第350話 オールスター第一戦

 熊本ファイアーズの本拠地である肥後スタジアムに到着すると、いつもの公式戦とは違う華やいだ雰囲気に満ち溢れていた。


 球場周りにはいつもの赤基調のユニフォームだけでなく、黒や青、白、緑など12球団のカラフルなユニフォームに身を包んだファンの方が大勢集まっていた。まさに百花繚乱。

 

 球場の開場時間まで、まだかなり時間があると思うが、それでも既に多くのファンの方が集まっている。

 異なる球団のユニフォームを来たファンの方々が談笑しているのも、オールスターならではの光景だろう。


 マスコミもいつもより多く来ており、女性アナウンサーの数も多い。

 キー局のテレビ画面でしか見たことがない、有名な美人アナウンサーなんかも来ていて、サインをもらいたいと思った。

 インタビューを受けたが、緊張して、自分でも何を言ったか記憶にない。


 今日の試合のスタメンは、基本的にファン投票で選ばれた選手が中心なので、僕は控えである。

 というか、出場機会はあるのだろうか。

 恐らくあるとすれば代走か守備固めでの出場だろうが、できれば1打席で良いのでバッターボックスに立ちたいものだ。


 しかし周りを渡すと、球界のスター選手ばかりで、僕がここにいることが不思議に感じる。

 もらっている年俸だって、下から数えて何番目かだろう。


 妹からLINEが来た。

 オールスターはスポンサー商品も多いので、これとこれとこれが欲しいので、頑張ってという内容だ。

 どこでそんな事を調べたんだろう。

 例え貰ってもやらないが。


 そしてオールスターならではとして、試合前にホームラン競争がある。

 もちろん僕は出ない。

 出るわけもない。

 盗塁競争とか、ファインプレー競争があれば、少しは自信があるが。


 そして試合が始まった。

 今日はシーリーグの熊本ファイアーズの本拠地なので、スカイリーグが先行、シーリーグが後攻である。


 シーリーグの先発は、我が札幌ホワイトベアーズの青村投手。

 スカイリーグの1番、静岡オーシャンズの新井選手が打席に入り、いよいよオールスター第一戦が始まった。


 試合は投手戦となり、無得点のまま5回を終えた。

 5回終了後はグラウンド整備と12球団のチアリーダーの華やかな演舞、各チームのマスコットキャラクターのパフォーマンスがある。

 そして試合再開となった。


 僕は引き続き、ベンチ警備、声出しを頑張っている。

 試合は6回表にスカイリーグが黒沢選手のタイムリーヒットで1点を先制した。


 そして7回裏、シーリーグはワンアウトから、仙台ブルーリーブスの深町選手のヒットで、久々のランナーを出した。

 

「おい高橋、代走だ」

 ベンチの最前列で、相手チームを野次っていたら、村野監督に声をかけられた。

 ようやく出番だ。


 僕はトレードマークの青いスライディンググローブを手に嵌め、颯爽とベンチを飛び出し、一塁に向かった。

 ようやく出番だ。

 爪痕を残してやるぜ。


 スカイリーグのマウンドは、新潟コンドルスの畠山投手。

 クイックが上手いので、牽制球には注意だ。


 そしてキャッチャーは強肩の高台捕手。

 簡単には盗塁させてくれないだろう。

 ベンチのサインは…盗塁。

 いきなりかい。


 僕は相手に読まれないように慎重にリードした。

 牽制球が立て続けに2球きた。


 そしてバッターの京阪ジャガーズの弓田への第一球目を投げた…、と思ったら、ピッチャープレートを外していた。

 やばい、間に合わない。


 僕は開き直って、二塁に走った。

 やはり畠山投手は牽制球が上手い。

 完全に裏をかかれた。

 僕は一、二塁間に挾まれた。

 だがアウトになるまでは粘ってやる。


 一塁の四国アイランズの一条選手からの送球がセカンドの黒沢選手に渡る。

 僕はそれを見て、一塁に引き返す。

 だが黒沢選手からのボールがベースカバーに入った畠山投手に渡る。


 僕はまた二塁に引き返す。

 そして畠山投手はカバーに入った新井選手に送球する…。

 

 頭にガーンと衝撃を受けた。

「痛…くはない」

 何と畠山投手からの送球が僕の頭のヘルメットに当たったのだ。

 ボールが転々とする間に、二塁に向かった。

 結果オーライ…。


 シーリーグベンチのチームメイトは笑っているが、これがシーズン中なら大目玉を喰らうところだ。

 何はともあれ、ワンアウト二塁のチャンスだ。

 

 


 


 

 

 


 


 


 


 

 

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