだよ


25:へー、どんな?


26:【覇者】っていう称号


27:なんじゃ。えらく強そうじゃな


28:実際効果はえげつない


29:どんな感じ?


30:全ステータス+100%


31:二倍じゃねぇか


32:そんなバケモンみたいな称号、どうやって入手すんだよ


33:対個人戦イベントで、被ダメ0で優勝することらしい


34:……え


35:ちょっと待って。それ、女神様持ってね?


36:見てた限りじゃ、被ダメ0だったよな……?


37:たしか、イベント中にAGIが980って大暴露してたけどさ……もしかして、それ以上のAGIになったり、する?


38:なるだろうなぁ……


39:手が付けられないな、女神様


40:まあ……あってもなくても、馬鹿みたいに強かったし、別に、な?


41:そうじゃな。あってもなくても、結局は勝てないんじゃし、いいじゃろ


42:女神様がラスボスとか、激熱じゃね?


43:わかるンゴ


44:でも、女神様と言えば、表情の時めっちゃ可愛くなかった?


45:ああ、あれな。顔真っ赤にして俯いた時の


46:あんなに殺戮の限りを尽くしていたのに、中身は恥ずかしがり屋って、やばいよなぁ


47:そういやこのゲームの料理って、現実で作れるものしか作れないらしいぜ?


48:え、じゃあ何か? 女神様の手料理って、現実でもめっちゃ美味いのか?


49:おそらく


50:だとしたら、リアルで手作り料理が食える奴は羨ましいなぁ


51:……今日もやってたら行くか、店


52:当然


53:行かない方があり得んぞい


54:まあでもあれだな。とりあえず、俺たちは女神様を見守る、ってことでいいよな


55:異議なし


 ユキが優勝したことで、この後も一層の盛り上がりを見せた掲示板。

 どういう感じで殺されたいか、という謎過ぎる議論が白熱した。

 その結果、大多数の人間は、笑顔のまま首を飛ばされることだった。頭どうかしてるんじゃないだろうか。

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