第156話 依桜ちゃんサンタさん4

 師匠の朝食を用意した後、ほどなくしてお昼に。


 師匠に、


「おひるたべますか?」


 と訊いたら、


「食べるに決まってるだろ」


 と返されました。


 ちなみに、師匠が朝食を食べてから、わずか二時間ほどしか経っていません。

 ……食い意地が張っているのか、単純に燃費の問題なのか……。


 でも、師匠って神様に近いって言ってたけど、実際必要なのかな、食事。

 なんてことを思いつつ、お昼ご飯を作る。


 材料は……ほとんどなかった。


 あるのは、ハムにネギ、卵、乾燥わかめ。

 あとは、ご飯があるくらい。

 でも、調味料はちゃんとあるし、これだけあればチャーハンが作れるね。


 正直、この姿だと体が小さくなっているせいで、ちょっと料理しにくいんだけど、まあ仕方がない。


 こうなったのは、ほとんど師匠のせいでもあるんだけどね。

 ……まあ、確率が二分の一と言っていたけど、ボクの場合、その二分の一で外れを引いていた気がしなくもないんですけどね。


 少し苦労しながらも、チャーハンとわかめスープを作る。

 出来立てをすでに座って待っている師匠の前に置く。

 ……いつの間に。


「どうぞ」

「ああ、いただくぞ」


 いつも通りに、師匠が食べ始める。


「うむ、美味いな。やはり、依桜の料理が一番好きだぞ、あたしは」

「あ、ありがとうございます」


 うぅ~、こうも正面から言われると……て、照れる。

 どうにも、師匠には赤面させられてばかりだよぉ……。


「それで、今日は昼からいないんだよな?」

「はい。きのういわれたとおりですね」

「……お前、大抵の頼み事は断らないからな。正直、いつか騙されそうで心配だぞ、あたしは」

「だ、だいじょうぶですよ。すくなくとも、そういったはんだんはできます」

「……それもそうか。でなきゃ、あたしがぶっとばしてる」


 それはそれでおかしいような……?


 でも、事実として、ボクはそう言う悪事は絶対しない。


 向こうの世界でやったことは、こっちの世界においての犯罪には当たる。

 別に、それに対して何も思わないわけじゃない。


 あれはボクの背負うべき業。


 でも、罪を犯すのはあれっきりです。他のことは、絶対にしない。

 それをやってしまったら、なんだか価値観が変わってしまいそうで。


 ……ま、まあ、今日やることは、犯罪になるんじゃないか、ってすごく心配なわけだけど……。


「ま、とりあえず、気を付けてけよ。と言っても、この世界において、お前は最強だろう。まあ、あたしがいるから、その次になるが」

「……ししょうにかてるわけないじゃないですか」

「そう簡単に超えさせてたまるか。超えられないからこそ、師匠を名乗れるんだよ。そうやすやすと超えられたら、師匠にはなれんよ」

「ししょうらしいですね」

「そりゃ、あたしだからな」


 からからと笑う師匠。


 普通に強さの面でも、精神的な面でも、一生かかっても追いつけない気がするよ、師匠には。

 普段、雑で、適当な人だけど、なんだかんだでよく見てくれてるし、しっかり助言もしてくれる。

 言い方は悪いけど、最後まで見放さず、付き合ってくれるし。

 師匠は本当にいい人だと思うよ。


「ごちそーさん。それじゃ、あたしはちょっと外出してくる」

「あれ? きょうはやすみですよね? どうしたんですか?」

「いやなに。あたしはあたしで、やることがあるんだよ」

「わかりました。えっと、どれくらいかかりますか?」

「ん? そうだな……色々なところを回っているからなぁ……少なくとも、夜九時には帰るつもりだが……」

「けっこういるんですね。……ちょっとまってください」


 少し考えてから、師匠に待つよう言う。

 拒否することなく、師匠は軽く頷き、それを見てからボクはキッチンへ。

 炊飯器の中から、残りのご飯を全部かっさらって、おにぎりを作る。

 最後にそれをラップでくるんで、師匠に手渡す。


「ししょう、これもっていってください。おなかすくとおもいますから」

「お! さすがイオ! ほんと、気が利くな。マジで、いいお嫁さんになれそうだな」

「ふぇ!? へ、へんなこといわないでください! ボクは、およめさんには、ならない……ならな……」


 そう言いながら、ちょっと止まる。


『いってらっしゃい、あなた❤』


 ……ちょっとお嫁さんになったボクが想像できてしまった。

 可愛い洋服に、エプロンをしてる姿で、旦那さんを見送る姿が。


 って! 違う違う違う! ボクは男! ボクは男っ!

 お嫁さんじゃなくて、お婿さんだからぁ!


 ……今は、性別的になれないけど……。


「どうしたどうした? もしやお前、想像しちまったのか?」

「ちっ、ちちちちがいますよ!? べ、べつに、お、およめさんになったすがたをそうぞうしたわけじゃ……ない、ですよ?」

「ぐっ」


 ボクが否定すると、師匠がちょっと顔を赤らめながら、胸を抑えだした。

 え、ど、どうしたの?


(こいつ、わかっててやってんの!? 今の姿で、顔を赤くしながらの上目遣いとか反則だろ!? や、やばいっ。可愛すぎて、萌え死にしそうっ……! この、伝説の暗殺者とも呼ばれた、このあたしがっ……で、弟子の可愛さで死ぬとか……いや、それはそれでありだな)


「し、ししょう……?」

「あ、ああすまん。そ、それじゃ、あたしは行ってくる! 気を付けて行けよ!」

「は、はい。いってらっしゃい」


 なぜか、逃げるように師匠は家を飛び出していった。

 ど、どうしたんだろう?

 ボク、何かやっちゃったかな……?


「……とりあえず、ボクもじゅんびしちゃおう」


 師匠の反応が気になるものの、ボクもそろそろ準備しないといけない時間だったので、準備をすることにした。



「えーっと、ようふく……」


 自室に戻って着替える。

 クローゼットの中から洋服を選んでいると……


 ブー! ブー!


 と、スマホのバイブレーションが。


「メール?」


 一旦服選びを止め、メールを確認。


 一応、何かの広告かもしれないけど、これでもし、未果たちや母さんたちと言った、知り合いだったら困るからね。稀に、師匠から来る時もあるし。


 えーっと、送信者は……


「あれ、がくえんちょうせんせい?」


 学園長先生からだった。

 とりあえず、メールを読む。


『こんにちは! 今日の服装に関して言ってなかったからね、伝えるわ。えーっと、とりあえず渡した衣装で来てね! よろしく!』


 ……な、なるほど。


「つまり……きのうがくえんちょうせんせいにわたされたふくでいかないとけないってことだよね……?」


 ……あんまりいい印象を抱いていないんだけど……指示されてしまった以上仕方ない。

 たしか、渡された洋服は三つ。

 別々の包みに入れられていて、包みにはそれぞれ、


『女神』『天使』『ケモロリっ娘』


 と書かれていた。


 ……どれを取り出せばいいのかわかってしまうのが何と言うか……うん。嫌だ。


 いつまでも固まってはいられないし、とりあえず『ケモロリっ娘』と書かれた包みを取り、服を取り出す。


 果たして、どんな恥ずかしい格好が……って、


「あれ? ふつうだ……」


 普通の衣装だった。

 まさかの普通の衣装にびっくりするものの、とりあえず洋服を着てみる。


「か、かわいい……」


 衣装はかなり可愛いデザインだった。


 全体的に赤と白を基調としたデザインで、ミニワンピースに近い。

 と言っても、袖は長いし、スカートの裾にはもこもこが付いている。


 ワンピースと一緒に、ケープも入っていた。

 ケープにももこもこが付いていて、かなり暖かい。


 ワンピースには、綿でできたポンポンが付いているなど、小さい女の子向けの衣装だ。


 その他の付属品として、白のニーハイソックスと茶色のブーツが入っていた。


 ニーハイソックスには、赤いリボンが付いていて、しかもこっちにもワンピースに付いていたような、小さな白いポンポンが付いていた。


 ブーツは、特に変わったところはないけど、履き心地がよさそうで、暖かそう。


 これらの衣装を身に着けて思ったこと。……今の姿にピッタリすぎる。


 ちなみに、ワンピースには、尻尾穴が付いてました。


「これならはずかしくないね」


 いつものパターンなら、絶対に露出度が高い衣装が来ると思ったんだけど……杞憂で何より。

 ……そう言えば、他の包みにはどういうのが入っていたんだろう?

 ふと気になったので、一応『女神』『天使』と書かれたそれぞれの包みを確認。


「……」


 無言になった。


 『天使』と書かれた包みに入っていたのは、今ボクが着ている洋服に近くて、普通に暖かそうだった。


 で、問題は『女神』と書かれた方で……。


「ふ、ふゆにこのろしゅつはさむいよ!?」


 圧倒的に露出度が高かった。


 まず、おへそが丸出しになるし、スカートもすっごく短い。


 というより、上に関しては、胸を覆うだけだよ!? それに、普通に上から胸が見えちゃうし、上半身を覆う範囲は、明らかに、胸とおへそから少し上の辺りまでなんだけど。


 が、学園長先生、こんな恥ずかしい服を着せようとしてたの?

 ……あ、ある意味今の姿でよかったような……。


「なにもみなかったことにしよう」


 見なかったことにして、洋服はクローゼットの奥の方にしまい込んだ。



 着替え終わった後、少しだけ本を読んでから家を出た。


 家を出ると、なにやら視線がボクに向かっている気がした……というか、向かっていると思います。

 すれ違う人や、反対側の歩道を歩いている人などから、視線が来てるし……。


『何あの娘……可愛すぎぃ……』

『あの服を選んだ人のセンスのよさよ!』

『……尊すぎる』

『今時、あんな耳と尻尾を付けた幼女がいるなんて……』

『いや、今時も何もいないだろ。……だが、なんだ、あの究極生命体は』

『可愛さが天使過ぎる……』


 小声で、何か言われてるような……?


 も、もしかして、似合ってない? それとも、どこかおかしなところでもあるのかな……?

 自分の着ている服に見るけど、特に変なところはない。


 な、何だったんだろう?


 感じた視線が気になるものの、考えてもわからず、学園へ向かった。


 ……そう言えば、道中すれ違った小学生の男の子とかが、ボクを見て顔を赤くしてぼーっとしていたんだけど……あれもなんだったんだろう?



 学園に到着。

 校門をくぐり、敷地内へ。


 グラウンドの方から、運動部の様々な声が聞こえてきて、心の中で頑張れー、と応援。

 冬休みでも、部活動は休みじゃないから大変そうだよね。


 高校生になってからは部活動はやってないけど、中学生の時は、部活動強制参加だったから、『家庭科部』に入ってたっけ。

 まあ、得意分野だったからよかったんだけどね。


 でもまあ、みんなバラバラの部活に入っていたけどね。


 確か、未果が『書道部』。晶が『美術部』。態徒が『写真部』。女委が『マンガ・アニメ部』だったはず。


 見事にみんな文化部だったなぁ。


 そう言えば、入学した直後の、部活動見学期間の間とか、なぜか『家庭科部』の勧誘を受けてたっけ。


 なんでだろう?


 まあ、部活動はやる気がなかったから、結局断ったんだけどね。


 そのおかげで、みんなと一緒に帰ったり、放課後遊びに行ったりできるから全然いいんだけどね。


 もし部活動に入るのなら、自分たちで部活を設立して、五人でやることになりそうだけど。


 なんてことを考えながら歩いていたら、学園長室に到着。


 いつものようにノック。


『どうぞ』


 そして、いつものお決まりのセリフが聞こえてきて、中に入る。

 ……身長が縮んでいるせいで、ドアノブが高い。


「しつれいします」

「依桜君ね。こんにちは……って、あら?」

「こんにちは、がくえんちょうせんせい」

「あー、なるほど。今日はケモロリっ娘なのね。うん。可愛い! やっぱり、美幼女にケモ耳ケモ尻尾は反則よねぇ」

「はんそく?」

「反則よー。だって、普通はここまでマッチしている人なんていないないわよ。なんとなく、通常時の依桜君に耳と尻尾が付いた姿が気になるところではあるけど」

「さ、さすがにそれはないですよ」


 ……多分。

 少なくとも、今さら、解呪の失敗による副作用が出るとは思えないし……。

 ……あれ、ないよね? 絶対ないよね?

 無性に心配になって来た。


「さて、依桜君が来たことだし、体育間に移動しましょうか」

「あ、はい」



 体育館に移動。


 道中、学園に向かっていた時と同じように、すれ違った人たちからの視線がすごかった。

 やっぱり、どこか変なところでもあるのかな……?

 顔が赤かったのが気になるけど。


「これが、今日配るプレゼントよ」

「わ、わぁ~~……お、おおいですね」


 体育館に入ると、そこには山積みにされた包みが。

 包みは様々で、アニメやマンガでよく見る様な、立方体の箱にリボンと言ったものや、直方体の包み。それ以外に、紙でできた包みなど、様々で、色とりどり。


「これぜんぶ、がくえんちょうせんせいが……?」

「当然。さいっこうの思い出にしてあげたいからね、生徒の」


 ……お祭りごとでは割とふざけた発想をしたりするけど、なんだかんだ言って、それは全部生徒のため、なんだよね。

 ある意味、一番生徒思いの先生、なんだよね、学園長先生は。


「まあでも、あまりにも高すぎる物とかは無理だったけどね」

「そういえば、いちばんたかいものっていくらなんですか?」

「そうね……五万近くかしら?」

「ええ!? そ、そんなにするものをこんなに!?」


 いくらなんでも、生徒のために全力投球すぎない!?


「いえいえ、さすがに全部じゃないわよ。その人の頑張りに合わせたものを買ったのよ。ちなみに、あまり頑張っていなかったり、問題を起こした人には、千円程度のものよ」

「らくさがすごいですね……」

「当然。頑張った人にはご褒美って言うわけよ。ちなみに、依桜君のプレゼントもちゃんとあるからね。……まあ、依桜君の欲しいものって、かなり浮いていたけどね。本当に、あれでよかったの?」

「はい! さいきん、ガタがきてて……かいかえどきかなぁって」

「まあ、依桜君がいいならいいんだけどね」


 学園長先生の様子だと、欲しいものを用意してくれたみたい。

 楽しみだよ。



 立ち話もほどほどに、プレゼントを『アイテムボックス』に次々と入れていく。


 中身が見えないようになっているので、それぞれの包みにはわかりやすいよう、プレゼントする人の名前が書かれている。


 なので、それを見てから、『アイテムボックス』に入れる。


 何かしらで判別できないと、取り出すことができないそうで。


 その辺りはちょっと不便かもしれないけど、仮に忘れていたとしても、一度認識していればいいらしいけどね。


 片っ端から入れていくこと三時間ほど。


 八百四十個もあった包みもなくなり、日常的に見ていた体育館になった。


 外を見れば、すでに真っ暗。

 最近冬至を過ぎたばかりだから、当然なんだけど。


「お、おわったぁ……」

「お疲れ様、依桜君。はい、ホットココア」

「あ、ありがとうございます」


 終わったのと同じタイミングで学園長先生から、缶のホットココアを渡され、受け取る。

 一応暖房が備え付けられているものの、寒いことには変わらず、少し手が冷えていた。

 なので、ホットココアが入った缶はじんわりと手を温かくしてくれる。

 プルタブを開けて、少し冷ましつつホットココアを飲み一息。


「さて、昨日言った通り、夜ご飯を食べに行きましょうか。何が食べたい?」

「えっと、そうですね……」


 そう言えば、そんなことを言ってたっけ。

 考えなかったなぁ……。

 うーん、食べたいもの……食べたいものかぁ。


「ようしょく、でしょうか?」

「洋食か……なら、近くに美味しいパスタのお店があるんだけどそこでいいかしら?」

「はい、だいじょうぶです」

「それじゃ、ちょっと夜ご飯には早いかもしれないけど、行きましょうか」

「はい」


 というわけで、ちょっと早めの夜ご飯を食べに行きました。



 学園長先生がご馳走してくれたお店の料理は、すっごく美味しかったです。


 行ったお店では、『サービスです』と言いながら、ウエイターさんが、ボクの目の前にジュースとショートケーキを置いて行ったけど。


 さすがに遠慮しようと思ったんだけど、強引に押し切られて、結局いただいてしまった。


 子供だったからかな?


 ちなみに、ケーキもすっごく美味しかったです。


 そして、料理を食べた後は、軽く学園の方で休憩を取ってから、プレゼント配りを始める時間になった。

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