第235話 エース対決
プレイボールがかかり、試合が始まった。
僕は打席に入り、山崎と対峙した。
一年ぶりに対戦する山崎は、以前にも増して鋭い目つきをしている。
高校時代のような不遜な態度ではなく、堂々とした、自信に満ちた表情をしていた。
昨年の対戦時は、僕が打席に立つと、微かに口元に笑みを浮かべたが、今日は無表情のままである。
内心は意識していないはずはないと思うが、表情からは読み取れなかった。
初球。
真ん中低めへのストレート。
微妙に浮き上がったように感じた。
手元で伸びてきたので、そう感じたのだろう。
見送ったが、判定はストライク。
例えバットに当たったとしても内野ゴロが関の山だ。
2球目。
外角低めへのスプリット。
これも見送ったが、判定はストライク。
ストライクゾーンの隅に入ったらしい。
球速を維持しながら、針の穴を通すようなコントロールを身につけたようだ。
3球目。
ど真ん中へのストレート。
またしても浮き上がるように感じた。
強振したが、バットが根本から折れてしまった。
打球はボテボテのピッチャーゴロ。
一塁に向かったが、もちろんアウト。
手には痺れが残っている。
昨年よりも一層レベルアップしたようだ。
そして2番の伊勢原選手、3番の岸選手と連続三振し、簡単に1回の攻撃が終わってしまった。
1回裏。
児島投手もエースの貫禄を見せ、三者凡退に抑えた。
今日は投手戦の予感がする。
2回表、4番の岡村選手からの打順であったが、三振、キャッチャーゴロ、ピッチャーゴロとバッティングをさせて貰えなかった。
スピードガンの球速だけなら、速いピッチャーは、プロには数多くいる。
だが山崎の球は投げた瞬間よりも、ホームベース付近の方がより速く感じるのだ。
2回裏も児島投手は三者凡退に抑えた。
最近の児島投手はどちらかと言うと、軟投派になりつつあり、球の勢いよりも駆け引きで打者を打ち取るというスタイルに変わってきている。
しかしながら今日の児島投手からは、一人もランナーを出してたまるか、という鬼気迫るような印象を受ける。
その姿に僕は、泉州ブラックスのエースとしての矜持を見た。
3回表は7番の宮前選手からの打順だったが、ピッチャーの児島投手を含めて、三人とも三球三振。
更にエンジンがかかってきたようだ。
3回裏も児島投手は山崎に負けじと気合が入ったピッチングを披露し、やはり三者凡退に抑えた。
序盤が終わって、両チームとも一人のランナーも出していない。
凄まじい投手戦になってきた。
4回表は僕からの打順である。
セーフティーバントで揺すぶるということも頭を掠めた。
ベンチのサインは何も出ていない。
僕はバットをいつもより握りこぶし一つ分短く持った。
初球。
外角低めへのツーシーム。
遠く見えたので見送ったが、判定はストライク。
2球目。
内角高めへのストレート。
仰け反って避けた。
これはさすがにボール。
カウントはワンボール、ワンストライク。
3球目。
外角低めへのスプリット。
手が出なかったが、判定はボール。
4球目。
またしても外角低めへのスプリット。
これはさっきよりも近く見えたので、バットに当てた。
ファール。
カウントはツーボール、ツーストライク。
5球目。
ストレートかと思ったが、落ちた。
チェンジアップか。
辛うじてファールとした。
カウントは変わらず、ツーボールツーストライク。
6球目。
内角のベルト付近へのツーシーム。
手が出なかった。
判定はストレート。
見逃しの三振を喫してしまった。
僕はベンチに戻りながら、マウンドの山崎の様子を見たが、相変わらず無表情で、キャッチャーからのボールを受け取っていた。
マウンド捌きも堂に入っている。
もはやそこにはすぐに熱くなる高校時代の山崎の姿はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます