第37話 依桜ちゃんたちの旅行 下
「わぁ、立派な旅館」
目的地の旅館に到着し、旅館前に移動。
外観は、かなり立派な佇まいの大きな旅館だった。
よくテレビとかで見るような、秘境の宿、みたいなイメージ。
御柱市の商店街すごいなぁ。
インターネットで見たけど、評価はかなりいいし、温泉の効能もいいんだとか。
そんな場所の旅行を福引の景品にできるのはすごいと思う。
一体、どこからそんなお金が出ているんだろう?
……売り上げだよね。
「さて、早いところチェックインを済ませよう」
父さんの言葉でみんな動き出し、旅館に入っていく。
チェックインを済ませ、部屋へ移動。
部屋は三部屋取ることができた。
父さんと母さんのペアで一部屋、ボクと未果、女委の三人で一部屋、そして、晶と態徒のペアで一部屋となっている。
ボクとしては、晶たちとの方がよかったんだけど、未果に
『絶対ダメ。というか、晶はともかく、あの変態には何されるかわかんないわよ? ヤられてもいいの?』
と、全力で止められた。
う、それを言われると……という感じだったので、未果たちと相部屋に。
……でもさ、正直どっちへ行っても同じだと思うんだけど。
晶たちのところへ行っても態徒(変態)がいて、未果たちのところにいても女委(変態)がいるわけだからね。
晶たちの方が、実際はましかもしれない。
たしかに、態徒はどうしようもないくらいに変態かもしれないけど、まだ晶という抑止力がいるからね。
反対に、未果たちと同じ部屋だと、女委という変態がいる上に、未果という面白いことが三度の飯よりも好き! みたいな人がいるわけだから……。
……うん、まだ晶たちのほうがましかもしれない。
しかし、決まってしまったのは仕方がないので、そこは、その……頑張って耐えるしかないというか……。
「はぁ……」
「依桜、せっかくの旅行なのに、暗い顔だと台無しよ?」
「……抑止力になってね?」
「何言ってるの?」
おかしな人を見る目で、ボクを見ている未果の様子を無視して、言う。
「……未果は、ボクの味方だよね?」
って。
一瞬、逡巡するようなそぶりを見せた後、笑顔になって行った。
「(態徒という)変態から守ればいいわけね?」
「うん。(女委という)変態からボクを守ってね?」
「OK! ま、私に任しときなさい」
「ありがとぉ、未果」
思わず未果に抱き着いてしまった。
あ、なんかちょっと安心するかも……。
「おっと。何よ、今日は随分甘えん坊さんね?」
ボクが抱き着いてきたことに、疑問を感じるどころか、普通に受け止めて頭を撫でてくれた。
未果はやっぱり味方だぁ……。
と、思っていた時期が、ボクにもありました……。
「たっだいまー!」
「あ、女委。おかえりなさい」
「おかえり」
荷物を置いて、お茶を飲みながら未果と話していると、売店に行っていた女委が戻ってきた。
「あれー? 晶君たちは?」
「えっと、なんか用事がある! って言って、自分たちの部屋に引きこもっちゃった」
「そうなの? うーん……まあいっか! ちょうどよかったし。いたらいたで、ちょっと困ったからねー」
……今、何か不穏なセリフが聞こえた気が……。
あと、すごく嫌な予感がするんだけど……。
女委のボクを見る目が、獲物を狩ろうとしている獰猛な肉食獣を連想させる、ギラギラとした輝きを放っているんだけど……?
ガチャリ。
「……女委? なんで、入り口の鍵を閉めたの?」
「気にしない気にしない☆」
「女委、なんで、そんなにいやらしい手つきをしながら、ボクに近づいてくるの?」
「気にしない気にしない☆」
「いや、気にするよぉ! 何? 何をしようとしてるの!?」
「ふっふっふー。さあ、依桜君! 大人しくするのだ!」
「いや、ちょ、まっ……ひゃんっ!」
ボクの制止を聞かず、女委はボクに抱き着き、そのまま押し倒してきた。
こ、このパターン、どこかで見たことが……。
「ふー……」
「あぅっ……!」
耳に息を吹きかけられたことで、体に力が入らなくなり、女委を押し返そうとしていたところで、逆にさらに押し倒されてしまった。
「うぅ……な、なんで女委がボクの弱点を……」
この弱点自体、自分でもほとんど気付いていなかったのに……一体どうして、女委が……。
「もちろん、学園長先生に聞いたのだよ!」
な、何してくれてるの、あの人!?
なんでボクの弱点を、一番言っちゃいけない人に言ってるのぉ!
どこかで見たことあるパターンだと思ったら、やっぱりあの時のことだよね!?
ま、まずいよぉ! このままだと……そ、そうだ、み、未果! 未果に助けを!
「未果!」
「……はぁ、なんて素晴らしい光景なのかしら」
ダメでした。
妙に恍惚とした表情で、ボクが襲われている光景を見ていた。
「み、未果? ボクを助けてくれるって……」
「ええ、助けるわよ?」
「じゃ、じゃあ……」
「でも、私が味方するって言ったのは、態徒相手の時だけよ?」
「…………ふぇ?」
え、どういうこと?
確かにボク、あの時変態から守ってくれるって……あ。
ま、まさか、齟齬ができてたの……?
……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、ボクのバカぁ!
なんで、指定しなかったのぉ!
指定してたら、事前に対処できたよね、これ!
うう、もうやだぁ……。
「安心して、依桜君」
「め、女委……?」
「本番はヤらないから!」
「そ、そういうことじゃな――んあっ! ちょっ、や、やめっ……ひゃぅ! め、めいぃ………そ、こはっ、ダメっ、だよ……ぁんっ!」
まるで、いつぞやの学園長先生の時のように、女委がボクの体を愛撫し始めていた。
しかも、妙に学園長先生の時よりもうまい気がして、前以上に声が出てしまっていた。
「女委、やたらうまいわね」
「ふっふー。まあねん! わたし、色々な子と、遊んでるから!」
「女委、その発言はいろんな意味で危ないわ」
「そーかなー? わたしは楽しいし、向こうも気持ちい。ほら、相応の対価でしょ?」
「んー、まあ、お互い合意の上なら問題なし、か」
「問題あるよぉ! ボク、合意してないよぉ……!」
叫ぶように、おかしな会話をしている二人にツッコミを入れる。
けど、二人はそれを全く意に介してくれない。
「まあまあ、楽しもうよ」
「楽しめない――ひぁう!? や、やめっ……んぅ! ま、まっ、てっ……あっ、ふっ、んっ……!」
ま、また、またの時、みたいに、頭の中がぼーっとしてきた……。
なんだか、ふわふわするし……。
「うわぁ、依桜、すごい顔してるけど……大丈夫?」
「だい、じょうぶ、じゃ、ない、よぉ……み、未果も止めてよぉ……」
「……依桜って、受けの時はとことん受けよね……私の中のSな気持ちが昂るわぁ」
「み、未果……?」
お、おかしい、未果が女委と同じ目をしてる気がするよぉ……。
も、もしかして……。
「お、未果ちゃんも混ざる?」
「混ざる混ざる!」
「ちょ、まっ……」
ボクの制止を全く聞かず、未果までもが参加してきた。
逃げようと思っても、体に力が入らない上に、頭の中がぼーっとして、ほかに何かを考えるのができなくなるほどに、いじられた。
この後、ひたすらにボクは弄られました。
そこで何があったかは、その……ご想像にお任せします。
一言言えるとすれば……女の子の体は、すごいな、ってことだけです……。
「うぅ、二人のバカぁ……ひっく、えぐ……」
ようやく二人から解放され、ようやく落ち着くと着崩した服はそのままに、ボクは泣き崩れていました。
「ご、ごめんって……」
「ごめんじゃないよぉ……ボク、いきなり襲われたんだよ……? ボク、何度もやめてって、言ったのにぃ……う、うぅ……」
本当に、あれは酷かった……。
学園長先生の時は、採寸とかもあったから途中で止められたけど、今回は本当に悪ふざけが過ぎた。
ボクが必死にやめてと懇願しているのに、二人はやめるどころか、ますますいじってくるし……。
むしろ、余計に楽しんでいた気がするよ……。
「ごめんね、依桜君」
「……ボク、二人を信用できなくなっちゃうよ……」
今まで友達だと思っていた人が、唐突に襲って、それでひたすらに弄るんだもん、信用なんてできなくなりそうだよ……。
ボク、どうすればいいの?
「で、でもほら! 依桜、すっごく可愛かったよ!」
「うわあああぁぁぁぁぁんっっ!」
未果に言われた瞬間、ボクは大泣きしながら、部屋を出て行った。
「あ、依桜!?」
「依桜君!」
ボクを呼び止める、二人の声がしたけど、ボクは振り返ることなく、出て行った。
「やりすぎたね……」
「……ええ、そうね」
依桜が出て行ってから、私たちはお互い床に座っていた。
雰囲気は当然明るくもなく、意気消沈状態。
「依桜、泣いてた、わね」
「そうだね……正直、やるんじゃなかったと後悔してるよ」
「……私もよ」
「ちゃんと、謝らないと、だね……」
「……土下座で謝りましょ」
「……うん」
「――っていうことがあって……」
ボクは未果たちの部屋を出ると、一目散に晶たちの部屋へと向かった。
そして、部屋に入るなり、晶に抱き着いて、ひたすらに泣いた。
さすがの態徒も、この時ばかりは変態的な言動はせず、普通に心配してくれた。
泣き止むまで晶たちは何も言わずに待ってくれたのは、本当にうれしかった。
泣き止んで、少し落ち着いてから、さっきの顛末を話す。
「何をしてるんだ、あの二人は……」
晶は額に手を当てて、呆れていた。
「いや、まさかそこまでやるとは思わなかったわ」
態徒は、呆れてるとまでは行かないけど、目を丸くしていた。
「……なるほど。それで、依桜が泣いて逃げてきた、と」
「うん……」
「いや、まあ、そりゃあ、あの二人が悪いわな」
「当たり前だな。ま、少なくとも悪ふざけのつもりだったんだろうが……まさか、ここまでとは。俺もちょっと、擁護は難しいな」
晶がそう言うと、態徒が疑問を口に出した。
「というか、何が原因だ? いくら、女委が変態だとは言え、未果がそうするとは思えないしよ……なあ、何かあるんじゃないか?」
「……女委はともかく、確かに未果は変だな……たしかに、三度の飯より面白いことが好きとはいえ、他人に、それも依桜相手にそう言う行為をするか?」
……言われてみれば、確かにそうかも。
さっきの未果は、どこか様子がおかしかった気がする。
なんというか、顔が赤かったような……?
冷静になって考えてみると、確かにおかしい。
女委も女委で、未果と同じように、顔が赤かった気がするし……。
「……何かある、のかな?」
「あるのはあるで問題だが、もしかすると、二人はある意味、被害者かもしれないな」
「よっしゃ! そうと決まれば、早速行こうぜ!」
「う、うん……」
さっきの一件で、ちょっとあれだけど、もし何かあったのなら心配だし……う、うん。
そうだよね。二人のため……だ、大丈夫。大丈夫。
自分に言い聞かせるようにしながら、ボクは二人の後を追った。
「「すみませんでした!」」
部屋に入り、ボクの姿が見えた瞬間、二人はそれはもう見事なまでの土下座をしてきた。
いきなりのことすぎて、ボクたちはたじろいだ。
「あ、あのね、二人とも、ちょっとだけ話をいいかな?」
ボクが話を聞きたい旨を伝えると、二人がビクッとした。
あ、もしかして怒られる、と思ってるのかな?
……いや、まあ、うん。あれだけのことをしたわけだし、そう思うよね。
ボクだって、今も怒ってるもん。
でも、今はお説教の時間じゃないので、その怒りは自分の胸の内に引っ込める。
「えっと、二人とも、何か変わったこと、なかった? その、ボクを襲う前に……」
ボクがそう尋ねると、二人が顔を上げて、考えるそぶりを見せる。
すると、女委が気になる発言をしてきた。
「そう言えば、ここのお茶菓子を食べたら、変な気分になったよ」
「あ、それ私も……」
「お茶菓子……?」
ボクは部屋の机の上を見ると、お菓子が入っていた包み紙のようなものを見つけた。
手に取ってみてみると、日本語以外の言語で
『ウイスキーボンボン』
と書かれていた。
多分これ、英語じゃないね。どこの国かはわからないけど、ボクには、異世界へ行ったときに唯一渡された、言語理解の能力があるからね。書いてあることは無条件でわかる。
ウイスキーボンボン……ね。
……あ、ハイ。
これはたしかに……ダメだね。
「未果、もしかしてこの中身って……チョコだった?」
「え? そ、そうね」
「……これ、ウイスキーボンボンだよ」
「ええ!? ほ、ほんとに?」
「うん……」
一応、ボクも食べたけど、特にこれと言って問題はなかったから、何も思わなかったけど……そっか、これ、ウイスキーボンボンだったのか。
ボクに問題がなかったのは、毒耐性のスキルが原因だよね。
少なくとも、体に何らかの影響を与える物質は、耐性でほとんど無力化されちゃうし。
だから、多分、ウイスキーボンボンに含まれてるアルコールは、毒耐性で効かなかったんじゃないかな。
「未果はそれで酔ったとして、だ。じゃあ、なんで女委もおかしなことになってるんだ?」
「素じゃね?」
「違うよ態徒君!」
「お、おう」
「わたしは、普通におかしかった! いつもとは違うおかしさだったんだよ!」
「自分でおかしい、って自覚はあったんだな、女委」
自覚、あったんだね。
てっきり、無いと思ってたんだけど。
「じゃあ、なんで女委もおかしくなってたのかしら……?」
「あー、うん、一つだけ思い当たるんだけど……」
ボクには、一つだけ思い当たる節があった。
食べたのは、チョコレートで間違いないと思う。
ということは……
「多分だけど、媚薬効果、じゃないかな……?」
「「「「媚薬ぅ?」」」」
うっ、なんか呆れられてるよぉ……。
いや、まあ、そう、だよね……。
普通、何言ってんだ、って思うよね……。
「依桜、別に呆れてたりするわけじゃないわよ? 単純に、初耳なだけ」
「あ、そうなの?」
……今、未果が心を読んだ気がするけど、気のせい、だよね。うん。
「媚薬、ってどういうことだよ、依桜」
「えっとね、チョコレート……というより、原材料のカカオには、恋愛ホルモンって呼ばれる四種類あるうちの一つが含まれててね。それが、結果的に催淫効果を発揮したりするんだよ。でも、突然そう言う風になったりするわけじゃないし、量も少ないと、ちょっとした惚れ薬程度の効果しかないと思うんだけど……もしかしたら、女委が食べたのが、たまたまそれが多かったのかも」
「へぇ、よく知ってたな、依桜」
「まあ、ちょっと調べる機会がありまして……」
……ボクが毒耐性を得るきっかけになったわけだしね、チョコレート。
原因は、例のごとく師匠です。
……よくよく考えてみたら、師匠に魔改造されてる気がするんだけど。
もし、また向こうに行って、会うようなことがあれば、ボクは絶対に師匠を倒したいと思います。
「でも、その話を聞いてると、あそこまでならない気がするんだけど」
「あー、えっと、ね。実は、もう一つ効果があってね。このホルモン、好きな人と一緒にいるような幸せな気持ちが得られるんだよ。普通くらいだったら、そこまででもないんだけど……女委、だからね」
「「「あー、なるほど」」」
「え、みんな酷いなぁ」
女委が何か言っているようだけど、実際反論はできないと思う。
だって女委、最近の学園祭一日目に、自分がバイだと公言しちゃってるし。
だから、ね。
「相乗効果的な意味合いで、ああなっちゃったんじゃないかな、って」
「……となると、ある意味私たち、被害者、ってこと?」
「う~ん、全面的に悪いとは言えない、かな。一応、外的要因があったわけだし……それに、どこの国かもわからない包装紙で包まれてたらね……」
ボクだって、どこの国の言語かわかってないわけだし。
異世界へ行く前だったら、絶対ボクもやられてたかもしれないしね、このチョコに。
「じゃあじゃあ、わたしたちは悪くないってこと?」
「いや、まあ……そうなる、のかな? お酒って結構タガが外れるし、媚薬に関しても、その……せ、性的な効果もあるし、ね。……ボクには甚大なダメージが来たけど、ね」
「「すみませんでした」」
「うん、いいんだよ……お嫁にいけなくなるだけ、だからね」
ふっ、と遠い目をするボク。
でも、ほかの四人は、ボクの今の発言に驚きを隠せないでいた。
「……ねえ、今の聞いた?」
「……ああ、聞いた」
「……依桜の奴、大分進行してるぞ、あれ。絶対、無意識だろ」
「……まさか、お嫁にいけない、っていうセリフが出るとはねぇ」
「……受け入れつつあるのかもしれないし、以前女委が言ったことが本当になってるのかもしれないわ」
「……だね」
あ、また何か話してる。
う~ん、やっぱり疎外感を感じる……。
一体、いつも何を話しているんだろう?
聞き耳を使えばいいんだろうけど、なんだか躊躇う。
もしかしたら、ボクには言えない内容なのかもしれないし……第一、あれは本当に必要な時以外は使わない、って決めてるし……。
気になりはするけど、きっと変な話じゃないよね!
「あ、そうだ。みんな暇なら、トランプとかでもしない?」
「お、いいねえ! リベンジだ!」
「ま、態徒がボロ負けして終わりでしょうけどね」
「なにおう!?」
「いいから、やろう」
「じゃあ、神経衰弱しよ!」
というわけで、ゲームが始まった。
「え、えっと、終わり、ね?」
「「「「ええぇ……」」」」
ボクが最後のペアを取ると、置いてあったトランプが無くなった。
女委のリクエスト通り、神経衰弱からスタート。
車内では、ボクがかなり勝っていたので、順番を選んでいいと言われた。
なので、ボクは一番最後にした。
二番目~三番目の人にチャンスがあるように、みたいな感じでやったんだけど……結果はこの通り。ボクが一回で、すべてのペアを作って、そのまま終了になってしまった。
ここでも、あのステータスが活かされてしまったらしい。
……これ、どうにかならないの?
「くそぅ! つ、次は、七並べで勝負だ!」
今度は態徒の提案で七並べになった。
まず、最初の手札を見て、ボクは悟ってしまった。
……あ、ボクの勝ちだ、と。
今回使っているトランプは、五十二+一の計五十三枚のトランプ。
十一枚が三人と、十枚が二人になる。
で、問題は手札だった。
まず、7が全種類、6(ダイヤ・クローバー・ハート)と8(クローバー・ハート・スペード)が三枚ずつ、そして、ジョーカーの計十一枚。
……なに、この手札。
なにをどうしたら、こんな手札が出来上がるの?
「誰が7を持ってるんだ?」
「……ボク」
「なるほど。じゃあ、ほかの三枚は誰が?」
「……それも、ボク」
「……いや、なんかもう……ツッコむのもあれだな」
申し訳ないと思いながら、7のカードを置いていく。
七並べは、ダイヤの7を置いた人から時計回りに置いていくわけで……。
ちなみに、順番は、ボク→晶→態徒→未果→女委の順です。
「じゃあ、ダイヤの6……」
「ん、ないな……パスだ」
「オレもない。パス」
「スペードの6よ」
「わたし持ってないや」
「「「「……」」」」
う、みんなの視線が痛いよ……。
未果以外、誰一人として出していない、つまり、意識せずとも、ボクが止めてるとみんな思ったんだろうね……未果が止めてるとは思わなかったんだろうね。
だって、未果もボクにジト目を向けてきてるもん。
「す、スペードの8……」
「……パス」
「よっしゃ! スペードの9」
「ダイヤの8」
「ダイヤの9だよ~」
二巡目は、晶以外がカードを出せた。
どうやら、晶の手札はあまりよくないらしい。
「えっと、クローバーの6」
と、どんどんカードを消化していき、
「あ、あがり、です」
七巡目でボクはあがった。
いや、うん。だって、確実に出せるカードしかなかったんだもん……。
もうみんな、呆れを通り越して、生暖かい目を向けてくるんだよ、何とも言えないんだけど。
「正直、運要素が絡んでくるゲームとか、依桜には誰も勝てないんじゃないか? それこそ、イカサマでもしねーと」
「いや、依桜の場合、イカサマされたとしても、勝つ気がするんだが」
「あり得るわ」
「シャッフル系のイカサマとかなら、相手の自爆、とかね」
「さすがにそれはないよぉ」
「「「「………」」」」
誰も、何も言わなかった。
それどころか、
『いや、お前ならあり得る』
みたいな表情もセットで。
なんだか、本当に申し訳ないよ……。
この後、運要素が絡んでこない、オセロなどで遊んだりもした。
ほかにも、人生ゲームをやって、態徒が銀行の借金の紙がなくなるレベルで借金を負ったのは、さすがに面白かった。
どうしたら、百億以上の借金を作れるんだろう?
そんなこんなで時間は過ぎ、みんなで集まって夕食を食べたの後、
「はぁ~……」
温泉に入っていた。
ここの温泉は、安定の露天風呂でした。
ここは、山の中にあるおかげで、空気は綺麗、そのため星空が本当に綺麗だった。
地元じゃ、絶対に見れない光景に、思わず感動してしまった。
「あ、依桜、ここの露天風呂、肩こりにいいみたいよ~。あなた、胸が大きいから、効果あるんじゃない?」
「ほんと? それはありがたいかも。女の子になってから、肩こりが酷くて……」
母さんがここの温泉についての効能について、教えてくれた。
「まあ、依桜はその胸だしね。そりゃ、肩こるわ」
「依桜君の気持ちはよくわかるよ、わたし。おっぱい大きいと、肩こりが酷くてね~」
「私は、可もなく不可もなくな大きさだから、そこまでではないわね」
「「羨ましい……」」
未果の発言に、ボクと女委はそろって羨んだ。
実際、胸が大きいと、かなり肩がこる。
普段からPCとかやってるから、余計に。
「はぁ~、それにしても、いい湯だね~」
「そ~ね~。普段の疲れが取れるわ~」
「温泉最高……」
「合法的に依桜君の裸が見れるから眼福~」
女委だけ、全く別のベクトルで楽しんでいた。
よく、その相手の母親がいる前で言えるね、それ。
メンタルやっぱりおかしいよ、女委。
「でもやっぱり……これ、反則よね!」
「ひゃんっ! み、未果!?」
いきなり、未果がボクの胸を揉んできた。
またこの展開?
「おー、本当に柔らかい……しかも大きいだけじゃなくて、張りもあるし、形も綺麗だし……元男なのに、この胸はなんなの?」
「そ、そんなこと言われても……」
「でも、本当に依桜のはおっきいわよね~。お母さんよりも大きいし。もし、依桜が最初から女の子だったら、きっと今よりもおっきくなったかもね~」
「や、やめてよ母さん」
たまに、ちょっとしたセクハラを受けつつも、女同士? 楽しい時間を過ごす。
「……この時が、きたっ……!」
「……態徒、悪いことは言わない。やめとけ」
夕飯を食べた後、俺たちは風呂に入りに来ていた。
この旅館、混浴もあったけど、当然別々で入ることに。
正直、依桜が可哀そうだが。
「まあまあ、晶君。今のうちにできることをしておくのも、また青春だぞぅ?」
「いや、そうは言いますが……源次さん。さすがに覗きはちょっと……というか、覗きは、青春ではなく、性春です」
男風呂にいるのは、俺、態徒、依桜のお父さんである、源次さんの三人だけだ。
依桜、未果、女委、依桜のお母さんの、桜子さんは当然女風呂……この柵の向こう側にいる。
時たま、依桜の喘ぎ声に似た何かが聞こえてくるが……まあ、女委が原因だろう。
さっき、部屋でとんでもないことをしたというのに、本当によくやるよ。
「はっはっは! 上手いことを言うなぁ、晶君! しかしだな、男たるもの、覗きの一つや二つ、どうってことないじゃないか!」
「そのどうってことないをして、捕まった人が現実にいるので、洒落にならないです」
覗きは立派な犯罪だ。
しかも、それをしようとしているのが、俺の友人で、それを止めようとせず、逆に推奨してしまっているのが、友人の父親っていうのは、正直どうかと思う。
「なあ、晶。この向こうには……オレの桃源郷が、待ってるんだぜ?」
「待ってるのは桃源郷じゃなくて、地獄郷だとは思うがな」
もちろん、刑務所っていう地獄郷だが。
「うるせえ! 男はなぁ、何を犠牲にしてでも、みたいなものがあるんだ! オレは行く!行って、男になってくる!」
「よっ、漢だね、態徒君! そうだ、その調子で行くんだぞ!」
「任しといてください、お父さんッ!」
あーあーあー。これは、もう俺には止められそうもない。
……ま、向こうには依桜もいることだし、どうにかするだろう。
「いざ……出陣!」
「……む、態徒の気配! そこ!」
何やら、変態の気を感じて、気がある方向に針を投擲。
針は柵にスコーンと刺さる。
すると、
『ぎゃあああああああああああああああああ! 目がぁ、目がああああああああああああああああああ!』
変態の断末魔が聞こえてきた。
「なんて長い断末魔。さっさと死なないかしら?」
「あはは、バル〇トスに向けた一言みたいだね~」
「ま、あいつを殺しても、なんの素材も落ちないけどね」
「落ちるのは、汚い涙くらいものよ」
なんていう会話が発生していた。
急に、スマホゲームの話をしだしたよ、二人とも。
「はぁ、まったく態徒は……概ね、態徒が覗きをしようとして、父さんが助長させちゃったんだろうなぁ……後で、あの二人には説教をプレゼントだね」
ボクは絶対に説教をするという決意を抱きながら、露天風呂を堪能した。
その後、部屋には態徒と父さんが正座している光景が出来上がっていた。
当然、覗きに関することなので、当然の措置です。
むしろ、甘いほうだよ。
事前にボクが止めたからね。
父さんは、自分は覗こうとしていないと言い訳していたけど、態徒の行動を助長させるようなことを言った以上、完全に同罪。
よって、ギルティ。
二人には、しばらく瞬きができなくなるというツボを刺激したので、当分涙が止まらないことだろう。
自業自得です。
そんなこんなで、楽しい温泉旅行の時間は過ぎて行った。
寝て、朝起きて、朝食を摂ってからボクたちは帰途についた。
ちょっとしたアクシデントは多かったけど、それでも思い出に残る、とっても楽しい旅行になった。
またいつか、みんなで行きたいな。
そう思えた、二日間でした。
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