第268話 トンネルを抜けた先には…

 2回裏の札幌ホワイトベアーズの攻撃はランナーを2人出したものの、無得点に終わった。

 次の回は僕からの打順だ。


 3回表の守備では、平凡なゴロを1つ無難に捌いた。

 そしてその裏、僕は今日2打席目を迎えた。


 初球、真ん中低めへのストレート。

 僕は三塁側を狙って、セーフティーバントをした。

 うまく打球を殺すことができて、ピッチャーとサードのちょうど間に転がった。

 サードの芳村選手が突っ込んできて、素手でボールを拾い上げて投げてきた。

 僕は一塁を駆け抜け、判定はセーフ。

 これで昨日から3打席連続ヒットで、今日は2打数2安打。

 移籍後、24打数3安打の打率.125となり、まだ一割台ではあるがようやく調子が出てきた。


 次の西野選手は送りバントの構えをしている。

 点差は1点であり、ノーアウトランナー一塁の場面ではセオリーだろう。


 初球、低めへのストレート。

 西野選手はバットを引いた。

 そして僕はスタートを切っていた。

 キャッチャーの渡嘉敷選手からの送球が来たが、やや逸れて、二塁は悠々セーフ。

 これでノーアウト二塁の大チャンスだ。


 西野選手は引き続き、送りバントの構えをしている。

 2球目は外角へのストレート。

 西野選手はバットを引いて、ヒッティングした。

 打球は一、二塁間に転がり、一塁はアウトになったが、僕は三塁に進塁した。


 ワンアウト三塁でバッターは道岡選手。

 ここもキッチリと外野フライを打ち上げ、僕はこれまた悠々とホームインした。

 これで2対0。

 いずれも得点は僕で、打点は道岡選手である。


 乗ってきた僕は4回の守備でも、三遊間を抜けそうな難しい打球を回り込んでグラブに納め、深い位置から一塁に送球した。

 見事アウト。

 モンナドンダイ。

 この回も無失点で終わり、僕は気分良くベンチに帰った。


 ついている時はトコトンついている。

 試合は2対0のまま進み、5回裏の打席でも当たり損ないのボテボテのショートゴロが内野安打となった。

 これで昨日から4打席連続ヒット。

 もっともツーアウトだったので、次の西野選手が凡退し、今回は道岡さんに打点はつかなかった。


 そして今日のハイライトは8回裏にやってきた。

 8回表に2対2の同点に追いつかれ、この回の裏の攻撃は僕からの打順である。

 相手投手は、セットアッパーの右腕、スミス投手。

 時に160km/hを超えるストレートを投げ込んでくる剛腕だ。

 ツーボール、ツーストライクからの高目へのストレートをフルスイングしたが、バットが折れてしまった。

 だが打球はまたしてもファーストのリード選手の後方に飛んでいる。

 リード選手は懸命にバックしたが、その後ろにボールは落ち、しかもリード選手はその球を蹴飛ばしてしまった。

 打球はファールゾーンを転々とし、ライトの皆川選手がボールを拾い上げた時には、僕は二塁ベースを蹴って、三塁に向かっていた。

 まさかのファーストオーバースリーベース。

 これをラッキーと言わずに何と言うのだろう。

 これで昨日から5打席連続ヒットで、今日は4打数4安打。


 良い当たりでもヒットにならない時もあるし、今日のように当たりが良くなくてもヒットになることもある。

 いずれにしてもこれで移籍後、26打数5安打の打率.192と打率2割目前に来た。

 もし間違えて、次の試合も4打数4安打なんかした日には、打率が3割に乗る。

 さすがにそれは無いか。


 その後、西野選手がフォアボールで続き、またしても道岡さんの内野ゴロの間に僕はホームインした。

 二塁はアウトになったが、一塁はセーフとなり、道岡さんはノーヒットで打点3となった。

 これも珍しい記録かもしれない。


 試合は続く四番のダンカン選手のツーランホームランで川崎ライツを突き放し、5対2で勝利した。

 今日のヒーローインタビューは、3打点の道岡さんとホームランを打ったダンカン選手だった。

 ヒーローインタビューでは道岡さんは高橋のお陰でです、と連呼してくれた。

 確かに2打数ノーヒットで、打点3というのはラッキーだろう。

 お陰で僕の名前が札幌ホワイトベアーズファンに更に知ってもらえたかもしれない。

 さあ、どうやらトンネルを抜けようだし、明日からも頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

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