第267話 調子が出てきたかも…

 朝、ホテルで起きるとまだ酒が残っていた。

 昨日、初ヒットのお祝いで道岡さん他、チームメート数名と軽く飲みに行ったのだ。


 このチームに道岡さんがいてくれて本当に良かった。

 それというのも泉州ブラックスに移籍した年に、黒沢さんに自主トレに呼んでもらったからである。

 黒沢さんにも感謝しないと。

 ありがたや、ありがたや。


 今後は札幌にある寮に入る予定であるが、まだ家財道具が揃っていないことから、今は球団手配のホテルに泊まっている。

 ススキノからタクシーでワンメーターで帰ることができ、眼下には大通公園が広がる好立地にある。

 大通公園は端にテレビ塔があり、一直線に緑の公園が東西に伸びている。

 これを境にして、北何条、南何条と住所が分かれるそうだ。

 札幌中心部は碁盤の目になっており、場所を知らなくても住所を頼りに目的の場所へ行けるらしい。

 方向音痴の結衣でも安心だ。


 大通公園は夏には公園全体がビアガーデンになり、冬には雪まつりの会場になる等、一年中色々なイベントが行われるそうだ。

 試合に出かける前に少し散歩したが、緑と噴水が調和して美しい公園だ。

 とうもろこしを焼く匂いが鼻をくすぐる。

 僕は焼きとうもろこしは好物なので、シーズンオフに来た時に食べようと思った。

 

 札幌では当面は単身赴任を予定しているが、いずれ落ち着いたら結衣も来ると言っている。

 もと住んでいたマンションはまだ借りている。

 結衣が妊娠中なので、結衣のお母さんが手伝いに来てくれてくれており、時々(しょっちゅう?)、妹も泊まりに来ているようだ。


 さて今日の試合はデーゲームでの川崎ライツ戦であり、1番ショートでのスタメンを予定している。

 不思議なもので昨日のヒットで、今日も打てそうな気がしている。

 今日のスタメンは以下のとおり


 1 高橋(ショート)

 2 西野(ライト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 ロイトン(レフト)

 6 下山(センター)

 7 浅利(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 須藤(ピッチャー)


 僕としてはあまりスタメンを変えないで欲しい。

 まだチームメートを覚えきれていないので。


 さて川崎ライツの先発は、左腕の横田投手。

 昨年のオープン戦で対戦経験があり(134話)、あの時は確かスリーベースヒットを打ったはずだ。

 当時、横田投手は新人でドラフト1位として期待されていたが、泉州ブラックス打線は2回で6点を取り、プロの洗礼を浴びせたのだ。


 それを糧にしたのか、横田投手はシーズン開始後、順調に勝ち、9勝6敗で見事シーリーグの新人王に輝いた。

 2年目の今シーズンは更に成長し、ここまですでに8勝(3敗)を挙げている。


 試合が始まり、1回表は須藤投手が無失点に抑え、その裏、僕はバッターボックスに入った。

 初球、ストレート。

 外角低めにズバッと決まった。

 ストライクワン。

 うーん、オープン戦での対戦時よりも速くなっている気がする。


 2球目。

 またしても外角低めへのストレート。

 今度は踏み込んで、うまくバットに載せた。

 ボールはフラフラとファーストのリード選手の後ろに上がっている。

 そしてライトの皆川選手も突っ込んできたが、打球はその前に落ちた。

 当たりは良くなかったが、ヒットはヒット。

 これで昨日から2打席連続ヒットだ。


 僕は打球がファールゾーンへ転がる間に、二塁に向かった。

 送球が来たが、滑り込んでセーフ。

 記録はツーベースヒット。

 幸先よいスタートが切れた。


 そして2番の西野選手のファーストゴロの間に、三塁へ進み、3番の道岡選手のライトフライで悠々とホームインした。

 ベンチに帰り、チームメートとハイタッチした。


 2回表は三遊間を抜けそうな当たりが飛んできたが、うまく最短距離で打球に追いつき、踏ん張って一塁に送球した。

 間一髪アウト。

 球場内の大勢を占める、札幌ホワイトベアーズファンの歓声が耳に入ってきた。

 よし乗ってきた、乗ってきた。

 

 この回も須藤投手は無失点に抑え、僕は軽快な足取りでベンチに戻った。

 ところで札幌ホワイトベアーズの帽子はSAPPOROの頭文字のSをかたどったデザインだが、静岡オーシャンも泉州ブラックスも英語にするとSから始まる。

 すみません、どうでもいいですね。

 ちょっと気がついたものたから…。

 そんなくだらないことを考える、余裕も出てきた。

 打率はまだ一割にも満たないけど…。


 

 

 


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る