第526話 回想4:お悩み相談コーナー3
時間は戻り、七月上旬。
「お悩み相談室、ですか」
ある日、学園長先生に呼び出され、学園長室に入るなり、開口一番にお悩み相談室に出てほしいと言われた。
「そうそう。またゲストとして出てほしいそうよ」
「なるほど。そういえば、ボクが最後に出たのは……一月でしたっけ」
一応、何度か出る、みたいな感じにはなってたんだけど、何のかんの言って、あまり出てないのが現状。
「そうね。あの後と言えば、なんだかんだでできてなかったし、何より依桜君を出してほしい、って要望が多くて困ってるそうよ、放送部」
「そ、そうなんですか」
そうやって、望まれてるのは嬉しく思うんだけど……如何せん、変なお題が来る時があるからね……そのせいで、たまに恥ずかしい思いをするわけで……。
「それで、どうかしら?」
「うーん…………わかりました。出ましょう」
「ありがとう。早速伝えておくわ」
「はい。それで、いつ出るんですか?」
「今日ね」
「今日って……え、今日なんですか!?」
「ええ、もともと今日呼びたかったみたいなんだけど、時間がなくてオファーが出来なくて、それで私に回ってきた、なんて経緯があるから」
「な、なるほど……」
だからって、当日に言いますか? 普通……。
……まあでも、もともと今日出てほしかった、ということだし……。
「……それで、今回はボクだけなんですか?」
前回はボクともう一人、女委が出てたけど、今回は一人なのかと、学園長先生に尋ねる。
「いえ、また誰かに出てほしいそうよ。できれば、腐島さん以外で」
「わかりました。みんなに話してみます」
「ありがと。それじゃあ、戻っていいわよ」
「はい。失礼します」
そう言って、ボクは学園長室を後にした。
「――というわけなんだけど……誰か一緒に出てくれないかな?」
学園長室から戻った直後に授業となったため、一旦真面目に授業を受け、休み時間にボクはみんなに尋ねていた。
「へぇ~、この学園って、そういうことやってるんだね!」
「まあ、ほとんど思い付きの企画だったんだけど、反応がよかったから今もやってるんだよ」
「なるほどー。それで、うちたちの中からもう一人出てほしい、ってことだよね?」
「そういうことです。だから、誰か出てほしいなーって。あ、女委以外で」
「まー、わたしは前回出たしねぇ。納得納得」
意外とあっさり引き下がった。
女委のことだから、てっきり意地でも参加したい! って言うと思ったんだけど……ちょっと意外。
「となると……私か、晶、態徒、エナの四人のうちの誰かってわけね」
「うん。誰か出ない?」
「私はパス。柄じゃないし」
未果は柄じゃないからダメ、と。
でも、未果って結構その辺り聞き上手だとは思うし……何より変なことを言わないから良さそうだと思うんだけど……まあ、本人が嫌なら仕方ないよね。
「じゃあ、態徒は?」
「あー……オレもパスだなぁ。まず向いてねぇし」
「そっか……エナちゃんは……」
「うち? んー、うちはまだここに転校してきたばかりだから、パスかなぁ」
「それもそうだね」
考えてみれば、エナちゃんがこっちに転校してきたのって、本当に最近だし、そんな人にお願いするのも申し訳ないよね……。
となると……。
「晶、お願いしてもいい?」
晶以外いないよね。
「……あー、俺か?」
ボクに指名された晶はと言えば、少しだけ困惑したような表情を浮かべながら自分を指さした。
「うん。前回は女委で、いろんな意味で大変だったし……晶ならお互いよく理解してるし、大丈夫かなって」
「まあ、小学校からの付き合いだしな。……わかった。俺でよければ出るよ」
「ほんと? ありがとう!」
よかったぁ。
やっぱり晶は頼りになるよ。
それに、晶なら大して問題ごとに発展しないだろうからね。
「あれか? 四時間目が終わったら行けばいいのか?」
「うん。あ、でもお昼に関しては放送部の人が用意してくれるみたいだから、気にしなくていいって」
「そうか。購買部の戦争に参加しなくていいのはありがたいな」
「あはは……うちの学園、何気に戦争になるからね」
まるでマンガの世界のようなことが実際に起こるんだもん。初めて見た時は、それはもう驚いたものです。
ちなみに、ボクたちのグループで購買部を利用してるのは、晶と態徒、それから女委の三人で、ボクと未果、エナちゃんの三人はお弁当です。
安上がりだしね。
「なら、特に必要な物はないわけか……」
「うん。終わったらそのまま一緒に行こ」
「ああ、了解した」
と、ここでチャイムが鳴り、休み時間終了。
なんとか決まってよかった……。
「どーもどーも! お久しぶりですねぇ、依桜さん!」
「はい、お久しぶりです。豊藤先輩。元気でした?」
「そりゃもう元気も元気! というか、あれからお悩み相談コーナーが人気コンテンツになりまして、おかげさまで忙しい限りで」
「あ、そうなんですね」
どうやら、放送部にとっての看板になってるみたいでした。
まあ、ボクも毎週みんなと見てるけど、何気に面白いしね。
「それでー……ふむふむ、今回は男子生徒を連れてきたんですね! いやー、これまたイケメンですねぇ! これは、女子生徒からの評価がうなぎ登りになりそうですぜ!」
「は、ははは……お手柔らかにお願いします」
豊藤先輩の発言に、晶は苦笑いと共にそう答えた。
「おや、依桜さんのお友達にしては、中身は普通なんですね?」
「まるでボクの周りが普通じゃない人の集まりみたいに言わないでくださいよ!?」
「え? 違うんですか?」
「違っ……わないような気はしなくもないですけど……!」
「じゃあ、そうですね」
「うぐっ……」
結局反論できなくて、言葉に詰まった。
……考えてみれば、アイドルな友達に、メイド喫茶店長兼同人作家な友達に、声優さんな友達もいれば、魔王な妹に異世界からきた妹に、異世界最強の暗殺教室に、最近師匠に鍛えられておかしくなってきてる友達に……あー、うん。普通じゃないね……。
実際、本当に普通なのって、未果と晶くらいなんじゃないかなぁ。
他のみんなは明らかに普通とは言い難いし……。
「……晶は変な方向に染まらないでね?」
「依桜が一体何を心配してるのかはわからないが……まぁ、大丈夫だと思うぞ」
「そうだよね。大丈夫だよね……」
うん、未果と晶は大丈夫なはず……。
むしろ、そうさせないようにしよう。
「おっと、そろそろ開始になるんで、お二人ともこちらへどぞどぞー」
「あ、はい」
「わかりました」
ボクたちは豊藤先輩に連れられて、いつもの部屋に入る。
部屋に入ると、ボクと晶は並んで座り、対面側に豊藤先輩が座った。
うん、いつもの状態だね、これ。
「では、早速始めましょう! 西崎、よろしく!」
『それでは、放送始めまーす! 3、2、1……スタート!』
いつものように、西崎君の掛け声で放送が開始。
「学園の皆さん、どーもハロハロー! 今週もこの時間がやってまいりました、叡董学園放送部による、お悩み相談コーナー! えー、毎度の説明ではございますが、このコーナーでは、学園内の様々な人たちから寄せられるお悩みを、放送部部長である私、豊藤千代がバッサリ切り捨てていく、そんなコーナーです!」
切り捨てるのはダメじゃないかな……。
同じことを思ったのか、隣に座る晶も、『それでいいのか……?』とでも言いたげな顔をしていた。
うん、だよね。
「さて! 今回はゲストが二人来ております! 一人は、最早この学園において知らない人はいないくらいの圧倒的知名度を持つ、男女依桜さん! そしてそして、もう一人は男女依桜さんの幼馴染の一人であり、昨年の学園祭において、ミスター叡董で優勝しました、小斯波晶君です!」
相変わらずテンション高いなぁ。
あと、ボクってそんなに知名度ある……んだろうなぁ……。
考えてみれば、女の子になってから散々やらかしてきたから、知ってても不思議じゃないよね……。
「さてさて、お二方、自己紹介をお願いします」
「わかりました。えーっと、みなさんこんにちは。男女依桜です。今回も豊藤先輩に呼ばれて出ることになりました。今回もいい回答ができるように、頑張ります!」
「あー、依桜に頼まれて一緒に出ることになりました、小斯波晶です。こういうのはあまり得意ではないですが……頑張りたいと思います」
「はい、ありがとうございます! いやー、なんか以前、腐島女委さんと出た時とは違って、妙に真面目な感じですねぇ!」
「まあ、女委だからな……」
「あ、あはは……」
晶の言葉に、ボクは苦笑いを零す。
あの時と言えば、かなりはっちゃけてたもんね……。
色々と恥ずかしかったような気もするし、たまに女委が暴走するしで、なかなか大変だった記憶があります。
その点、晶はそういうことがないから全然あり。
「ふむふむ。あ、そうそう、依桜さん……というより、晶君に関しては、普通に砕けた感じで話してもらって大丈夫ですよー」
「それは助かるが……いいんですか?」
「おーけーおーけ! むしろ、自然体の方が悩み相談も捗るってもんです! 特に、お二方はかなり付き合いも長いとか。であれば、普段の自然体でいてくれた方が、面白いと思うのでね!」
「な、なるほど。じゃあ、晶、そうする?」
「そうだな。その方がいいというのなら、そうしようか」
「そうそう、その意気です! では、ゲストの方向性が決まったところで、早速最初のお悩み相談と行きましょう! ではまず一つ目は……こちら!」
ババン!
そんな効果音が鳴った。
なんか、前より進化してる……!
前回まで効果音とかなかった気がするんだけど。
「えー、高等部一年のKさんからですね。『こんにちは! 人によってはくだらないというような悩みで恐縮ですが、この学園に入学してから一向に部活が決まりません。何かおすすめはありますでしょうか? できれば、文化部で、人が少ない所がいいです』とのことですね。なるほどー、部活ですか。えーっと、お二方は何か部活動は?」
「ボクも晶もやってないです」
「そうだな。俺たちは家のこともあったり、他にもバイトをしてたりで帰宅部だ」
「あー、そうでしたか。では、ある意味難しいお題かもしれませんねぇ」
うーん、と三人で唸る。
これは予想外と言うか……そもそも、今の時期に入ろうとするのが何気にすごい気がする。
相談内容からして、かなり優柔不断なのかも。
「ちなみに、お二人はこの学園の文化部について、どこまで知ってます?」
「そうですね……とりあえず、有名どころで言えば、吹奏楽部、科学部、マルチメディア部、美術部、文芸部……かな?」
「それ以外なら、同好会も含めて、マンガ・アニメ同好会や写真部、放送部、新聞部、映画同好会、家庭科部、園芸部、ボードゲーム同好会……あとは電子ゲーム部もあるか。大体なこんなところか?」
「そうですね。一応、生徒会も部活動、という括りに入ってはいますが、あれは例外みたいなもんなんで、文化部はそれくらいですね」
「じゃあ、この中から選ぶ、と」
……数、多くない?
というか、何気に同好会って少ないんだ。
うちの学園の部活の基準って、所属生徒が五人以上で顧問の先生がいること、だもんね。
反対に、同好会は五人未満であること。
一応、顧問がいなくてもいいらしいけど、その代わり顧問がいる同好会に比べて、部費が少なくなったり、専用の教室がもらえなかったりするみたいです。
「んー、とりあえず、部員が少ない部活動をリストアップしますかね。私情報ですと、吹奏楽部、科学部、マルチメディア部、美術部、文芸部辺りは人数が多いですね。まあ、多いの基準がどこからどこまでなのかわからないので、適当ですがね!」
「なるほど……。でも、この時期に入るって考えると、他の部活動で仲良くなれそうなのは……同好会の三つ辺りですかね? 園芸や家庭科が嫌いでなければ、そっちの二つもいいかもしれないですね」
「そうだな。他の部活に関しては、この時期となるとかなり難しいだろうな。コンクールがある部活もあれば、単純にコミュニティが形成されて、入りにくい、という場合があるかもしれないしな」
「なるほどですねぇ。いやはや、今回はかなり真面目な進行で。とはいえ、結構いい線言ってますね。何せ、四月入部とは違って、この時期ですからねぇ。ある意味、そこらがいいかと」
「じゃあ……結論は、映画同好会、アニメ・マンガ同好会、ボードゲーム同好会、嫌じゃなければ園芸部と家庭科部のどれかがおすすめ、ですね」
「それでOKだと思いますぜー。あ、ちなみに我が放送部も全然OKですからね! アットホームな部活ですんで、興味があればぜひぜひ!」
「……アットホームな、が付く場所はブラックなイメージなんだが……」
わかる。
「ではでは、二つ目の相談と参りましょう!」
ババン!
あ、これ毎回流すんだね。
「えー、続いての質問は、中等部二年Yさんですね。『こんにちは。私は今年からこの学園に転入したんですけど、なんだか想像以上にわちゃわちゃしてるなー、と知りました。それで、まだ慣れてなくて……どうしたらいいでしょうか?』とのことです。おや、中等部の生徒からのお悩みですね」
「あれ? 中等部のお悩みって募集してましたっけ?」
「実は今回から募集することになりましてね。というか、高等部の生徒だけじゃなくて、学園にいる人であれば誰でも相談可能になりました」
「範囲が広がってるんだな」
「だ、だね……」
という事は、今後は高等部だけじゃなくて、初等部や中等部の生徒からのお悩みが来るんだ。
それにしても……。
「わ、わちゃわちゃ、かぁ……」
なんと言うか……うん。
初めてだと、そう言う感想になるよね、この学園。
だって、どんなイベントも全力だし、大体がとんでもない方向に向かうしね……。
……そう言えば、今年の球技大会、なにかとんでもないことがあったような気が……うーん、でも思い出せないし、そこまででもなかった、のかな?
うん。なんかよくわからないけど、ここから先は思い出したらいけない気がするから、思い出すのを止めよう。
「まあ、うちの学園はなぁ……色々とぶっ飛んでるからな……」
「あ、あはは……」
「いえいえ、むしろそこが良い所じゃないですか! 私、この学園に入学できてよかったと思ってますよ! でも、そうですねぇ、うちのノリに慣れてたらいいですけど、初めてだと困惑もしますか」
「それはそうですよ。ボクたちだって、入学説明会とか学園祭とかに来てなかったら困惑してたと思いますし……晶はどう思う?」
「同感だな。まあ、俺たちの場合は家が近かったから、というのもあるが……それはそれとして、何も知らずに入学していたら、それはもう驚いただろうな。というより、やっていけるのか心配になる」
真面目な顔でそう言った。
ですよね。
たしかにこの学園のイベントって、ノリについていけないと、かなり心配になるよね。
ボクだって今でこそ異世界に関することがあったから何とかなってる節はあるけど、もしそうじゃなかったらどうなってたかわからないよ。
十中八九、変に疲れてたんじゃないかなぁ。
「さて、雑談はともかくとして、このお悩みに対してどう答えましょうかね?」
「うーん……俺が言えることは、『考えるな、感じろ』だな。正直、一つ一つのことにツッコミを入れてたら気疲れするし、何よりやっていけないからな」
「そ、そうだね。実際、ツッコミどころしかないイベントばかりだけど、そこはもう慣れるしかないと言うか……それに、この学園にいるうちに染まると思います。だって、去年の入学時期はノリに困惑してた人が、気が付けば『ヒャッハー!』みたいな感じになってるからね……」
「あー、それは叡董学園あるあるですねぇ。最初は大人しかった生徒が、一年経過する頃にはものっそいノリノリになっているという」
あるあるなんだ。これ。
「ということは、これがそっくりそのまま回答になる感じですかね」
「あー、そうなんじゃないか? 簡単にまとめれば『いずれ慣れる。というより、慣れないとこの学園でやっていくのが少し難しい』といったところだな」
「ですね。んではでは、中等部二年生のYさん。あまり肩肘張らず、周囲の流れに合わせながら生活すればいいと思います。以上! では、次の質問へ行きましょうか!」
ババン!
「えー、こちらも中等部三年のAさんからです。『こんにちは。実は今、私には好きな人がいて……。その人は高等部の人なんです。特徴は金髪碧眼で、いつも五人グループでいる人です。どうやったら仲良くなれるんでしょうか? 周りには綺麗な人ばかりで気後れしちゃうんです……』とのことですが……あー、晶君、顔、すごいことになってますよ?」
豊藤先輩に指摘されたように、今の晶は言い表しにくい表情をしていました。
近い表現で言えば、苦虫を嚙み潰したような、かな?
「……いや、うん、なんと言うか、だな…………俺、中等部にもそう思われてるのか?」
「だ、大丈夫だよ晶。まだ晶と決まったわけじゃ……」
「あ、なんか続きがありますね。何々? 『ちなみに、そのグループには白銀の女神様がいます』だそうです。おやぁ、ほんと、モッテモテですねぇ?」
ニマニマ、と晶に話題を振る豊藤先輩。
地味に酷い。
「……依桜、どう思う?」
「え、そこボクに振る?」
「俺と同じく、モッテモテな依桜だからこそ、だ」
「ボク、別にモッテモテではないような……?」
まあ、いいけど。
ともあれ、晶が困ってるし……でもこれ、ボクがどうこうする問題というより、晶自身が受け止めなきゃいけない事柄な気がするんだけど。
「とりあえず……あれだね。晶と仲良くなりたいと思うなら、変なことをしなきゃいいと思います」
「変なことですか?」
「はい。晶、小学生時代はともかくとして、中学生時代はそれはもう大変なことになってましたし、今年のバレンタインもなかなかでしたから。なので……普通に話しかけるだけでいいと思います。……って、好き勝手に言っちゃったけど、晶、これ大丈夫?」
「……まあ、それくらいなら問題ない、な。ここで『猛アタックしてみましょう!』とか言ってたら、俺は依桜に本気の正拳突きをしていたかもしれない」
「晶がそこまで言うレベルって……」
つまり、それほどモテたくない、ということだよね?
まあでも、晶って昔から苦労してたからね。
ボクと同じで、他の人と髪色と目の色が違う事を弄られてたし。
「ちなみに、晶君の好みの女性ってあるので?」
「あー、俺の?」
「はいはい。正直、晶君狙いの人は多いですからねぇ。なので、ここは一つ言ってもいいので? と」
「そうだな…………とりあえず、常識があって、非常識なことをしない、そして優しい心の持ち主、だな」
「晶……」
求めるレベルがそれって……本当に、苦労してるんだね……。
「ちなみに、容姿については?」
「……正直、性格さえまともなら、容姿は気にしない。強いて言えば、清潔感がある人、だな」
「なるほどなるほど。それは大事ですからねぇ。いつぞやのお悩み相談コーナーでも、依桜さんが言ってましたしね」
「あはは……」
そう言えばそんなこと言ったっけ。
ということは、晶も割とボクに近い恋愛観を持ってるのかも。
「ともあれ、今回の回答としては『常識的な範囲で接する』でいいんですかね? 晶君」
「そう、だな。正直、非常識なことをしなければ構わない」
「おーけーおーけ! じゃあこのお悩みは解決、ということで。では……次のお悩みです」
ババン!
「こちらは、あー、似たような悩みが多いので、まとめて行こうと思います。初等部三年生のKさん、Sさん、Oさん、初等部四年生Jさん、Tさん、Eさんからですね。『ちょっとまえに新しく転校してきた男女さんたちが可愛くて気になってます。告白したいな、って思ってます。どうすればいいでしょうか?』とのことですが……って、うお!? い、依桜さん!?」
ボクの、妹たちに、告白……?
「…………豊藤先輩」
「は、はひっ!?」
「その子たちは……男の子、ですよね?」
「え、あ、そ、それはプライバシー的なあれこれになりますんで、言えな――」
「男の子、ですよね?」
「……はい」
男の子……男の子かぁ……。
「ふふ、ふふふふ……いい度胸してますねぇ、その子供たちは。ふふふ……ボクの大事な妹に告白……ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふ――!」
「ちょぉっ!? 晶君、なんか依桜さんが怖いんですけど!? どうしちゃったんですかこれぇ!?」
「あ、あー、依桜は非の打ち所がない完璧超人と思われがちだが……ここ最近、唯一の欠点が発覚してな……それが、超が付くほどのシスコンということなんだ」
「マジで!?」
「マジです」
「ち、ちなみに、それはどの程度……?」
「……依桜曰く、『誘拐する人がいたら、その人たち全員を叩き潰す』らしい」
「こわ……」
なんだろう、二人が何かを話してるような気がする。
……まあいっか。
とりあえず、今重要なのは……。
「ボクの妹たちに手を出そうとしている人がいる、っていうことだよね」
「まだそうとは決まってないからな!?」
「え? でも、告白したいって思ってるみたいだよ?」
「別に告白くらいいだろ! というか、あの娘たち普段から依桜にべったりだし、何より依桜を優先してるだろ? だから告白を受けるわけないから!」
「…………それもそっか」
考えてみれば、みんなボクにいつもくっついてるし、誰かと付き合う、なんてことはないよね。
というより、みんなにはまだ早いし、そういうことは。
「はぁ……落ち着いたか」
「おー、殺気のようなものが引っ込みましたねぇ。いやー、怖かった」
「……まったくだ」
「んじゃあ、続きと行きますか。えー、依桜さん的には、妹さんたちを大事に思ってるんですよね?」
「当然ですね。みんな大事な妹です」
ボクの中での優先順位は、いつものみんなと妹たちが優先されるので。
「なら、小学生時ではなく、高校生以降になってからで考えた時、妹さんたちの彼氏になる人の条件とかってあるんで?」
「そうですね……とりあえず、ボクに勝てる人で」
「……ちなみに、その勝つ、というのは何で?」
「え? 戦闘力」
「あなたはどこかの戦闘民族なんですか?」
「違いますけど?」
「じゃあ、何故戦闘力?」
「だって、ボクに勝てないようじゃ、みんなを守るのは無理だと思いますし。世の中何が起こるかわかりませんからね」
「説得力が違うな……」
まあ、ほぼ実体験だし。
異世界に行くことなんて、最近じゃよくあること、で済ませることができるしね。
とはいえ、それを抜きにしても、妹たちを守るのは最も重要なことだし、何よりそれができないようじゃ相応しくないしね!
「つまり……依桜さんに勝てば、許可が下りる、と?」
「まあ、そうですね。もちろん、ボクは自分の持つ手段を使って勝ちに行きますし、手加減も一切しませんけどね♪」
「うわー、すっごいいい笑顔なのに、すんごい怖い」
あれ、なんで引き攣った笑みを浮かべてるんだろう?
「えー、じゃあ、結論をお願いします」
「そうですね……『ボクに勝てるようになってから告白してください』以上です」
「依桜、お前……シスコンが重症化してないか? というか、そこまで行くと最早重篤レベルだろ」
「え? 普通じゃないの?」
「「普通じゃない」」
「そうなんだ?」
うーん、ボク的には普通だと思うんだけどなぁ……。
「えー、というわけで、今のお悩みとは別に、依桜さんに対する結論として……『男女依桜さんは、超が付くシスコンで、妹さんたちに告白するには、依桜さんに勝たなきゃいけないほどの、弩級のやべー人』ということですね」
「ちょっと待ってください!? それはなんか誤解を生む気がするんですが!」
「いや誤解じゃないと思うんだが。むしろ正解だと思うし、自分でそんなようなことを言ってただろう」
「晶!?」
「えー! 依桜さんがやべー人だと発覚したところで、次に行きましょうか!」
「あれ!? ねえ、なんかおかしくないですか!? え、あの、聞いてます? あの、豊藤先輩!?」
ボクの言葉は無視され、結局このままお悩み相談コーナーは進行していきました。
この時のお悩み相談コーナーが原因だったのか、これ以降、ボクはやべーシスコンの人、という風な噂が広まることになりました。
なんででしょうか……。
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