第269話 目指せ、100試合出場

 早いもので札幌ホワイトベアーズに移籍して、約一ヶ月が経過した。

 季節もシーズン終盤の9月となり、チームはクライマックスシリーズ圏外の5位に沈んでいた。


 泉州ブラックスは僕が抜けた後、脅威の12連勝をするなど好調となり、今や1位と2.5ゲーム差に迫っていた。

 口の悪い人(山城さんや三田村など)は、僕が抜けたからチームの調子が上がったというが、もちろんそんな事は無いはずだ。無いと思う…。無いかもしれない…。無いんじゃないかな…。


 僕と交換で移籍した白石投手は、移籍後3連勝し、シーズンの勝敗も6勝5敗と勝ち越していた。


 僕はというと、移籍後、20試合に出場し、77打数20安打の打率.260、ホームラン0本、打点6、盗塁5(盗塁死2)となっていた。


 泉州ブラックス時代の打率が、.268だったので、まだそれを下回っているが、21打数ノーアウトだったことを考えると、トンネルを抜けた後は、56打数20安打、打率.357と好調を維持していた。


 長いシーズン、不調の時も好調の時もあり、シーズン通算で3割を打つのはとても凄いことである。

 ましてや3割3分とか3割5分なんてバケモノの域だと思う。


 ここまで泉州ブラックス時代と通算すると、84試合に出場し、219打数58安打の打率.265、4ホームラン、25打点、17盗塁(7盗塁死)となっている。

残りほぼ全試合に出場できれば、100試合出場に到達する。

 今シーズンは100試合出場を目標としたい。


 今日からはアウェーでの京阪ジャガーズとの週末の三連戦だ。

 今日がナイターで明日からはデーゲームとなっている。

 今日の試合も1番スタメンでの出場を告げられた。

 スタメンは次のとおり。


 1 高橋(ショート)

 2 野中(ライト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 今泉(レフト)

 6 下山(センター)

 7 北田(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 庄司(ピッチャー)


 ピッチャーの庄司投手は、右のサイドハンドでシンカーとスライダーが持ち味の大卒3年目の投手である。

 ドラフト8位で指名され、僕とは同年代となる。

 最初はお互いに敬語で話していたが、同年代とわかると途端にタメ口になった。

 高校時代は全国大会に出ることはできなかったとのことで、彼からすると、僕がいた群青大学附属高校はエリート集団に見えたとのことである。


 さて京阪ジャガーズの先発は、毎度おなじみの山崎である。

 交流戦の時にこれで日本で対戦するのも最後だと、しんみりとしたものだが、まさか同じリーグで相まみえる事になるとは思ってもみなかった。


 山崎は今シーズンオフでの大リーグ移籍を目指しており、ここまで15勝2敗、防御率1.39と素晴らしい成績を残している。

 もはや日本には敵がいないと言えるだろう。

 高校時代も凄い投手であったが、ここまでの投手になるとまでは思っていなかった。

 もし彼が普通の家庭で生まれ育っていたら、きっとここまでの投手にはなれなかっただろう。

 あのねじ曲がった性格は生来のものなのか、彼の育ってきた環境による後天性のものなのかは良くわからないが…。


 以前の山崎なら、登板前であろうが僕と対戦する時は、わざわざベンチまでちょっかいを出しに来たものだが、今シーズンは軽く挨拶するくらいで、ほとんど話をしない。

 そういう意味でも本物の勝負師となってきたのかもしれない。


 初回、先頭バッターとして打席に立った。

 マウンドの山崎は真剣な表情をしており、微かに笑みを浮かべることもない。


 初球、いきなり外角低めへのスプリットから入ってきた。

 ストライクゾーンから微妙にボールゾーンに外れていく。

 球速も恐らく150km/h近くでているだろう。

 打てるか、こんな球。

 見逃したが、判定はストライク。


 2球目。

 ど真ん中へのストレート、かと思いきやツーシーム。

 つい手がでてしまった。

 歪んだ性格どおり、嫌らしい球だ。

 打球はボテボテのゴロとなって、ピッチャーの横を抜けて、ショートの方へ転がった。


 ショートの木崎選手は名手であり、ダッシュして素手で掴み、ファーストへ送球してきた。

 僕は必死に一塁ベースを駆け抜けた。

 判定は?

「セーフ」

 山崎は無表情で僕の方を見ながら、ファーストからのボールを受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

  

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