第581話 リラックスリラックス

 試合は3対2のまま、5回を終了した。

 先発のバーリン投手は、初回に3失点したものの、その後は立ち直り、2回以降は素晴らしいピッチングをしている。


 そして6回表も続投するようで、グラウンド整備の間、ダンカン選手と英語で何かを話している。

 しかしよく飽きずにそんなに話すことがあるものだ。

 僕が谷口や五香選手とと会話しても、3分と続かない。


 6回表もバーリン投手は川崎ライツ打線を3人で抑え、軽やかな足取りでベンチに戻っていった。

 あの様子なら、次の回も投げるのだろう。


 6回裏、この回の先頭バッターは僕である。

 札幌ホワイトベアーズとしても、ダンカン選手のホームランの後は完璧に抑えられており、ここらで雰囲気を変えたいところだ。

 ちなみに僕の2打席目は三振だった。


 川崎ライツのマウンドには引き続き、先発の深沢投手が投げている。

 打てそうで打てない。

 捉えられそうで捉えられない。

 そんなタイプのピッチャーであり、攻める方としてはストレスが溜まる。

 剛速球でバシッと抑えられたほうが、まだスッキリとする。


 ということで、そういう相手には僕も相手が嫌がることをする。

 つまりファールで粘るのだ。

 球速がそれほどでもないので、バットに当てやすい。

 ネバネバネバネバ。


 ということで簡単にツーストライクと追い込まれてから、粘りに粘ってフォアボールを勝ち取った。

 こういう相手はヒットを打たれるより、フォアボールでランナーを出す方が嫌のようだ。


 一塁ランナーは、リーグ屈指のスピードスターの僕。

 そしてバッターは同じく俊足の湯川選手。

 さあ何をやっていきましょうか。


 ここは送りバントだとつまらない。

 盗塁かヒットエンドランをやっていきましょう。


 ベンチのサインは、グリーンライト。

 つまりチャンスがあれば、盗塁しても良いよ、ということだ。


 相手バッテリーはかなり警戒している。

 いくらスピードスター(あくまでも自称です。作者より)の僕でもこれだけの警戒の中で、盗塁を決めるのは至難の業である。


 ということでスタートを切れないまま、カウントはワンボール、ツーストライクとなった。

 さあどうしましょうか。

 僕はベンチのサインを見た。


 サインはヒットエンドラン。

 良いね、セオリー無視。

 まあ湯川選手なら、ツーストライクでも何とかバットに当てることはできるかもしれない。

 そして空振りしても、僕の足なら盗塁を決める可能性はある。


 そして深沢投手が投げた瞬間、僕はスタートを切った。

 投球は外角高めだ。


 湯川選手のバットはあえなく空を切り、僕は懸命に二塁に走った。

 でもタッチアウト。

 最悪の三振ゲッツーだ。

 これでチャンスが潰えた…と思われたが、野球はツーアウトから。


 下山選手がフォアボールを選び、ダンカン選手がツーベースヒット。

 そしてツーアウト二、三塁の大チャンスでバッターは谷口を迎えた。


 そしてツーストライクと追い込まれながらも、深川投手のチェンジアップをフルスイングした。

 擦ったような打球が、フラフラと一塁後方に上がり、ライトの前に落ちた。


 ランナーが2人返り、逆転タイムリーポテンヒットとなった。

 谷口は一塁ベース上で僕の方にガッツポーズして見せた。


 得意満面な顔をしているけど、単なるバカヅキだろう。

 こういうのを結果オーライという。


 そして6番の光村選手もレフト線にツーベースヒットを放ち、これでツーアウトながら二、三塁のチャンスとなった。

 川崎ライツはここでピッチャーを仁藤投手に変えるようだ。

 

 続くバッターは安牌の佐和山選手であるが、佐和山選手もバットを持っているので、当たりどころによってはヒットになることもある。

 ここはさらなる追加点はやれないということだろう。


 佐和山選手は仁藤投手が投球練習をしている間、何度も素振りをしている。

 見るからに気合が入っているのがわかる。

 でも気合が入りすぎても、固くなるだけだ。

 リラックス、リラックス。


 僕は佐和山選手がこっちを見たので、肩の力を抜くように、ジェスチャーした。

 伝わっているのかはわからないが…。

 まあ頑張れ。


 

 

 

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